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Selfishly

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10月



10月 風がいたずらを仕掛けてきた  
                 H17,11/20 18:00

秋の空気を含んで、爽やかな風が吹く季節。
東方司令部では、いつものごとく慌しい室内で
外での天気に気をとたれている者等いない・・・はずであった。

「そろそろっすよね~。」
「そうね。 そろそろね。」
「そうですねー。」
司令部内で 仕事に従事している者が、
おだやかに、口々に確認し合っている。

最近、上司の仕事のペースが上がっている。
そろそろ「それが」近づいている証拠だ。

皆が、確認し合っている「それ」とは、
エドワードからの定期連絡の事だ。

エドワードは、最近、戻る前に
出来るだけ連絡を送るようにしている。
 
うるさい上司の命令でもあるが、
その為に、必死に仕事をこなす男が哀れでもあるからかも知れない。
1度、連絡もせずに戻った時に、
溜まりに溜めていた仕事を、涙ながら片付けて
なんとかエドワードと食事をする時間を捻出する姿を見てからは
「そ、そこまで・・・。」と やや引いた感はあったが、
何にせよ、付き合うはめになる彼にしてみれば
食事位は 気持ちよくしたいと考え、
戻る前には 電話連絡を送る事にしていた。

「大体、これ位の間隔でしたからね。」
何事にも きちんと記憶しているファルマンは
以前、エドワードが去ってからの日数を きちんと把握していた。
ホークアイとしては、彼らが去ると しばらく使い物にならない上司が
やっと動き始める周期が来たのだから、
このチャンスを逃すはずがない。
ロイも、この位の時期になると
電話のある執務室から出たがらないので、
好都合とも言える。

今日も今日とて、いったい本当の締め切りはいつなのかは
解らない物まで、全てロイの机の上に並べてある。
いつもなら、不満顔たらたらの上司だが、
この時期は、機嫌よく さらにスピーディーに
片付けて行くので、エドワード様様である。

「今度は、どこに連れて行かれる予定なんでしょうね?」
ニコニコと笑顔を浮かべて、話すフュリーからは
この二人を、どう思っているのかは伺えない。
「あっ、俺しってるぜ。
 今度は 連れて行くんじゃ~なくて、
 来てもらうんだってさー。」
器用に咥えタバコで、ハボックが答える。
「来てもらうって、大佐の家にですか?」
「そう、なんか大将に料理を作ってもらう
 約束してたからなー。」
「へぇ~、エドワード君って 料理が上手いんですね。」
「ああ、俺は まだ食わしてもらった事ないけど、
 大佐が言うには、プロ裸足らしい。」
「なるほど~、じゃぁ 大佐も楽しみでしょうね。」

ほのぼのとした話がなされている外と違い、
ロイは、げんなりしそうな書類の中を
ひたすらまじめに取り組んでいる。
『一刻も長く 時間を捻出出来る様にしておかなくては』

彼らが滞在する期間は、短くて1日 長くて3日間。
前回のラッキーは、めったに有る物ではないので、
今回も 期待できない。
そうなると、ロイが時間を少しでも稼ぐようにしておかないと、
短い時間が、更に少なくなってしまう。

『事件なんぞ、起こってくれるなよ。』と
心に念じながら、ひたすら エドワード達が戻る日に間に合わすべく
仕事に励んでいる。

そんな日が数日続いたある日。
『リ~ン』と音高く執務室の電話が鳴る。
ロイに直接電話がかかると言う事は、頻繁にはない。
ヒューズの ノロケか、お偉方の嫌味かが主だ。
最近は 特に大きな事件や問題も上がって来ていないから、
聞く時間も無駄な お偉方からの可能性はかなり低い。
ヒューズの方も、奥方の誕生日も 愛娘の祝い事も
ここ最近はなかったはずだ。

なので、その電話が鳴り響いたときに
皆して 『 きた! 』と思い浮かんだ。
当然、ロイが1番期待をしていた事は間違いない。

「もしもし、ロイ・マスタングだが。」
『あっ~、大佐かー?』
「やぁ、鋼の。
 定期連絡かい?」
微笑み崩れそうな顔を 必死に押さえる努力をして電話を
受けているが、周囲が見れば その努力は全く無駄と解る顔だった。

『そう、前回の資料で役に立つ情報が多かったろ?
 で、やっと1段落着いたんで、連絡しとこうと思って。』
「そうか、
 で、今度はいつごろこちらに着くのかね?」
朗報を期待できるエドワードの話に、
押さえる努力を放棄して、嬉々としてエドワードに聞き返す。

『あっそれなんだけど、
 しばらくそっちに戻れないんで、
 その連絡をと思って電話したんだ』

「戻れない!!」
扉越しにも聞こえるような大音量で、ロイが叫んでいる。
扉越しに聞いていた面々も、『げっ!』と瞬間にして、
表情が変わる。
「まずいわね・・。」
今後、仕事をしなくなるだろう上司を思って
眉間に皺をよすホークアイ。
「俺のデートの予定が・・・。」
またしても、はかなくなりそうな恋の道筋を想像して
ハボックが涙を浮かべている。
他の面々も、「はぁ~」とため息をつき肩を落とす。

そんな外の事等、構っておられずにロイが続ける。
「どういう事かね!
 一段落着いたんだろう?
 なら、すぐに戻ってこれるじゃないか。」
『 う~ん、そのつもりだったんだけど、
 ここを訪ねたらさ、他にも面白い情報をくれる奴がいて
 ついでだから、先に そっちに回ろうかと思うんで。』

(誰だ! そんな余計な事をする奴は!)
思わず 指を摺りあわしそうになるのを押さえて
言葉を繋ぐ。
「しかし、鋼の。
 報告書も溜まっているのではないかな?
 それを一旦出しに来てから次に行っても
 いいだろう?」
思わず猫撫で声になるロイに、
エドワードが無情な返事を返す。

『あっ、心配すんな。
 報告書は ちゃんと送ったから。
 こっちの司令部に届けたんで、
 近日中に届くよ。』

さらに追い討ちをかけるような事を言われて、
焦りまくるロイは、何と切り返せばよいのかと
思いめぐらせている。
そんな時に、ロイを逆撫でするようなエドワードの声が
届いてくる。
『あっ、やめろよルーク!
 触るなって言ってるだろ!』
電話越しに、エドワードが誰かに話しているのが聞こえてくる。

(「ルーク!! 誰だそいつは!
 しかも、何故 鋼のが そいつを名前で呼んでるんだ!!
 触るなって、一体 どこを触ってると言うんだ!!」)
頭に血を上らせて聞いているロイの事はお構いなしに、
向こうからは 何やら親しげに言い合う声が聞こえてくる。

思わず叫びそうになった瞬間、
『あっ、大佐。
 お久しぶりです。
 ・・・すみません、兄さん 言い出したら聞かなくて・・・。』
「・・・アルフォンス君・・。」
情けない声を出すロイに同情しながらも、
言い出したら利かない兄を制す事は アルフォンスには荷が重い。

『すみません、なるべく早くに戻るようにさせますから。

 あっ、ルークって言うのは
 次の情報を教えてくれた方ですが、
 気のいいお爺さんですから。』
変な誤解がないようにと、
心配りの出来る弟が、ロイに告げる。
アルフォンスのおかげで
妄想は止める事が出来たが、
戻らない事実は確定した。
ロイは がっくりと肩を落とした。

言い合いに決着が着いたのか、
エドワードが 再び電話に戻ってきた。
『って事で、また戻る前に連絡するな~。
 それと、家に戻ったら驚くぜ~』
へっ?と思い聞き返そうとした時には
電話は無情にも切られていた・・・。

その後、使い物にならなくなった抜け殻のロイに
鬱陶しいからと帰還命令を出し、
司令部から追い払うホークアイに
挨拶もせぬままに、とぼとぼと司令部を出て行く。
大佐の後姿に、司令部一同
明日からの低気圧の予感に
「はぁ~」とため息をついて沈み込んだ。

家に戻っても何をする気もおきず、
ぼっーとソファーに座っていたが、
呼び鈴を鳴らされて、しぶしぶ玄関に歩いていった。
「・・・はい。」
不機嫌この上ない声で返事をされ、
インターホンを鳴らしていた軍の連絡係りはビクビクしたが、
職務に忠実に届け物がある事を告げた。
「届け物・・・?」
扉を開けて家主が受け取ると、それではとばかりに
連絡係りは そそくさと家を去った。

四角い少々大きめの箱は、
ロイが両手で抱えないと持てない大きさだった。
が、中は異様に軽い。

ロイ直接の物には危険を考慮して、軍が検閲してから
自宅に持って来られる。

危険物ではないようだが・・・と送り主を見ると、
右上がりのクセの強い字で、
エドワード・エルリックと書かれている。
読んだ瞬間、ドキンと鼓動が速くなった。

彼が、いったい何を・・・?
包みを開いてみると、メモと もう1つ箱が入っていた。
ロイは、そのメモを読み上げてみる。

『大佐へ。
 ごめん、メシ作りに行くのが延期になって。
 お詫びに いいものを送るから勘弁!
 
 こっちでアルと見て感動したから、
 大佐にも、少しだけ 同じ気分を味わってもらえたらと
 思ったんだ。
 蓋を開けても、ビックリするなよー。

 Ps、あっ、片付けは自分で頼む。』

短い文面からは、何がなんやら・・・?
取りあえず、せっかくの贈り物らしいから
中の箱を開けてみる事にする。

しかし、中身が感じられない重さだな・・・。
そんな事を考えて蓋を開けると。

エドワード特有の練成光が輝き、
中にあった物の正体をあきらかにした。

『これは・・・。』
中から浮かびだして来たものたちは、
渦巻く風に乗って、部屋中に漂い乱舞している。
それは、金色の小さな花たちだった。
金色の花が、渦巻く風に踊っている様は
周囲を光りの中に取り込んで輝いているように思える。

「美しいな・・・。」
呆然と光りの乱舞を見詰めていると、
練成が終わったのか風が止み、
花たちは 静かに落ちていく。
ロイにも、降り注ぎながら・・・。

『アルと見て感動したから、
 あんたにも・・・』

ロイは、そのエドワードの心が嬉しかった。
エドワードの心使いと、花たちの見せてくれた光景に
しばし、余韻を楽しんでいたが。

「やられた・・・。」と苦笑しながら
周囲を見回した。
楽しい思いの後には、部屋中に散った花の片づけが待っている。

「全く、君には やられっぱなしだな。
 マスタングともあろう者が・・・。」
そういうロイの顔には、
嬉しそうな表情が浮かんでいた。

後日談

ロイは、その花たちを苦労して集め、
捨てずに、練成を使って乾かし、
綺麗なビンに詰めておいた。
その後 それを見たエドワードが
照れながらも 嬉しそうに微笑むのは、
まだ だいぶんと後の事になる。

そして、上司の低気圧を予想して
暗澹たる気分で出勤してきた司令部の面々が、
上機嫌でロイが入ってきたのを不思議がる事になった。
が、何にせよ被害は免れたと ほっとため息をついたそうだ。



[ あとがき ]

微妙にODAIとは違う内容かも・・・?
でも、風がいたずらって読んで
思わずこの話を連想してしまったもので。(^_^;)

回を重ねる毎に、
何だか うちのロイさんが 情けなくなっているような・・・。
ロイファンの方、
 申し訳ありません!!










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