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Selfishly

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Pa 5、「 はじまり 」

        Pa、5『始まり』


そこまで話し終えて、エドワードはふぅーと息を吐いた。
ソファーに凭れて、瞳を閉じたまま上に仰け反る。
彼の中では今だ鮮明な記憶が渦巻いているのだろう。

ざっと聞いただけでも、彼らは成し遂げた事は
到底、遠く 人には及ばぬ事だ。
人を超える領域の中を彼らは踏み込み、
そして、こうして無事に戻ってきた・・・。
祈ったことも無い神の奇跡に感謝する気持ちがこみ上げて来る。
ロイは黙って、エドワードを見つめていた。

しばらくして、ふとロイに意識を向けたエドワードが
空になっているカップに気づき、
「これ、もらってもいいか?」
「構わないが、ポットの中も冷めてるだろうから
 新しいのを入れよう。」
長くなる事を予想して、保温用のポットに入れたが
あれから かなりの時間が過ぎてしまっている。
さすがに、ぬるくなっているだろう。

立ち上がろうとしたロイを差し止めて、
エドワードは自分のカップとロイのカップに
ぬるくなったコーヒーを注いで手渡した。
「ありがとう」と告げて受け取り、はっとなり
エドワードを見ると。

すました顔をして、湯気の立つ入れたばかりのような
コーヒーを飲んでいる。
「解った?
 これが、俺が 家に入った事の答え。」
苦笑しながら、ロイの驚いた表情を見る。

「真理が言ってた手違いって、この事らしくてさ。
 練成した時に、想いと力が交差したって話したけど、
 どうやら、アルの力まで吸収したらしくて、
 アルは、殆ど錬金術が使えなくなった・・・。
 代わりに俺が倍使えるようになったってわけ。」
苦々しく語るエドワードに、
「それは、どの程度使えるというわけなんだね?」
と、冷静に聞き返す。

「練成陣も、構築式も考える必要がない。
 ただたんに、思う事や考えることが
 大抵は出来る。」
「それは、危ないな・・・。」
「そう、最初は大変だった。
 何せ、考えることが全て構築式で組み立てられていって、
 次々に練成反応を起こすもんだから、
 うっかりと考える事もできなくてさー、
 危なくて人前になんかいけないしな。

 それにアルの奴も、姿が11歳の時のままだろ?
 俺ら、結構有名だったから
 まさか、あの鎧の中が こいつでしたって言えないし、
 それに、戸籍は16歳になってるしな。」
全く真理も、変なとこで手を抜きやがって・・・と
ぶちぶちと文句を口の中で言う。

彼は、今は簡単に話すが 多分、こうして姿を現すまでは
並大抵ではなかった事だろう・・・。
が、彼らの身体を元に戻す願いを求めていた事に比べれば、
たいした事ではないと言う事か。

「それでアルフォンス君は、
 今は錬金術は全く使えないのか?」
エドワードに入れてもらったコーヒーを口につけながら
聞いてみる。
「いや、全くってわけでもない。
 基本の事は出来るけど、
 応用を利かすとなると反応しなくなる。」
「なるほど、
 それにしても君に移った分だけにしては、
 大きすぎるような気がするが・・・。」

「そうなんだよな。
 アルの分が入ったとしても、ここまでとは思えない。
 多分、交差して増幅する練成のせいじゃないかと
 俺は考えている。」

要するに、練成反応は まだ彼の体の中で
生きていると言うわけだ。
「後、真理の奴が最後に言っていた通行書のせいかも。」
「それは、一体何の通行書なんだ?」

「多分、扉の鍵みたいなものかな。
 あんたも、同じ錬金術師だからわかると思うけど、
 練成は本人の体力や気力も、かなり使う。

 だから、あんまり大きな練成や、高度で複雑な練成は
 そう頻繁には使えないもんだ。
 でも、今の俺の場合
 どれだけ大きな練成をしようが、
 難しい練成を立て続けに行おうが、
 体の中から エネルギーみたいなモノが湧いでてきて
 全く疲れもしないんだ。」

ロイは難しい顔をして考え込んだ。
『増幅されて不可能が可能になる錬金術に
 無限蔵のエネルギー・・・。
 それではまるで・・・。』

「あんたが、考えた事はわかるよ。」
エドはロイの顔を見ながら、
同意するようにうなずいた。
「俺の力は、危なすぎる。
 特に軍にはな。」

ふぅーと息を吐きながら、エドワードは床を見てつぶやく。
「まぁ、仕方ないよなー。
 なんとか、乗り切るしかないし?」
苦笑いを浮かべながら、ロイに話しかける。

「何故、君だけが・・・。」
ロイは、それ以上の言葉を続ける事が出来なかった。
「大佐・・・?」
ついつい、昔のままの階級で呼んでしまったエドワードに
返事も返さず、ロイは思いに浸る。
『何故、彼だけが いつも、苦難を負わなくてはいけないんだ。
 彼が、それだけの大罪を犯したとでもいうのか!
 あれだけの償いをさせて、まだ足らないとでも言うのか!』
ロイは、誰に向けれるとも知らぬ怒りを
自分の心に向けていた。

黙り込んだロイを見つめて、エドワードが静かに言う。
「いいんだよ。
 俺は、願いが叶ったんだ。
 だから、その後に どんな道があるとしても、
 少なくとも、俺には救いがある。」
な?とロイを宥めるような仕草をして、エドワードは
ロイに微笑んだ。

ロイは、そう言い切ったエドワードを
驚きで見つめた。
『彼は 真の意味で、本当に強い。
 力や錬金術だけではない。
 彼の本当の強さは、その不屈の心だろう。
 落ちてなお、上を見つめれる魂の強さ。』
 だからこそ、ロイの心を惹き付けてやまない魂にこそ、
 ロイが、エドワードを他者と区別せねばならなかった要因だ。

ロイはエドワードを見つめ、自分に渇を入れる。
そして、
「エドワード、触れても?」
と微笑みかけた。
「えっ!?
 たい・・・、中将??」
いきなりのロイの問いかけに答える間もなく、
傍に寄ったロイに抱きすくめられる。

「ちょ、ちょっと・・・。」
驚いて抵抗しようとしたエドワードの動きが止まる。
「良く頑張った。
 君、君らは 本当に良くやったよ、エドワード。
 本当に良かったな、おめでとう。」
ロイは、そう言いながら エドワードを抱きしめる腕に力を入れた。

ロイの言葉に動きを止めたエドワードが、
かすかに震える。
ロイは、そんな彼に あやすように抱きしめた腕をゆする。
「君らは、本当に 良くやったよ、エドワード。
 罪は消えない。
 けど、君らは それを贖う努力をした。
 だから、願いは叶えられたんだ。」
ロイは、エドワードの罪の意識、
「まだ、罪は償われていない」という想いを少しでも減らしてやりたかった。
だから、願いが叶った事を褒めてやりたかった・・・、
この後の、未来が どれだけ苦労するとしても。

小さな震えは、やがて嗚咽になり、ロイに伝わってくる。
ロイは、何度も何度も 彼を褒め続けた。
その身が、安心して眠りの淵に誘われるまで・・・。



[ あとがき ]

でぇ~! まだ、「はじまり」まで進んでない~!
二人の共同生活の前に入れる予定が、途中で・・・。
でも、この続きを このまま入れるのは~!!

という事で、予告と違う所で止まりました・・・。
まぁ、書きたかった事は書いたんで・・・。
次回は、近日中に!


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