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Selfishly

Selfishly

Pa 8-2 「蔦」




スローライフ S 
          Pa 8-2 「蔦」


H19,1/3 19:30


内心の緊張を、さりげなく隠して
エドワードは、お茶の準備が出来ているリビングに入っていく。

「サンキュー、用意してくれたんだ。」

「いや。

 紅茶で良かったかな?」

何かしていないと、時間を持て余してしまいそうで
ロイは、エドワードが降りてくるまでに
お茶やお菓子と、動き回っていた。
おかげで、段々と平静さを取り戻してきた。

そうして、やっと 降りてきたエドワードの様子に
気を配れるようになって、ロイは 内心 首を捻る。

座ってお茶を飲み始めているエドワードを一見した感じでは
変わったところは無い。
が、浮かべている硬めの表情が 何やら緊張しているように感じられる。

向かい合わせに座ると、緊張が移ったように
ロイも押し黙ったまま、お茶を飲み始める。
互いに 相手の様子を気にしながら
話すキッカケが掴めずにいるが、
気まずいと言うのとは違って
妙に気恥ずかしい時間が流れる。

黙々と飲むお茶は、あっと言う間に空になり、
ソーサーに置く カチャンと言う音が合図のように
互いに口を開く。

「あのぉ、ロイ・・・。」
「エドワード、・・・。」

声を重ねて、互いに呼び合ったのに
軽く驚いたように二人で顔を見合して・・・・。
プッと笑いを噴出す。

「何か、久しぶりだと妙な感じだよな~。」

「ああ、意外に緊張するものだな。」

クスクスと笑い合うと、漂っていた緊張感も薄れて
いつもどうりの雰囲気に戻る。

「これ、新作?」

テーブルに並べられた焼き菓子を指しながら
エドワードが 1枚持ち上げる。

「いや、これは季節の定番商品なんだが
 多分、君は まだ食べた事はなかったんじゃないかと思って。」

一緒に暮らし始めて まだ1年経たないエドワードには、
季節ごとに変わる定番商品にも知らない物がある。

「うん、上手い。

 ここの焼き菓子、ジャムを使ってるのが絶品だよな。」

「ああ、今の季節はベリー系が主流だな。

 もうじき、君が気に入っていた アプリコット系のジャムになる季節が来るね。」

エドワードが好んで食べる杏の季節が来ると
ちょうど、1年の季節が回った事になる。

「ああ! 杏のジャムを挟んだパイ!

 あれ、酸味があって 凄く上手いんだよな。」

楽しみだと、うきうきしている様子のエドワードに
ロイは、出たら1番に買って来ようと、こっそりと思う。

久しぶりに 二人で過ごせる時間。
最初が妙に気恥ずかしさで緊張していたせいか、
それが溶けると、反動のように気が緩んでいく。

ベリー系よりは、柑橘系を使ったもの、
酸味のある甘さが好きなエドワードは、
さらにアプリコット系のお菓子を好んで食べる。

「なら、この前の すもものパイも気に入ったんじゃないのかい?」

杏よりは、酸味が控えめな分 果実の味が濃厚だったすもものパイも
パティシェが 初物で作ったこだわりの限定だけあって、
確かに美味しかった記憶がある。

「すもも?」

記憶を探るような仕草をするエドワードに、
ロイは頷いて、記憶を引き出す手助けをしてやる。

「ああ、前回 パティシェ限定で売られてた分だよ。」

ロイが そう言うと、エドワードは はっとしたように
ロイを見る。

そして、ロイは エドワードの その表情に
自分の失態に気づく。

「あっと・・・済まない。
 
 前回の時のは、ちょうど出張間際に連絡があって、
 先方に・・・、そう、先方に持っていってしまったんだった。」

「そっ・・・か。

 んじゃ、また 出たら教えてくれよな。」

眇められた金の色が、一瞬で解かれ ロイを見る。

「ああ、今度は 必ず、持って帰ってくるよ。」

抱えた後ろめたさが、答える言葉の語気を
思ったより強くさせてしまう。

エドワードに2杯目のお茶を聞かれて、頷く。

気まずい雰囲気を振り切るように
エドワードが、そうだ!と 明るくつくった口調で
話を切り出す。

「この前の出張の時に、美人連れて歩いてたんだって?」

笑いを含んだ言葉には、他意はなかったはずだ・・・。
知ってるぞと言う風に言ってやれば、
きっと、焦って 色々な言い訳を言ってくるだろう相手を
ちょっと、からかって、いじめてやろう・・・そんな、
本当に そんな、小さな出来心だったんだ。


カップを口へと運んでいた手がピタリと止まり、
驚いたようにエドワードを見た後、
ロイは、カップを静かに皿に戻して、
険しさを増した瞳でを向けてくる。

「誰が・・・・
 誰が、君に それを話したんだ。」

静かに、怒りさえ含ませた声音で
ロイが、エドワードに詰問してくる。

「あっ・・・、あのぉ・・・。」

エドワードは、ロイの気に呑まれたように
茫然とロイを見て、口ごもる。
一緒に暮らしだしてから、ロイに こんな険しい、厳しい表情を
見せられた事がなかった。

言葉も出せずに、驚いているエドワードの表情も
ロイには違う風に映る。
『エドワードに知られてしまった。』
その考えがロイの頭の中を占めると、
ロイは エドワードに余計な事を洩らした人間に
報復をせずにはおれない程の怒りが巻き上げてくる。

ゆらりと立ち上がり、エドワードの横に立ったロイが
質問の続きをしようと手を伸ばして肩に触れようとすると、
ロイの様子に怯んだエドワードが、
触れられようとした手を避けるように身を引く。

触れる事が適わなかった伸ばされた手の先を
驚きと共に 茫然と眺める。
それはロイにとっては、エドワードがロイを拒否したように映る。

「エドワード・・・。」

ロイは ゆっくりと膝を エドワードの横のソファーに
乗り上げて、彼の両肩を掴みあげる。

「っぅ!!」

痛みに声を上げるエドワードに構わず、
ロイは 掴んだ肩を引いて、エドワードの身体を引き寄せる。

「エドワード、誰だ。
 彼が君に話したんだ?」

数センチで互いが触れ合える程の距離で
ロイが繰り返し訊ねてくる。
エドワードは、背筋が ゾクリと粟立つ感触に身を震わす。

ロイは 決して、声を荒げているわけでもないのに
腹の底から搾り出されて告げられているような声は
エドワードが 耳にした事もないような、
冷たさと恐ろしさを伝えてくる。

「エドワード・・・?」

答えないエドワードに、ロイは 酷く残忍な色を瞳に宿して
うっすらと笑みを口の端に浮かべて、
優しいとする思える声音でエドワードに呼びかけを続ける。

エドワードは 無意識のうちに首を何度も横に振る。

『違う・・・、こんな・・・  
 こんな・・・ロイを見たかったんじゃないんだ・・・。

 ちょっと、ちょっとだけ からかうつもりで・・・。
 だっ、だって、俺だって 少しだけショックだったから・・・。』

エドワードは、動揺して内心で語られる言葉を表すように
首を横に振る。

それが、ロイには 否定の姿に見えて、
ポツリと言葉を吐いた後に、
何かを決意したように、暗く、鈍く光りを瞳にひらめかす。

「そうか・・・、そんなに言いたくないんだな。」

ロイの落とした言葉に、エドワードが驚いたように首を振る。

『そうじゃ、そうじゃないんだ。』

エドワードの言葉は、唐突に塞がれた口付けで
声にはならなかった。

優しさも、愛情さえ感じられない乱暴な口付けは
まるで これ以上、エドワードに言葉を発せさせないでいようと
するかのように、乱暴で強引にエドワードの口内を蹂躙していく。

もがくエドワードを押さえつけるようにして
乱暴にソファーに縫いとめると、
ロイは、エドワードの着衣に手をかける。

はだけた服をかいくぐって素肌に、冷たいロイの手が進入してきたのを
感じたときに、エドワードは ロイが何をしようとしているのかを
驚きと共に悟る。

必死に首を振り、重なる唇が少しだけ離れた瞬間に
エドワードは、振り絞るようにロイに呼びかける。

「ロイ! 止めろよ!

 止め・・・!!」

エドワードの必死の懇願は、塞がれた掌の中に吸い込まれる。
ロイが、エドワードの発する言葉を止めるようと
口を塞ぎ押さえつけてきたからだ。
エドワードは、信じられないものを見るように
大きく開いた瞳でロイを見る。

「エドワード、否定の言葉も拒否の言葉も言わないでくれ。

 大丈夫、君が言いたくないなら、
 言いたくなるようにして上げるから。」

そう言いながら、この状況に場違いな程 優しく、
微笑みさえ浮かべて、エドワードの言葉を塞いでいる手と逆の手で
エドワードの頬を、愛しそうに・・・、
本当に 愛しそうに撫でて、エドワードに覆いかぶさってくる。

エドワードは、ショックで麻痺した頭で
ぼんやりと眼前で、自分を押さえつけて 
自分の身体を好きにしようとしている男を見る。

ロイは・・・ロイは、いつだって優しかった。
馬鹿がつくほど心配性で、いつだって エドワードの意思を尊重してくれていた。
この前の晩だって、ちゃんとエドワードの了承を得ようとしてくれていた。
それが・・・、それが こんな風に、
自分の意思など歯牙にもかけても貰えずに
人形のように扱われるなんて・・・。

瞳に映る男の影は、エドワードには 
もう霞んで、よく見えなかった・・・。

絶望より深い闇・・・、
その先をエドワードは知っている。
自分が 奥底に封じ込めていたはずの
堅い、固い殻で蔽っていたはずの扉に
大きな亀裂が入る。

瞬間、部屋の中には 目もくらむような連成光が迸る。

「なっ!」

突然の衝撃に、咄嗟に体制を作るが
無残にも砕かれたソファーの破片がロイの頬をかすって行く。

周辺では、大小の音を立てながら
破壊と再生が、めまぐるしく繰り広がられている。
一際大きな音を立てて、電灯が割れたのに気づいたロイが
降りしきるガラスの破片を防ぐように、茫然と座り込んでいる
エドワードを抱きかかえる。

「・・・。」
頭を抱えるように抱きしめて、振り落ちるガラスに耐えようと
身を固くするが、破片が降り注ぐ気配がない。

ロイは、用心深く天井を振り仰ぐと目を瞠る。

砕けた破片は、重力に逆らって 空に漂っているかと思ったら
フィルムを巻き返すように、元の位置に戻っていく。
法則を無視した練成が繰り広げられる中、
ロイは 急いで、エドワードの様子を伺う。

茫然と見開かれた瞳には何も写していない。
周囲で起きている事も、今のエドワードには理解できていないのだろう。
荒れ狂う練成は、彼の中で起こっていて
エドワードは、それを抑えるのに必死になっている。

練成は、彼の激情のまま反応が巻き起こっている。

壊された物は、瞬時に 寸符違わず元に戻る。
それは、エドワードが 何としても
ここを、ロイと住む家を守ろうとしている意思の動きなのだろう。

「エドワード。
 大丈夫だ、大丈夫だから。」

ロイは 小刻みに震える身体を抱きしめながら
何度も、エドワードへ呼びかけ続ける。
あやすように背を撫でてやり、
髪に頬に、慰めるように、勇気付けるように口付けを降らす。

段々と小さくなる練成の渦と光に比例して、
破壊され、再構築されていく物も減っていく。

そして、完全に光が消えた後には
先ほどまでと、変わらない静かな部屋がたたずまえを見せていた。

ロイは 張り詰めていた緊張を、深い息と共に吐き出して
エドワードの様子を伺う。

うつむいたままのエドワードが、
何か 小さく呟いている。

「エドワード?」

ロイは、聞き取ろうと身体を屈めて
耳を傍立てる。

「違う・・・違うんだ。

 レイが 東方でロイを見たって話してて・・・、
 で、俺も 最初は、驚いたけど・・・。

 けど、ロイには何か理由があったんだと考え直して。

 だから、ちょっとだけ からかうつもりで・・・、
 俺も、驚いたんだから 仕返しに ちょっとだけ・・・って。」


切れ切れに語られる言葉を聞くうちに、ロイの顔色が
青褪めていく。

自分が とんでもない思い違いをしていた事に気づく。
全てが、エドワードにばれてしまったのだと・・・。
だから、ロイを拒否するのだと・・・。

なら、自分は 何があっても逃がしはしないと
強引に・・・、乱暴に・・・、
エドワードに 何をしようとしていたんだ?

冷水を浴びせかけられたように
全身の体温が下がる。

冷静になってきた頭で、ロイは 今、自分が行おうとしていた事を顧みる。
一時の激情の波が収まると、
今、自分がエドワードにしようとしていたことが
どんな事だったのかを、襲い来る罪悪感と共に吐き気が込み上げてくる程の
嫌悪感を自分に抱く。

『自分は・・・エドワードを、
 ・・・しようと、していたん・・だ・・。

 不穏な話を聞かされても尚、
 自分を信じようとしてくれたエドワードを
 自分は・・・。』


「済まない、エドワード
 本当に済まない。

 私は・・・本当に どうかしていたんだ。
 
 あんな事を、君にしたいと思っていたわけじゃなかったんだ。

 許してくれと言える立場ではないが、
 
 どうしたら、嫌わずにいてくれるだろう?

 私は・・・、君に・・・
 君だけには 嫌われたくない。
 
 君を失うかと思ったら、いてもたってもおられなかった。
 
 エドワード・・・、
 私は 君を失う事が 1番怖いんだ。」

必死に言い募る 真剣な言葉は、
苦痛を我慢して吐き出される。
ロイの面にも 苦悶の表情が色濃く浮かぶ。

そんなロイの様子には
疑う隙間も無いほど、エドワードへの真摯な想いだけが伝わってくる。

言葉と共に、縋るように 離さない様に抱きしめられる腕の強さも、
ロイ自身が 感じている後悔も、自分を詰り、恥じている気持ちも
エドワード同様、ロイの震わせている身を感じることで 
その思いが どれだけ、深いかも。

そして、エドワードも悟った。
自分が不安だったように、ロイも ずっと不安を感じてきていたのだ。
二人で寄り添うだけで、全てが通じていたように思っていたのは
ただの、自分の思い上がりで、傲慢さだ。
自分達を繋ぐものは、互いの想いしかない。
でも、想いとは見えるものではない。
だから、もっと確かなものを感じたいと思うのだろう。

『もう、いいよな俺。』

いつも、ロイには甘えてきていた。
けど、そうして甘えて目を塞いでいる事で
互いが こんなに不安になるなら・・・、
それは、自分の怠慢であり、卑怯さでもあるのだ。

必死に縋るロイの肩に、顔を乗せると
エドワードは 大きく息を吸い込む。

「・・・この前の晩な、ロイが途中で軍に呼ばれて
 俺、正直 ホッとしたんだ。」

ポツリと語られた言葉に、ロイは 胸が痛む。

「エドワード・・・。」

「で、なんでホッとしたんだろうって、
 あの後考えたんだ。」

その言葉の先を聞くのが怖くなって、
ロイは 抱きしめていた腕に更に力を籠める。

ロイの心の動きがわかり、エドワードは
苦笑しながら、ロイの背を軽く叩く。

「俺、こうやって 二人で一緒に過ごすって意味を
 真剣に考えた事って きっと無かったんだよな。

 いつも、アンタが あんまり優しかったから
 これでいいんだと思ってた。

 でも、それって 結局、俺の思い込みで
 あんたに我慢させて成り立っていたわけだ。

 本当に、付き合っていくなら
 やっぱり、真剣に考えなきゃいけない事が
 俺らの場合、普通の人より多いわけだろ?

 なら、きちんと考えなきゃ、向き合わなくちゃって思ったんだ。」

そう言いながら、エドワードは 力の抜けたロイの腕から
少しだけ身を離して、ロイの顔を見る。

「・・・あんた、なんて顔してるんだよ。」

仕方ないな~という様に、エドワードは苦笑を浮かべる。

ロイは、最後の審判を待つ罪人のような表情で
エドワードに沈んだ瞳と表情を向けている。

「で、あんたが この前に言ってた様に
 やっぱり、そのぉ・・・、
 ね、寝るって事も
 ちゃんと考えないと駄目だろ?」

頬を僅かにそめて、エドワードが言いにくそうに話す。

「でも、あん時には
 俺は、そこまで考えてなかったと言うか
 勇気がなかった。

 その一線を越えたら、多分 もう後戻りできない。
 ただ仲良く暮らしてますだけじゃ通じなくなってくる事だって
 これからあるはずだ。
 俺には、そこまで考えてみた事がなかったんだ。」

そこでエドワードは、溜まっていた緊張を緩めるように息をつく。

「エドワード・・・、
 私は 構わないんだ。

 君が嫌なら、そんな事は望まない。
 
 確かに、さっきは 逆上してしまって
 君に嫌な思いをさせてしまったが、
 今後、2度とないと誓う。

 ・・・君が、傍にいてくれるだけで、
 それだけで十分だ。」

苦悩しながらも、ロイは はっきりと誓う。

「本当に?

 傍にいるだけで?」

聞き返してくるエドワードにも
ロイは、重々しく頷く。

「君が嫌がるなら、指1本触れさせてもらえなくても。

 それでもいいから、傍に居てくれ。

 ・・・どこにも、行かないでくれ。」

悲壮感を漂わせせながらも、
そんな風に言うロイに、エドワードは
心底、呆れたようにロイを見つめる。

『この男は、本当に どこまでも自分に甘い。

 軍にいる時は、非情にも冷酷にもなって判断を下しているのに、
 たかが、14歳も下の自分の機嫌を損ねないために
 ここまで、情けなくなるのもどうなんだろう。』

でも、そうして ロイを弱くしてしまったのも
自分のせいなのだ。
 
『馬鹿だな・・・。』

ロイに向けたのか、自分自身に向けたのか
エドワードは、ポツリと心の中で呟く。

「指1本触れなくても?

 キスも出来なくなるんだぜ。

 本当に、あんた それが我慢できるんか?」

少々、意地が悪いなと思いながらも
あんまり、馬鹿な男がおかしくて
エドワードは 意地悪気な笑みを浮かべて
ロイに念を押す。

「・・・我慢してみせる。」

むっつりと返された返事とは裏腹に
回されていた腕に力が籠められる。

早速、意思を裏切る ロイの行動に
エドワードは、我慢しきれず 噴出してしまう。

「エドワード!」

自分の決死の覚悟での言葉を
こんな風に笑われては、いかにエドワードに甘いロイとて
腹が立たずにはいられない。
今だって、すでにもう 抱きしめたがる自分がいるのだ。
彼が 傍にいると、もちろん 居なくても
触れたがる自分の気持ちを抑えるのは並大抵の苦労ではない。

それをこんな風に笑われては・・・。

憮然とするロイに、目に涙を浮かべてまで笑うエドワードが
憎らしくて仕方が無い。

「ごめん、ごめん。

 でも、それ 無理だと思うぜ。

 そう言い切るなら、とにかく さっきから回してるこの腕外せよ。」

ほらと叩かれた手を見るが、本人の離せという命令に
全く従おうとしない自分の腕を見つめる。

頭では十分、エドワードの言っている事は理解できる。
理解は出来るが、嫌がる感情が 主人の意思に従うのをよしとしない。

ロイは あきらめたようにため息を吐き出すと、

「もう少しだけ・・・。」と譲歩を願う。

それに、エドワードは ますますおかしそうに笑って、
ロイの表情を ますます、渋くさせていく。

そして、ひとしきり笑って、収めると。

「いいんだ、ロイ 無理しなくて。

 俺も、あんたに そこまで無理も我慢もさせたくない。」

自分を覗き込んで、微笑む相手を ロイは戸惑うように見る。

「この前、軍に行ったよな?

 俺、あん時に ちゃんとアンタに話す積もりだったんだ。
 
 ちゃんと、覚悟決めて待ってるって。」

恥ずかしげに、俯き加減に聞かされた言葉に
ロイは 知らず知らずのうちに、喉を鳴らす。

「俺、あんたが居ない間に
 自分なりに考えたんだ。

 確かに、この先の事を考えると頭が痛くなる事が山積みだ。
 アルの事もあるし、し・・師匠にもバレた時は
 俺の命も危なくなるだろうし・・・。」

そう言ったエドワードは、余程 怖い想像をしたのか
顔を蒼ざめさせて、身をブルッと震わす。

はぁーと息を吐き出して、自分の気持ちを整えると
エドワードは、すっきりとした綺麗な笑顔を見せる。

「でも、それでも
 俺は あんたと生きていきたい。
 
 困難も 二人で考えて越えるなら、
 思ったほど、大変な事でもない気もするしな。」

そう言って自分に笑うエドワードの表情を
ロイは 生涯、忘れられないだろうと思った。

「だが・・・、それでは 君が無理をする事になるんでは・・・?」

エドワードが伝えようとしている事は、もちろん ロイには
ちゃんと理解できている。
信じられない僥倖に、戸惑いのほうが大きくなる。

それに・・・、優しいエドワードの事だ、
自分を我慢して、ロイの為にと考えた事もあり得る。

ロイにとっては、自分の身をすり減らす程の我慢を強いられる事になっても
エドワードを少しでも我慢させるよりは、数倍 いい。

そう思っているロイの気持ちがわかるから、
エドワードは 仕方ないな~と言うように
紅くなる顔を見せないように、自分から抱きついて
告白をする。

「俺が嫌なの!

 あんたに触れられなくなるのは。」

そう告げて、自分に抱きついてくるエドワードの背中を
茫然と見つめる。

そして、エドワードが寄って空間が狭められた事で
空を抱いている自分の掌を見る。

寄り添う体温が、段々と実感を持ってロイに染み渡ってくる頃、
ロイは エドワードの言葉が 頭で理解できるだけでなく、
心にも体中にも伝わってきた。

感動に、小刻みに震えてくる指の先を見る。
震えは、指から腕に、そして 熱くなる血液と一緒に体中を駆け巡っていく。

失ってしまうかと思った。
自分の愚かしさの代償に。
そして、2度とは触れてはいけないとも。
自分の中の心の1部を壊してでも
エドワードが、傍に居てくれるなら
我慢し続けようとも思った。
そう、そう思っていたのに・・・。



抱きついたエドワードが、
何の反応も返さない男を妙に思っていると、
その手に、触れる身体が 小さく震えている事に気づく。

少しだけ身体を起こして、
茫然としている男を見て・・・。

「馬鹿だな・・・あんた。

 そこまで、真剣になるなんて・・・。」

本当にそんな事を思って言っているわけではない事は
エドワード自身にも、聞いているロイにも
きっと伝わている。

エドワードは、静かにロイの頭を引き寄せて
頭を肩に乗せて抱きしめてやる。

しばらくして、冷たく湿った感覚が伝わってくるが
少しも不快ではなかった。
冷たく、熱く 広がる感触が、愛しくて、
切なくて・・・。
エドワードは 自分も霞んでくる視野の中、
勇気を出して、本当に良かったと心から思う。
力を取り戻した腕に抱きしめられながら、
自分も ちゃんと同じように思っていると伝わるように
力を込めて、ロイを抱きしめる。



[ あとがき ]

ここは、散々 悩んで悩みまくった結果の展開です。(^_^;)
このシリーズには、あんまり こう言う展開は入れてこなかったし
本当は、もっと先になる予定だったんですよね。

だから、書いては直してと何度もしたんですが、
私も覚悟を決めました。(← 何のだよ!)
ここは、この展開で正解!
と思えるような 今後のストーリーになる・・・はず・・・、
だといいなぁ~。 (ちょっと、気弱)

この後の事は、日記をお読みください。


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