渡部建 『エスケープ!』
エスケープ!シュウは会社の内定も決まり、かわいい彼女もいる大学四年生。春からは忙しく働き、数年後には彼女と結婚して子どもをもうける予定─。「でもなあ、そんな人生って…正直、楽しそうじゃないな」将来は約束されている。でも、その将来には何も刺激がない。ぜいたくな不満だと頭では理解している。けれど…。そんなある日、シュウは人生を変えるかも知れない雑誌記事を見つけてしまった。「プロが語る!空き巣手口のすべて!」その日からシュウの日常は一変。かつてない情熱で入念に計画を立て、人生で初の興奮を覚えながらの綿密な下見。すべては完璧で、安全だと思われた空き巣計画。が、しかし…忍び込んだ家の中にはなんと─。 (「BOOK」データベースより)お笑いコンビ<アンジャッシュ>の渡部君が、小説を出版。しかも、自分史を基に仕立てた私小説ではないとのこと。耳にしてちょっと気になっていたのですが、フジテレビ「とくダネ!」の笠井信輔アナが読み終えてすぐ絶賛していたので、これは読んでみたいと思いました。アンジャッシュのコントは、<すれ違い&勘違い>が骨になっていて、笑わせてくれます。いつも、「あぁきっと、この人たち誤解しちゃうんだろうな」とわかっているのですが、登場人物が焦るあまりどんどん深くはまっていってしまうのがたまらなく可笑しい。毎度、見ているこちらが想像もしなかったようなところに着地するのです。そんなコントのスケールを、大きくしたような話でした。勘違いや秘密、そして誤解が、幾重にも入り混じって、おかしなことになってしまいます。いつものコントよりもさらに、現実感が強いです。生活の、ちょっとした延長上にありそうな、感情描写です。「あらすじ」にあるように、主人公のシュウは空き巣を志してしまうわけで、そのあたりは現実的でないと言われるかもしれません。でも、デートする恋人との、気持ちの探り合いや、ぶつけ合いなど、独白が丁寧に語られているので、つい、わかるわかる――と思いながら読み進めてしまいます。先日読んだ本は、詐欺師たちが人を騙そうとして騙す話でしたが、こちらは、秘密を隠そうとする話。でも、無理に隠すには嘘をつくことになり、その嘘が嘘を呼んで…渡部君がテレビのバラエティ番組に出たとき、<女の子を口説く方法>として、「仮に、僕とデートするとして、賑やかな遊園地と、静かな夜景の見える海辺と、どっちがいい?」と聞くと、女の子はその2パターンに自分を置いて想像するので、そのあとデートに誘うためのハードルがものすごく下がる…というテクニック(?)を紹介していました。この主人公・シュウが、大学生とは言いつつ何を勉強しているのやら、女の子のご機嫌ばかり気にして、何に一生懸命になるでもなくブチブチ独り言ばかり言い続けてる(そういう文体の小説なのだけど)のには、最初ちょっと呆れていたのですが、いつの間にか、一緒になってドキドキしていました。どこでハードルが下がったのだろう?詳しく紹介するわけにいかないのがもどかしいのですが、とにかく、読んでみて!もつれた誤解の後に、何とも温かで明るい展望が待っていて、読後感がさわやかです。もちろん、笑えるオチも用意されています。 アンジャッシュ ベストネタライブ 「キンネンベスト」コントのスペシャリストとして進化を続けるアンジャッシュ。傑作ネタの中から厳選された9つのベストネタを撮りおろしライブ収録!開幕式/アルバイトの面接/ゲストが来ない/カツラ/診察の結果/感動エピソード (1)旅立つ彼女 (2)映画出演 (3)結婚 (4)ファン (5)賞金 (6)看病/社長のイス/社員旅行の写真/誕生パーティー