977983 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Selfishly

Selfishly

~麗しの金獣~ 金猫の恩返し 番外編3


~ 麗しの金獣3 ~
        ―― 金猫の恩返し・番外編 ――





「ただいま」と声を掛けて入っていけば、パタパタと足音が響き
キッチンからひょっこりと顔を出すエドワードがいた。
それだけで、1日の疲れも癒されていくのを感じながら、ロイは笑みを浮かべる。
「お帰・・り。―― お疲れさん、思ったより早かったんだな」
ロイに微笑まれたエドワードが、照れたように挨拶を返してくる。
「ああ、ホークアイ少佐の計らいでね」
そう告げながら差し出された手に視線をやる。どうやら上着を渡せという事らしい。
その心遣いに礼を言って渡すと、ふとエドワードが首を小さく傾げる。
大きな瞳を金の睫が何度か塞ぎ、傾げた際にさらりと金の髪が揺れる。
ロイはそんなエドワードの何気ない仕草にも、目を奪われたように魅入ってしまう。
「ホークアイ・・・少佐?」
エドワードの呟きに、彼が何に首を傾げたのか判った。
「ああ、彼女は今は昇格して少佐になっている」
「―― そっかぁー」
我が事のように喜んで微笑むエドワードに、ロイは少しだけムッとした気分を抱く。
「エドワード―― 彼女だけでなく・・」
そう話して聞かせようとした言葉は、後ろで待ちくたびれたハボックの
声にかき消される。
「大将ー! 俺、俺も居るんだぜ!」
玄関の扉から顔を出して自分をアピールしてくる人物が目に入った途端。
「ハボック中尉!」
と満面の笑顔で、ロイの背後に嬉しそうな笑みを見せている。
「元気にしてたかぁ?」
「うん、俺らは元気、元気! 皆も元気にやってるみたいだな」
「おう! 俺ら、身体だけは丈夫だからさ」
そんな会話が間にロイを挟みながら繰り広げられて、さすが気を使ったのか
ロイがさり気なく横に避ける様に控える。
障害物が無くなった二人は、先程以上の和気藹々とした雰囲気で話しに花を咲かせる。
「なんだ、大将 背ぇ伸びてるじゃないかぁ」
のっぽのハボックには到底追いつきはしていないが、小さかったエドワードも
少し小柄な程度には成長している。
「だろぉー! だろぉー!」
背の話が余程嬉しかったのか、ハボックに飛びつく勢いではしゃいで返すエドワードが居て。
「良かったな。良かったよ」と繰り返し、背のことだけでなく良かったと繰り返す
ハボックは、先程からしきりとエドワードの頭を撫で続けている。

―― 一年ぶりの感動の再会だ・・・、多少の事は大目に見て・・見て ――

と念じるようにして何とか平常心を保っていたロイが、次の瞬間
あっさりと崩れた。

「大将、ちょっと見ないうちに―― 綺麗になったなぁー」
純粋な感想を告げたに過ぎないのだろうが、顔を覗き込むようにして
ハボックがエドワードに近付いた瞬間。
「ハボック!!」
急に叫ばれたハボックが、へっ?と驚いている間に、ロイはさっさとエドワードの
身体を自分の方へと引寄せて彼から遠ざけてしまう。
「なっ、なんスか?」
驚いてうろたえるハボックに、ロイは不機嫌な感情そのままに戻るように伝えてくる。
「お前はまだ戻って勤務だろう。ご苦労だった帰っていい」
何が原因かはとんと判らないが、上官からそう言われれば帰るより他はない。
普段ならもう少し食い下がるところだが、今、目の前の上司には取り付く隙間もない。
「大佐っ! いいじゃんか、お茶くらい飲む時間上がってもらっても」
ロイの態度が腑に落ちないエドワードが、ロイにそう不満そうに抗議するが、
ロイはふんとそっぽを向いたまま、返事をしようともしない。

「あっ・・・――、そのぉ、なんだ。
 また来るよ」
エドワードより付き合いの長いハボックは、上官が機嫌を損ねているのを察して
ここは退散すべきと判断する。
この上司は、時たま・・・そう本当に時たま、こうやって子供のように
我侭に振舞うときがあるのだ。そんな時には逆らわない方が自分の身の為だ。
「えっー!? 折角、久しぶりに会ったのに・・・」
不満そうに頬を膨らませるエドワードの表情に、クスリと笑って「また来る」と
だけ告げて玄関から出ていく。


険悪な空気を残したまま、二人は無言でリビングへと入っていく。
「なんだよ、あんた、さっきのハボック少尉に対する態度は。
 嫌な感じだよな」
理由の判らないロイの態度の悪さに、エドワードの機嫌も下降している。
「彼は・・・大尉だ」
そう訂正された階級に、へっーと驚いた後に喜んでいる表情が浮かんでくる。
「そっかぁ・・・、へへへ、皆頑張ったんだな」
少しだけ浮上した気持ちで、手に持った上着をロイに差し出そうとして
漸く気づいた事があった。
「――― そっ・・か、そりゃそうだよな」
一人納得するようにして頷いた後に。
「・・・ごめん。おめでとう、准将・・」
そのエドワードの祝辞に、少しだけロイの表情も緩む。
「―― 全く、君は・・・。少しは私の事も気に掛けて欲しいよ」
軍の階級は一目で判る様に出来ている。それに気づかないほど、自分は浮かれていた・・・、
と言うか、制服が目に入らないほどロイしか見てなかったのだろうか。
そう思いつくと、物凄く恥かしい気持ちがしてきて顔を赤らませる。
そんなエドワードの様子の変化に、ロイが目敏く気づいて怪訝そうな表情で窺ってくる。
「――― そこで、君が何故顔を赤くするんだ?」
不思議そうに聞いてくるロイに、エドワードは益々顔を赤らめて口篭る。
「やっ・・・何て言うか・・・」
グッと言葉に詰まるエドワードの様子に恥じらいが見え隠れして、ロイは思わず
近付いて逃げられないようにと腰に手を回して抱き込んでしまう。
そして触れるほど近くに顔を寄せて、続きを強請る。
「何て言うか?」
「だっ、だから・・・・・」
身体を捩って、腕の中から逃げようとするエドワードを楽しそうに
更に引寄せる。
「だから?」
そう耳元で囁くように問い質せば。
「もぉーーー! その声は反則だろっ」
囁かれた方の耳を塞ぐようにして、じたばたするエドワードの様子を見ていれば
どうやらエドワードの顔を赤くした理由は、ロイには都合が良いことのようだ。
「聞かせてくれたら手を離すよ。さぁ、何を思ってそんなに顔を赤らめてるんだい?」
クスクスと笑いながら言及されれば、エドワードとて逃げ切れない。
「――― あんたしか・・見えてなかったんだな・・って!」
そう言い切ると、さあ話せとばかりに回した腕を引き剥がそうとする。
「・・・・・・」
ロイは絶句したように、真っ赤になりながら腕の中で抵抗しているエドワードを見る。
そうして、数瞬遅れてエドワードの伝えたかった事を正確に理解すると、
体中に広がる温かい気持ちに満たされる。

―― エドワードは言ってくれているのだ。
   高官の階級章よりも、ロイに目が奪われている ―― と。

それがどれほど嬉しい事か。
そして、自分が彼に求めているものが間違っていなかった事を確認する。

ロイは思いのままにエドワードを抱きしめる力を強くすると、
諦めたのか、大人しくなったエドワードの頬に手を当て上を向かせる。
「君は本当に大きくなった。―― キスも、ほらこんなにし易くなって・・・」
少しだけ近づけるだけで、今は唇が重なり合える。
彼の体の成長と同じに、彼の内面も大人になって行ってるのだ。

そんな嬉しい事実に、ロイは抱きしめ口付ける身体を通じて実感する。
以前より、少しだけ熱が籠もる口付けをされても逃げない恋人に
ロイは離れていた時間を感じる。
彼も、エドワードも確実に大人への階段を昇り始めている事を・・・。




  *****

ロイの送迎後司令部に戻ったハボックは、事の始終を話して不満を口にしていた。
久しぶりの再会だったのだ。職務中だとしても、少しくらい大目に見てくれれば
良いのによぉーと言う彼の不満は、冷めた空気を纏うメンバーには
賛同を得られなかった。

「ハボよぉ、お前、もうちょっと察しろよな・・・」
呆れ交じりの嘆息を吐きながらブレダに言われ。
「気が利かない人って、嫌われますよ?」
親切心からのフュリーの言葉に、ショックを受ける。
「馬に蹴られたくなければ、邪魔は控えないと」
どこぞの諺を持ち出しての説教には大きな疑問符を浮かべる。
そんなハボックの様子に、周囲のメンバーは大きな嘆息を一斉に吐いた。
「な、何だよ、お前ら! 俺が何をしたって言うんだよ!
 久しぶりなんだぞ! それもあいつらが願いを叶えたって言うんだ、
 盛大に再会を喜んでも悪くないだろうが!」
憤慨するハボックに、皆が憐れむ瞳で見る。
「ハボック大尉、あなたもしかしたら、まだ気づいてなかったの?」
はぁ~と音が聞こえそうな溜息と共に、米神を押さえるホークアイの言葉に
ハボックが怪訝そうな表情を返す。
「な、何すか、一体?」
 そのハボックの問いかけに、皆が呆れたように、憐れむようにゆっくりと首を振る。
「お前・・・そんなけ鈍いからもてないんだよ」
「へっ?」
「まさか、まだ気づいてない人がいたなんて・・・」
「ほっ?」
「馬に蹴られての前は、人の恋路を邪魔する奴はと有るんですよ」
「はっ?」

ハボックは茫然としながら、ぐるりと周りを囲むメンバーの顔に視線を回す。
そして・・・・。
「―― 恋路? ・・・・・誰と誰の?」
恐る恐る訊ねた言葉は、皆の一斉回答で返された。
「「「「准将とエドワードの君のでしょ・だろ・です・で」」」」

―――― しーんと室内が静まり変えた直後、ハボックの雄叫びが轟く。

「うっそぉーーーーーー!!!!!」

「「「「本当!!」」」」

そんな一幕が繰り広げられていた司令部だった。




  ↓面白かったら、ポチッとな。
拍手



© Rakuten Group, Inc.