ウィーン 日記

2006/04/15(土)10:25

5月のブルク劇場の上演

5月のブルク劇場もなかなか目が離せない、バランスの取れたレパートリーが並んでいる。オーストリア・ドイツの古典から現代まで、それに笑劇もといった具合である。  まず話題になりそうなのが、モーツアルトの「後宮からの逃走」を劇場版にアレンジした作品のプレミアがある。もちろんこれはモーツアルト生誕250年記念の行事の一貫だろうが、意欲的な作品になりそうだ。この「後宮からの逃走」は2年前ザルツブルク音楽祭で見たが、この作品が”行間”に持つ解釈の多様性に驚かせられ、今まで見てきた作品とはまったく異なる斬新で自由な(恣意性も排除できないが・・)演出を見せられたが、劇場版ではさらにその解釈を先鋭化させる路線を推し進めることであろう。「後宮」という欲望うずまく世界が、これまでの演出のようにあまりに素直に人間の徳が称えられている世界として描かれるのにちょっと飽き飽きしたのであろう。  次ぎに笑劇のレパートリーも魅力的である。まずネストロイの「1階と2階」(Zu ebener Erde und erster Stock oder Die Launen des Glücks)は、今はやりの格差社会を先取りしたような作品である。これはむかし「8時だよ全員集合」の舞台装置でよく見かけられたものと言って良いぐらいで、舞台を上下で1階と2階で区切り、そこに金持ちと貧乏人を住まわせ、視覚的に格差を演出させてみせたものである。それにオーストリアで最も人気のある喜劇作家であるネストロイの作品の中でもこの作品は傑出したものの一つで、社会風刺をたっぷり含んだその台詞もそつなくその場の雰囲気を作っている。  もう一つネストロイの作品は「80分のタンホイザー、ワーグナーのパロディ」(Tannhäuser in 80 Minuten - nach Richard Wagner)で、題名にもあるようにワーグナーの喜劇「タンホイザー」のパロディである。オペラファンには必見の作品である。これは後にオットー・シェンクがオペラのパロディを数多く手がけるが、その最初のアイディアを与えたものの一つではないかと思っている。  ネストロイと並ぶ喜劇作家ライムントの「浪費家」も見逃せない。かつてVolkstheaterで上演したものを見たことがあるが、これも当時の資本主義的な社会と痛烈に皮肉った作品である。  古典と言えば、グリルパルツァーの傑作「オットカール王の栄華と最後」、ゲーテの「タッソー」、シラーの「ドン・カルロス」。「ドン・カルロス」は以前数度見たことあるが、秀逸な演出である。かなり長時間の上演であるが、緊張感が途切れることなくドンカルロスと父王、それに后との錯綜した関係が見事に描かれている。一昨年初演であったと思うが、その年にオーストリアの何かの演劇賞を取っていたと思う。「オットカール王の栄華と最後」は残念ながらまだ見たことはないが、ゲーテ、シラーはドイツでも見られるが、グリルパルツァーの作品はここで見るべきだ。ボヘミア王・オットカールは、ハプスブルクの始祖ルドルフ1世が戦った相手であり、1278年ルドルフ1世がオットカールをマルヒフェルトに破ることで、ハプスブルクのオーストリアにおける覇権が確定したが、このオットカールの栄光と挫折の物語の中に運命と自己の欲望に翻弄される人間の普遍的な姿が描かれている。   アカデミー劇場の「エルゼ嬢」は、以前書いたが、これもシュニッツラーの作品を見事な一人芝居に描きなおされている。これは見ていない方は、必見の作品である。

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