979290 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Selfishly

Selfishly

Forty Nine Days・来世編   sideーR


Forty Nine Days・来世編   sideーR






「なぁ、お前なんでエドを見つけた時に、あんな事を口走ってたんだ?」
 突拍子もない言動をする事で有名な友が、これもまた突然、意味不明な事を問い掛けてきた。
 今日は勤務が非番の日で、ロイは珍しくものんびりと自宅で過ごしていた時に、
 この友人の襲撃…いや、来訪にあったのだ。

「何だって? 何を口走ってたと?」
 エドワードに頼まれた洗濯物を畳みながら、ロイは気乗りしない口調でマースの問いかけを、
 一応聞き返してみる。
 ――― そんなロイの傾向も、マースから見ればとても良い変化だ。
 以前のロイと言う男は、冷めに冷め切っていた人間で、自分にも周囲にも無関心、無感動。
 それに優秀な頭脳と能力を持っていたから、心無い者達からは、冷徹・冷酷な機械人間とか
 陰口を叩かれていたのだから。
 そんなロイが、戦争孤児のエドワードを引き取ってから、どんどんと表情を取り戻し、
 感情の起伏を見せるようになっていた。
 それはもう本当に驚く位の速さで開花してだ。
 ――― まぁ、野郎に開花なんて喩え、したくもねぇけど…。
 そんなロイを見守り続けていたマースの疑問は、ロイがエドワードを見つけてからずっと抱いていたものだ。

「ほら、あの日だよ、あの日」
「あの日…」
 きちんと畳まれた服やら下着を、綺麗に籠に入れ直して、ロイが知らずに微笑んで応える。

 ――― うわぁー、なんちゅう表情するんだよ、こいつは!
 ロイの中で意識されている日と言うのは、ここ数年のエドワードと暮らし始めた日々以外では、
 過去には一日しかない。
「エドワードと出逢った日だな。その日にどうしたって?」
 洗濯物を畳み終えた事をエドワードに告げて、ロイは自分用に淹れられたコーヒーを飲む為に、
 ソファーへと腰を掛ける。
「そうそう、その日だ。
 お前、急に廃屋の中に入って行ったかと思うと、いきなり這いずり回り始めてよ。
 俺は心底、お前の正気を疑っちまったぜ」
 マースの大袈裟な話し振りに、ロイは眉を顰めて嫌そうな表情をする。
「失礼な事を言うな。別にそんな大層な事はしてない筈だ」
 憮然としながらそう返しはするが、ロイもその時の事は、どうにもあやふやな記憶しかない。
「いやっ! 絶対におかしかったって! 急に何も無いとこに気配がするって入って行ってよ。
 で、鍵を見つけ出すわ、扉を発見するわ。
 で終にはエドの奴が潜んでた場所まで暴いてよ」
「暴く…、人聞きの悪い。あれはれっきとした救援だろうが」
「救援には違いないが、その見つけ方が尋常じゃなかったって言ってんだよ!」
 そうマースが力説をするが、あの時のロイにとっては、ごく当たり前の感覚で動いただけなのだ。
 この友人が驚くような事など、何一つ思い浮かばない。

「お前あん時、言ってた事覚えているか?」
 そのマースの問いかけにも、ロイは首を捻るしかない。
(何か話していたか?)
 ロイの曖昧な態度に業を煮やし、マースは怒涛のように話し出す。
「お前な、『待ってる』って言ってたんだよ」
「待ってる…」
 マースの言葉を聞いて、ロイが考え込むように目を細める。
「そうそう! で次が『誓いを果しに戻ってきた』とか言い出して、そん次は『鍵、扉を開く』だろぉー。
 そりゃぁー俺が、お前の正気を疑っても、仕方ないってもんだ。

 ……… なぁ、お前あの家の事、知ってたのか?」

  声のトーンを落として聞いてきたのは、その家に辛い思い出を持っているエドワードの為だろう。
「いや…、知ってはいなかったと思うが……」
 妙に曖昧な返答は、ロイが自分の過去の記憶に自身が持てないからだ。特に何も関心を持っては
 生きてはいなかった割に、知識と情報は膨大に仕入れていたから、その中のどこかに無かったとも言い切れないと、
 一旦自分の情報データーを見直してみる。
 …暫くして、ロイは無言で首を横に振る。
「いや、無かったな。大体、あの土地へと行ったのもあの日が初めてだったし、
 街の情報も任務の前に知った位だからな」
 そう結論を出した。
「だろぉ? だろぉ? 俺もお前があんな辺鄙な街を知ってたなんて聞いた事なかったしよ。
 …なら何で、あんなに的確に動けたっつーのが不思議で仕方ないぜ」
 腕組をしながら、考え込んでいるマースを他所に、ロイも物思いに浸りこむ。

 ――― あの時は…、本当に確信していたのだ。
 ここに捜し求め、追い求めてきた者が、待っていてくれると…。
 が、それまでの自分が、そんな出会いを探していた覚えも無かったのだが。

 ただ早く逢いたくて…逢いたくて。
 泣きそうに  胸が潰れそうなほど恋しくて
 ただ一刻も早く、手元に取り戻したくて 抱きしめたくて
 仕方なかった。

 彼を、エドワードを見つけた時の喜びを、何と言い表せば良いのか。
 ロイはエドワードと出逢って初めて、自分が生きている存在だと知った。
 勿論、ロイにもちゃんと両親や親兄弟もいる。過去を生きていた経歴も積んで生きてきているのだ。
 でも、エドワードに出逢って初めて、自分とこの世界を繋ぐチューナーが一致したような感覚…。
 それは衝撃で、劇的な変化だ。
 この世界の大気から酸素を吸い込み。大地から栄養分を得て育つ。
 大勢の生きる人々に囲まれて自分が生長して行った。
 そんな当たり前の事が、あの時初めて意味を成してロイの意識に繋がっていった気がした。

 …… それらは全て、こうしてエドワードを出逢い、生きていく為に必要な事だったと ―――

「それってやっぱー」
 マースの声に、ふと意識を戻す。自分が思いに浸っている合間に、どうやら答えが出たらしい。
「やっぱり?」
 何だと言うのか? それはロイも教えて欲しいと思う。
 僅かばかりの期待を籠めて、目の前の友人を見る。
 マースはロイの視線を受けて、ニパリと大きく破顔すると、親指を立てて。
「運命だよ、運命! 俺と女房との出逢いと同じ、運命の女神の導きだな!」
 ロイの片側の肩がガクリと落ちる。
 そこからはエドワードが止めに入るまで、延々と女房自慢と、これから生まれてくる子供の惚気演説が
 延々と続くのを聞く破目になってしまったのだった。




 *** 


 その夜。夕食は辞退して帰って行ったマースを見送り、いつものようにエドワードの手料理を楽しんで夕食を終える。
 就寝の準備をしながらベッドでエドワードの来るのを待っていると、
 いつものように明日の準備の確認を終えたエドワードが部屋へと入って来る。
 ロイがシーツの端を持ち上げてやると、慣れた仕草で潜り込んでくる小さめの身体を抱きしめる。

 そんな当たり前の日常が………。

「なぁ、ロイ? どうしたんだよ? 何か嫌な事か、辛い事でも有ったのか?」
 心配そうに自分の腕の中で、表情を曇らせてエドワードが覗き込んでくる。
 おずおずと差し伸べられた小さな手の平で、ロイの頬を撫でるエドワードの手の平が雫で濡れている。
 温かな温もりを感じれば感じるほど、ロイの涙は止まらなくなる。
 どうしてなのか…、ロイはエドワードを感じる時に時たま、無性に切なくなってしまう事がある。
 今日みたいに涙まで零していたのは、初めてだが…。
 心配そうに自分を見上げる美しい瞳に、ロイは出来るだけ優しく微笑んで、
 何でもないと言う風に小さく首を振る。 そして…

「いや…、幸せだなと思って。
 君がここに…私の傍に居てくれる事が、本当に幸せだと…」
 そう言て話すロイに、エドワードは仕方ないなぁというように苦笑をして、
 ロイへと擦り寄って抱きしめてくれた。



 見るだけで…感じるだけで涙が出るほど愛しい存在と巡り合えたのなら、
  友人が話していたように、これは運命だったのだろう。

 そう、心から思えた…。






  ↓面白かったら、ポチッとな。
拍手



© Rakuten Group, Inc.