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Selfishly

Selfishly

5月


~ ★ 『 戦ってたら怪我しちゃいました』 ~

「どうしたんすっかね~。」
言ってる言葉の割には 全く緊張感も感じれない口調で、
扉の隙間から中を伺っていた一団の一人が
皆の気持ちを代表して言葉を吐いた。

中を伺っていた面々の表情も、困惑と言うより
 はっきりと「迷惑!」と書かれてそうな顔つきをして
見ていた扉の中から目を離して、
一斉に ハボックの言葉にうなずきながら、
吐かれた言葉に答えをくれそうな唯一の手がかりになりそうな女神を
振り返った。

この女神の名前をホークアイと言う。
凛とした雰囲気の中にも、女性としての美徳が溢れる彼女は、
平時であれば、扉の中の住人の上司より 
はるかに頼りになるお方だ。

いつもは冷静で、周囲に動揺した姿を見せた事もない彼女も、
やや困惑気味に首を傾げている。
いつも はっきりと確信を持って話す彼女にしては珍しく、
「多分」と付け加えて、周囲を困らせている要因だろう事柄を
話はじめた。

「今朝、南方司令部から送られて来た報告書のせいだと思うんだけど・・・。」
「報告書って あれっすか?
 また大将が、たまたま通りかかった通りで
 偶~然にも出会った銀行強盗を捕まえたって言う?」
ええ、多分・・・と中尉がうなずく。

「でも、エドワードさんが事件に遭遇するのも、
 そんな報告書が送られて来るのも、
 別に今回だけではありませんよね?」
 と軍服を着てなければ学生に間違われる事を
 密かに悩みの種にしているフュリーがつぶやいた。

「なんせ、大将ときたら、乗った列車はジャックに合うわ、
 行った街では争いを起こす・・・もとい事件に巻き込まれるわ、
 たまたま入った飯屋で乱闘騒ぎを巻き起こすじゃ~なくて
 巻き込まれるわで、
 それの報告書や始末書やらは、
 毎月束になるほど送られきてるじゃ~ないですか。」
 と知らない人間が聞いたら
  (いや、知っている人間でも)、
 この噂になっている人物がいかにはた迷惑な人間かと
 思わずにはいられないような事を、
 集まった周囲一同 ごく普通に天気の話をするように
 口々に思いつく過去の報告書で上げられた内容を
 「こんなのもありましたよね。」やら、
 「それを言うなら あの時の方が。」等と
  話が逸れて華を咲かせていく。

そんな中でも、優秀な彼女らしく
 本題に皆に思い出させるように、
「でも、それしか思いつかないのよ。
 朝の出勤の時には 今と違って、機嫌が良かったのに、
 勤務が始まって、報告書を読んだ後には
 むっつりと黙り込んでしまわれて。」と言葉を繋いだ。
 
「そうっすよね~。 
 大佐、今日 俺が迎えに行ったときも 
 扉の前で用意万全の格好で待ってたんっすよ。
 いつもは、指が痛くなるまでチャイムを鳴らし続けて、
 やっとなのに 今日なんか、『遅い!』って、
 さっさか車に乗り込んで来たし。」

その朝の大佐のありえない行動に思いをはせながら、
?を浮かべながらハボックも首を傾げている。

「そうですね~、
 大佐 エドワードさん達が戻ってくるのが解った時は
 いつも機嫌が良いですからね。」
 と自分も彼らが戻ってくるのが嬉しいと表情に乗せて
 フュリーがうなずく。
 
「もしかして あの事でしょうか? 
 今回の報告書に書かれていたエドワード君が負傷して、
 病院に運び込まれたという内容では?」
平素どんな発言の時にも表情を変えないで話す
 司令部の知恵袋と自称するフアルマンが
 原因と思われる要因を上げてきた。

「え~、でも それも結構いつものことじゃーねえか?
 病院に行ったのが報告まで上がるのは少ないけど、
 エドのやつ 事あるごとく 擦り傷位は作って帰ってくるしな。」
 見かけより繊細なハートを持つブレダは、
 やんちゃな弟を持った兄のようなあきらめの表情を浮かべて
 ファルマンに返事を返した。

「それもそうですね。」
 とうなずいているファルマンの返答に
 同様に皆うなずいている。

「どちらにしても、午後もこのままのようなら 
 私のほうから大佐に、仕事を開始して頂けるように
 お願いしてみます。」
 きりりとした表情を浮かべ、
 そして その瞳の中には物騒な輝きをきらめかしたホークアイが
 言い切った。

「頼みますよ~中尉~! 
 俺、これ以上デート放っぱらかしてたら、
 また彼女に捨てられますよぉ~。」 
 今にも拝み倒さん勢いでホークアイに泣きついてきたハボック。

 有事の時には 皆24時間体制が当たり前な軍部ではあるが、
 今は 先日まで東方司令部を騒がせていたテロの反抗を 
 やっとこさ首謀者を捕まえて鎮圧した後である。

その後事件も起きず、事後処理さえ終わらせれば 
皆久しぶりにゆっくりと
自分たちの時間を楽しめる事になっている。

やっとこさ、大佐が行きそうもない定食屋で
好みの女の子を見つけ、
通いに通ったあげくに恋人同士になれたハボックやら、
定時に上がって 久しぶりに飲みに出ようとしている
その他の面々は、
今は寄りつけない不機嫌な上司の決済と指示を待つ態勢だ。

たとえ、午後から無能な働かない上司が 
女神の鉄槌を受ける事になっても
とにかく仕事を始めて欲しいと願わずにはおれなかった。
そんな決定が 扉の外で決められているとも知らない扉の中の住人は、
一人 自分の頭の中で何度も「叱る事柄」を反芻していた。

数日前、めったに寄り付かないし連絡も寄越さない金色の子供が
珍しくもロイに電話をかけてきた。

内容は 定期報告をしに1度イーストに戻ること、
その時 情報があれば 教えて欲しい事と 
なければ、軍の閲覧許可書を用意して欲しいことを伝えて電話を切った。
言うだけ言って電話を切る相手にため息もでたが、
帰って来ると思うと、
それもなんだか気にならない気になるから、
自分は 子供には甘かったんだな~と
皆が聞けば反論が飛びそうな事を思いながら、
戻ってくる日を待っていた。

彼と顔を合わせるのは、春の桜の木の下と 
その後、ロイの仕業と気づいたエドワードが
怒鳴り込んで来た時以来だ。
さすが、その時は お茶に誘っても無視されたが、
いつも、お茶に誘っても付き合う事がないエドワードも 
お菓子が付いてきたり、美味しい食事が付いてくるとなると、
本人が急ぎで取り掛かりたい事がない限り、
結構、付き合う事が多い。 
それに気づいたロイは、
戻ってきた時には、「報告を聞きがてら。」と
食事に強引にでも連れて行くようにしていた。

旅から旅で、まともに食事をしているとは疑わしい彼だが、
結構、舌が肥えていて 美味しいものには目がない事は
話される旅の話の中でも伺えれる。

今回も、エドワードが喜びそうな店を決めて
連れて行こうと考えていた。
そんな事を考えての ここ数日は、大変 機嫌も良く、
軍部に関係ない事柄まで声を大にして唱えて犯罪を重ねるテロ組織にも、
腹も立たずに 首謀者が判明するやいなや、
部下の反対も押し切り自ら乗り込んで 鎮圧をし、
事件が起きても関係なく舞い込む日々の雑務も、
出来る限りに迅速に処理し
後は エドワードが帰る日の決済と処理だけと、
普段の上司の仕事振りを知っている面々からしてみると、
驚き以外のなにものでもない仕事振りを見せていた。

自分でも 何故、こんなに気合が入っているのかは不思議だが、
まぁ、久しぶりに逢う人間の為には これ位はするだろうと納得させた。
ハボックが聞いたら、
「俺の予定も いつも久しぶりなんですよ~!
俺の都合の為にもいつも それ位してくださいよ~。」
と言われる事は間違いないであろう理由であるが・・・。

そんな気分で当日を迎えると、朝から異常に気がせいて
迎えのハボックが来るのを、
玄関先でイライラとしながら待ちわび、
定時に来たというのに、思わずハボックに「遅い!」
と言わずにはおれない心境だった。

エドワードの乗った列車が着くのは午後一なのだから、
午前中に早く行ってもしょうがないようなものなのだが、
もし、すれ違いでもしたら 気ままな彼のこと、
そのまま次の目的地にという事にもなりかねない。

とことん、自分が上司である事が頭から抜けているロイである。
自分が 上司命令を出せば、
どんな時でもエドワードは その指示に従わせれると言う事が
出来るのを忘れている。
まぁ、確かに 言っても聞くかは解らないのだが・・・。

そんなこんなで、勤務に着いて 今日の定時上がり
(上手く行けば定時前に)
勤務を終わらそうと 張り切って手をつけた1番目に、
南方からの報告書があった。

まぁ、たいした事は乗っていないだろうと思いながら目を通すと
エドワード達が解決したという事件の概要が書かれていた。

事件事態はたいした事もなく、銀行に入ったが 
金を取る前に憲兵がやってきたのを目にした
気が小さい犯人たちは、
またこれも愚かな事に 
慌てふためいて正面玄関から逃走を図った。

ちょうどその時に 運良く(?)
銀行の前を通り過ぎようとしたエドワードに、
「どけ!このチビ!!」
の捨てセリフを吐いて走り去ろうとしたのだが、
「小さい」に過剰な反応を示す 
見かけからは全く想像できない力を持つ鋼の錬金術師どのに、
「過剰防衛です!」と憲兵にエドワードを止めてもらうまで 
こてんぱにやられた犯人たちが救出されたという内容だった。

これ位は良くある報告の1つである。
慣れたくはないが エドワード達と付き合うようになってから、
頻繁に届く各司令部から叱咤や陳情、
まれに素直な まともな神経の持ち主と思われる軍人からの感謝の報告。

ただ、今回の報告書には 
「鋼の錬金術師殿が、民間人を庇い負傷。
病院にて治療をうける。」の記述が入っていた。
彼らは、報告に来る以上のトラブルに巻き込まれているし、
片付けてもいる。
怪我や傷も、報告書や本人に自白させた数以上に負っているのは
 ロイも解っていた。

帰って来る度に、その事を口うるさいと思われても
「無茶をしないように!」と咎めても、
本人は「わかっている!」の一点張りで
聞く気があるのかも疑わしい返事しか返さない。

今回という今回こそは、きっちりと叱らねばならない。
子供を叱るのは、大人の役目だ!
と変な義務感で自分が何故ここまで気に病むかの気持ちは考えず
 ロイは朝から、鋼に叱る事柄を延々と
リストアップして繰り返していた。

あの子供は 周りの人間の気持ちを無視しすぎている!
報告書を読みながら、
「またか。」と思いながらも怪我はしていないか、
辛い目にあったのではないか、困ったことはないかと思う
自分たちの気持ちを蔑ろにしすぎている!
今日こそは、厳しく言い聞かせてわからせなくては。

そんな物思いに耽っている最中に 扉をノックする音が耳に入ってきた。
無意識に「入れ」の言葉を言うと、
カチャリと扉が開き お世辞にも
麗しいという表情を浮かべていないホークアイ中尉が
一礼とともに入ってきた。

その表情を見て、はっと時計を見てみると
勤務開始からすでに数時間、
全く業務に手を付けずにいた自分を振り返り、
「中尉・・・、その~、
 い、今からすぐに、すぐさま取り掛かるつもりで・・・。」
 としどろもどろに言い訳を言うロイに、
白い目を向けて冷たく、
「ありがとうございます。 
 本日は 大佐の決済・指示待ちの検案のみが山積みです。
 皆が久しぶりに自宅に戻れるようにして下さると
 思っておりますので。」と、
 言葉に形があれば 鋭い氷の刃の形をしていると
 想像できる冷た~い温度を漂わせた言葉で、
 ロイの胸を刺し貫いた。

「も、もちろん。」
と青い顔をしてうなずくロイを横めに、
「先に 面会をして欲しい方が ございます。
 業務は その後にフルスピードで!
 宜しくお願いいたします。」
 と早くやれの言葉をを強調した内容を告げた。
 
「面会?」
今日は余計な時間を取られる内容の仕事は省いていたはずだが・・・、
と頭に浮かんだロイだが、
今のホークアイに文句を唱えるのは
命が無くなると体で感じているので、不承不承納得した。

「で、誰なんだ?」
嫌そうな上司の顔を 見ても気にせずに受け流し、
「はい、エドワード君達が 報告書を提出しに来てますので、
そちらを先に済ませて上げてください。」
と 厳しい顔つきだった彼女が、
わずかに表情をほころばせて伝えてきた。

彼女も 上司ほどは表面には出さないが、
幼いのに頑張り屋な彼らの事を
暖かい気持ちで見守っている一人である。

エドワード達が着いたとの報告を聞いて、
「鋼が着いたのか!」
と喜色面を浮かべたかと思うと、急に むっつりとした顔つきになり、
「わかった、先に鋼のに会おう。
 ただし、今日はアルフォンス君は
 そちらで待っていてもらってくれ。」
と中尉に指示をした。
「はい。」と返事をしたが、内心は 
『今まで そんな指示をされた事がなかったのに・・・。』
と浮かんだが、上司の命令は絶対であるし、
軍務の事なら、一般人のアルフォンス君には
聞かせられない内容もあるだろうしと思い、
エドワードに その旨を伝えに扉の向こう側に戻っていった。

その扉の向こうでは案の定、エドワードの
『えぇ~!何でだよー。」の
ブーイングの声が聞こえてきた。
『兄さん、軍の仕事の事かもしれないでしょ。
それに、そんなに大きな声で・・・。
大佐を待たせたら悪いよ。
僕、ここで皆と話しているから、早く行っておいでよ。』と
 気かんきな兄を持つ弟は、気を使う性格を現した言葉を告げている。

おざなりなノックの後に、
「入りま~す!。」
といかにも 取ってつけたような声をかけ、
エドワードが入ってきた。

ロイは 先ほど考えていた内容を思い直しながら、
決意も新たにエドワードを叱る用意をと
「鋼の!」と話始め様とした・・・のだが。

入ってきたエドワードの姿を見て、
今回こそは自分が厳しくと思って考えていた内容が
頭からすっとぶのを感じた。

「鋼の! 大丈夫なのか!!」、
思わずエドワードの前まで小走りにかけより、
エドワードの姿が良く見えるようにと
ひざを突いて覗き込んだ。

確かに 入ってきたエドワードの姿ときたら、
頭からは ぐるぐるに包帯を巻いているし、
生身の足に怪我でもしたのか松葉杖をついている。 
しかも、ご丁寧に またしても生身の方の右手には
大きな絆創膏が貼られているという有様で、
入院していた方が良いのでは?と
見た人に思わせる風情だった。

「な、なんだよ大佐。 そんなに怖い顔して寄るなよ!
 驚くじゃないかよー。」
と焦ったような返事を返してきた。
「しかし、君。 怪我の報告は来ていたが、
 まさか こんなにひどいとは・・・。」
ロイはさも 自分が怪我して痛みをうけているように
顔をゆがめてエドワードを見つめた。
が、そんな言葉を言われた本人は
全く痛みを感じているようにもなく、
「ああこれ? 
 いや~別に傷自体はたいした事ないんだけどさー、
 何か 南方の軍医の人が、
 やたらとかわいそうにを連発して、丁寧に治療してくれてさー。
 すぐにも外したいんだけど、
 アルにもせっかく あれだけ親切にしてくれたんだから、
 しばらくは我慢してあげなよって止められるし、 
 軍医の人にも 外すのは東方司令部の軍医に必ず見せてからって
 連絡も入れられちゃったんで、
 まぁ 取り合えず ここにつくまではと思って
 巻いといたままにしたんだけど。」
 とあっけらかんと言い放ち、
 しかし なんでそんなに可哀相がられたのかな~?
 別に これ位痛くもないんだけど・・・
 とぶつぶつと言っている。
 
ロイはエドに聞かれたら暴れられるだろうから言わないようにしたが、
多分 その軍医は
「こんな小さな子が軍属に入って怪我をするなんて・・。」と
思っていたのが手に取るように浮かんできた。

「まぁ、軍医の指示は適切だと私も思う。 
 しかし、本当に痛くはないのかね?」
 とエドワードに聞くと、
「あぁ、ぜ~んぜん。
 何ならここで組み手してみせようか?。」と
にぱっと悪気のかけらもなく笑って、
包帯やギブスをしている手や足を振ってみせている。

エドワードの動作を見て、
本人が痛みを感じずに動いていることを確認できると、
ロイは「はぁ~」とばかりにため息をついた。

「おい、どうしたんだよ? 
 何か俺にやらせたい事があったのか?
 別に 怪我はたいした事ないから大丈夫だぜ。」と

ロイの心情を チラッとも気づかぬエドワードの言葉に
むかっときて、先ほどまで考えていた内容が
頭に一斉に浮かんできた。

「この、馬鹿者! 
 何度 言い聞かせたら解るんだ!
 無茶はするなとあれ程言ってきかせているだろうが。」
といきなり 
 エドの鼓膜を破るかのような怒声を浴びせかけられた。

「な、なんだよ・・・。」と 
 ロイに叱られ、嫌味を言われる事は数あれど、
 怒鳴られた事は今までもなく、
 目を丸くして 尚も反抗しようと言葉を告げるエドに、

「なんだも、なにももない!
 君には 人の言葉を記憶する頭はないのかね!
 その頭は 体と同じで、中身も小さいのかね!。」

「聞き捨てならねー、
 今 俺を人が声かけても届かないマイクロサイズの
 ドチビって言ったな~!!」
 今にも 松葉杖を捨てて飛び掛りそうなエドに
 ロイは尚も言葉をつのった。
「そんな事は 誰も言ってないだろう~! 
 いや、問題は そこではなくて・・・。
君は どうして、自分の体を もう少し大切にできないんだ。
いくら君が 機械鎧を付けて普通の人より強い部分もあるとしても、
それを備えている体は 普通の人と同じ生身の体なんだぞ。
打たれれば痛いし、傷つけば血を流す。
そんな簡単な事もわからないのかと言ってるんだ。」
 すでに大人として、冷静に厳しく叱るという当初の目的からは 
 大きく外れ、子供同士の怒鳴りあいのケンカのレベルに落ちているが、
そんなことにも気づかないロイであった。

「そんな事は、あんたに言われなくてもわかってるよ!
俺の体の事なんだから、関係ない他人のあんたに 
とやかく言われる筋合いはない。
俺の体だ、血を流そうが 死のうが
誰に迷惑をかけるわけでもないだろう!」
語気も荒く言い切るエドワード。

が、エド自身も、別に そこまで言おうとは思っていなかったが、
売り言葉に買い言葉。
 勢いに乗って、ついつい憎まれ口が出てしまった。

言い過ぎたかな~と相手の反応を見ようと顔を上げた瞬間、
「バシッ」と鳴ったかと思うと、エドが左頬に熱を感じて
たたかれたと思った拍子に、
松葉杖のせいでバランスを崩したエドが
後方に 大きな物音をたてて倒れる事になった。

「鋼の!」 たたいたのは自分ながら、
倒れるエドワードに手を伸ばして覆いかぶさり、
自分も一緒に倒れこんでエドの下敷きになったロイは、
すぐさま起き上がってエドの前に座りなおして 
エドに声をかけた。

「鋼の、大丈夫か?怪我はしなかったか?」
心配そうにエドを覗き込み
怪我はないかと大佐が体をチェックしていると、
隣から中をうかがっていた面々も、
さすがに大きな音が響いてきたとあっては、
伺うだけでは済まず、
「大佐、何事かございましたか!」
と礼もそこそこに護衛の役も兼ねる彼らが入ってきた。

入ってきた皆の目に飛び込んできたのは、
おろおろとエドを心配して声をかけている大佐の姿と、
(多分)大佐に殴られたと思われる頬に手をやって
 呆然と尻餅をついているエドワードの姿だった。

そんな状況を冷静に判断したホークアイ中尉が、
厳しい声つきで大佐に声をかけた。

「大佐、どういった事かは存じませんが 
 軍属とは言え、まだ 幼いエドワード君に手を上げるというのは、
 許される事ではありません。」と
理由いかんによっては、許さないの気配をにじませて告げてきた。

ロイといえば、
ひとまず これ以上のケガはエドワードにさせてないと、
ほっと息をついていた。
そして、静かに 自分で「落ち着け」と念じながら、
エドワードに話しかけた。

「鋼の。 私は ぶった事は謝らないよ。
 君は それ以上のひどい事を
 君を心配している皆に 言ったのだから。」
 優しく、慈しむ様に
 エドワードの金髪をなでながら話しかけた。
 解って欲しい、皆の心を、
 そして、自分の心も・・・と願いながら。

「確かに 君の体は君のものだ。 
 傷ついて痛みを感じるのも、
 血を流して苦しむのも、誰も変わってやれない。

 けど、そんな君を見ている者達にも 
 君が痛んでいる、苦しんでいるのと同様の
 痛みと、心配とを与えている事を忘れないで欲しい。
 君たちは 危険な旅をしている。

 だから、絶対にケガをするなとは言えない。 
 けど、あえて避けれる無茶をしてまで 先を急ぐのを
 止めて欲しいだけなんだ。
 解るか?」と話しかけるロイの真摯な言葉が、
皆の思いを代弁しているかのように、
周囲のメンバーもうなずいている。

控えめに後ろに立っていたアルフォンスが、
うつむいたまま座っている兄に話しかけた。
「兄さん、大佐の言うとおりだよ。
 僕には感じられる体はないけれど、
 それでも 痛みを感じる時があるんだ。

 それは、兄さんがケガをしたり、
 苦しんでるのを見ている時なんだ。 
 見ている事しか出来ない事が、
 ひどく辛く痛むときがあるんだ。

 きっと、大佐も皆さんも 僕と同じように
 兄さんの傷ついている姿に
 痛みを感じてくれているんだと思うよ。

 だから、大佐の言葉どうり 
 避けれる無茶までして 先を急ぐのは
 僕も痛いから 止めようね。」
 兄の傍までやってきて、アルフォンスは
 兄に今まで言いたくて言えなかった事を伝えた。

 そして、それを言うきっかけを作ってくれた大佐に
 頭を下げて礼を伝える。
「大佐、本当にありがとうございます。 
 兄さんの事を ここまで心配して下さってて、
 僕 本当に嬉しいんです。」
 表情が見えれば、心から嬉しそうな笑顔が
 見えるのが伝わってくるような口調で話された。

 礼を言われたロイは 少しばつが悪そうに、
 「いや、私こそ偉そうに。
 もちろん、鋼のを一番心配しているのは君だというのに。」と
 あやまった。

その間、じっと黙って俯いていたエドワードが 
キッと顔を上げてロイの方を向いた。

ロイは その時のエドワードの表情を 
思わず息をつめて見つめた。
泣きそうで、でも 微笑んでもいるようで、
そして どこか痛いような・・・、
そんな 表情を浮かべている。
 けど、その金色の輝りを封じ込めた瞳だけは
そんな自分を勇気付けるように、
まっすぐ堅よく前を見つめ続ける力を宿したまま。

「わかったよ! 俺が悪かった。 
今度からは 避けれる分は なるべく避けて行くようにするよ。」
と先程の表情を一瞬に消し、
叱られた子供が拗ねる表情で親に謝る表情そのままに、
エドワードが大佐と、
大佐と同様に心配してくれているだろう皆に言い切った事で、
どうなることかと ハラハラと成り行きを見守っていたメンバーが
緊張をといて、口々にエドワードに声をかけた。

「そうだぜ大将、
 亀の甲より年の功っていう言葉もあるんだから、
 年上の言葉は聞いといてそんないぞ~。」

「そうよエドワード君。 
 せっかく綺麗な顔に傷でもついたら大変よ。」

「そうですよ~、無茶はしないでくださいね。」
 等声をかけられ
そうだよなー、大佐も年寄りなんだから 
年寄りの言葉は聞いとくかとエドワードが返事すると、
私は年寄りではない!と抗議の声が上がったりと
いつもの司令部の日常の風景に戻っていった。

そんなこんなで、結構時間をくってしまったのに
気づいたエドワード達が
「じゃぁ俺らこれで行くわ。 
 この包帯とギブスも外してもらわなきゃーいけないし。 
 もたもたしてたら、閲覧時間を過ぎちまう。
 アル、行くぞ。」とあたふたと出て行こうとしたのを機に、
 じゃー俺らも仕事に戻るかーと
 ハボックたちも 執務室を出て行く。

それを眺めながら、ロイは 
はっとエドワードを食事に誘うのを伝えるのを
忘れているのに気がついて、思わず
「鋼の!」と呼び返していた。

その声に出て行ったエドワードが
「何~?」と戻って顔だけ出せば、
さすが あんな事があった すぐ後では言いにくいのか、
「いや・・・、もしよければ夕食をどうかと。」
とぼそぼそとつぶやくようにロイが話しかけてきた。

へ?っと言う顔をしたエドワードだったが、
さっきの事は もう忘れたのか嬉しそうに
「大佐の奢り? 奢りならOKだけどさ・・・。」
と嬉しい返事を返してくれた事に気をよくしたロイは、
「もちろんだとも。君を連れて行こうと考えていた店があってね。」
と笑顔で答えた。

エドワードは「でも、」と言いながら、
にやりと擬音が聞こえてくるような笑顔を浮かべて、
ロイの執務室の机にある書類を見ながら、
「でも あんた行けんの? 
 それ、今日までの書類じゃーないの?」と
目で書類の山を指し示した。

エドワードの目線と一緒にロイも目線を向けてみると、
そこには 今日中にとホークアイ中尉が置いていった書類が、
1枚も減ることなく積まれていた。

朝からかかれば楽勝の量も、
すでに昼もとうに過ぎて まだまだ日の落ちるのが
早い今の時期では、窓の外は夕暮れの気配が満ちてきている。

しかし、無理やり気丈に笑顔を貼り付けたロイは
「いや、心配には及ばないよ。
 これ位なら夕暮れまでには終わるから。」
だから、夕食にと言う言葉は 
不穏な気配を感じた優秀なる副官の
一言によって言えずに終わった。

「大佐、本日は業務が押しております。 
 他の者は、先ほど大佐にお願いしたとうりに 
 皆、定時に上げさせて頂きます。
 よって、そちらの書類の決裁等は 
 全て処理まで大佐にお願いする事となりますので。」
 と にっこりと大佐に告げて出て行った。

ホークアイ中尉、実は大佐がエドワード君をたたいた事を
許していなかったもようである。

ロイと言えば、ホークアイ中尉の無情な言葉にショックを受け、
さらにエドワードからの
「ふ~ん、時間かかりそうだね。
 俺、今日は急ぐから止めとくわ。」
 の一言に止めを刺されて撃沈した。

何で、こんな目に私が・・・としょぼくれる姿が
余りにも可笑しくて、
エドワードはでしなにロイに声をかけた。

「大佐、今日は無理そうだから 明日連れてってよ。
 俺ら しばらくここに滞在するつもりだからさ。」

エドの言葉に
「明日は必ず!」
と立ち直りも早く、うなずくロイ。

そんなロイを可笑しそうに見ていたエドワードが、
笑いを引っ込めて、うつむきながらロイに言った。

「その・・・、大佐。 ありがとう。」
とまるで聞かれるのが恥ずかしい
というように、ささやくように言葉をつぶやいて、
その後「じゃー、明日なー!」とドタバタと去っていった。

思わず去っていた彼の姿が
まだ そこに在るかのようにじっーと
見つめて、ふっと口に笑みを浮かべて 
もう居ない彼に返事を返した。

「ああ、鋼の。本当に忘れないでくれたまえよ。」
皆、君を心配しているのだから・・・。

 




 





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