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Selfishly

Selfishly

2月


2月 「 ねぇそろそろ、いいでしょう?」

ここ最近、上司の様子がおかしい・・・。
まぁ、おかしいのは 今に始まった事ではないが。
でも、ここ最近は ホークアイ中尉が こめかみに
常に青筋を立てているレベルのおかしさだ。
皆が皆、理由がわかっているだけに、
「「またかよ・・・。」」と目配せしては、
ため息をついている。

「大佐、何度も申し上げておりますが、
 この先日から積まれている書類は
 全て! 期限が過ぎております。
 急ぎ、お願いいたします。」
デスクの前に、仁王立ちして 先ほどより
詰めて来る中尉を チラリと見て、
「はぁ~」とばかりにため息をつく。

「わかっている・・・、
  わかっているんだが・・・。」
一向にやる気を見せない上司に、
『これは、しめないとダメね』と恐ろしい事を
考えている。

「わかりました・・・。
 大佐が どうしても片付けられないと言うのでしたら、
 後任を呼ばせて頂きます。」

「うん?」と気のないような表情でホークアイ中尉を
伺うと・・・。
その後、真っ青な顔になり ペンを握り締めて
仕事を再開した。

中尉は、おもむろに愛用の銃を取り出し、
弾奏を確認始めたのだ。

『後任、後任を呼ぶって、
 大佐のお亡くなりになった後のって事!!』
周囲で、様子を伺っていた軍の面々は
(ヒィ~!!)と心で 叫びを上げ、
中尉の行動を固唾を固唾を飲んで見守っていた。

「宜しいですね。
 これを本日中に片付けれない場合は、
 強制的に後任を呼ばせて頂きます。」
全くの冗談の入る隙もない、鋼鉄の声音で宣言する中尉に
さすが、これ以上は 生命に関わると本能で察知したのか、
目だけで中尉を伺い、コクコクと首を縦に振った。

颯爽と去っていく中尉の姿に、見ていた一同
『かっこいい~』と思ったのは当然だろう。
それに比べて、この上司ときたら・・・。

この上司が、ここまで無能に陥る原因は 1つしかない。
今だ 定期連絡で『戻るコール』をしてこない
エドワード達が元凶だ。

いつもなら、もう少しマシなのだが
今は時期が時期だ。
期待と願望が大きくて、何をしても上の空になってしまう。
ハボック達も、多少は期待に浮かれる事はなきにしもあらずだが、
恥も外聞も無く、大佐ほどの度胸をもって望む事は、
人として、男として 出来ない・・・、普通は。

そして、皆の一致の意見として
大佐が期待しているような展開は、
まず!絶対に!ありえないと200%の確立で思っているのだが、
夢見る大佐の願望は、どんどん広がっているようだ。

・・・・・・・・・
二人っきり、(何故か彼の部屋で)
少し恥らうように頬を染めたエドワードが
おずおずと 持って来た箱を差し出す。

「・・・これっ・・・。」
綺麗にラッピングされた箱には、
某チョコレートで有名な店のロゴが読める。
「はが・・、エドワード。
 それを私に?」
つとめて冷静に、そして嬉しそうに訊ねてみる。
「・・・うん。
 大佐の迷惑でなければ・・・。」

俯いた姿からは、可憐な雰囲気が漂い
ロイは 思わず チョコレートごと、彼を抱きしめる。

「迷惑なわけがないじゃないか。
 本当に嬉しいよエドワード。」
そうロイが言うと、
そっと顔を上げてくる。
「本当に?」
半信半疑で聞いてくるエドワードの表情が、
可愛くて仕方が無い。
「本当だよ。
 エドワード、私も君を愛している。」
「大佐・・・。」
うるうると瞳を潤ませるエドワードに
「ロイと呼んで、エドワード。」
蜂蜜と砂糖壷を、間違って混ぜてしまったような
甘ったる~い、甘すぎて食傷気味になり、胸焼けも起こしそうな程の
声音でエドワードに強請る。

「ロ・・・イ。」
はにかむように名前を言うと、恥ずかしかったのか
すぐに下を向いて、ロイの胸に顔を押し付けてしまう。
『可愛い!可愛すぎる~!』

ロイは、心と体が暴走しそうなほど
喜びに打ち震えてしまう。
しかし、ここは 大人の男としての威厳を保ち、
「エドワード・・・。」と 囁いて、
エドワードの顎に手を添えて、上を向かせる。
「ロイ・・。」小さくつぶやく紅い唇に
そっと口付ける。
「愛しているよ、エドワード。」
「ロイ、俺も。
 愛している・・・。」

そして、心を確認し合った二人は
身体でも確認し合うのだった・・・。


・・・・・・・・・・・・・・

な~んて、絶対に あの大将相手に それはないだろう!な
感想を皆が思い描いている目の前で、
妄想を繰り広げ、恥ずかしさを どこかに置き忘れたか
もともと持って生まれなかったのか、(多分、後者だろう)
逐一、言葉にして喜んでいるのだから、
聞かされている周りの者達にとっては、
面白いのを通り越して、恐ろしくさえ思えてくる。

大佐の妄想話が 一段落した証拠にホークアイ中尉が戻ってきた。
さすが、大佐も 中尉が居る時には 妄想話を繰り広げる勇気が
ないのか、居ない時にのみご披露してくれる。

そんな時に、司令部の電話の1台が鳴った。
「はい。東方司令部ホークアイです。」
型どおりの受け答えが始まり、
皆、意識がそれて それぞれの仕事に集中する。
 
「そうなの、それは楽しみね。
 ええ、私も心待ちにしていたから
 嬉しいわ。」
いつもの、冷静な中尉の反応と違って、
やたら優しく、楽しそうに話す中尉に
仕事に意識を向けていたメンバーも、
思わず 中尉を見つめている。

「ええ、絶対よ。
 気をつけて戻っていらっしゃいね。」
微笑みさえ浮かべて話している中尉が電話を切り終わると、
もしや、と思っていた大佐が声をかけてくる。

「中尉! 今の電話は!?」
勢いこんで聞いてくる大佐に、ちらりと冷たい目を向け
「エドワード君達からですが?」とそっけなく返事をする。

「鋼の達から!
 何故、電話を替わらなかったんだ!」
机を乗り越さんばかりの勢いで立ち上がるロイの
叫びにも、まるで気にする風でもなく
「本人達が 替わる必要が無いと断ってましたので。」
とロイの胸に突き刺さる言葉を告げる。
でも、とか しかしと ぶちぶちと文句を言っていたが、
今の中尉には勝てそうも無いので、
文句よりも要件だと気を切り替えて聞く。

「で、鋼のはなんと?
 戻ってくるのか?」
矢継ぎ早に聞いてくる 上司の期待を知っていて、
ことさら中尉は、のんびりと話し出す。
「それが・・・、困った事になっていて。」
「何! 戻って来ないのか?
  困ったこととは? 戻れない状況にでも?」
おろおろと反応を返す大佐を横目に、
話を続ける。

「こちらに戻る予定にしていたようですが、
 どうやら この時期、列車の切符が取れないようで・・。」
「何! 切符が取れない!?
 ハボック、すぐに 1番早く動かせる軍用列車を調べろ!」
えぇ~、俺っすか~と不満顔で大佐を見返す。
「何をぐずぐずしている、減給されたいのか!」
「ふぁ~い、わかりましたよ・・・。」
しぶしぶ、確認の電話をかけようとした時に、
中尉が 残りの言葉を告げた。

「困っていた所、ちょうどキャンセルが出て
 席が確保できたそうで、14日には戻って来れるそうです。」
そう告げて、平静に仕事に取り掛かった。

『それを先に言わないか!』とは思ったが、
目の前に詰まれた書類を片付けない事には、
何百倍になって返ってくるわからない。
ホークアイの言葉は、1つ1つがメガトン級にロイの心に負担と
恐怖を落とすので、今は 黙って耐えるしかない。
しぶしぶと座り直し、しかし朗報で気分が浮上したロイは
先ほどまでとは 大違いのスピードで仕事を処理していく。

「大佐・・・、俺は・・・。」
電話を取ったまま 呆然としているハボックに、
「必要ないに決まっているだろうが、さっさと仕事に取り掛かれ。」
と冷たい言葉を吐き、意識は もうハボックから離れている。
『くっそ~、いつかは必ず・・・!』
上司の機嫌で、右往左往させられる面々は
ハボックの心情が 嫌というほどわかってやれた。
横に座るブレダが、そっとハボックの肩をたたき
うなずいてやる。
同情が 仲間の絆をいっそう強くしていくようだ・・・。


2月14日の当日、
街は朝から ざわざわとしている雰囲気をにおわせて、
なんだか、いつもの通う人たちも 心なしか楽しそうに見える。
・・・もちろん、1部の人間は除いてだが。

軍も、朝から いつもよりも華やかな声が あちらこちらで
聞こえてくる。
さすが、司令部内とだけあって
市井の婦女子のようには浮かれすぎはしないが、
やはり、男女ともの一大イベントとあって
湧き上がる期待を消すことは、人として無理のようだ。

いつもなら、この喧騒の中心は
言わずもがな、ロイ自身なのだが
今年は、そんな事に巻き込まれては迷惑とばかりに
対応は 全て軍のメンバーにやらせて、
自分は 執務室に入り、「面会謝絶」の札まで ご丁寧に
掲げている。

『もし、鋼に見られでもしたら、
 どんな変な誤解を受けないとも限らない』
万全の体制を整えて、彼らの帰りを 身を綺麗にして待たねばと
訪問も、かかってくる女性達からの電話も
全てシャットアウトしている徹底振りだ。

扉の中で、意気揚々と待ち構えているロイの元に
やっと、エドワード達の到着が伝わってきた。

「よぉ、皆元気そうだな~!」
「こんにちはー。」
元気な声が、扉を隔てても聞こえてくる。
ロイは 思わず高鳴る胸を押さえた。

「よぉ大将!
 お前らも元気そうだなー。」
ハボックが楽しそうに挨拶を返している。
しばらく、面々と話しに華が咲いている様で
なかなか、ロイの部屋には来てくれない。
ロイは 軍のメンバーの楽しそうな声に イライラしながら
早く 仕事に出て行け!と念じていた。
恥ずかしがりやなエドワードの事だ、皆がいる前では
訊ねて来にくいに違いない。

イライラとしながら結構な時間を耐え忍んでいたが、
始業中という事も有り、やがて一人一人と司令部を出て行く気配が
伝わってくる。
『よし! もう少しだ!』
この後に訊ねてくるだろう、エドワードに何と話そうかや
今夜の予定を おさらいしたり、気分が高揚してくる。
ロイの予定では、この後の予定は
エドワードと二人っきりで、ムード満点な隠れ家的なレストランで
食事をし、エドワードさえ望むなら、おしゃれなバーで一杯楽しむのも良い。
そしてその後は・・・・。
どんどん、膨れる妄想に浸っていて はたっと気がつくと
隣の扉からは、声が聞こえて来なくなっていた。
・・・?
どうしたんだろう?
照れているのだろうか?
やはり、いつも忘却武人な彼だが 今日という日は
勇気が必要な事なのだろう。
もう少し、エドワードが落ち着くまでと待つことにする。

・・・、待つこと数十分。
いくらなんでも、そろそろ いいんじゃないのか?
照れて入れないだろう事はわかるが、
到着してから、すでに1時間以上はたっている。
ロイの我慢も、限界に近い。
『ここは、大人の私が手を差し伸べてやるべきだろう』

意を決して、椅子から立ち上がり
隣で 待っているだろうエドワードを誘うべく扉を開ける。
そこには、一人 途方にくれたように立ち尽くす
愛しい子の姿が・・・・。

いなかった。
えぇ~!!と愕然とするロイの姿に、
一人仕事をこなしていた ファルマンがロイに声をかけてくる。
「どうかされましたか、大佐?」
「は、鋼のは・・・?」
呆然とつぶやくロイに、冷静に答えを返してくる。
「は?エドワード君達ですか?
 もう、先ほど帰られましたが?」

ファルマンから、衝撃の答えを聞き
思わず 自分の耳を疑う。
「帰った~! 帰っただってー!?」
言われた言葉が やっと頭で理解され、
思わず大きな声で叫んでいた。
「はい、大佐は面会謝絶をされていたようでしたから、
 報告書を中尉が お預かりしておられました。」
「中尉?
 で、中尉は どこに!?」
キョロキョロと見回すが、司令部にはファルマン意外は
見当たらない。

「中尉は、本日はもうお帰りになられました。
 今日は、振り替え休日でしたので。」

そうだ、ロイが仕事を溜め込んでいたせいで
ホークアイ中尉も一緒に休みを潰して付き合っていた。
今日、振り替えの申請が出ていたが
彼女も女性だしと思うところもあって、許可してたんだ。
 
「今日は、中尉の家で手料理を振舞ってもらえる事に
 なっていたようで、エドワード君たちも嬉しそうでした。」
中尉の料理とは、貴重な経験ですね。と続く言葉も聞こえてこない。

中尉とエドワードが・・・。
「なに~!!」
ロイの悲鳴が 司令部に響き渡る。
司令部に戻ろうとしていた面々にも聞こえてくる程の大きさだった。
『やっぱりな』と誰もが思ったのと同時に、
中尉を怒らせるのだけは、絶対に止めようと
一同が心に誓いなおす1日、それが 2月14日となり
未来にも延々と語り継がれる事になった。


そして、憐れな置いてけぼりの大佐は・・・。
全てのお誘いをご丁寧に断っていた事もあり、
予定は全てキャンセルになり、
一人寂しく枕を濡らしていたようだった。


[ あとがき ]

また、情けない大佐を書いてしまいました。
うちの この大佐は 1作ごとに 情けなさが
バージョンアップしているような気がします。
かっこいい大佐が好きな皆様! ごめんなさいです。
前回、今回と情けなさが憐れを誘う大佐ですが、
次回は いよいよODAIの最終月です。
ちょびっとは、良い事ある・・・かな?


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