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Selfishly

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S、P2 「すれ違いの時間」



~ スローライフ S ~

           p2「 すれ違いの時間 」


H18,10/9 05:00


いつものようにエドワードに起こされて
ささやかな喜びに浸れる朝食の時間。

夕食は一緒にとれない事もあり、
朝食は出来るだけ一緒にとろうと決めた二人の約束。

いつもなら、幸せを噛み締めていられるロイだが
週末が 明日に迫っている今は、
そんな悠長な事に浸っておれる気分ではない。
特に予定が無い限り、ロイの公休は日曜にとるようにしている。
エドワードが自由が利く学生の身分とはいえ、
1日の休みがあるのは週末しかないからだ。

だが、しばらくは・・・。

ロイは知らず知らずのうちに、重いため息をつく。

「なぁ、ロイ? ロイってば。」

自分の呼ばれた声で、はっと顔を上げると
心配そうなエドワードの表情が目に飛び込んでくる。

「あっ、な 何かな?」

慌てて繕う様に笑顔を浮かべて返事をする。

「何って、それはあんたの方だろ?
 どうしたんだよ、何か ここ最近おかしいぜ?

 もしかして、何か事件でも抱えてるのか?」

表情を曇らせているエドワードの表情に、
ロイの胸がチクリと痛んだ。

「いや・・・、

  ああまぁ、そんなものなのだが・・・。」

妙に歯切れの悪い話し方をするロイに、
エドワードは ますます、不信感を募らせる。
我慢強い この男の事だ、自分に心配をかけまいと
何かと無茶をする事も多い、
まさかまた 何か・・・。

そう思いながら、探るようにロイの方を見ると
相手は、しばらく思い悩んでいたようだが、
話す気になったのか エドワードの方に顔を上げる。

「エドワード、そのぉ・・・
              すまない!」

いきなり謝ってくるロイに、エドワードの方が戸惑う。

「へっ?
 いったい・・・何を?」

大きな目を瞬かせてロイを見ている表情に
思わず『可愛いな』等、状況にふさわしくない感想を浮かべながら
ロイは 話し出す。

「実は・・・、先日 老将軍と逢ったのは知っているね?」

「あっああ、確か 週明けだろ?」

一体何を話し出すのだと、不思議そうな表情で返事を返す。

「で、その時に 少々、厄介な仕事を頼まれてね。」

「厄介な仕事?」

「ああ、東方での仕事なのだが 錬金術関連の事なんだ。」

「・・・ああ、なるほど、だから あんたに話が回ってきたんだ。」

頷くエドワードに、ロイは 内心ホッとする。

「そうなんだ。
 で、協力を頼まれたんだが、私も こちらの仕事もあるしね。

 で、しばらくの間 週末は東方に行ってお手伝いをする事になったんだ。」

ロイが苦渋を込めて語る話にエドワードが同情をするように見返す。

「大変だな、あんたも。」

「ああ、まぁ お世話になった将軍だからね。

 少しでも恩を返せればと思うし。」

「うん、そうだな。
 やっぱりお世話になった人には、きちんと返さないとな。」

律儀なエドワードらしい返答に、ロイも頷く。

「それで・・・そのぉ・・・、
 しばらく週末が・・・。」

言いにくそうにするロイに、エドワードは 
ここ最近のロイのおかしな様子に納得した。

週末の休みには、常なら二人で休みを過ごすのが
ここ最近の恒例になっていたので、
ロイとしても 言いにくかったのだろう。

「わかったから、
 そんなに気にするなよ。

 ずっとってわけじゃないんだから、
 きっちり恩返ししてこいよ。」

ロイの負担を減らすべく、エドワードは 明るく了承してやる。

「そう素直に納得されるのは、少々 寂しいものがあるんだが・・・。」

ロイにとっては、1日エドワードと過ごせる貴重な時間を割かれるのは
身を切られるより痛い事柄だ。
が、ここで 変に勘ぐられても ロイにしては
今は 少々痛い隠し事を持っている事もあり、
不承不承、エドワードの賛同を得れた事を納得するしかない。

「拗ねるなよ。
 俺も我慢するから、ロイも しばらく辛抱な。」

自分で引き受けた癖に、不満を露わにする大人なはずの男が可笑しくて、
エドワードは、少しだけ本音を交えて宥めてやる。

「ああ、そうだな。

 何、そんな長い期間でもないし 週末以外は一緒に過ごせるのだから
 我慢するとしよう。」

エドワードの返答に、少し気を良くして
ロイも笑顔で答えを返す。

「ああ、そうしろよ。

 で、いつまでなんだ?」

止まっていた手を動かして、朝食を続けながら聞き返す。

ロイも同様に食事を再開しながら、
話を続けるが、答えは やや曖昧なものになる。

「そうだな・・・、はっきりとはわからないが
 数ヶ月程度だと思う。」

「数ヶ月!?」

今月一杯位かと思っていたので、思ったより長い期間に驚く。


「あっ ああ、でも もっと短く終わるかも知れないしね。」

慌てて言い直すロイに、
エドワードは、少し気落ちした声で呟く。

「逆に長くなるかも知れないんだ。」

「うっ・・、まぁ そう言う事もあるかも知れない。」

言いにくそうに言葉を濁すロイの反応に
エドワードは 自分が我侭を言って困らせた事にはっとなる。

「まぁでも、恩返しは大切な事だからな。

 ロイも、俺の事は気にせず 頑張ってこいよ。」

精一杯の笑顔で安心をさせるように頷いて見せる。

「ああ・・・、本当にすまないね。
 
 代わりと言っては何だが、無事に解決したら
 二人で また旅行にでも行かないか?」

気落ちしたエドワードを 少しでも慰めたくて
ロイは 明るい話題を振ってみる。

「旅行?」

「ああ、以前 行ったナーディアの島でもいいしね。」

遭難して二人っきりで過ごした島。
あそこには、二人の色々な思い出が残されている。

「あの島か・・・、楽しそうだな。」

エドワードも、あの島で過ごした時間は
良い思い出として残っているのか
懐かしそうな笑みを浮かべる。

「ああ、きっと楽しいに違いないよ。

 今度は 森も探検してみよう。」

ロイも こうやって二人で過ごせる話をしていると
沈んでいた気分が、浮かんでくるのがわかる。

「OK!
 じゃあ、あんたも頑張って協力してこいよな。」

「ああ、君も進級試験だろ?

 まぁ、君なら問題はないとは思うが
 逆に焦って無理しないようにね。」

ニコリと笑いながら念を押される。

「えっ、ああ わかった。」

スキップに賛成でないロイに、そう念を押されると
エドワードの笑い顔も、やや引きつってしまう。


今日は ハボックの迎えで出勤をするロイを
玄関まで見送りに出る。

ロイも、1つの悩みが解決された事で
安堵感で、出勤に向かう足も軽くなる。

が、ロイが気を抜くのには少々早すぎる。
エドワードは、洞察力・分析力とも優秀な錬金術師なのだ。

玄関見送りながら、何気なくエドワードがロイに呟く。

「でもさ、それって中将ほどのアンタが出るような内容なわけ?」

皮肉でも何でもなく、エドワードは 素直に疑問を口にする。

ロイは 中将の位にはいるが、現在 実質は軍を統括している立場だ。
いくら大恩があるとは言え、ただ錬金術師が必要と言うだけで
ロイが出向くなど、有り得ない事ではないだろうか。
ロイが、それに見合う人材を派遣すれば事足りる事ではないのだろうか。
そんな素直な疑問を口にしたに過ぎないのだが、
ロイは ギクリと背中に冷や汗が流れるのを感じた。

「あっ、ああ。
 じ、実は 将軍のプライベートな事柄でね。
 少々、軍に知られると拙い事柄でもあったんだ。」

何とか動揺を押し殺し、出来るだけ平静さを装って
話をする。

「そっ・・か、
 軍に知られて拙いことなら、あんたが出ても仕方ないよな。」

ロイは 過去、エドワード達の禁忌にも黙秘を守ってくれた。
そんな人物だからこそ、老将軍もロイに頼みたかったのだろう。
老将軍の人を見る目の確かさに頷きながら納得する。

「ああ、だから 君も この事は内密にな。」

そう言うロイに、当然とばかりに頷き返す。
エドワードの返事に安心したのか、ロイは 待たせているハボックの元に
足早に出かけていった。




「無理だと思われます。」

はっきりとした物言いは、彼女の好ましい点の1つだ。
が、今は 少々、恨めしい。

ロイが動く事で、どうしても話しておかなければならない人物がいた。
ロイは 司令部につくと、早速人払いをして
ホークアイ中佐に、老将軍の頼まれごとの顛末を話する。

「しかしね、君。
 だからと言って、こんな話をエドワードに出来るはずもないだろう。」

ムキになって言い返してくる上司を、ホークアイは冷静な目で見返す。

「出来ないではなく、したくないと思ってらっしゃるように見受けられますが?」

冷静なホークアイの言葉に、ロイもうっと言葉を詰まらせる。

「どうなされたのですか?
 中将は エドワード君の事を1番理解されていると思っています。

 エドワード君は、思いやりのある情の深い人間です。
 ちゃんと、お話されれば 多少は思うところがあったとしても
 ちゃんと、わかってくれると思います。

 それは、中将も よくおわかりの事ではないですか?」

ホークアイにしてみれば、何故 ロイがエドワードに内緒で
事を行なおうとしているのかが1番理解ができない。
いつもの中将なら、1番にエドワードに話して
理解してもらおうとしているはずだ。
ロイは 無茶はするが、筋が通ってない事をする人間ではない。
何故、こんな件位で 隠そうとするのか・・・。

しばらく、むっつりと黙り込んでしまったロイが
不機嫌もあらたに、言葉を吐き出す。

「わかっている。
 私は 話したくないと思っているんだ。

 だから、今回の事は内密に。」

「だから、何故?」

続けて、ホークアイ中佐が聞き返そうとするのを
ロイは、見上げる事で黙らせる。

「とにかく、そう言うわけで 私は週末セントラルと離れる。
 離れている間の事は、宜しく頼む。
 
 もちろん、エドワードの事も気にかけてやって欲しい。」

頼むように頭を下げる中将に、ホークアイの方が驚く。

「中将・・・。」

「それと、この事は君以外にも他言は無用だ。
 どこからエドワードの耳に入るかも知れないから、
 出来るだけ知っている人間は 少ないほうがいい。」

はっきりと告げられると、ホークアイにしても従うしかない。

「・・・・わかりました。」あきらめと同時にため息をつく。

「すまないが、頼む。」

中将が、ここまで拘るのだ。
そこには、意味があるのだろう・・・そう、考えるしかない。
が・・・、

「けれど、あのエドワード君に隠し通すのは難しいと思われますが・・・。」

独り言のように呟かれる言葉が、ロイの心をさらに思う沈ませていく。




「へぇ~、じゃあロイさん 週末は東方に出かけるんだ。」

「ああ、昔からの知り合いに頼まれてな。」

大学内のカフェで、いつもの4人で話している内に
週末の話になり、エドワードが 
今朝の話を思い出したように話し出した。

「どれくらいなんだ。」

レイモンドが落ち着いた声で聞き返す。

「う~ん、期間はまだ はっきりとはしてないらしくてさ、
 数ヶ月って言ってた。」

「じゃあ、これからしばらくは 週末空いてるんだ。」

嬉しそうに聞いてくるディビットにエドワードは苦笑しながら頷く。

「じゃあ、以前から 誘っていたダンスパーティーに行けるな。

 早速、今週末にでも行こうぜ。」

週末に開かれるダンスパーティーは、学生の社交場の1つだ。
エドワードは、ディビットをはじめ、色々な人から誘われてきたが、
ロイとの過ごす時間を優先して断ってきた。

「え~、別にいいよ。
 俺、ダンスなんて出来ないしさ。」

苦笑いを浮かべながら、ソフトに断りを伝えようとする。

「な~に言ってんだよ!
 今時の学生が ダンス1つも踊れないようじゃ
 何のために学生期間があるのかわからないだろうが!」

限られた学生生活を、出来るだけエンジョイするのを旨をしている
ディビットが、拳を固めて力説する。

「いや・・・、まじ 踊れないから別にいいよ。」

ディビットの気迫におされ気味になりながらも
エドワードは 小さく断りの言葉を伝える。

「そんなの全然気にしなくてもいいぜ!
 別に正式なワルツを踊れっていってるわけじゃない。

 音楽に合わせて身体を動かしてれば、後はノリだ!」

自分も、そのノリで押し切っているだろうディビットが
乗り気でエドワードに詰め寄ってくる。

「・・・。」
一瞬、返す言葉が遅れたエドワードに
レイモンドが 横から口をはさむ。

「エドワード、良ければダンスは俺が教えるから
 参加してみたらどうだ?」

「レイ?」

3人が、驚いたような顔でレイモンドをみる。

基本的に、レイモンドも人だかりを嫌うタイプで
言われているダンスパーティーにも
ほんのお義理程度にしか参加した事は無い。
そんな、レイモンドが 乗り気でエドワードに話しかけるとは
ディビットやアルバートにも意外だったのだろう。

「キャンプも そうだったが、
 参加してみれば 意外に楽しく思える事も多いはずだ。

 1度参加して、それでも合わない様なら止めれば済む事だし
 行って面白くなかったら、すぐに帰ればいいだろう?」

エドワードは 余り学生行事には参加はしない。
もとから、遊ぶより勉学と思って入学したせいか
一般の学生とは、やや浮いてしまう傾向にある。
そのせいで、当初はお高くとまっているなどと、
無用な誤解を受けていた事も多かった。
キャンプ以降は、エドワードの素の人柄に増えた学生が出来たため
今は さほど出も無いが、エドワードが積極的に遊戯に参加することは皆無だ。

エドワードは、レイモンドの誘いの裏にある言葉を察して
自分の学生生活の態度を省みる。
ロイも言っていたように、学生生活は 勉強をする為だけのものではない。
自分は 余りにも、学生生活をおろそかにしているかも知れないと
反省する。

「わかった、1度参加してみる。

 でも、一応 ダンスはきちんと教えてくれよな。」

決心をつけると、レイモンドに感謝の意味を込めて頷き返す。

「ああ、責任を持って教える。
  
 が、余り時間がないから ぶっつけ本番で教える事になるが、
 まぁ、エドワードの運動神経なら大丈夫だろう。」

そう請け負ってくれたレイモンドに、エドワードが ホッとしたように笑い顔を向ける。

レイモンドの返事を聞いていたアルバートが思わず、

「で、でも ぶっつけ本番って・・・、
 あの場で 二人で踊るわけには。」

と呟くと、横に座るディビットが 肘でつついて
言葉を遮る。

そして、少し顔を寄せると 向かいで打ち合わせをしている二人には
聞こえないように小声で話しかける。

『アル、黙ってろ。
 せっかくエドの奴が参加する気になったんだ。』

『で、でも 教えるって言っても。』

『いいから。
 レイも 本気で向こうで教えるわけはないさ。
 エドの奴が安心して参加出来るようにって言う方便さ。』

『そう・・・、そうだね。
 わかった。』

二人での会話を済ませると、まだ 打ち合わせに熱中している
エドワードに、温かい瞳でエールを送る。

「まぁ、何事にも始めはあるさ。」
「そうだね。」

親のように温かい眼差しを送られているなど露とも思わず、
エドワードはレイモンドのレクチャーを聞いていた。


そして・・・、レイモンドが有限実行をするタイプだった事を
二人は 再認識する事になる。



「えっ、司令部から直接行くのか?」

『ああ、その方が 時間的にもいいしね。
 顔を見てから行きたかったなんだが、
 列車の時間が押してててね。』

そう口早に話すロイの声の後ろには
そろそろ発車を知らせる汽笛が鳴っている。

『じゃあ、くれぐれも気をつけて戸締りをするんだよ。』

「うん、大丈夫だって。

 あっ、実は今夜・・・。」

出かける事を告げようとしたが、
エドワードの返事で安心したのか、
ロイにしては珍しく、何も言わずに唐突に電話が切れた。

「?」
珍しい事もあるものだと、エドワードが切られた受話器を眺めながら
電話に静かに戻す。
いつもなら、延々と長引かせる電話での会話に
痺れを切らせたエドワードが切るまでは
ロイが電話を切った事等1度もなかった。

『急いでたようだからな・・・。』

エドワードは、妙な感じを無理やり納得させて考えを振り切った。



ディビットがおめかしをしてこいと言っていたが
エドワードには、服のセンスが余りない。
無いと言うよりは、関心を持った事がなかったと言うべきだろう。
だから、レイモンドが決めてくれると言ってくれた言葉に任せ、
彼の到着を待つことにした。

鳴らされた門のチャイムの音で、エドワードは施されている練成を解く。
ここには、相変わらずロイが施した練成が効力を発揮している。
エドワード自体は、すでにもう意識せずとも
自由に出入りしているが、
人を招いた時などにうっかりと玄関まで招いたりしたら大変な事になる。

「こんばんは。」

「ごめんな、わざわざ。」

「いいや、行くついでだからな。」

エドワードが 先に歩いて、2階にある自分の部屋まで連れて行く。

「この部屋なんだ。」

部屋の扉を開いて、レイモンドを招く。

「失礼。」

軽く挨拶をしながら部屋に入ったレイモンドは、
品良く、さりげに高価な物が置かれている部屋を見回す。

「いい部屋だな。」

素直に感心したように感想を呟く。

「そうか?
 部屋は ロイが用意してくれたんで、
 俺には 分相応すぎるんだけどな。」

余り家具の事はわからないエドワードには
高価なとしかわかって貰えてないだろうが、
この部屋に置かれているものは
たかが学生の部屋にしては、勿体無いような調度品ばかりだ。
多分、オーダーメイドで作られるもの以外での最高の物を集めたのだろう。

感心して部屋の家具を見入っているレイモンドに構わず
エドワードは 部屋にある大きなワードローブを開ける。

「で、レイ。
 こっちが洋服なんだけど、何を着ていく?」

さして、興味もないのだろう 完全に人任せな姿勢を見せるエドワードに
『らしいな』と苦笑を浮かべながら、寄っていく。

「これは・・・。」

さらに、驚かされたのは 中に並んでいる服の数々だ。
この中には オーダーメイドも並んでいる。
エドワードに その違いが解っているとは思えないが
既製品でも かなり高級なメーカーの物ばかりだ。
いつも、さりげなく高価な品を羽織っているとは思っていたが
それも、カジュアルな物を選んでの 本の1部のようだ。

「着せ甲斐がありそうな洋服ばかりだな。」

「えっ、そうか?
 何か、あんまり俺が着るような物じゃないと思うんだけど、
 アイツがあんまり度々買ってくるから
 知らないうちに増えてるんだ。」

困ったように話されるエドワードにロイ氏の苦労が偲ばれる。
が、同情出来るような立場では自分はないし、
彼も 自分如きにされたいとも思わないだろう。

当初は、なるべくエドワードが負担に感じないものを
選ぶつもりだったが、並んでいる洋服を見て考える。
しばらく、視線で品を確認していたが
その中でも、一際目に着いたスーツを手にしてみる。

深い 黒にも見える濃い深緑の生地で作られたスーツは、
上着が 膝丈まで長い遊び心のあるスーツで、
ピッチリとした作りは、スレンダーなエドワードの肢体を
良く現す事だろう。
襟ぐりは片側に斜めに大きく被さるように止めるようになっており、
その後腰までをきっちりとしたボタンで締めるようになっている。
逆に腰からは、止める物はなく、両横にも腰までの大きなスリットになっていて、
一見すると、女性のタイトなドレスに見えなくも無い。
少し高めな襟足が遊び心に崩れすぎない気品を醸し出している。


「エドワード、これにしよう。」

手に持っての検分を済ませると、
横で立って待っているエドワードにスーツを合わせてみる。

「えっ、これ?
 でも、何か 遊びに行くのに可笑しくないか?」

袖を通した事もないスーツを見せられて、エドワードが驚くように目を見開く。

「そんな事もないさ。
 ダンスパーティーは、一応 れっきとした社交場だから
 これ位の正装で本来は出かけるものだ。」

名門の出のレイモンドに言われると、何となく説得力がわく。
そんなものなのかとエドワードが頷くのを見て
レイモンドが 着替えるように促す。

エドワードが着替えている間に、ワードローブの中の小物の引き出しを開けてみる。
レイモンドが思ったとおり、そこにも あつらえた洋服に合わせた数々の
小物が所狭ましと並んでいる。

その中で、両側で止めれるチェーンタイプのブローチを取り出す。
これをスーツの合わせの両側から伸ばすようにつけると
深緑のスーツのポイントになるだろう。
純金で作られたであろうブローチは、
多分エドワードのカラーを意識して選ばれた物だろう。

「おかしくないか?」

着替えが終わったエドワードが声をかけてくる。
一応、気を配ったレイモンドが 向けていた背を返してエドワードを振り返る。

そこには、思わず見惚れるような美青年が所在なげに立っている。
どんな飾りよりも豪奢にエドワードを飾る金の髪が
深緑のスーツで更に引き立てられていて、
彼を見慣れているはずのレイモンドでさえ、思わず感嘆の声を上げそうになる。

「エドワード、これを胸につけよう。」

内心の動揺を隠し、さりげなくエドワードに近づいて
ブローチを付けてやる。
抱きしめたがる指が、震えるのを
レイモンドは、歯を食いしばる事で堪える。

「それと・・・。」と言いながら、エドワードの肩を持って後ろを向かせると
さらりと 髪を止めていたゴムを外す。
きつめに縛られていたとは思えない程、
跡形もなく流れるように背に落ちる髪に触れながら
名残惜しそうに手を離す。


「えっ、髪を降ろすのかよ!」

外では、いつも1括りにしている為か、エドワードが抗議の声を上げる。

「ああ、このスーツを着るなら
 髪は降ろしている方が服に映える。」

レイモンドに そう言い切られながらも、エドワードは釈然としないようだ。

「さて、後は靴だな。」

エドワードが着替えている間に シューズBOXもチェック済みのレイモンドは
明るめの栗色の革靴を選んでいた。

ひととおり着替えた後のエドワードを確認しながら、
満足したように頷く。

「んで、俺だけ こんな格好で出かけるわけ?」

ラフな姿のレイモンドを見ながら、口を尖らせながらエドワードが不満を言う。

「いや、俺の方も着替えに戻る。
 エドワード、すまないが一旦部屋に寄ってくれるか?」

レイモンドが そう告げると、開きなおったエドワードが
にやりと笑いながら、

「今度は 俺が決めてやるよ。」と

面白い悪戯を思い浮かべたような表情で告げるのを
レイモンドは仕方無さそうに肩をすくめて答える事にした。


思いとは反対に、遠く離れていく列車に憂鬱そうに乗っているロイは
今まさに、ロイが いつかはと思っていたエドワードの社交デビューを
する事等、知る由もなかった。
週末のすれ違いのふたりの行動が、奇妙な輪を広げて行きそうな予感をはらませていく。



[あとがき]

1度は着せてみたかったエドワードのスーツ姿!!
スーツに萌えを感じる私の願望が入りまくりです。
次回は、いよいよエドワード社交デビューです。
波乱万丈、話題騒然となるデビューになる事間違いなし。


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