2008/04/19(土)23:03
【奥州藤原一家1】夜
人はしばしば哀しみのあまりに石と化し、
石はしばしば夜通し泣き続けてやがて土となった
人間は、土に生まれて土に死ぬ
土に死ねばこの世に再び帰っては来ない
にも関わらず、その土からこの世に立ちかえってくるもの
それが妖怪である
(阿部正路「日本の妖怪たち」より)
「ありがとうございました」
クラブの出口
女の子達が男の集団を見送っている
「おう。また来るでな」
「ささ、社長。もう一軒行きましょうよ」
かつてのヤクザと見まごうばかりの社長さんと
グレースーツの集団
ど~ん
余所見をしている社長にジーパン姿の中年男がぶつかった
「痛いな、この野郎」
ヤクザと見まごうばかりの口の利き方だ、社長
「社長に何するんだい」
初老のグレースーツ
「おいおいおっさん、気をつけろよ」
若くでかいグレースーツが中年男を叩いた
ぺっちーん
その男、少々武道の心得があるのか殴り慣れているのか
綺麗なフォームで中年男の頬を張った
よく見るとそのでかい若者よりも少々でかい中年男は
ビクともしなかった
「さ。社長行こう行こう」
若い男は社長の腕を引っ張った
集団は歩き出した
「なんだなんだあの男。頬を張られて黙ったまんまで」
社長は中年男に聞こえるように言った
「さ、いいから社長、行くよ」
若い男は社長の腕を引っ張る
「全く、俺だったら張り返すで。俺と歳も変わらないのによ」
「さ、いいから社長」
若い男は知っていた
自分のあの張りで動かない男の恐ろしさを・・・