2008/03/23(日)22:10
【恋愛小説外伝】テキーラ・サンライズ(裏)
果たして恋愛小説として成り立つか!
勝負
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列車の窓からは
海原のような黄金色の稲穂が
その遥か向こうに青みが
あれは本物の海なのだろう
テキーラの朝
テキーラの陽射し
テキーラの夕焼け
そしてバーボンの夜
「ね。菅原は私と結婚するの
そしてね、“新婚さんいらしゃい”に出るのよ
菅原ならきっとウケるわよ」
「あんな変なテレビ。俺は絶対嫌だね
それにあれは方言を使えないと出られないんだぜ
俺が直接ディレクターに聞いたんだから間違いない」
「馬鹿ね。私が言いたいのはそこじゃないわよ」
「何だよ」
「何でもない」
ふてくされたって駄目だ
分からないものは分からない
菅原はそう心の中で呟いた
菅原の見つめる彼女のドレスは
グレナデン・シロップのように赤かった
彼女の髪は、
更に赤く染めてあった
「このカクテル、強いな」
火のようだ
「駄目よ、もっと飲まないと」
彼女がグラスを菅原の口につけた
「テキーラは最高だ。生のままで飲んじゃ駄目か」
この少々甘ったるいのが菅原には苦手だった
火のような喉ごしと、下に残る甘さ
もう一杯飲みたくなる
まるで彼女のようだ
「駄目よ。朝昼晩と飲むの
テキーラ・サンライズ
テキーラ・サンストローク
テキーラ・サンセット
繰り返し繰り返し飲むのよ
毎日毎日、
この暮らしが続きますようにってお願いしながら」
彼女は椅子に座っていられなくなり
ベットに横たわってしまった菅原の懐に入ってきた
今、何時なんだろう
菅原の意識は窓の外に向いていた
風が涼しく心地良い
その風になびいた彼女の髪が
菅原の鼻をくすぐる
この町の陽射しは熱すぎる
菅原は彼女に日よけを下ろさせ
そして彼女を抱きしめた
時の流れを感じなさせないこの部屋で
優しく抱きしめた
「ソロモン・グランディって知ってる」
彼女が訊いてきた
菅原は歌いだした
「月曜に酒買って♪ (月曜に生まれて)
火曜に飲んで♪ (火曜に洗礼)
水曜に酔っ払って♪♪ (水曜に結婚して)
木曜にアル中 (木曜に病気)
パッパパ~パ パパラッパ」
「あはは。もっと歌って」
彼女は菅原の腕の中で寝返りをうつようにして
菅原の首にしがみついてきた
「金曜に危篤、土曜に死んで
日曜には墓の中~♪」 (ここは一緒)
これは少年の頃、友人たちと菅原がふざけて作った替え歌だ
「馬鹿ね
ね、マザーグースって素敵よね」
「そうかな」
「ひどい人ね」
「明日、発つよ」
菅原はとうとう言った
彼女も分かっていた事だった
「私も明日、出て行くわ」
「どこへ」
菅原は少々驚いた
「菅原に二度と会わないところ」
ああ、そうか
「それじゃ、ここに居ればいい」
「そうね」
彼女は部屋を出て行った
そして菅原は本当の眠りについた
車両には菅原しか居ない
列車の窓を開けると
風が気持ち良く入ってきた
互いに傷ついたけど
そう、でも、
傷つかなければ
菅原は恋をしたとも思わないだろう
そういう男なのだ
海を過ぎて
そして長い長い時間をかけて次の街に着いた菅原は
その傷が少し癒えているのを寂しく感じた
若さとはそういうものなのだな、
若いくせに菅原はそう思った