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Selfishly

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二人の関係 6

 
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 2件目を出る頃には、随分と遅い時間になっていた。
 もうそろそろ酒を扱う飲み屋も店仕舞に掛かり始めている。
「ふぅーーー」
 少しよろめく足付きでは有ったが、エドワードは機嫌良さそうにロイの少し先を歩いている。
 この先の大きな道路に出れば、客待ちのタクシーが拾える。普段なら歩いて帰るだろうが、
 酔いも回り始めているから、車を拾って帰る方が良いとエドワードも考えているのだろう。

「あっ~~~今日は良く飲んだよなぁ」
 夜の人工の光に照らされて満足そうにそう話すエドワードの表情は、満ち足りた猫を髣髴させる。
「気に入ったカクテルは有ったか?」
 飲んだ量ではロイもかなりのものだったが、エドワードのようにカクテルではない分、意識はしっかりしている。
「どれも旨かった! あんた、選ぶのが上手いよなぁ」
 振り返ろうとしたエドワードが足を縺れさせて傾いだ身体を、ロイは支えてやろうと腕を掴む。
「大丈夫かっ?」
「サンキュー、大丈夫大丈夫。まだ全然平気だぜ、俺は」
 確かに呂律が回らないほど酔ってはいないようだ。が、足腰に先に来ているのかも知れない。
 酒によっては、そう云う酔い方をするものがあるのだ。
「ほら、前を見て」
 掴んだ腕で支えてやるようにして歩かせる。布越しにもエドワードの体温が酒の為か熱く感じる。
「う~~~ん・・・。こんな気分が良いと、もう一杯飲みたくなるよな」
 酔っ払いの戯言だ。これ以上飲めば、明日は間違いなく二日酔いで苦しむ羽目になるだろう。
 そう判断しているのに、返す言葉は考えたと事は全くの逆を口にしていた。
「――― 良かったらうちに飲みに来るか? 丁度、シンから珍しい酒を送ってもらったところだ」
「シンから?」
 弟の旅している国の名前に、エドワードが気を惹かれたように尋ねてくる。
「ああ。何と云う名だったか・・・白、酒とか云う酒の種類で、あちらでも年間僅かしか蒸留出来ない銘柄だそうだ」
 シンとの交易の関係で送りつけられてくるものの1つだ。
 基本そう云うものは受け取らないロイだが、返す先がシンとなると返すのにもかなり困難になるので、
 仕方なく保管しているものもある。

「へぇー、・・・美味いんだろうな」
「・・・多分。何せ自分では飲んだ事がない酒だから、何とも言えないが」
「あんたでも飲んだことがないんだ・・・」
 そのロイの言葉にエドワードの気質が刺激されたらしい。
「んじゃ、決定な! 早速帰って飲んでみようぜ」
 意気揚々と告げてくるエドワードに、ロイは苦笑しながら頷いた。








「美味い・・・・・」
「ああ、確かに稀少なだけはあるな・・・」
 
 家に帰るなり「開けよう、開けよう」と陽気に強請るエドワードに、ロイは兎に角上着だけでも脱ぐように言って、
 置きっぱなしになっていた酒を取りに良く。
 置き場所を思い出すのに暫しの時間を要してリビングへと戻ってみれば、エドワードは既に氷やらグラスに、
 どこから探し出してきたのか肴まで用意終わって並べている。
 ソファーに座らずに直に床に腰を落としているのは、彼の癖のようなものでその方が落ち着くと言っていたことがある。
 ロイもそれに見習って床に胡坐をかいて座ると、木箱に納められている酒を取り出す。
 期待と好奇心で一杯にしていたエドワードが、箱の中を覗き込んで少々がっかりした表情を浮かべた。
「――― なんか思ったよりパッとした酒じゃないよな」
「そうだな・・・、外側との釣り合いが取れてない感はあるが」
 やや煤けたラベルのような紙に、中身が見れない壷の様な瓶は、エドワードの云うようにお世辞でも高級感溢れるとは思えない。
「・・・・・まっ、開けてみよう」
 頑丈に封をされている口を開けるのに一苦労させられ、蓋を外せば・・・。
「―― 凄い・・・。凄く良い匂いがしてくる・・・――」
 外した途端に広がる匂いは、香と言って差し支えない程だ。
 色々な花や果実を詰め込んだようなその香は、蠱惑的でさえある。
「飲んでみよう」
 飲み方が判らなかったので、取り合えず味見の為に少量を生のままグラスに入れる。
「頂きます」
「ああ、どうぞ」
 軽くグラスを合わせる仕草をしてから、口元に近づけて傾ければ更に濃厚な香が鼻孔を抜けていく。
 そして少し口に含んでみれば・・・・・・。
 思わず二人は目を瞠って交し合う。味の深みといい、口当たりといい、素晴らしい酒だ。
 すっかり感心した二人は美味そうに酒を飲み干していくが。


 ――― どんなに美味い酒でも、当代1の銘酒であっても・・・。
       必ずや1つだけ『欠点』があるものだ。
       美味すぎる酒は、飲み過ぎるという・・・・・・・・・。


 

 どこからそんな話の流れになったのかは思い出せない。 
 男同士の会話なら当然であっても、エドワードとは考んがえてみれば、1度もした事がなかった話題=色事に関する話だ。

「付き合っている女性が居ないとは言っても――――――、君だって経験くらいは有るだろ?」
 その何気ない言葉が引き起こした結果は、長い長い沈黙だった。
 思わず酔いが冷めそうな程驚きつつ、ロイはむっつりと黙り込んだエドワードを眺めてしまう。
「君・・・・・・まさか、その歳で経験も―――無いわけか・・・」
 ロイとしては侮辱するするつもりも、からかう気が有ったわけでもない。
 ただ何と云うか――― もう有る意味、感動しているのに近い心の動きだ。
「―――――――――――― 悪かったな・・・」
 ぶっすりと返された言葉に、ロイは固まっていた自分を知って慌てて言い訳を口にする。
「い、いや・・・別に悪いわけじゃ。早ければ良いと云うものではないから・・・・・・」
 遅い早いは関係は無いだろうが、エドワードの歳で未経験と云うのはやはり・・・珍しい部類だろう。
 そんな気持ちが顔に出ていたのか、エドワードのやや据わった視線が投げつけられる。
「どうせあんたは早かったんだろうよ」
「――― まぁ、人並み程度だが・・・」
 養母の店では女の子に手を付けるのはご法度だったが、辞めた女性がロイに誘いを掛けてくるのまでは関知されなかったのもあって、
 ロイに声を掛けてくるお姉さん達は結構な人数だ。
 その手ほどきを受けて、今のロイの技量が培われたようなものだ。
「人並みって何歳くらいなんだよっ」
 やや絡み上戸になってきたエドワードに、ロイは引きそうになる気持ちを抑えて答を返す。
「まぁ・・・普通は15,16歳程度じゃないのか、な」
 その頃から身体つきもどんどん変わっていく歳だからか、男性特有の生理現象も強くなってくるのだろう。
「が、遅い者も勿論いるさ」
 フォローのように言った言葉が墓穴を掘る。
「――― じゃ、それって何歳位なんだ」
 その質問には答えに窮した。
 ロイの知っている者達は、仕官学生と云うこともあって結構そちらの方面が盛んだったから、
 少なくとも卒業生で未経験の者なぞ・・・、多分居なかっただろう。

 ――― なら何歳だ? 殆どは20歳前後で卒業するから・・・。
 酒の所為かいつものポーカーフェイスが上手く作れない。
 苦悩している表情がそのままのロイに、エドワードははぁーと嘆息を吐きながら、ソファーに背を凭せ掛けて頭を逸らす。
 その姿勢のせいか、エドワードの喉が晒らされる。
 
 ―――――― ドクン ――――――

 身体の奥底で何かが起き上がってくる。
 ゆっくりだが、確実に這い登ってくるモノをロイは意識を逸らして見ないようにする。

「―――――― やっぱ、俺って意気地ねぇ・・・」
 そんなエドワードの呟きに、ロイは避けていた視線をエドワードに向ける。
 ふぅーと溜息を吐きながら、エドワードはソファーに肘を付いて頬杖をつくと、ロイと視線を合わせてくる。

 ―――――― ドクンドクン ――――――
 
 と先程より鼓動が強く激しく跳ね始める。
 酒で潤んだ瞳が縋るようにロイを見つめているのだ。
 それは呪縛のようにロイの全身をゆっくりと絡め取って行く。
 過ぎた酒が思考まで奪ってしまってるのだろうか・・・・・。
 酩酊にも似た感覚が押し寄せ、ロイはくらりと眩暈を覚えた。

「正直、誰かと深く関わるのって・・・・・怖い。女の人ってどんなに優しくて良い人だと思ってても、
 ―― 突然、見知らぬ人間に変わったりしねぇ? 師匠とかウィンリー達なら、全然気にならないんだけどさ。
 あいつ等俺より逞しいわ強いわで、全然そんな気にならないし。それどころかそんなことちびっとでも浮かべたら殺されそう・・・」
 幾分顔を青褪めさせたエドワードが、怖い発想と流したいのか酒に手を伸ばす。
 飲み干す際に、くいっと逸らされた喉元が動く様に目を奪われ。飲み終えたエドワードが杯を置きながら、
 口元に零れた酒をチロリと舌で舐める仕草に・・・―――。

 先ほどとは比べ物にならない衝動が込み上げてくる。
 ドクンドクンと脈打っていた鼓動は、今では煩いくらいに頭の中で鳴り響いている。
 煩わしくて煩くて、思考がまともに働かない。

 働かない頭の代わりに動いたのは本能だ。
 身体の奥底から這い上がったソレは、ロイを侵略して食い尽くして行く。
 ソレの望み通りに身体が、言葉が動いて行くのを、ロイは霞む理性の向こうで他人ごとのように見つめている。

「―――――― 経験してしまえば・・・・・、そんな躊躇いも消えるものだ」
 知らないからこそ怖いと思うのだ。
 知れば怖気づくようなものではないと身体が覚えていく。
 そう話すソレは無防備な餌に喰い付く前の舌なめずりをして見せた。

「・・・・・経験する?」
 ロイの言葉が意外だったのか、エドワードは凭せ掛けていた上半身を起こそうとするが、
 それよりもロイがエドワードに覆い被さるのが早かった。
 酔って緩慢になっているせいか、エドワードの口内に侵入するのは簡単だ。何をされているのかも理解していないのか、
 驚いたように瞠られた瞳は閉じられる事が無い。が、それも好いと思う。
 ロイは口付けの時には、眼を瞑っていて欲しいと思う方だったが、エドワードの綺麗な瞳を見続けれるなら百倍今の方が良い。
 口付けには男か女かは余り関係ないようだ。
 それどころか、こんな風に陶酔感に酔う口付けなど感じたことが無い。
 ロイは年甲斐もなくキス如きで夢中になって、エドワードを口内を愛撫し続ける。

 触れ合った箇所から溶けてしまいそうな程気持ちが好い・・・。
 まだ口付けと云うのに、味わった事も無い高揚感と興奮を生んでいく。
 口の中に互いの唾液が混ざり合って水音を立てる頃には、相手がエドワードだと云う負い目も気にならなくなる。
 力無い舌を吸い上げ、甘く噛んで刺激を与え。
 怯えたように引かれれば、優しく撫でるように絡めてやる。
 歯列の1つ1つを丹念に擦り上げてやれば、甘い声が鼻から抜けてロイの耳に届いてくる。
 その声、音だけかも知れない。それをもう1度聞かせて欲しくて、
 ロイは強請るようにエドワードの舌唇を軽く挟み込むと小刻みに歯を立ててやる。 
 はぁぁ・・・・・・っと溜息のように零された甘い声が、ロイの耳から入って身体を犯していくようだった。
 紅く色付いていく番の貝のような唇が、乱れる呼吸で苦しそうに喘ぐようになるまで、
 ロイの口付けは終わらなかった。
 
 ぐったりとソファーに倒れこんだエドワードの服に、ロイは這わすようにして手をかけると、ゆっくりとボタンを外し始めた。


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 どうしてこんな事になってるのかなぞ、その時は考えてもいなかった。
 否、考える余裕なんて無かったと云うべきだろう。

 人の手を知らない体は、無垢だから敏感なのか。それとも元々エドワード自身の体が敏感に出来ているのか。
 後者なら1度人の手を知ってしまえば、今後辛い夜が多くなるかも知れない。
 ――― 明確な考えが有ってそんなことを思ったわけではないのだが、出来るだけ最高の跡を刻んでおきたいと思った。

「・・・・・っ、はっ! な、何か  へん・・・・っ。 や、やめっ、はなし・・・」
 ロイが胸元の飾りを舌で転がしながら、下に伸ばした手の中でぴくぴくと反応を返すそこを握り込んでやれば、
 エドワードの鳴き声がより一層高く上がる。
 ホロホロと零れる涙で、乾いた喉を潤すオアシスを見つけた彷徨い人のように、ロイは唇で舌で吸い上げ舐めて飲み干そうとする。
 塩っ辛いだけの水が、まるで甘露の露のように美味しくて仕方が無い。
 涙を舐め取る間も休むことなく動かしていた手の平の中では、目と同様に涙を零すそこがぱんぱんに成る程張り詰めている。
「1度、先に達っておこうか? 辛いだろ?」
 ロイがそう耳朶に囁きを吹き込めば、理解できてはいないだろうが、苦しさから逃れようとエドワードがぎゅっと眼を瞑りながらカクカクと頭を頷かせる。
 そんな反応さえも、今のロイには可愛くて愉しくて仕方なく思える。
 身体をずらして手の中に包み込んでいるエドワードのモノを見つめる。
 
 ――― 可愛いものだな・・・。
 どこをどう見てもそんな風に思えるはずがないのに、手の中で一生懸命に自己を主張してるそれが、
 ロイの眼には可愛く映って仕方ない。
 が、エドワードの為に言っておくと、別に小さいからと云うわけではない。ロイほどではないにしても、平均並みには立派に成長している。

 ロイは何の嫌悪感も湧かずに、ごく自然にそれに口付けた。
 手とは違う感触に驚いたのか、エドワードの「ヒッ・・・」と息を吸い込む声と身体を走る緊張が伝わってきた。
 それに気を良くして、今度は深く口に含むようにして収める。
 


 エドワードは何が何だか判らないままに、刺激的過ぎる感覚に飲み込まれてしまう。呼吸もままならないほど口内を貪られ、
 肺は酸欠で破裂するんじゃないかと思うほど、鼓動を打ち鳴らしている。
「もっ・・・・・・もぉ・・・―――」
 その短い単語を言うのにさえ、口の中に溜まった唾液の所為で声にし難い。
 ハフハフと隙間から酸素を入れ替えて、溜まった唾液をごくりと飲み干した。
 酒の味と匂いが濃く立ち昇るそれに、さらに酔いが回りそうだ。
 漸く開放されたと精一杯深呼吸していると、胸元に辿り着いたロイの唇が、エドワードの乳首に悪戯を仕掛け始める。
「ちょ! や、やめっ・・・・!! はっ っああ― んんっ・・・」
 感じ過ぎておかしくなりそうだ。
 押し寄せる快感の波をやり過ごし耐えようと頭を振り乱すと、操り糸のように髪が空を舞いシーツに滑り落ちるのを、何度も繰り返す。
  それを見ているロイは嬉しそうに口元を緩めて見上げているのに、
 瞳だけはギラギラと黒炎のように光を放ってエドワードを焦がそうとするかのように見つめている。

 ――― な、なんだよこれって・・・。
 未知の感覚が続けざまに襲ってくる。快感の波に溺れながらも、狭間に浮かぶ思考は『おかしい』『変だ』を警告を訴えてくるのに、
 次の波が来るとあっさりと沈められてしまう。

 ――― だ、駄目だ・・・。こんなの変だって・・・・・。
 ロイの器用な指先が、尖り始めた乳頭をクリクリと捏ねる度に、自分の喉からは信じられない甘い声が飛び出していく。
「あっ、んんん・・・・ やっ、 あ、あんん・・・――」
 どうしてそんなところを弄られた位で、こんなに感じてしまうのだろう・・・。
 そして、こんなに気持ちが良いのか・・・。

 ――― 『いいじゃないか、気持ち好いんだろ? 
                      素直に感じとけよ』―――

 本能の声は身体の欲望に忠実だ。そう囁いてはエドワードの躊躇いを流そうとしてくる。

 ――― ち、がう・・・、こんなの――駄目だ・・・――。   
 脆くなる理性に縋るように否定を続けてみても、不確かな手応えしか得れない。
 ――― 『どうして? こんなに感じてるのに? 
              つまらない意地張っちゃって』―――
 哄笑が頭の中で聞こえてくるようだ。

 でも駄目なのだ。こんなのは違う! 
 早く・・・。早く止めないと。
      ――― 後戻り出来ない処まで押し上げられる前に・・・。
 そんなエドワードの抵抗も、ロイが下肢に手を伸ばした時に吹っ飛んでしまう。
「ぅっわぁっっっ・・・!!」
 どっと快感が噴き上げてくる。他人の手の感触が、こんなにも凄まじく欲を刺激するとは、ひくひくと腰が快感に波打つ。
「―― ひぃ・・・あぁぁーぁ!!!」
 エドワードのモノに巻かれた大きな手が、ぐっと強く握り込むと痛いほど感じて嬌声が上がる。
 もう何が何だか判らない混乱が、快感に摩り替わられて思考を粉砕した。
 背筋を登る快楽から逃れようと逸らされた首に、ロイが吸い付いて舌を這わせてくる。
 そんな動きにも感じて顔を背けようとすれば、顎を掴まれて深い口付けを仕掛けられる。
 絡み取られ。吸われ、甘く噛まれる度にじーんとした痺れが脳天を突き抜けて行き、涙を溢れさせている。
 ぼやける視界の先に見えるロイの表情は、怖ろしいほど真剣な顔つきだ。目だけが異様にギラギラと黒光りして、
 エドワードの身体の隅々まで見定めようとするかのように注がれている。
 
 もう止められない処まで来ているのに気が付いたのは、ロイに囁かれたからだ。
「1度、先に達っておこうか? 辛いだろ?」
 そう告げられ、自分は無意識に頷いていた。何度も何度も頷いて、とにかく開放したくてそれしか考えられなくなっている。
 が、その次に来たものはエドワードの想像を遥かに超えていた。

「なっ・・・! うっ、わぁ―――・・・ っ!?」
 温かな口内に含まれた時の感覚は・・・・・手など比べ物にならない。
 ねっとりと含まれ、舌で先を突付かれると、知らず知らずに腰が浮いてしまう。
 ぶわぁっと浮かんだ涙と同様に、ソコからもどくどくと蜜を零しているのが判る。生き物のように這い回る舌が、その滑りを嫌悪する様子も見せずにチュプチュプと音を立てながら、丹念に嘗め回している。

 ――― どうして? 何で? 信じられないっ・・・。
       ・・・・・でも、気持ち好い。もう、何が何だか判んないくらい
                     気持ち好くて好くて・・・・・―――

 おかしいよな? 変だろ?と思う気持ちも有るのに、どんどんと身体の反応に流されて行ってしまう。
 身体の中に溜まっていく欲望が止めどなく膨れ上がって、エドワードのまともな思考を蝕んでしまっているのだ。
 
 そしてその先の階を越えるのは、あっと云う間の瞬間だった。

「っ―――ぁぁぁあああ!!!」
 喘ぎが嬌声に変わって喉から迸る瞬間。エドワードの思考は真っ白に染め上げられたのだった。




 ―― ドクリ ――
 と口内に流し込まれた熱い体液を、ロイは一瞬の躊躇も無く嚥下した。旨いものだとは思わないが嫌悪感も湧かない。
 自分に感じて出してくれたのだと思うと、味云々よりも喜びが勝る。
 咥えたまま口元を緩めると、白魚のように小さく跳ねては残滓を零しているソレを労わるように舌を這わず。
「っう・・・!」
 達したばかりで敏感になっているのか、些細なロイの舌の動きにも反応を見せてくれる。
 全て吸い尽くすと、ロイは口元を拭いながら身体を起こし、まだ荒い息を吐いているエドワードの艶姿を堪能する。
 
 泣いた為か瞳の金色が濃くなっており、睫毛には飾りのように雫が付いている。
 愉悦に陶然となっている所為で、視界はどこか虚ろになっている様が征服欲を満たす。
 汗で張り付いている髪を撫でてやりながら、中途半端になっていた衣服を全て剥ぎに掛かる。
 前を肌蹴たシャツも落とし、片方だけ足首に絡まっていたズボンや下着も取っ払う。
 そうやって現れたエドワードの媚態に、ロイは思わず喉を鳴らした。
 白くきめ細かな肌に厭らしく尖ってみせる小粒の実は、忙しなく上下してロイを誘っているかのようだ。
 しどけなく投げ出された足の根元の茂みは、ロイの唾液と彼自身の蜜でぐっしょりと濡れそぼっている。
 くたりと倒れているソレが可愛いなんて、自分の脳内は酒で腐っているのだろうか・・・・・。

 女性のように科を作ってみせるでなく。
 秋波を送って誘うでもない。
 触れても柔らかな脂肪の塊が有るわけでもない身体だ。
 なのに何故、こんなにもロイの欲望を刺激してしょうがないのか。
 触れてもないのに勃ち上がり始めているモノを痛いほど感じる。
 
 自分の衣服に手を掛けた一瞬だけ、愚かな己を引き止める声を聞いた気がした。
 が、それは余りにもささやか過ぎて、目の前の誘惑を断ち切るには全然足りなかった。
 
 

 達した後の倦怠感と、激しい動悸のせいで体内のアルコールの回りが早くなっているのか、思考がぼんやりと霞み始める。
 このまま気だるい感覚に浸っていれば、眠りに囚われて行くことだろう。呼吸が落ち着いてくるにつれ、
 重たくなる瞼に任せてエドワードは意識を手放し始めようとしていた。

「ヒャッ・・・!?」
 眠りの淵に落ちかけ始めた意識を取り戻したのは、冷たい感触を感じたからだ。
 動きたがらない体の代わりに視線を廻らせば、両膝を立てた状態に挟み込まれるようにしてロイが座している。

 ――― 何・・・してんだろ・・・。
 緩慢な思考で疑問を浮かべ、ぼんやりと眺めている。
 次の瞬間、そんな疑問は一瞬で解消された。
「なっ・・・! ちょ、ちょぉ・・・!!」
 思うように動かない手足をばたつかせ、身体を起こそうと試みる。
「暴れるな。それでなくともこちら側からはやり難い・・・」
 信じられない場所に指を差し込んでくる相手は、エドワードの閉じようとした足を強引に広げたままにすると、手を深く忍ばせてくる。
「・・・・・・っ!」
 眠気など吹っ飛ぶ衝撃に晒され、思わず硬直してしまった。
 エドワードが固まっている間も、ロイは手を奥に忍ばせてはせっせと何かを塗りつけているのだ。
 浅瀬だけならまだしも、指はどんどんと奥へと差し込まれ。抜いてはまた新たな何かを塗りつけている。
 ひやりと感じたのは、クリームか何かだろうか? 指が差し込まれて来る度に、
 それはエドワードの中で温められ同化していく。
 さすがここまで来れば、酔っている頭でも判ってくる。
 辿り着いた答えに顔を青褪めさせながら、エドワードは何とか体を引き剥がそうとするが。
「動くなっ」
 鋭い声と共に肩を押さえつけられる。
 ロイはエドワードの肩を押さえつけながら、片手で横のローテーブルの上に有った白酒の瓶を掴むと、瓶に口付けそれを含む。
 そして呆気に取られているエドワードの顎を掴むと、酒を口移しで流し込む。
「・・・・・!?」
 舌で奥まで運ばれると、酒はエドワードの喉を焼きながら落ちていく。
 何度と無く度数の高い酒を薄めず流し込まれれば、酔いなど一瞬にして回る。
 酒臭い息を互いに吐き出す頃になると、エドワードの体から抵抗する力も抜けていった。
 ロイは大人しくなったエドワードに満足したのか、今度はエドワードをうつ伏せにしてから、先ほどの続きを熱心に施していく。


 ――― はっ はっ はっ ―――  

 獣のように荒い息を吐き出して、身を悶えさせるような違和感をやり過ごそうとする。
 腹の下に置かれたクッションのせいで、腰を突き出すような格好をとらされている。
 普段なら死んでもやりたくない格好だと云うのに、混濁する思考ではそれさえも理解できてない。
 中に進入している指は概に3本になっていて、最初は探るように慎重だったのが、
 今は大胆に抜き差しをしてはエドワードを啼かせて声をあげさせている。
 エドワードのモノも再び頭を擡げ始め、ロイが指を差し入れる度に枕で擦られてぽとぽとと雫を零しては、染みを広げている。
「も・・・や、め・・・――」
 じわじわと広がる情欲が不快感を塗り替えていく。
 じんわり広がる愉悦の小波に耐え切れず、エドワードは喘ぎながら制止の言葉を零す。
「ま・・・だだ」
 獣のように背後からエドワードに覆い被さるロイは、エドワードのそんな静止の言葉を聞かずに
 差し込んだ指で熱心にエドワードの蜜路を探るのを止めない。
 と・・・。
「!? う、あ・・ああぁ―・・・!!」
 思わず体が跳ね上がるほどの刺激が脳髄に走る。
「――― ここか・・・」
 安堵したように呟かれたロイの言葉は、今のエドワードの耳には入らない。
 一挙に勃ち上がった前が、張り詰め擦れて痛い。
「あ、あ、あ・・・・・ ひっ、あぁああ―・・・」
 ロイの指がそのポイントばかりを突いてくるから、その度に喘ぎが断続的に飛び出していく。

 ――― なに? なに? なんでっ・・・?

 頭がおかしくなるような刺激に、まともな思考など出来やしない。
 突付かれ擦られ圧される度に、欲望がどんどん膨れ上がっていく。
 両手を踏ん張り首を落とすと、荒い息を吐いて熱を吐き出す。
 そして突かれれば、雌獣のような嬌声を高々と喉を逸らして迸らせる。
 溜まれば吐き出したくなるのが男の性だ。急激に押し上げられた欲望を出したくて仕方なくないのに、
 ソコを握りこんだロイの手に阻まれ逝けない。
「な・・ぁ、はなして・・・ あぁぅ、・・・あん・・・っ 手ぇ、はなしてぇ」
 必死に首を振り向かせてそう懇願するエドワードに、ロイはゆらりと笑って首を横に振る。
 そんなロイを信じられない思いで見つめ、エドワードは突いていた片方の手で、ロイの指を剥がそうとする。
「もう少し・・・我慢して・・――」
 辛そうな声でそう告げてくるロイの言葉に、エドワードは髪を振り乱して首を横に振る。
「も・・・だめ、 逝かせて・・・、離してっっっ・・・―」
 悲痛な懇願が漸く叶えられ、ロイの指が外されると溜まっていた欲望の証が勢い良くシーツに撒かれ落ちた。

 力尽き果てひくひくと痙攣しながら、エドワードの体が床へと崩れ落ちる。紅く色付いた背中越しの肢体は、艶付いて官能的だ。
 ロイはクッションで突き出される形になった尻たぶに、両手を掛けて押し開きゆっくりと腰を進めて行く。



 ――― ああ・・・ 好い感じだ・・・――。
 狭い中を堪能しながら、ロイは開いてきた道を何度も擦り上げて通る。中は想像以上に熱くて居心地が好い。
 丹念に施したおかげで、通すまでは苦戦させられたがその後は、塗り込んでおいたクリームと自分の先走りの液で動きやすくなる。
 感じる箇所を突いてやれば、エドワードが頭を振って声を上げる。
 また勃ち上がっている前を握ってやれば、すすり泣きを上げながら締め付けてくる。
 腰から溶けそうな快感が伝わり、味わうのに夢中になっていく。
 もうどちらとも言葉など出ない。互いの口から零れているのは、喘ぎか啼きか。陶酔の吐息か恍惚の溜息か。
 時に獣の咆哮や唸り声にも似た声音が混じるだけ。





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 ――― ・・・そうだった。リビングで勢いのまま2度程挑み。
       無防備なのを良い事に、寝室に連れ込んでまた・・・。

 幾分青褪めさせた顔で、ロイは痛む米神を押さえながら思い出していく。
 ベッドで何回及んだのかまで覚えてはいないが、このシーツの状況では・・・大概やったのだろう。
 出来たらもう1度寝なおして、全てが夢であって欲しかった。
 酒の勢いで流される事は、若い頃には何度か経験するものだ。
 それ自体はまぁ、仕方が無い。合意の上なら問題はないし。
 
 ――― しかし・・・。

 今回ばかりは大問題が。
 ロイはなるべく避けていた視線を戻して、横に眠る相手を見つめる。
 じっと何度見つめ直しても、相手は変わってはくれない。
 
 そこに横たわっているのは、良く知っている者。
 エドワードだったのだから。



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