2010/09/20(月)14:29
桜庭一樹 『青年のための読書クラブ』
青年のための読書クラブ
東京・山の手の伝統あるお嬢様学校、聖マリアナ学園。校内の異端者(アウトロー)だけが集う「読書クラブ」には、長きにわたって語り継がれる秘密の“クラブ誌”があった。そこには学園史上抹消された数々の珍事件が、名もない女生徒たちによって脈々と記録され続けていた―。 (「BOOK」データベースより)
読書は趣味とは言えない。
趣味:読書、と書くのは「無趣味です」というのと同じだ。
そんなことを聞いたのは一度ではありません。
けれど、こうしてブログを通じて多くの方の読後感を読ませていただくと、そんなことを言うのは本当の読書をしたことがない人なのだと思います。
読書は、生涯の友。人生の彩。
もっと本を読みたいし、惹かれた本を読まずに死んでしまうことがありませぬようにと祈ります。
死ぬまで本を手にしていたい。
あらためてそう感じる本に出会いました。
いつの時代にも浮世から離れて存在する、ミッションスクール聖マリアナ学園。
クリーム色の制服に身を包んだ良家の令嬢が、桃色金魚のように笑いさざめき日々を過ごす学園に起きる不思議な事件が5つ、つづられています。
語る舞台はいずれも「読書倶楽部」です。
学園の花・演劇部や、とざされた学園の政治と秩序をつかさどる生徒会、あるいは学園内の真実を報道することこそが命と胸を張る新聞部。
華やかな部活動はほかにいくらもあるのに、どこからも拒絶され、あるいは自ら拒絶した少女たちが集うのは、キャンパスの隅に忘れられた赤煉瓦。崩壊しかけた倉庫のようなその建物の一室で、紅茶をすすりながら、埃くさい書物を紐解くのでした。
【烏丸紅子恋愛事件】年に一度の文化祭で選出される「王子」。忌み嫌われていた転校生がそのアイドルになったのには巧みな仕掛けがありました。
【聖女マリアナ消失事件】学園の創始者はフランスから渡日したシスターでした。彼女がある日忽然と姿を消したわけは。
【奇妙な旅人】旧華族や政治家の令嬢が集う学園にもバブルのころ金満家の娘が何人も入学してきます。彼女たちが企てるクーデター。時代をうつす狂乱の一部始終はいかに。
【一番星】内気で夢見がちな一人の読書倶楽部員が、ある日突然ロックを奏でスターダムにのし上がります。そのわけは。そしてその<恋人>サムワンの裏切りとは。
【ハピトゥス&プラティーク】学園内で没収される携帯電話や音楽プレイヤーが、教員室からとりもどされて持ち主のもとへ届けられる。一輪のブーゲンビリアとともに。「紅はこべ」を模したようなその実行者は誰?そして誰が彼女に気づくのか。
シルエットで描かれた表紙がレトロで素敵です。
彼女たちがめくるページのインクと古びた紙のにおいが漂ってきそうな、それでいて瑞々しい、香り立つ文章。
淡々としていながら修辞にあふれ、叙情に走らぬのに厭世観や自尊心がにじんでくる。
読書倶楽部員の一人が書き残す、「学園の正式書類たる生徒会誌には一切、記録されていない」事件を読むうちに、いつのまにか自分も、周りの旧友とは一線を隔した何かを秘めて、古びた椅子に腰掛けて息を潜め、時を越えて事件を見守る異形の女学生の気分になります。
本があれば、生きていける。
本を読むのは生きること。
夢と、血の流れがそこにあるのです。
(加筆修正しました)