Last Esperanzars

Last Esperanzars

後編

「……で、なんで急に俺を?」
「今盗賊がMN50機ほどの大軍で押し寄せてきてんのよ。隊長とハンスだけじゃ捌きようないでしょ」
「さすがに無理か?」
「恐らく敵は旧式のMNゴーレムに乗っているんだろうけど、数か多すぎるからねさすがにね」
 現在俺たちは城内格納庫の地下に下りている。2人でこっそりと。
「その力ってなんなんだ? MNはもうないって聞いたが」
「ふっふっふ……実はあるのよこれが」
 口元をぐにゃりと歪ませる。やっぱ止めといたほうよかったかな……?
「もう50年近く前の旧式MNよ。実戦で使われずにずっと倉庫で眠っていたの」
「50年!? そんなのとっくに鉄クズだろ」
 『鉄クズ』の一言にマリーのこめかみにビキッ! っと青筋が立った。ちょっと後ずさる。
「失礼ね。整備はバッチリよ。このマリー・エニスが保証するわ」
「どう保証するってんだ……で、なんで使われなかったの?」
「……そこなんだけどねぇ……ま、ちょっと見てみてよ。よいしょ……と」
 マリーに引かれ地下の馬鹿でかい扉が開く。その中には20mほどのMNが。しかし普通と違う所があった。それは、
「……見てのとおり、こいつは砲撃戦専用機。背中の大砲と右肩の6連機関砲と左肩の中口径砲。さらには小型連射銃を積んでいるの。こんなの使える人シルヴィアにいない上に、『騎士道に反する』って嫌われて、ずーっと倉庫奥にしまわれてたんだって。でもねでもね、私、こいつを偶然発見した時、ビビビッてきたんだ! このあからさまに格闘戦闘に向かない重装甲、それでいて力強さを感じさせる重厚で無骨なフォルム、骸骨を思わせる風貌、背中の冗談としか思えない巨大な砲身と合計80発も積んで籠でも担いでるかのようなバックパック、まさに長距離戦のみ愚直なまでに考えたこの能力重視の巨人こそ、私が長年追い求めていた……」
「……なあ、ちょっと聞いていいか」
 マリーが興奮して目をギラギラさせながらの熱弁を無理矢理へし折って質問。とてつもなく不機嫌にふくらんだ顔をされた。
「あの背中の砲身の弾って、どれぐらいの大きさなんだ?」
「えぇーと……4ディオ、って言ってもわかんないか。ハンスの3分の1くらい」
 ハンスは身長150cm以下だから、3分の1だとすると50cm。いや、
「……まさか、46センチ砲?」
 別に考えられぬ話ではない。背中の砲身の巨大さからかなりの大口径砲だとは予想できた。砲身の長さは口径と弾の直径によって求められる。戦艦大和の46cm砲の場合は45×46で20m70cm。これは砲口から火門管頭の長さで、実際の長さは砲底を加えて約22m程になる。砲身の長さはこの巨人に人2人分くらいなのでちょうどいい。
「……だけど、大和の10分の1にもならないロボットに46センチ砲を積むなんて、正気とは思えんな」
「ちょっと、あんたまでこのサジタリウスを馬鹿にする気!?」
 サジタリウス、射手座って言うのかこの機体は。馬鹿にったって、一発撃っただけで反動で粉々になりそうなあほな機体だもん。しょうがないだろう。
「私はね、こいつを親衛隊の皆、いいえ、シルヴィア王国に認めてもらいたいのっ! だからこの絶好の機会にあんたを乗せて実力を見せつけようと……あ」
「――やっぱな。そんなこったろうと思ったぜ」
 自ら野望を暴露してしまったマリーに冷ややかな視線を送る。はじめ真っ青になっていた顔がどんどん赤くなっていき、しまいには俺を大工木材よろしく担いでって、
「お、おい! なにすんだ!」
「やかましい! こうなったら意地でもあんたに乗ってもらうかんね!!」
 すっごい恥ずかしいんですけど! ていうかなんでこんなに腕力あるんだよ!!
 いくらジタバタしても完全無視して備え付けの梯子にヒョイヒョイよじ登り、操縦席に放り込む。
「痛っ!?」
「痛いじゃない! ほら、ハッチ閉めるよ!」
 問答無用とばかりにバシンと閉められた。
「ちょっ、ちょっと待て……真っ暗じゃないかぁ!!」
 狭くて暗くてシートだけある。まるで独りぼっちの映画館。
『一機、聞いてる!?』
 誰もいない密室の中から突然マリーの昂ぶった声が!
「うわっ、化けて出やがった!」
『さっきまで生きてたでしょうが! 無線で話してんのよこのバカ!!』
「無線? そんなもんまであんのかよ……」
『よく聞いて、一機。そいつの照明のスイッチはシート正面の球体の下にあるからね』
「そう言う事は閉める前に言え! 暗所&閉所恐怖症になったらどうする!!」
『うるさい! なりたくなかったらさっさと点ける!!』
 ええい、やむを得ん。手探りで探すか。シート正面の球体……ああ、これか。下下下……あった。ポチッとな。あ、明るくなった。
 電気がつくとコクピットの全体図がわかった。シート1つに無線と思われる四角い箱に青い球体が1つ。あとetc。なんかかなり寂しいコクピットだ。それ以前に周りどうやって見るんだ?
「なあ、マリー……ん?」
 突然妙な感覚にとらわれた。強いて言うなら超鈍速エレベーターに乗っているような……エレベーター?
「マリー……お前なにしてる?」
『え? クレーンで上げてるの。地下に入ったままじゃ出られないでしょ』
「上の階へ?」
『ううん、カタパルトの上に』
「――カタパルト?」
 な、何故だ? もんのすっごく嫌な汗がダラダラと……。
『そう。カタパルトに入れて、火薬でドーンって発射すんの』
「ちょい待ち! それはカタパルトじゃなくて人間大砲だ!!」
『ああもううるさいっ! ほら、発射するからシートベルト閉めて! いくよ!!』
「ままま、まったああああああああ!!」
 ドオォォォォォン!!
「わああああああああああああ!!!」
 強烈なGを全身に浴びた。

『――姉さん、どうする気? たった2機で勝てる相手じゃないよ』
「――姉さんは止せ」
 脅えた昔馴染をたしなめる。怖い気持ちは理解できるが。
 今私は愛機のMNヴァルキリーに、ハンスはMNジャックに乗って門の外に出ている。外は荒野、近づいてくる盗賊達のMNを迎え撃つつもりだ。しかし、あまり良策ではないのは自分でもわかっている。
 まさかカラッポにした隙を突かれるとは。魔獣は人間が支配出来る代物ではないから、恐らく監視していたのだろう。とんだ判断ミスだ。
『やっぱり、カルバナに戻って篭城戦に持ち込んだほうが……』
「ダメだ。水際で防げる数ではない。それにあの都市には防衛能力などないのを忘れたのか? 打って出て各個撃破に持ち込むしかない」
『で、でも、2人だけでなんて……』
「心配するな。救援の連絡は入れておいたから、しばらくすれば皆が戻ってくる」
『……それまで持つかなあ』
「持たせるんだ」
 力強くそう言いながら、冷たい汗が頬をつたうのを感じた。
 ――正直、かなり辛いな。
 相手は旧式のゴーレム。自分のヴァルキリーやハンスのジャックとの戦闘能力の差は歴然だ。だがいかんせん数が多すぎる。ここの所盗賊共が大人しいと思っていたが、チャンスを待って準備していたのだ。
 ――だとしても、あれだけの数を集めるのはさすがに無理だ。地方都市が絡んでいるのか、あるいは――。
 ドオォォォォォン!!
「!?」
『な、なんだあ!?』
 突然轟音が響いた。何の音だ!?
『た、隊長、あれ! 右前方!』
 ハンスが示した右前方。そこには、
「あれは……」
 50年前の巨人、サジタリウスが。
「馬鹿な、どうしてあれがここに!?」
 以前ここを訪れた時、マリーが地下倉庫から見つけ出した。「是非とも修理させてください!!」とキラキラ輝いた子どもの目をされたが、副長が「そんなわけのわからないMN使えません!!」と断固反対して結局そのままにしておいたはず。
「……まさか、マリーが?」
 その時、サジタリウスに乗った一機が発射と着地の衝撃で脳震盪を起こしているとは知らなかった。

「……う、ううう……」
 世界がグルグル回っているような嫌な気分がする。吐きたい。
 後で知ったことだが、このとき俺は落下のショックで一時的に転身(アマダス機関で擬似的にMNと神経を接続する。つまり一時的にMNそのものとなり、五感すべてがMNからのものになる)していたのだと。だから、驚きは相当のものだった。

「っはぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」

――ココハ、ドコダ――

 苦しい。心臓が激しく動いている。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
 暗い。なにも見えない。

――オレハ、ナニヲシテイル――

 いや、見える。荒れた大地が。
 「っは、くそっいったいなにが……!」
 ふと手を見てみた。そこにあったのは……

 ――ナンダ、コノテハ――

「あ、ああぁ……」

 ――ナンダ、コノ――

 黒い無骨な鉄の塊のような腕。

 ――コノキカイノテハッ!!

「うわああぁぁぁ!!」

『……ずき、一機なのか!? どうした、なにがあった!」
 はっ、とその声に引き寄せられ現実に帰る。
 狭く薄暗い箱の中で、1人シートのようなものに座っていた。
 目の前には青いガラス玉のようなものが埋まっている。
 手はもちろん機械ではない。
 ――そうだ、確か、マリーにそそのかされて俺は……。
『どうした、返事をしろ! おい、一機!!』
 また声がした。声のほうを向くと四角いマイク状のものが壁についている。通信機のようだ。
「……ああ、ヘレナか? 大丈夫だ、どこも悪くない」
 自分が発した言葉で、相手を知る。
 ――ヘレナ、そうだ。俺がこの世界に来たときに最初に発見してくれた……。
「……この、世界?」
 ――なんだそりゃ。世界にこのもあのもあって……
『……おい一機! 黙ってないで何とか言え!! なぜそれに乗っている!!』
『えへへへへ……隊長すみません』
『! やはりお前かっ! だからあれほど触るなと……』
 二人の言い争いで、また思考停止する。どうやら記憶が錯乱しているようだ。
 ――えっと、俺は、誰だ? ここは……。
『隊長、そんなケンカしてる場合じゃありませんよ! レイズを見てください!』
『なんだ今度は!? ……うっ!』
 新たに通信に入ってきた若い男の声に従い自分も目の前の球体――これがレイズだろう――を見る。
 その中には中心の赤い点――おそらくこれが自分――に50くらいの黄色い点が近づいてきているのが描かれていた。たぶんこれは敵だ。
『くぅ……一機、早く逃げろ! すぐそっちに行く!』
『待ってください! そいつは足が遅いんです。この距離じゃとても間に合いません!!』
『なにぃ!? じゃあどうすれば……』
『任せてください。手はあります。……一機、そいつの大砲であいつら蹴散らして!!』
『な……』
『ええっ!?』
「…………」
  ヘレナの驚きのあまり絶句した声を、ハンスは驚愕した声を出したが、指名された本人は驚かず何も言わなかった。ある程度予想がついたから、じゃない。
『ば、馬鹿を言うなっ! 乗ったばかりの人間にMNが操れるものか!!』
『そ、そうだお前何わけわからないことを……』
『うるさい、ハンス。どうせ隊長とあんただけでこの数どうにかできないでしょ。ここはこいつに任せるしかないのよ』
『し、しかし……』
『よく聞いて、一機。そいつの動かし方はね』
「……いい。わかる」
『……え?』
 そう。驚かなかったのは、ある程度予想がついたからじゃない。
 それどころじゃなかったからだ。
「転身、開始……!」
 フッ、と視界が揺れたかと思うと、箱の中から一転荒野に立たされる。
 手はさっきのように鋼鉄に。そう、これはこの機体の視界だ。
 20mになった身長も、突然増えた体重も、背中の巨大な大砲と80発の砲弾の重みも、鉄の皮膚にあたる風の暑さも伝わる。
 当然、近づいてくる17mもある1つ目の鋼鉄巨人たちも見える。
「砲身、接続……!」
 その声に従い、背中にあるこの巨体をも越す長い大砲が機械音とともに動き出す。
 まず後ろに下がり、バックパックを越えた後右により、肩を越えたあたりで45度下を向き、そのままわきの下へ入る。
 わきの下で固定し、標的に向かって構える。
 ――原理は昔の銃の変形だ。いったん撃ったらハンマーを引いて、薬莢を捨てたら次弾装填を確認してトリガーを引く。
「……フン。なんでこんなことがわかるんだか」
 そうだ。わかるのだ。
 さっきからそうだ。自然に脳みその中に刷り込まれる。どう動かすのか。これが何なのか。
「ターゲット、インサイト……」
 敵の1体に標準を向ける。目視だが大丈夫。必ず当たる。
「喰らえ……サジタリウスの46cm(フォーティシックス)を……撃てぇ!!」
 「ぐ……!」
 発射の衝撃がこちらにまできた。ビリビリと腕が痛くなり爆風が身を焦がす。
 痛みにふるえている間に超高速で弾が飛んでいく。至近距離だったので、撃ったかと思えば命中した。
 ズガァァン!!
 轟音が鳴り響き、発射時の爆風とは比べ物にならない炎が着弾した敵を包み、粉砕する。
 あまりの爆発だったので、まわりの機体も吹っ飛んだ。
 ガシャン! とハンマーを下げる。
「次!!」
 言われるまでもなく次弾がマシンガンと同じくベルトコンベア式で装填された。追うかのようにトリガーを引く。
 ブォォン!!
 また爆音、そして爆発。
 敵は何が起こったのかわからず慌てふためいている。機体を見て解るのが何とも滑稽だった。
 ズガァァン!!
 また爆発。あるものは木っ端微塵になり、またあるものは天高く飛び上がった。
『す、すごい……』
 とてつもない威力に、発案した本人も言葉を失っている。
「は、はは……」
 唇を無性になめ回す。
 そのすさまじい光景を見て、俺は心の中の何かが潤っていくのを感じていた。
 胸ポケットに入れた手のひら大の宝石が、ほの暗く光っているなど気付かずに。





「終わったか……」
 気がついたときには、もう立っているものは誰もいなかった。残っているのは、醜い鉄の残骸のみ。なんとも面白くない光景だ。
「……物足りない」
 アッサリし過ぎだ。こうも圧倒的だと逆に面白くない。
『さて一機、説明してもらうぞ。何故サジタリウスに乗っている』
「あ」
 しまった。それどころじゃないんだった。
「あ、あの、俺はただ、マリーにそそのかされて……」
『きったな一機! あんただって乗りたいって言ったじゃないの!!』
「やかましい! こんなもんだって知ってたら誰が乗るかっ!」
『黙れ!!』
 鋭い声に2人共凍りつく。多分へレナ青筋立ててると思う。
『順序立てて説明しろ。何故それがここにある』
「それは、ええと、ええ……と?」
 あれ、なんだか力が抜けて……?
『……一機? おい一機、どうした? 一機、一機!』
 異常を察知したヘレナが呼びかけるが、もうその時には意識を失っていた。

 同時刻。カルバナ付近の森。2人の男がその惨状を見ている。
 かつて一機がヘレナに助けられた時いた男たちである。
「うひゃあ……すごいもんですねまったく。伝説のFMNサジタリウス。これほどとは」
 大げさなまでに感動した声を出すが、これはこの男のポーズだと知っている。どうもこの男はおどけると言うかこういうのが好きなのだ。
「――まさか、起動するとはな」
「確かに。シルヴィアの堅物共があれを使うなんて考えもしませんでした」
 うんうんと頷いた。
「――で、どうします? 盗賊共は全滅しちまって、目的のブツはあの通り。判断してくださいな」
「――撤退する」
「それが懸命ですねぇ。おいビビ、帰るぞ」
 同行してきたビビに声をかけたが、顔を見てギョッとした。何かと思い見てみると、ビビの様子がおかしい。
 目は赤く血走り、息は荒く、頬は熱く高潮している。病気か?
「――どうした、ビビ」
「はあ、はあ……すごい、なんて綺麗なふぉるむ……無茶苦茶なまでの重武装……なんてすばらしいの……もう見てるだけでイッちゃいそう……」
「――?」
「何言ってんだこの機械フェチが。ほら、帰るぞ」
「あああ、待って副団長。もっとあの勇姿を見つめていたい……!」
「見つかったらどうすんだバカ! 行くぞ!」
「いやあああああ、私のサジタリウスちゃ~~~~~ん……」
 引きずられながら悲しい声で去っていく。それを追いかける。
 ――FMNサジタリウス。戦力として欲しかったが、仕方がないか。

「――だから、サジタリウスの力は見てのとおりです。これを使わない手はありません」
「前にも言ったでしょうマリー。こんな騎士道に反するMNは論外だと」
「でも、たった1機で50機のMNを倒したんですよ。すごく強いんだから騎士道なんて……ねぇ隊長も何か言ってくださいよぅ」
「しかしだな……」
 ……ん? 誰だ?
「あ、一機起きた」
「大丈夫か? 苦しいとかないか?」
「ああ、大丈夫、なんかすごい疲れて……」
 また寝ていたらしい。ベットの上にいた。部屋にはヘレナとグレタとマリーが。
「当然だ。MNの操縦はかなりの体力を使う。素人が乗れば気絶もする」
「それより一機。あんたも副長を説得してよ。サジタリウスを親衛隊で使うために」
「ですからダメだと言っているでしょう。あんなおかしなMN、親衛隊の恥となります」
「は、はじぃ!? ちょっと、いくら副長でも言っていい事と悪い事が……!」
「……いいじゃん、入れても」
 すぐ表情が変化した。マリーは瞳を潤ませ、グレタはキレかける。
「おおーっ! 一機、よく言った! さすがは私が選んだ……」
「だって、のどから手が出るほど欲しいんでしょ、戦力」
「……へ?」
 ボソリと呟いたその一言に、3者ともに動揺する。
「なにか言ったんですか、マリー」
「いえいえいえ、何にも。隊長は?」
「私は別に……どうしてそう思う?」
「だって明らかに変じゃない。誇り高きシルヴィア王国親衛隊が、なんで王都を離れて遠方に出向いてんのさ。しかも隊員10代か20代だし。大方、長い紛争状態で国がやばくて、正規の騎士団なんてまともに機能してないから、虎の子の親衛隊を派遣しないとダメだってとこかな。しかも熟練の騎士も足りなくて若い人間を徴収せざるを得ない。違う?」
 自分の推理を披露するとグレタが、
「こ……この無礼者! 我がシルヴィア王国に対してなんたる侮辱……」
「正解だ。鋭い観察眼だな」
「ヘレナ様!」
「隠してもしょうがない。それに一機は親衛隊の隊員。知る権利がある」
 そういってグレタを諭すと、ヘレナはティーポットから紅茶をティーカップに入れ、一口飲む。
「お前の言う通り、シルヴィア王国は今疲弊している。100年前のギヴィン帝国建国、そして50年前のグリード侵攻から各地で内乱が勃発し、経済力も軍事力も低迷しきっている。詳しく話そうか」
「――いや、今日は疲れてるからまた今度に」
「そうか。おいマリー、グレタ、今日は寝かせてやれ」
 ヘレナに従って皆引き揚げる。そしたらすぐに眠くなって、泥のように眠ってしまった。

「どうするか、な……」
 自室に戻って寝巻きに着替え、しばし考える。
 一機の言う通り、戦力は是非とも欲しい。それもあれほどの力ならなおさらだ。戦況を打開する切り札となるかもしれない。
「……しかし、あれほどの力、危険ではないか……」
 強すぎる力など破滅の要因にしかならない。やはり封印すべきか。
「――だが、あんな力を元老院に持たせたらどうなるか……」
 誰にも話していないが、個人的に神を信じていない。戦場では神の施しなど誰も受けていなく、死は誰にでも訪れる。
 しかしそれ以上に、元老院や教団が信用出来ないのだ。幼い頃から彼女達を見つづけたものとして、むしろ危険だと思う。
「ならば、こちらが所有している方がかえって安全か……?」
 そういう考え方もある。でも、どうにも決められない。
 かつての親衛隊隊長に教わった一言が頭から離れない。
「FMN、ファーストメタルナイトには触れるべからず、か……」



「え? 次僕? ていうか本編で全然活躍してないんだけど……わかったよもう。シルヴィア王国親衛隊隊員、ハンス・ゴールドです。次回は王都に帰ろうとするんだけど、1波乱あるようで。双子が大騒ぎを巻き起こすってさ。どうなることやら……次回、サジタリウス~神の遊戯~ 第4話 『鏡映しの悪魔』 をよろしく。……ちゃんとネタ考えて書いてんのかな、ほんと」

 to be continued……


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