2006/05/02(火)13:00
欠陥住宅被害東海ネットの総会
4月22日(土)午後1時30分~4時 欠陥住宅被害東海ネット平成18年度総会へ出席
欠陥住宅被害東海ネット(東海ネット)とその全国組織「欠陥住宅被害全国ネット」は欠陥住宅被害者の救済と予防を目的とした弁護士、建築士その他の方々が集まった組織です。
欠陥住宅被害全国ネット
今年は第7回総会の後、耐震偽装事件に巻き込まれて大変な思いをされているセンターワンホテル半田(愛知県半田市)の中川三郎社長と、中川社長の代理人を勤める弁護士の山下勇樹先生をお迎えしてパネルディスカッションが行なわれたこともあって、テレビ局やマスコミの方々も大勢押し掛け大変にぎやかな総会となりました。
東海ネットが普段関わる事の多い欠陥住宅問題と今世間を騒がせている耐震偽装事件とは、スケールの違いこそあれ似た様な問題点に行き着くのですが、それは建築基準法そのもののあり方であったり、建築家の仕事に対する姿勢であったり、行政の対応力の問題であったり、中川社長と山下弁護士のお話を聞いていてテレビの中の事件ではなく人事では無いな、と思うのです。
中川社長が訴えを起こした相手は愛知県と法人としての(株)総研、それに内河社長です。ここには実際に法を犯した姉歯氏や工事をした建設会社は入っていません。被告が多すぎると裁判が長期化する恐れもあって三者に絞られたようですが、これは中川社長が誰に腹を立てているのか、と言うことのストレートな主張だと、両者のお話を伺っていて私は感じました。
事件の法律的な問題、倫理的な問題とは全然別の話を展開しますが、私達建築士もある日突然今までの良好な関係が一転、お客様から訴えられる危険と背中合わせで仕事をしています。
クレーム産業と言われる建築界に身を置いている以上リスクは付き物なのですが、お客様との人間関係もまた揉めるか揉めないかの大きな要因です。幸い私はこれまで寛大なお客様にご理解いただきながら仕事を進めてこられたのですが、東海ネットで事例報告に接していると本当に人事では無いと思います。
事件をそう言った切り口で語ると弁護士の先生に怒られるでしょうが、法律の知識の無い私の「印象」として当日の中川社長のお話をメモしました。
中川社長がホテル建設をお願いしたのは(株)総研であり、工事会社を連れてきたのも同社です。もちろん姉歯氏とは面識もなく報道後に構造計算書を見て初めて自社ホテルとの関わりを知ったそうです。
工事中の打ち合わせも(株)総研主導で進み工事会社は口も出せない雰囲気だったと言う事です。それはともすれば我々(総研)を信じて着いてくればいいんだ、と言う絶対的な存在としての振る舞いだったのではないでしょうか。少なくとも中川社長ら多くのホテル事業者の目にはそう映ったことでしょう。
しかし(株)総研と内河社長はセンターワンホテル半田のコンサルタントでありながら同ホテルが開業した後、同じ商圏エリアに別のホテルを誘致しだしたそうです。
中川社長の問い合わせに、「ビジネス上のことなので御社に関係ないこと」と回答が有りこの時点で両者の関係は切れました。
中川社長にしてみれば裏切られたと言う思いが強く残ったことでしょう。その上に今回のホテルの解体ですから(株)総研と内河社長に対しては恨んでも恨みきれない思いでいっぱいなのではないかと思います。
代理人弁護士は(株)総研と内河社長に対して不法行為責任、債務不履行責任、そして損害賠償責任を訴えています。
一方愛知県はなぜ訴えられたのでしょうか。直接的には姉歯氏の構造計算の偽装を見逃したことに対する損害賠償責任と言うことで、(株)総研に対してと同じように社会的責任の大きさから訴えたと言うことでしょう。
愛知県は争うかも知れませんが、この偽装工作は構造設計を専門とする建築士によると見ればすぐに分かることであり「見逃した」と言うより「見ていない」のではないかとさえ感じる書類審査だという指摘でした。
確かに構造計算書と設計図書を説明を受けながら見ていると平気で整合していなかったり愛知県が自身で定めた県の指針がチェックされていなかったりと審査(法的には「確認」)がずさんだと言われればその通りでこれは言い逃れできないな、と言う印象です。
しかし私のように普段住宅や店舗を設計している建築士にとっては恥ずかしい話ですが「説明されて」初めてなるほど、と思うのも事実です。
私達は鉄骨造や鉄筋コンクリート造で建物を設計する時は構造専門の建築事務所に協力してもらい、彼等を信じて計算書の中身まで詳しく見てこなかったのです。
と言うよりもパソコンで打ち出した構造計算書は見ても分からないと言うのが一般の建築士の思いでしょう。
だから愛知県も仕方が無い、と言いたいのでは有りません。彼等には書類の中身をチェックする義務がありその責任は問われるべき立場に有ると思いますが、私達建築士も同じことを問われているんだと言うことです。
私のお願いする構造事務所はわざと偽装したりしませんが、人間のやることですから勘違いや思い違いが絶対無いとは言い切れません。構造計算の中身は人が構造図面に書き写しますから、写し間違いや読み違いもあるでしょう。
今後私達に出来るのは、構造に対する勉強を怠らず、チェック体制を強化していくことでしょう。
さて愛知県はやらなければいけない構造のチェックを怠ったと言う社会的責任が問われているのですが、それだけでしょうか。中川社長の回想を聞いていると対応がもう少し迅速で心有るものであったならひょっとして被告席にいなかったかも知れないのではないでしょうか。
法律家に言わせれば、そんなことは無い、責任は法廷の場で問われるべきだ、となるでしょうが、お話を聞くといかに中川社長がくやしい思いをしたかがひしひしと伝わってきました。
事件発覚後、愛知県はまず県に責任が無いことを説き、当事者でないと言う態度をとったようです。ホテルも補強で済んだかもしれないのに県の説明のタイミングが取り壊し前日だったためどうしよう無く無念の思いで解体に踏み切りました。
中川社長は(株)総研と内河社長以上に愛知県に対して腹を立てているのでしょう。
被害者である県在住の中川社長に対して愛知県は、1.書類審査に関して素直に侘び、2.再発防止策を約束し、3.事件を引き起こした相手に対する対処をアドバイスし、4.補強工事の検討を支援すべきではなかったのでしょうか。
会社の再建まで支援しろとは言いませんが、これら対応を迅速に、親身にしていればたとえ訴えたとしても(株)総研との比重がかなり違ったことと思います。
今後は建築基準法が改正されたり、確認検査業務の厳格化が進められたりしていきます。それらに十分対応し、私達建築家のスキルアップとモラルの問題と合わせてお客さまに納得していただける業務を続けて行かなければいけないと、総会後心新たにして帰路につきました。