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Selfishly

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SRT Pa2「貴方の傍に居る理由」


スローライフt(third) 

            

 P2「貴方の傍に居る理由」
H19,9/17 23:45


「あ~あ、こんなに散らかして・・・」

案内されて入った部屋の惨状を眺めながら、
エドワードが呆れを吐き出す。
ハボック少佐が、視察ついでにと案内してくれたロイの官舎は
階級に見合う建物ではあったが、如何せん、中身までは
機能的に活用されるには至っていないようだ。
それぞれの部屋に積まれているダンボールは、封を開けられてないままの
物が多く詰まれている。
必要最低限要る物だけ取り出しているのか、
所々開けられて、中身を漁られた様相を見せている。

が、広い屋敷の中では、それらも対して邪魔にもなっていないようだ。
要するに、荷物が酷く少ないからだろう。
荷造りはエドワードも手伝ったが、ロイは必要最低限の物しか
持ち運ぶ準備をせず、殆どの物はイーストの屋敷に置いていった。
さすがに、本と資料は多かったが、それも書庫に詰まれていると、
余計に、残りの持ち物が少ない事に目が付く。

『あいつ、置いていったんだな、全部・・・』
 
自分の、エドワードの傍に・・・。

そこまでする男が、エドワードと離れて暮らす事を選んだのは、
一重に、エドワードの将来を思ってなのだろう。
ロイは分からず屋ではない。 彼が、ここまで反対するからには
逸れ相応の理由がきちんとある。

『ごめんな・・・』

心の中で、今は不在の主にそう告げながら、エドワードは1番散らかっている
寝室から片づけを始めていく。
ゴロゴロと転がっている酒瓶を片付けながら、
彼のここでの生活に思いを馳せる。





「じゃあ、明日はいつもどうりの迎えなんで、
 寝坊しないで下さいよ。
 
 まぁ、エドの奴が来てくれたんなら、大丈夫だと思いますが」

帰りの車中で、伝えてくるハボックの言葉には、
明らかにホッとした気持ちが窺える。
ロイは、その口調にムッとしながらも、返せる言葉が無い事も
解っている。
ここ最近の自分の寝起きの悪さに、辟易させられていた部下の心情を
思えば、まぁ、少しだけ悪いな・・・とも、思ってもいたのだ。

失態したと気づいたのは、医務室で気を取り戻した時だ。
慌てて司令室に戻ったが、そこには既に総統もエドワードも姿を消していた。
癪に障ることに、司令室の雰囲気は、ここ最近なかった穏やかなムードで、
長時間仕事を放棄する事になってしまったロイにも、当たりは柔らかかった。

「エ、エドワードは・・・? 

 ・・・それに総統はお戻りに」

戻って開口1番の言葉には、焦っていた本音が滑り出て、
取って付けた様に、後の言葉を加えたのは、丸解りだろう。

が、職務には厳しい副官も、それにも眦を吊り上げる事も無く
至って、機嫌よく返答を返してくる。

「はい、総統はお戻りになられましたので、お見送り致しました。
 それと、エドワード君、いえ、少佐には、勤務は明日からという事でしたので、
 少将のご自宅へ、ハボック少佐に案内して戻ってもらいました」

既にエドワードの入隊を受け止めているらしい事は、
彼女の返答の仕方でもわかる。
それに、周囲の者達の様子も、それを後押ししているのが
伝わって来て、ロイの表情も渋いものになる。

執務室に入るロイに付いて、ホークアイ中佐も続いていく。
当然、手には決済の書類の束が抱えられていた。
不在にしていた時間にも、書類は追加されていってたわけで・・・。

が、その書類を机に置くわけでもなく、決済済みの束を手に取ると
自分の持っている分と合わせて抱える。

「中佐・・・?」

「少将、こちらの分は、私で処理が済む物でしたので
 終わらせてあります。

 そちらの机に乗っていますものは、少将、ご自身でして頂かねば
 ならないものだけですので、宜しくお願いいたします」

その言葉に、自分の机の上の未処理の書類を見直す。
少ないとは言えないが、決して多すぎるという程ではない。
驚いたように自分に視線を戻す上司に、リザは唇に微かな笑みを刷いて、

「少将のお考えもわかります。
 が、エドワード君の事は、概に総統がお気めになられた事です。
 気がかりは、きちんと清算しておいて頂かないと」

少し困ったように告げられた言葉は、ロイにも良くわかってはいる。
エドワードの行動力を甘く見ていた、自分の詰めの甘さが招いた事なのだ。

「・・・わかっている」

不服そうな返答に、リザは辛抱強く話しかける。

「少将、お気持ちはわかりますが、もう少し、エドワード君の
 立場も組んでやる必要があるのではないですか?」

「?」

疑問を浮かべた視線に、言葉を続ける。

「彼を大切に思う気持ちは、少将のものです。
 が、それを受けているエドワード君の気持ちは、どうなんでしょうか?
 お二人は、別々の人間なのですから、全く同じではないはずです。
 どれほど良かれを思った事でも、受け止める者の気持ちや意思を
 無視してしまえば、それはただの押し付けになる事もあります。
 
 1度、受けている彼の気持ちも、きちんと聞いて上げる事も
 大切なのではないでしょうか?」

雨霰の如く、愛情を振り落とし続けてやっても、
植物の全てが喜んで受け止めれるわけではない。
大地に根を張っているものなら、不必要な分は流せば済む。
が、囲いの中で、それをされれば、過剰な水は、根を腐らせ、
土を流され、生きていけなくなる。
必要な時に、必要な分を与えるからこそ、花も木も
大きく成長して、美しい花を咲かせ、実を生らしていけるのだ。
彼が何を考え、何を欲しているのか。
本当に相手の事を考えるなら、その事を知ろうとせずには、
望む環境は与えられない。

落ち着いて語られる言葉に、ロイの頭も冷えてくる。

『エドワードは何度も話をしようとしていた・・・。
 なのに、自分は頑なに拒み続けていて・・・』

エドワードは最初から、ロイに賛成はしてもらえないだろうと言っていた。
なのに、わかってもらえる為に、話を聞いて欲しいと言っていたのだ。
それは彼にしては最大の思いやりであり、ロイの事を考えての行動に違いない。
行動力のある彼なら、ロイに話さずに進める事も出来た筈なのだ、
嫌、その方が事は簡単に進んだはずだ。
が、エドワードは、そうはしなかった。
それは何故か?
答えは簡単だ。 自分の為だけでなく、二人の人生だからだ。
独りの時なら、自分で考え、自分で決断し、行動する。
そんな簡単な事も、二人になれば、相手を無視して進めるならば、
独りの時と変わりないではないか・・・。

冷めてくれば、そんな事がわかってくる、見えてくる。
こんな簡単な事もわからないほど、頭に血を上らせていては、
まともな答えなど、見つかるはずもない。

ロイは、ここ最近張り詰めていた気を吐き出すように
深い嘆息を吐き出す。

そして、自分を哂うかのように苦笑を浮かべると、
不安げに窺っているホークアイを見上げ、

「そうだな・・・、少しせっかち過ぎた様だ。
 
 認めるかは別としても、彼の話もきちんと聞いてみるべきだな」

その言葉を語るロイの様子に、リザもホッとしたように気を緩める。
ここに来てからの上司の様子は、余裕が無さ過ぎたのだ。
いつも、張り詰めた気配を漂わせ、常に何かに苛々している。
そんな状況では、心身とも、安らぐ事も出来るはずが無い。

『でも、もう大丈夫ね』

少しだけ肩の力が抜けたような上司の様子に、
リザは緩く微笑みを浮かべると、礼をして静かに部屋を出て行く。
ここから先は、二人が決める事だ。
リザの立ち入る事ではない。

静かに閉められた扉の中では、真剣に仕事に取り込んでいるロイがいる。
彼女の好意と、エドワードの為に、少しでも早く、時間を作れるようにと。




考えに浸っていたロイは、ハボックの声で意識を戻す。

「着きましたよ。 じゃあ、俺はこれから司令部に戻りますんで」

予定よりロイの仕事が早く終わったため、先に見送りに出た彼は、
この後、また戻って仕事を片付けないといけないのだ。

「ああ、わかった」

「んで、明日は俺が迎えでいいんですか?
 それとも、エドが運転してきてくれる方がいいですかね?」

ハボックの言葉に、ロイは軽く驚く。
そう言えば、彼が自分の下に付くとなると、
送迎は一緒に住んでいる彼がする事になるわけだ。
階級は同じだが、先輩のハボックが、エドワードを送迎するのはおかしいだろう。

「そうだな・・・、これから送迎は、彼に頼む事にしようか」

それはそれで少し嬉しいような気もする。
が、やはりそれを認めると言うのも、複雑な気持ちだ。

「そうっすよね、俺もその方が助かります。
 けど間違っても、少将が運転して、エドの奴が乗ってるだけってのは
 外聞上悪いんで、止めて下さいよ」

ロイが如何にもやりそうな事を、先に念を押して、
司令部へと戻っていく。
その言葉に、肩を竦めながら、ロイは自分の家を見る。
灯りの燈された屋敷を、感慨深く眺める。

ロイにとって、家に点る灯りは、エドワードがそこに居ることを知らせる象徴だ。
独りの時には無かった灯りは、二人になって初めて燈されるようになった。
それは、人生を顕すのにも似ているかも知れない。
自分以外の者が居て。 その相手が照らす光りが、先へと続く道を示す事もある。
ロイは引き寄せられるように、その灯りの源へと足を進めて行った。


カチャッ
扉を開く微かな音に、パタパタと走り出してくる足音が聞こえる。
中に入ろうとすると、人が暮らしている事を示す、
温かな空気と、匂いが漂ってくる。
イーストシティーの家では、いつも当たり前だった日常が、
どれだけ幸せだったかを、ほんの少しの空白期間が、嫌と言うほど
わからせてくれた。

エドワードの姿が現れてくる。
久しぶりの姿に、ロイの視線は釘付けになる。

「お帰り~、結構早かったんだな。
 もっと、遅くなるかと思ったのに」

この前までの事は無かったように、他意なく笑みを向けてくるエドワードに、
ロイは込上げる思いのまま、手を伸ばし、彼を抱きとめる。

久しぶりに感じる恋人の体温は、温かくて、優しくて、愛しくて・・・。

ロイは強くなる腕の力を緩めることも出来ずに、
エドワードの首筋に顔をうずめる。

「ロイ?」

優しく囁かれる自分の名前を聞ける事が、どれだけ嬉しさを胸に溢れさせるか。

返事の代わりのように、埋めた首筋の白い肌に口付ける。
何度も、何度も・・・、跡を付けては拙い場所なので、
加減はしているが、その分執拗になるのは仕方が無い。
そのうち、口付けるだけでは物足りなくなったのか、
合間に肌を嘗め上げるように舌が動く仕草も混ざりだすと、
じっと抱きしめられて大人しくしていたエドワードも、
苦笑を浮かべて、引き剥がす事にする。

「こらこら、玄関でナニする気だよ。
 ほら、着替えてこいよ、食事もまだなんだろ?」

少しばかり熱の上がり始めた互いの身体に焦りながら、
引き剥がすために、軍服を引っ張るようにする動きに、
ロイも渋々と、顔を上げる。

「着替えたくない、食事も欲しくない・・・」

そんな困った事を告げてくる我侭な大人が、続いて、『だから』と言い出す前に、
彼の額を軽く叩いて、さっさと腕から抜け出すようにする。

「着替えないのは別にいいけど、用意した食事を食べないなら
 もう作ってやんないぜ?」

そう告げながら、どうすると瞳で問いかけてくる相手に、
ロイも嘆息して諦める。
が、完全には諦め切れないから、再会の口付けだけは強請る事にした。



「これは・・・」

リビングに入ると、驚きで軽く目を瞠る。
まだ殺風景なのには変わらないが、
それでも、今朝出て行った時よりも、細々とした物も
増えている。

「あんたの事だから、何も用意してないと思ったんで、
 あっちのとこから必要な分だけ、送っといたんだ」

どうせすぐに戻る事になる・・・エドワードはそう考えて、
全てを移動させず、必要な物だけまとめて運び込む事にした。
足りないものは、徐々に増やせばいい。
ロイの事だから、エドワードが止めても、持ち物は増えていくのだから。

「食事は温めとくから、先に風呂にでも入ってこいよ」

さっきから、纏わり着くように付き従ってくる相手に、
クスクス笑いながら、その背を押してやる。

そんな風にされれば、従うしかない。
ロイは、後ろ髪を引かれる思いでリビングを後にし、
着替えを取りに寝室に入る。

そして、そこもきちんと整えられていた。
イーストでロイが愛用していた小物も置かれ、
クローゼットには、持ってこなかった洋服が並べられている。
今朝までは、荒むような気がさせられていた寝室の様子も、
今ではすっかり、寛げる空間になっている。
ロイは、知らずのうちに浮かべた笑みと共に、
浴室へと入っていく。
当然、そこも快適なバスタイムが過ごせるように準備されていた。
最近は、汚れを落とすためだけに入っていたが、
今日はちゃんと、疲れを癒すための入浴を楽しんでから、
エドワードの待つ、キッチンへと戻っていく。

舌も、胃袋も、勿論、心も満足な食事を愉しみながら、
互いの近況を話し出す。
出てもらえなかった電話の理由も、手続きや手配で家を不在にしていた為とわかり、
ロイは、酷くホッとした。
そして・・・、こんな風に過ごしていれば、
エドワードがこちらに来ることを、容認してしまっている自分に気づき、
憮然となる。

「何? 口に合わないモンでもあった?」

妙な表情を浮かべているロイに、不思議そうに窺ってくる。

「いや、そんな事は、勿論ないさ」

慌てて首を振りながら返事を返すと、止まっていたフォークを
動かすことを思いだす。

ロイの意見からは、エドワードの入隊は賛成は当然出来ない。
が、だからと言って、離れて暮らすのは・・・更に有り難くない。
1番の解決策は、エドワードが入隊を諦めてくれ、
ロイと一緒に東方で過ごしてくれる事なのだが、
今の状況では、もう、それも難しいだろう・・・。

「なぁ、ロイ? ロイってば」

そんな事考えていると、食事が終わっても、ぼんやりとしていたのか、
エドワードが呼びかけてくる。

「あっ、ああ、なんだい?」

「お茶がいいか、コーヒーにするかって聞いてんだけど?」

ロイの複雑な気持ちもわかっているのか、焦れる事無く聞き返してくれる。

「ああ、そうだな・・・。 久しぶりに、君の淹れたコーヒーが
 飲みたいかな」

エドワード自身は、さほどコーヒーを愛飲してはいない。
が、ロイの為にと工夫して淹れてくれるコーヒーは、
お世辞抜きで美味しく、ロイの中では大好きな飲み物NO、1なのだ。

「OK。 じゃあ、淹れるまで、リビングで休んどけよ」

早速と片づけを始めるエドワードに、ロイは手伝うと声をかけるのだが、
いいから、いいからとキッチンから追いやられる。

暫くすると、落とすコーヒーの香が漂ってくる。
鼻腔をくすぐる香と、エドワードの気配。動くたびに聞こえてくる、
食器の音や、衣擦れの音。
そんな物を全て含めて、人は家を意識するようになるのかも知れない。
昨日までは、余所余所しいホテルと変わらなかった部屋が、
今日はすでにもう、自分の家だと実感出来るようになっている。
人の記憶に刻まれた習慣は、簡単には切りかえれないようだ。

そんな事を思いながら、寛ぎの空間に身を委ねていると、
近づいてくる気配と、労わりの言葉がかけられ、
閉じていた瞳をひらく。

「ほい、お疲れ」

「ああ、ありがとう」

手渡されたカップに、思わず目尻が下がる。
これは、イーストの家で愛用していた二人の揃いのカップだ。

一口、口をつけて味わうと、ホッと心から満足の吐息が吐き出される。

「君の味だな」

「そう?」

ロイの満足そうな表情に、エドワードも嬉しそうに、
短い言葉と、笑みを浮かべる。

しばらくそうやって、寛ぎを楽しんでいる時間が過ぎると、
ロイは徐に息を吐き出して、困ったように見つめてくる。

「全く、君は・・・」

そう呟いて黙り込む相手に、エドワードも申し訳なさそうに見返す。

「まさか、総統に頼み込むとはね。私の考えが甘かったよ」

苦笑と共に語られた言葉に、エドワードも苦笑を返す。

「でも、それ位しないと、あんたを黙らせられないだろ?」

「確かに・・・確かにそうだが。

 そこまで、してでも?」

じっと見つめてくる黒い瞳は、少しばかり哀しげな翳を浮かべている。

「ごめん・・・、あんたの気持ちはわかると思う。
 けど、俺の考えは、それとは違うんだ」

申し訳なさそうな表情を見せながらも、エドワードはきっぱりと
告げてくる。

「危ないとこから離れていて欲しいと思う、私の気持ちは迷惑かな?」

その言葉に、エドワードは首を振る。

「迷惑なんかじゃないさ。
 あんたが、それだけ俺を大切に思ってくれてるんだと思うと、
 やっぱり、そのぉ・・・嬉しいしな」

そう語る表情には嘘は無く、喜びと照れが一緒に顕れている。

「そうか・・・・。 でも、それでも?」

迷惑がられてない事にホッとしながらも、聞いてしまう。

「うん、それでも・・・だ」

視線を外さすに答えてくるエドワードには迷いは無い。
その視線の強さが、彼の意思の強さを顕している。

エドワードの返答に、無言で考え込んでいるロイに、
どう話せばわかってもらえるのだろうと、
エドワードは頭を巡らせる。
それは来る前にも、ずっと考えていた事だ。
互いが相手を思っての行動なのに、結果は正反対になってしまう。

納得させられるだけの言葉は思いつかなかった。
それでなくとも、言葉では勝てたためしがない相手なのだ。
『そっか・・・』
そこまで考えて、ふと思いついた。

納得させようとばかり考えていたから、良い言葉が見つからなかったのだ。
納得させられなくてもいい、自分の思っている事を伝える言葉なら
いくらでも、話せるのだから・・・。

「ロイ・・・、俺の母さんの事は知ってるよな?」

唐突に言われた言葉に、ロイが目を瞬かせて見返してくる。

「俺の母さんは、親父を待ってる間に、病で死んだ。
 母さんは、俺らには寂しそうな顔を見せないようにしてたけど、
 時折、何もない風景をぼんやりと見てる事があった。
 
 自分が病に冒されている事に気づいてからだろうと思うけど、
 それが段々回数が多くなっていたのには、
 俺らも気づいてたんだ。
 最初は、親父を待っている寂しさからだろうとしか、
 幼い俺たちには思えなかった。
 だから、大好きな母さんに、寂しそうにさせる親父が憎かったし、
 正直、俺らがいるのにと不満にも思ったりもした。

 でも、今ならわかるんだ。
 母さんは、寂しかっただけじゃないんだって。
 ・・・本当は、自分も行きたかったんだろうなって」

でも、行けなかった・・・、子供が居たから。
本当は、探しに旅立ちたかったのかも知れない。
せめて、死を覚悟する前に一目でも・・・。

「エドワード・・・」

「なぁ、俺があんたの言うとおり、イーストで待っていたとして、
 もし、母さんと同じように病で死んじゃったり、
 事故で逢う事無く死んだらどうする?」

「エドワード!!」

不吉な言葉を言うなと叱るように、声が荒げられる。

「そしたらあんた・・・、置いていった自分を責めるんじゃないのか?」

その言葉に、ロイは言葉も無く、大きく瞼を瞬かせる。

「あんたはきっと、連れてきた事と同様に、置いていった自分を責める事になる。
 俺は、俺の未来がどうであれ、あんたにそんな風に思われたくない。
 
 あんたが、俺の抜け殻を守ってくれていた時を、
 二人に必要だと判断してくれたと言うなら、
 俺も、今できる最善を判断して、動いていきたいんだ。

 ・・・結果として、もしそれが二人を引き裂く事柄に繋がったとしても、
 その時、それを決断した自分を・・・自分たちを、後悔したくない」

それが、生きると言う事で、ベストを尽くして行く事に、他ならないはずだから。

綺麗な琥珀が自分を映している。
酷く情けない表情を浮かべているのが見えている。
ロイは、ゆっくりと頭を振ると、静かに立ち上がり
エドワードの横に座りなおす。

「ロイ?」

相手の突然の行動に驚き、名を呼んでくる。

ロイは、酷く情けない気持ちで、驚く相手に手を回す。
そして、自分より小さな身体に、凭れるように身体を預けていく。

「・・・わかって、わかってはいるんだ。
  君の・・・言っている事も・・・」

エドワードが言っている事は正しい。間違っていない。
ロイにだって、それは解っているのだ。
ただ・・・、感情が付いていかないだけで・・・。

「私は臆病者なんだ・・・。
 君を、君を失うなんて・・・耐えれそうにないんだ」

縋るように力を強める腕。
エドワードは、ポツリと吐かれたロイの弱音を、
痛いほどきつく回された腕と同様に、心に伝わってくる。

「呆れただろ・・・、いつも年上ぶってはいるが、
 結局、弱虫に過ぎないだけなんだ。
 
 君はいつも眩しいくらい前を向いて生きている。
 でも、私は・・・いつも、後悔から前を向かざる得ないから進んでいるだけの
 意気地なしなのさ」

自分の胸に顔を伏せ、辛そうに告げてくる弱く、愚かな男を・・・、
エドワードは、どの時よりも、愛しいと思う。
常に自分を守ってくれる為に、強くあるこの男が曝してくれた姿は、
何に変えても、エドワードが守りたいと思う男そのものな気がして・・・。

エドワードは、自分の胸に伏せるロイの両頬を、
そっと手で挟みこむと、ゆっくりと顔を上げさせる。
情けない、哀しそうな、辛そうな表情は、滑稽を通り越して
痛々しくある。

「ロイ・・・、俺も臆病者なんだぜ」

互いの視線を交わらせながら、エドワードはゆっくりと伝える。

「俺は・・・俺が見る事も出来ないまま、あんたが居なくなるのは我慢できない。
 離れて、駆けつけも出来ないままで、あんたと離れ離れになるのは
 もう・・・勘弁して欲しい」

ロイが重症を追ったとき、駆けつける事も止められていた時の苦しみは
2度と思い出したくも無い。
日に日に自分の思考が歪んでいき、衰弱していく心身は
エドワード自身さえ、蝕んでいっていた。

その時の苦しみを思い出したのか、エドワードが小さく身を振るわす。
そして、その苦しみを振り払うかのように、頭を振ると、
ロイを見つめて、酷く優しい微笑みを見せてくる。
そして、そっと触れるだけの口付けを落とすと、

「先がどうなるかなんて、誰にもわかわらない。
 なら、あんたの傍に居させてくれよ・・・、頼むから」

そう告げて、また優しく口付けを落としてくる。

ロイは何度も瞼を瞬かせ、目に焼き付ける勢いで
エドワードを見つめている。

そして・・・、

「・・・全く君は・・・、どこでそんなお強請りの手を
 覚えて来たんだね」

その言葉に、エドワードは困ったように首を傾げる。

「君のは、天然なんだな」

こちらも、困ったように笑みを浮かべている。

愛し過ぎて困る相手に、傍に居させてくれと強請られて、
断れる男は居ないだろう。
エドワードは意識しての事ではないだろうが、凄い殺し文句を告げてくる。
ロイは、がっくりと身体の力を抜く。
どれだけ危険から遠ざけようとも、彼は自ら飛び込むような人間だ。
なら、もうこうなったら、自分の傍で目を光らせている方が、
まだマシだろう。

「ロイ?」

黙り込んだロイに、不安そうに問いかけてくる。

「・・・わかった」

その短い返答に、エドワードが目を瞠って見つめてくる。

「賛成するとは言えないが、理解する努力はしよう」

「それって・・・」

嬉しそうに呟かれた言葉に、ロイは重々しく頷く。

「君の入隊を認めよう」

如何にも仕方なさそうではあるが、それでも告げられた言葉は
間違いなくエドワードを喜ばせる答えで、

「ロイ! サンキュー、ありがとうな!
 俺、出来るだけ、足を引っ張らないように
 頑張るからな!」

嬉しそうに告げられた言葉に、ロイは頬が引き攣る。

『いや・・・、あんまり頑張って欲しくはないんだが』

そんなロイの思惑とは別に、エドワードはと言うと・・・。

強引ではあったが、ロイに認めてもらえた事が
余程嬉しかったのか、エドワードはニコニコと微笑みながら、
話を続けていく。

「良かったよー。これで安心して準備が出来る。
 黙ったままじゃあ、さすがに行きにくかったからな」

ホッとしたように語られた言葉に、妙な引っ掛かりを覚えると、

「準備・・? 行くって、どこにだい?」

と、聞き返す相手に、エドワードはにっこりと微笑みながら告げてくる。

「うん、士官学校」

「士官学校!!」

驚くロイに、コクリと頷く。

「総統に、入隊をお願いしたときに出された条件なんだ。
 1年からじゃなくて良いって事で、今から卒業までの期間なんだけどさ」

「何故!?
 君なら、今更、士官学校になど入らなくとも、
 少佐からのスタートが保障されているだろう!!」

慌てふためくロイの様子にも、さして気にもせずに
エドワードが答えを返してくる。

「うん、そうだけど。
 でも、やっぱ、何の訓練も受けないままは、後々拙いだろ?
 軍の事を知る時間も必要だから、ちょっと行ってくる」

「ちょっと? ちょっとって、どれ位なんだい!」

「え~と、今から卒業までだから、半年位かな?」

悪びれず答えるエドワードが憎い。

「は、半年も・・・?」

「ああ、でも週末ごとに戻ってくるし、長期休暇の時は
 あんたの下で、研修積むことになってるし」

ごめんなーと言う表情を浮かべるエドワードに、
『嵌められた』と思う気持ちが湧いてくる。

「し、しかしだね、士官学校は君が思うよりハードなんだよ」

「そうだろうな」

「野営の実地の時は、野宿も勿論だし、着の身着のまま
 野山を駆け巡るはめにもなるし」

「大丈夫だって。 俺ら、旅してる時に野宿なんて当たり前だったしさ。
 勿論、風呂も入れないなんて、ざらだぜ?」

「しかし・・・、厳つい男ばかりの中、君みたいな・・・」

小さいの禁止用語はさすがに控えたが、どうやらニュアンスで察知したのか、
ムッとした表情で言い返してくる。

「別に体術で負けるとは思ってない」

「も、勿論、君の腕っ節はわかっているとも。

 が、複数で囲まれたりしたら・・・」

一体何の心配をしているのか・・・。
呆れたような表情を浮かべて、

「そん時は錬金術使うし」

「しかしだね、士官学校は寮暮らしなんだよ。
 寝食とも全員で行うわけだから・・・」

「俺、別に他人とか、そんなに気にならないけど?」

そう、エドワードは見かけによらず豪胆な気質で
結構、図太く出来ている。

「そうではなくて・・・、君の寝姿や、入浴姿も
 見られるわけで・・・」

言ってる内に、不安になってきたのだろう、
顔面が蒼白になっている。

「ロ~イ! 何、心配してんだよ!
 士官学校だぜ? あんたが幅利かせてるような世界で、
 何かするだけの度胸ある奴がいるわけないだろ!」

そのエドワードの指摘に、そう言えばと考え付く。
今でこそ、一旦中央の派閥から離れたとは言え、
ロイの下士官からの支持は、絶大だ。
鋼の錬金術師と言えば、ロイの後見している人物としても
広く名を馳せている。
それにたてつこうとするような輩は、然程いないだろう・・・、
居ないだろうが、0でもないのだが・・・。

不安に表情を曇らせている相手に、エドワードは苦笑しながら、
手を握り締める。

「エドワード?」

「大丈夫だって。 ちょっと癪に障るけど、
 あんたのおかげで、俺は普通の軍属や、軍人より守られてるさ。
 だから、安心して待っててくれよな」

微笑みと共に、そんな事を告げられ、更に、握り締めた手を
可愛く振ったりして見せられれば、ロイも降参するしかない。

「君・・・本当に、どこかで何か学んで来たんじゃ・・・?」

またしても、ロイの不可解な言葉に、エドワードは怪訝そうな表情を浮かべる。
そしてその様子に、ロイは深いため息を吐き出す。

「君の将来が、末恐ろしいよ」

「? おう?楽しみにしててくれよ!」

見当違いな意気込みを見せてくれるエドワードに、
「まぁ、ほどほどにね・・」と気弱く返す。


もう何度目になるかわからない、諦めのため息を吐きながら、

「で、一体、いつから行くんだい?」

「えっ? ああ、来週頭から」

ケロリと返された言葉に、またしてもグッと詰まる。
今週もすでに週半場を過ぎている。
なら、彼が自分の傍に居てくれる時間など、数日しかないではないか・・・。

「君・・・傍に居させてくれとか、言ってなかったかい?」

もうこうなったら、笑うしかない。
少しの恨みを込めて嫌味を言う位は、許されるだろう。

「うん、ごめんな。
 気持ち的にはそうだけど、行動は別になる事もあるもんな」

・・・嫌味にも気づかずに、真面目に返してくれる。
そう・・・エドワードは、真剣にそう思っているのだ。

最大級のため息を付きながら、降参の旗を振る。
どうせ、彼には勝てたためしがないのだ。
勝利の女神に贔屓され過ぎているのではと、妬みそうになる位、
彼は勝ち進んでいく。
こうなったら、降参するのが、一番の処世だろう。

「余り無茶をしないようにな」

諦めを伴う励ましの言葉に、
エドワードも嬉しそうに頷き返す。

所詮、惚れたものの弱みだ。
負けるのも、彼ならば吝かではない・・・そんな風に自分を慰めながら、
優しく抱きついてくる体を、しっかりと抱きしめ返す。
多分それが・・・今、判断できるベストだろうから・・・。




[あとがき]

こんにちは~、ラジです。
ここまでお読み頂いていると言う事は、もう知ってしまわれましたね?
そう! ロイ・・・コテンパですね~。(笑)
すっかり尻に引かれております。
今からこんなんじゃ、結婚したら、目にしなくてもわかる上下関係ですね。

エドに甘く、ロイに冷たい(そんな事はないんですよ!愛情です愛情)、
私の話・・・。
ロイファンの方には、ほんま、スンマセン!!としか・・・。
いつかはきっと、報われる日もあることと思いますんで、
呆れずにお付き合い下さいね~。



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