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Selfishly

Selfishly

二人の関係 12

Vr、~ 少将Rと愛され人Eの物語 ~ 


首筋に噛み付くようなキスを受け、エドワードが喜びの声を上げる。ロイが触れるとこ口付けるとこの全てが熱くて火傷をしそうだ。
 なのにエドワードにはその熱ささえ心地良いとしか感じられない。
 性急な大きな手が、エドワードの胸元を弄って衣服を乱していく。白い肌があられもない姿を見せるのを、ロイは目を細めて嬉しそうに見つめている。
 その瞳が余りにも甘く愛しそうで、気が変になりそうだ。
「お、俺だけ脱がされるのは・・・」
 もう息が上がり始めているエドワードのたどたどしい言葉に、ロイは目尻に触れるだけのキスをして。
「そうだな・・・。私も直に君に触れたい」
 そう言った傍からロイは着ている物を、もどかしげに脱ぎ捨てていく。
 シャツは一瞬で捨てられ、見た目より鍛えられている上半身がエドワードの目に晒される。そしてスラックスも躊躇いを微塵も見せずに脱がれ、引き締まった下半身が現れるが、少々目に毒だったかも知れない。
 既に勃ち上がる気配を見せているソコは、薄い布地を押し上げているからだ。
 目元に朱を散らして視線を逸らせるエドワードに、ロイは愉しそうに笑い最後の1枚も脱ぎ捨てた。
「さて、私は裸で何も身に付けてない。・・・次は君の番だな」
 愉しげなその声に、エドワードは一瞬頬を引き攣らせる。
 ――― これは俺にも自分で脱げってことだよな・・・。
 おたおたと慌てている内に、ロイが嬉々としてエドワードの衣服を剥がしていく。
「じ、自分で・・・」
 手間を掛けてはと思う気遣いは、ロイの次の言葉で綺麗に消える。
「エドワード。君を脱がせる楽しみを奪わないでくれ」
 
 ――― こういう時は、何て返せばいいんだ・・・。
 
 場慣れしていないエドワードが絶句している間にも、ロイは薄い1枚の布地を丁寧に脱がせていく。忙しない口付けは休む事無く、暴いていく肌を辿り所有印を烙として回る。腰に腕を回され浮かされたと思えば、スルリと桃の皮を剥く様にズボンが太腿まで下ろされた。
 動きが止まったロイに目を向けてみると、瞳を細めてエドワードの一点を嬉しそうに眺めている。彼がどこをそんなに見つめているのかに気づいたエドワードは、噴火前の山のように顔を真っ赤にさせて慌てて手で覆い隠す。
「み、見んなよ・・・そんなにっ・・・」
 興奮していることは自分でも判っているのだ。それをマジマジと人に見られると云うのは羞恥以外の何ものでもない。
 ロイはクスクスと楽しそうに声を潜めて笑うと、懸命に隠そうとしているエドワードの掌ごと、更に大きな掌で包み込んでくる。
「どうして? 夢の中の君は大胆に開いて見せてくれていたがな」
「・・・・・!? ―― そ、そんなことっ」
 知ったことじゃないと叫び返そうとした声は、甘い嬌声に変わる。
 エドワードの掌と重ねた男の指が、膨らみ始めているソレを揉む様に動かしたからだ。
「・・・っあぁ・・・――」
 切なそうに啼くエドワードを、ロイは堪らないと目を細める。
「―― 夢より数倍好い・・・」
 初々しいエドワードの反応は、他人の手を知らない無垢の証だ。
 前戯とも言えない様な触れ合い1つで、感じ啼いてくれるなど・・・恋人冥利に尽きる。
 エドワードの身体に覆い被さり肌を合わせると、フルリと彼の身体が小刻みに震える。夢とは違うリアルな感触が、触れている相手が幻で無いことをロイに伝えてくれた。

 ――― 泣きたいほどの幸せを感じる。

 そんな陳腐なセリフを、今、自分が実感している現実。
 自分の都合で改竄できる夢よりも、辛さや痛みさえも生む現実の方が、心と体を満たしていける。

 重ねた手の平を少し乱暴に動かしていけば、指の間から伝わる湿った感触が広がっていく。エドワードより長い指が、布越しの熱塊に触れる度にエドワードの口からは熱い喘ぎが零れていく。
「はっ・・・んん、あぁ・・・―――」
「エド、エドワード」
 ロイが名を呼べば、情欲で艶めく瞳が自分を写してくれる。
 ――― この瞳に映るのが、自身だという感動。
 ロイは体の奥底から込み上げてくる欲望のまま、エドワードに深い口付けを仕掛ける。
 ただ自分が口付けるだけでは足りない。
 絡め合い撫で付け合い啜り合いたい。
 そして実感したいのだ。
 『欲しい』と思っているのが、自分だけではないと・・・。

 ロイのその気持ちが通じたのか、拙いながらもエドワードも懸命にロイの口付けに返してくれる。最初は恐る恐る動かしていた舌も、ロイが応えて返すのを理解すると、彼の感情の度合いを知らせるように翻す動きも大きくなる。
 手は布越しの触れ合いでは我慢しきれず、エドワードの手から力が抜けたのをチャンスとばかりに離させる。ソコの布地は大きな滲みが広がっていて、ロイがその上から揉むほどに布地の重さを増していく。
「く、るしいか・・・?」
 自分の体の下で目元に涙を溜めているエドワードに、そう聞いてみる。エドワードは健気な仕草で、首を横に振って見せてくれる。彼が首を振る度に、目尻の雫が頬に透明の跡を作っているというのに・・・。
 ロイは舌で涙をすくってやると、甘く感じる涙を含んだまま大きな音を立てて戦慄いているエドワードの唇にキスをしてやる。

 本当なら直ぐにでもエドワードの中に入って、彼を感じたい。
 熱いうねりを与えてくれるそこに、深く自分の楔を打ち込んだ時の絶頂感は言葉では言い表せない。
 気を抜けば直ぐにでも引きずり去られてしまう感覚を、引き留めるのにどれほどの忍耐が必要か・・・・・。

 それでもそんな自分の快感を優先させるよりも、今手の中に囲っている彼の苦しみを取り払ってやりたい。
 自分が感じるのと同等の・・・いや、出きればそれ以上の快感を与えて、喜ばせてやりたい。
 白い肌に色づく小粒の果実が忙しなく上下している。
 直接触れたわけではないのに、既に尖っているそこを宥めるように舌を這わせてやれば「ヒッ・・・」と息を吸い込む声が聞こえる。
 その声に気を良くして、ロイは片方を唇で挟み込み、もう片方を指で摘みあげて捏ね繰り回してやる。
「あっ・・・あ、あぁ  はっ・・・・・ん」
 抑えていた声が頻繁に詠われてくる。少しきつめに吸い上げてやれば、感じ過ぎるのかエドワードがロイの髪を掻き乱して好いと伝えてくる。
 だから丹念に舐めてやる。何度も何度も・・・。触れるだけでここが尖るほど感じるようになるまで、快感を送り込んでやりたい。
 この先、彼を啼かせるのも喜ばせるのも。
 喘がせ乱すのも散らすのも ―― 自分一人だけだ。
 他の誰にも、絶対に触れさせたりはしない。
 強い執着のまま歯を立てれば、エドワードの体が反りすすり啼いた。
 それを彼からの返答と勝手に受け取ったロイは、惜しいながらもそこから離れ、随分待たせてしまったとこへと体をずらした。
 下着の役目を果たすには酷い有様になった布地を取り払い、すっかりと勃ち上がったソレに舌を這わせる。
 エドワードの味を感じれるのは二夜目だ。
 1度目より甘く感じるのは、互いの心がピタリと重なっているからだろう。
 綺麗に舌で拭っても拭っても、そこは蜜を溢れさせてくるから、ロイはそれごと飲み干すように口内に含んでやる。
「っ・・・あぁっっっー!」
 ビクリと大きく跳ねる体を押さえ、咀嚼するように食む。
 ぴくぴくと口の中で跳ねるソレは、まるで白魚のようだ。
 その形を覚えこむように丹念に舌で辿ると、耐え切れなくなったそこが膨張する。
 もうあと少しだなと判断したロイが、絞り出すように重くなった袋を揉んでやり、先を吸い上げてやる。
「・・・・・・!!!!!」
 声に成らない音を高く捧げながら、エドワードは奔流をロイの口の中へと迸らせる。ロイは1滴と零すことなど無いように、全てを自分の中へと取り込んでいく。震えるソレに吸い付き、最後のひとしずくさえも残さず。

 熱い蜜が喉を焼いて落ちて行く。
 それが与える酩酊感は、アルコールなど遠く及ばない。

 ――― 彼の存在自体が、自分には媚薬のようだ。

 触れずにはおれず。触れれば知った至福を得る渇きを募らせる。
 含めば含むほど、体に熱を生んでは人を惑わせる。

 それが判って尚・・・・・ 彼を欲して止まない自分は、
 正しく恋に堕ちた男なのだろう。

 達した後の余韻も濃いエドワードの肢体は、ロイを煽る。
 しどけなく伸ばされた手足に、紅く色付いた艶肌。
 上気した頬と忙しなく吐息を吐き出す薄く開かれた口元。
 うっとりと開かれた瞳は、過ぎ去った快感を追っているかのように、定まらない視線を泳がせている。

 この美しく魅惑的な存在が、自分だけのものだと思う最高の陶酔感。
 ロイは堪らなくなってエドワードを強く抱きしめる。

「誰にも・・・絶対に触れさせないっ。触れさせるもんか・・・」
 漸く手に出来た存在を。
 この先、どれだけ自分を上回る相手が現れたとしても、ロイは絶対にこの腕を解いてなどやらないと心に決める。


 
 自分をかき抱いて零すロイの執着心を垣間見て、エドワードは驚きと、それを上回る喜びに満たされる。
 隣に立つ資格なぞ一欠けらも無い自分。
 そんなもの、彼のこの先の長い人生の中でも得る事は出来ないだろう。
 それでもこれほどの強さで自分を欲してくれる彼が・・・・・・。

 ――― 自分も欲しくて、欲しくて・・・・・仕方が無いのだ。

 だから自分を抱きしめる相手と同じ、いやそれ以上の力を籠めて自分も抱きしめ返す。
 それに気づいたロイが、エドワードを覗き込んでくる。だから出来るだけ涙でくしゃくしゃになった顔でも最高の笑顔を作って浮かべてやる。
「俺も・・・。あんたを誰にもやらない。
 あんたは・・・・・俺だけの、―― 俺だけのものでいろ・・・」
 つっかえつっかえ、それだけを何とか言った自分にロイは驚いたように目を瞠って自分を見つめている。

 暫く微動だにせずに自分を穴が空くほど見つめていたかと思うと・・・。
「え・・・? ちょ、ちょお・・・―――」
 顔中を真っ赤にして見せたのだ。
 ――― まさか、・・・照れてる?
 自分より数十倍経験が豊富で、色事にも長けていると噂の男が、こんな稚戯に等しい自分の言葉で・・・・・。

 そう思うと、何だか自分まで顔から火が出そうなほど恥かしくなってくる。
 どちらもいい歳をした男同士、顔を赤く染めて見詰め合うなど・・・。
 恥かしくて誰にも言えない!

「君は・・・・・私より数倍男らしいな」
 頬の赤みが薄れてきた頃、ロイは感心したようにそう呟いてくる。
「・・・そ、そっか?」
 褒められているのかどうなのか。いまいち良く判らなかったが、取り合えずそう相槌を打ち返した。
「ああ、最高だよ。―― 君が私を選んでくれて・・・・・本当に良かった」
 ほぉーと満足そうなため息を吐きながら、ロイはエドワードを腕の中に包み込む。
「――― そんなの・・・、お互いさま、だろ」
 その返答もロイを喜ばせたようで、「君は本当に男前だ」と嬉しそうに笑って、顔中にキスを降らせてくる。触れるだけの優しいキスが、火の点く口付けに変わるまで、あっと言う間だ。
 そして欲に染まる行動に変わるのさえ、そう時間はかからない。
 互いの熱を溜めるまでは直ぐで、それは吐き出すことでしか鎮めることは出来ないと、今の二人は判っている。
 忙しない互いの呼吸と、水気を含んだ淫な音。
 感極まった咆哮に、すすり泣く恋情。
 濃く深く絡み合っていく互いの快感が、揃って高みを目指すまで、ほんの僅かな時間。


「くっ・・・・、つ、らくないかエドワード・・・」
 自分の方が余程苦しそうなのに、ロイはエドワードを気遣うように窺ってくる。
 エドワードはギュッとシーツを握り締めると、出せない声の代わりに必至に首を縦に振って返す。
 出来るだけ慎重に入ろうとしてくれているが、慣れない体では思うようには進めない。少し入っては退き、また入っては小さく揺すり上げる。
 その度にあられもない声がエドワードの喉を飛び出していく。それでも、もうそれを留めようと言う気さえならない。
 ロイが片方の手をエドワードの下肢に回し、懸命に快感を送り込んでくれるおかげで、痛みは少しだけ軽くなる。その隙をついて、ロイも僅かに体を進めた。
 全てを埋め込み終わる頃、互いの息はこれ以上無いほど荒れ、体は滝のような汗でぐっしょりと濡れていた。
 額に汗で張り付いた前髪を、ロイが嬉しそうな表情で後ろへと撫で付けてくれる。
「・・・大丈夫か?」
 少し息が整い始めたエドワードを気遣ってくれるロイに、エドワードは強張りの取れてきた表情で笑うと、「大丈夫」と返してじっとロイの汗の浮かぶ顔を見つめる。
「どうした?」
 露になった額にキスを落としながらそう聞いてくるロイに、エドワードは逡巡の末に小さな声で尋ねる。
「あ――、あんたは、大丈夫か・・・」
 消え入りそうな声でそう訊ねられ、ロイは思わず首を傾げそうになったが、その問いが何を指しているのかに気づくと、顔中満面の笑みを浮かべて。
「ああ、最高に好い・・・。もう君で無ければ駄目な程、感じてる」
 それを証明するかのように、中に穿ったまま硬さを保つソレを動かしてやる。
「ぁ・・・っあ!   きゅ、急に動かすなよ!」
 照れてそう叫ぶエドワードに、ロイは「なら」と耳に強請る言葉を吹き込んだ。
 更に顔を赤くしたエドワードが、小さく頷くのを再開の合図に、ロイは耐えて待ち焦がれていた律動を始める。
 最初はゆっくりと。それもエドワードの中が与えてくれる好さに、段々と夢中で腰を降り始めていく。エドワードが振り回されないようにと手を回して縋り付いてきた頃には、激しい負担に耐え切れないベッドが悲鳴を上げていたのだが、ロイはそれにも気づけないほどエドワードにのめり込んでいたのだった。


 二人が共に高みへと舞った後、どちらともなく満ち足りた嘆息を付き合う。互いの中を埋める充足感は、二人だからこそ出来るのだ。勝手な思い込みや妄想では、抱き合った後のこの感情は得られなかった。

 目元を紅くしているのは、泣かせ過ぎた所為だろう。
 それすらも誇らしい気持ちにさせるのだから、本当に自分は駄目な大人だ。でも、そんな自分で良いと言ってくれるエドワードが愛しい。
 この存在が、自分の胸の中に留まってくれた奇跡。
 神ではなく、彼にその感謝を捧げよう。

 今だ放心状態のエドワードの至る所に、神聖な誓いの口付けを刻とす。
 敬虔な信徒に成り切るには ―― どうやら自分は邪な心が多過ぎる。

 誓いのキスが熱心な火種を灯す口付けに変わる頃、信徒の皮を脱ぎ捨ててロイは唯の獣に堕ちていく。欲望と云う名の・・・・・。




























 ―: Tuwamonodomo no yume no ato


 翌日は最高の目覚めを保障されたような朝のはずなのに・・・。
 
( 閣下ぁ~! マスタングさ~ん! 起きてくださーい。
  起きないと大尉に蜂の巣っすよ~ )

 玄関からは連続して鳴らされるベルにどら声。
 各部屋からは、鳴り響く電話の呼び出し音。

 二人してシーツに包まって至福の安眠を貪っていた者達も、さすがに驚きで一斉に目を覚ます。

「~~~~~っるさいぃ! ハボックー、物騒なことを喚き散らすな!」
 ガバリとシーツを跳ね除けて叫んだロイは、はたりと横の温もりを感じて、こんな状況の中でも頬を崩してしまう。
「おはよう、エドワード」
  驚くのを優先させるべきか、共に起きる状況に照れるべきかと悩んでいる為か、エドワードの表情は複雑そのものだったが、ロイは気にせず顰められた眉間に朝のキスを落とす。
 そしてまだ玄関先で喚いている男を黙らせるために、起き上がって窓を開くと。
「ハボックー! いい加減にその口を閉じないと、減給だ!」
 そう叫んで聞かせると、ピタリとチャイムと喚き声は止まった。それを確認し終わる前に、慌てて鳴り続けている電話を取る。
「お、おはよう・・・」
 一応、そう挨拶を伝えてみたが、向こうからは冷たい無言の応えだけしか返ってこない。
『―――――― おはようと言われるには、些か時間を過ぎておりますが?』
 漸く聞こえた声音は、気持ちの良い朝を凍りつかせるに十分だった。
「わ、判っている。済まない、直ぐに向かうっ」
『宜しくお願いします。今朝方、昨日の犯人達が気づき、調書も順調に取れておりますので、間もなく、机上に山積みの書類が築かれる予定ですので』
 返答に詰まるようなことをさらりと伝えると、電話は役目を果たしたとばかりに静かになった。
 唖然としている背後では、エドワードがケラケラと愉快そうに笑っている声が聞こえて、渋い顔で振り返る。
「――― 行って来るよ・・・」
 渋々と告げられた言葉に、エドワードはシーツの中からひらひらと手を振ってみせる。
「おう。頑張って絞られて来い」
 その言葉にさらに肩を落として、取り合えずシャワーを浴びて顔を洗おうと、重い足を動かした。そして、部屋の扉に手を伸ばして、今だシーツの中から自分を見ているエドワードを振り返る。
「君は大丈夫なのか?」
 ロイ程ではないにしろ、エドワードだってそろそろ出勤の時間だろう。
「ん? 俺? 今日は昨日の替わりに休みだから」
 それは良かったと安堵する。前回の時もだが、抱いた翌日は起き上がるのさえ辛そうだったので、今朝も起き上がるのは無理ではないかと心配になったからだ。


 手早く身支度を整え、ベッドを覗き込むと、まどろみ始めているエドワードの寝顔が見れた。
「行きたくはないが、行って来るよ。・・・・・出きればここで帰りを待っていてくれれば、嬉しいんだがね」
 答を期待しないでそう囁いてみる。
「・・・いいぜ」
 瞼を開かないままの小さな声での応えに、ロイは目を瞠り、嬉しそうな様子でエドワードの横顔に「行ってきます」とキスを落として出て行った。


「・・・・・ 恥い奴」
 シーツの中で頬に手を当てたエドワードが、言葉は悪くとも喜びを抑え切れない声でそう呟いたのだった。
































 ****

 ――― 完全に、虚を衝かれたのだ・・・。


 
「次の書類をさっさと持って来い!」
 遅れてきた上司が、それを取り戻すかのように気合を込めて仕事に取り組んでいる。

「なぁ・・・。今度は一体、何があったんだろうな?」
「さあな。まぁ良いんじゃないか? 仕事が近来稀に見る速さで片付いて行って、大尉の機嫌がすこぶる良いんだから」
 ここ最近、感情の浮き沈みが目立っていた上司の、今回の豹変振りも、周囲は意外なほどあっさりと受け止めて見せる。
 昨夜の事件は被害と云う被害も出ずに終わり、上からも眉を顰められた程度で嫌味も受けずに済んだ。今のスピードで仕事を終わらせてくれれば、今日は全員定時上がりが出来そうな予感だ。
 上がった後の予定でも皆で話し合ってみるか、と上司の有能振りを横目に部下はそんなことをのんびり考えて見ていた午後。


「これが最後の束か?」
 ホークアイが運び込んだ物が粗方片付き、今ロイの目の前には数センチの束を残すのみだ。
「はい、閣下の尽力の賜物ですね」
 今朝方は不機嫌そのものだった副官も、午後を過ぎて仕事が片付いていくのを目にする度に、機嫌も上昇してくれたようだった。
「いや、昨夜から迷惑を掛けていたからな。
 後は私が終わらせておくから、大尉はもう上がり給え」
 少し顔に疲れを滲ませているホークアイに、ロイはそう伝えてやる。
「けれど・・・」
 上司よりも先に退出するなどと。
「幾ら私でも、この位なら一人で終わらせられるさ。・・・昨夜から寝ていないのだろ? これ以上の超過勤務は体に無理が出る」
 不規則が通常の軍勤めでも、思考や体力を落とす無茶は止められている。
「――― 判りました。お心遣いに感謝して上がらせて頂きます」
「ああ、ゆっくり休み給え」
 そう労って手元の書類の続きに目を通そうとすると。思いの他、スムーズに業務が進み、これならば帰宅は意外に早くに出来そうだと浮かれた瞬間だった。

「閣下、エドワード君は大丈夫ですか?」
 その言葉に思わず惚けた顔を上げ、暫し考え込む。

 ――― 起き上がれない状況を大丈夫と言って良いものか・・・?
 そんな事を思い浮かべながら、前回の記憶を探りながら。
「多分・・・大丈夫だと。―― そろそろ起き上がれるようになっている頃だろうから」

 そう言った瞬間のホークアイの表情は、生涯忘れられないだろう。

 そして彼女の表情の意味に、今更ながら気がついた・・・。

 ホークアイが昨夜の秘め事を知っているわけがない。だから彼女が問い掛けて来た言葉は、事件での事を指しているに決まっているのだ。
 ロイはタラリと嫌な汗を背中に伝わして黙り込む。

 そんなロイに自慢の優秀な部下は。
「閣下・・・。――― 仕事中に惚気はお控え下さい」
 そう決め文句を言って、立ち去って行ったのだった。






 *****

 ロイが閉め忘れた窓からは、少し肌寒い程度の涼風が入り込んでくる。
 その風にくすぐられるように目を覚ましたエドワードは、あれからまた眠り込んでしまったことを知る。

 数度瞬きをしながら、二人の残り香が残る寝床で余韻を噛み締めた。
 1度目の時には、驚きを上回る衝撃とその後の怒りしか浮かばなかった。
 それからの月日を経て、二人の関係も距離も変わって行った。
 他人では寂しいと思い始めた時が恋の始まりだったのか。
 離れている時間に相手を忍んでいたのは、すでに恋に堕ちていたからなのか。

 距離が変われば関係も変わる。
 一気に近づいた二人の距離は、互いの心の中の相手の位置さえも変えた。
 最も近い場所に、誰よりも大切な相手を置く。

 そしてそれを喜んでいる自分に少しだけ照れながら、エドワードは幸せそうな微笑を口元に刻む。

  
「う~~~~ん」
 ゆっくりと背を反らして伸びをしてみる。
 倦怠感とそこかしこの鈍痛は前回と同じだが、精神面では全く正反対だ。
 エドワードは惰眠を貪った後の猫のように、一旦体を丸めてシーツを掻くと、ゆっくりと起き上がった。そろりと床に足をつけ、立ち上げれるかを確認すると、愛された痕を身体中に散りばめたままで歩いて行く。

 『硬く硬質な輝きを秘めていた蕾が開花したようだ。』

 この瞬間のエドワードを目にした者がいたなら、そう誰もが思って評しただろう。
 エドワードへの強い独占欲を自覚した恋人が、この瞬間を目に出来なかったのは本当に残念なことだ。
 しなやかな姿態は光を内側から発しているかのように、彼の歩いた跡に光跡を創っている。どこか幼さが抜けきれなかった顔つきも、人を恋いうるようになって大人の眉宇を身に付けた。
 数時間後に戻ってくる恋人が、このエドワードの様子を目の当たりにすれば、苦悩は更に倍増することだろう。







 それでもその悩みさえ抱えて、二人は揃って歩き出す。
 それが一人では抱き得ない贅沢な悩みだと判っているから。

 最愛の人を手にする喜びと引き替えに、苦い不安を胸に巣食わす。
 恋とは甘い夢物語だけでは終われないのだから。

 そう解っていても互いの繋いだ手を離したくない。
 そう思うことが恋なのだと覚えながら・・・・。












「さぁて、何か食い物でも用意して待っててやるか」

 『待っていて欲しい』
 恋人としての最初のお願いを口にしたロイの希望を叶える為に、エドワードは待つ時間に出来ることを口にする。
 副官に絞られて、きっと疲れ果てて帰って来るだろう。
 そんな彼を労う為に、今日はロイの好物を作ってやっても良いかも知れない。そんな風に考えながら、風呂上りにキッチンの冷蔵庫を覗いて顔を顰める。仕方ないと溜息を1つ吐いて、買出しの為に恋人の服を適当に拝借した。

 そんなエドワードは自分のことには、とんと疎い人間だった。
 今の自分が他人の目からどのように映るかには気づかない。

 サイズの大きなシャツをざっくりと羽織、ズボンの裾を少しだけだと毒づきながら捲り上げる。そんな如何にもお泊まりの翌日を匂わせつつ、エドワードは気軽に街へと足を向ける。

 ゆっくりと進める歩幅。
 今の彼の目には何が映っているのだろう。
 明るい空なのか? 心地良い風か?
 昨日とは色合いさえ変えて見える街並みに、行き交う人々。
 そのどれも、もしかしたら映っていないかも知れない。





 久しぶりの暖かな日差しの中。
 すれ違う人の目を惹き付けながら、エドワードは気づかずに歩いて行く。
 燦然と輝く太陽よりも、明るく強い光を振り撒きながら・・・・・。

 彼の恋人の受難は、まだまだ続くのだった。



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