soul-eye

2006/05/23(火)20:38

極楽峠4

【小説】風来坊旅の途中にて(24)

信じる信じないはこの物語を読む人の自由である。どう思うとも自由だ。 さて、風来坊の目の前に現れた女は・・・ 10年前に他界した彼の母親であった。 「あいかわらずのようね」 「おふくろ・・・」 「びっくりしたでしょう。無理もないわ」 「どうして・・・」 「この2人は覚えている?あなたが小さい頃よくかわいがってくれたお隣のおばあちゃん。それから 隆史君はあなたの遊び友達でしたね。かわいそうに車にはねられて3つで亡くなったのよ。お前も小さかったからあまりよく覚えていないかもしれないけどね」 「老婆と隆史の顔を見たときの懐かしいと思ったのはこういうことだったのか」 「ここはね、あなたが普段住む世界とはちょっと違うの」 「どいうことだい」 「そうねぇ~、あの世でもない、この世でもない。ちょうど中間の世界といったらいいのかしら」 「さっき婆さんは“新たな旅立ちの日”と言ったけどそれはどういう意味なんだい。俺をあの世につれて行くつもりなのか」 「人間生きている限り避けられないのは死ぬことでしょ。どういう死に方をするかは誰にもわからないわ。でももしそれを選択できるとしたら、あなたどうする。まぁこんな選択を急に言われてもあなたも困るわね。さぁさぁせっかく作った料理が冷めちゃうわ。まだ時間はあるわ。久しぶりにみんなでお食事をしましょう」 懐かしいおふくろの味、家族の味、俺が普段触れることのできない時間と空間。 メシをかっこみながら俺は遠い昔の温もりのある生活を思い出していた。 「美味しいだろ?ここにいれば毎日こうなんだよ!」 隆史がほっぺたを膨らましながら話しかける。「ずっとここにいればいいじゃん」 「ここは人を傷つけることも悲しみや憎しみも苦しみもない常世の里なのよ」 老婆が諭すように言う。 「旅好きのお前にはちょっと辛いかもしれないけど、でもすぐに慣れるわ」 「・・・・」 柱時計のカチカチという音が選択をせかすように響く。 「明日の朝までに決めればいいことよ。遅かれ早かれこちらに来なくちゃならないのだからね」 「俺は・・・」

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