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Selfishly

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SRT p3「互いの環境」


スローライフt(third)



             Pa3「互いの環境」
H19、9/30 22:30



「はぁ~」

鬱とおしい嘆息が、今日何度目かになるかもわからない程、
司令部で撒き散らされている。
最初の頃は、我慢していたホークアイも、今では眉間を
ピクリピクリと動かせている。

部屋の者達は、ため息をついている上司よりも、
耐えている副官の動向が気になっていて仕方が無い。

フォローの為か、気を紛らわせて欲しいのか、
フュリーが、引き攣った笑みで、美しい副官に会話を振る。

「ど、どうしたんでしょうね、少将。
 エドワード君が行っちゃって、寂しいんでしょうか?」

引き攣りながらも、ニコニコと笑みを作るフュリーの健気さに報いる為に、
リザは、少しだけ、苛立たせていた気配を緩めて、返事を返す。

「そのようね。 
 だから、最初から受けていれば、総統の横槍を
 受けなくても済んだのに」

全く、もう、と呆れたため息をつく。

エドワードが入隊したいとの願いを、強硬に反対した結果、
総統に頼み込むと言うエドワードの策略勝ちで、終わった。
が、その結果、エドワードは士官学校への入学を条件に付けられ、
今日、旅立って行ってしまったのだ。
そして、結局は、ロイは自分の望まぬ展開を、
自分の頑固さがツケと払う結果となった。

そんな仲間の会話にも気もそぞろの相手は、
またしても盛大な嘆息を付いて、黄昏ている。
それを合図に、リザは朝から、我慢に我慢を重ねていた強靭な糸を切ると、

「いい加減にして下さい。
 自分の身から出た錆に、周囲を巻き込むなぞ、言語道断です。
 ・・・余り酷いようでしたら、エドワード君に報告しますよ」

いつも冷静な彼女にしては珍しく、怒りを込めてそう告げる。

しかし、その彼女の日頃ない様にも、向けられている当人は、
芳しい反応は返さず、「エドワード・・・」と呟き、
ぼんやりと窓の外、エドワードの出て行った外へと視線を向ける。

ガチャリと不吉な音が司令部に響くと、慌てた周囲が押さえ込むように
リザを取り囲む。

「まっ、待って下さい!
 気持ちは、十分にわかりますが、それは拙いですよ」

「離しなさい! 1度、思い知らせた方が、今後の為なのよ!」

取り乱す事など見たこと無い面々は、彼女の日頃の鬱積を思いやる。

「そうですが、その後、処理に追われるのは俺たちなんすよ~!
 勘弁して下さいよー」

泣き付くハボックの様子に、くっと怒りを抑える。

「中佐、もっと良い方法があるじゃないですか、
 やっちまっても、その後苦労するのは俺らですよ。
 なら、被害を被らないように、策を打つ方がいいんじゃないですか」

策士らしいブレの言葉に、リザも深呼吸して、頭に上がっていた熱を冷ます。

「そうね、それも、尤もだわ。
 今、もっとも効果的な事は何があるかしら?」

ヒソヒソと交わされる言葉に、皆が頷くと、リザは早速とばかりに
少将の席へと向かう。

「少将、思い煩われている所に申し訳ございませんが」

そう前置きをおく相手に、ロイは気のなさそうな胡乱な視線を向ける。

それにも、どついてやりたい気になるが、ここはグッと我慢する。

「エドワード君が入る東方士官学校の特別講師の派遣なのですが」

その言葉に、ピクリと反応を返してくる相手に、
餌に喰いついた事を感じ、

「以前から、現場の士官からとの要請があったのですが、
 なかなか、要請に答える適正に見合った人物と、
 時間も無かったそうなんですが」

「それは、どういった内容だね」

さり気なさを装う気もないのか、興味心身で聞いてくる。

「はい、士官学校の授業の一環で、実践に長けている者から
 実地で教えて貰えれば、士官生にも非常に有意義な結果になると」

「なるほど、それは尤もだな。
 いくら机上で学んだとしても、実践となると、経験がモノを言う。
 で、何を教えればいいわけだ?」

机の上に身を乗り出さんばかりの相手の様子に、
リザは、勿体をつける気もなく、さっさと答えを告げる。

「体術の理論と実践、錬金術科は実地実践です」

なるほどと大きく頷く相手の目が、うざいほど輝いている。

「で、講師は決まっているのか?」

そう聞いてくるのは、勿論予想済みだ。

「いえ、分野が分野ですから適任は決まっておりません。
 人員が不足している現状で、2名の講師を送り続けるのも難しいですので、
 出来れば1名が、兼任できる者の方が良いとは思いますが」


リザの、その答えに、ロイは満足そうに頷くと、

「わかった、その件は私が引き受けよう」

と、喜色満面な笑みを浮かべて、請け負ってくる。

「そうですか。 確かに少将でしたら、双方とも十分な成果を
 おだしになられる事でしょう。

 ただし・・・」

そこで、語気強く言い切られた言葉を、ロイも繰り返す。

「ただし?」

リザは、酷薄な笑みを浮かべ、待ち望んでいた言葉を口にする。

「仕事への反古は出来ませんので、通常業務・特別事項を
 当然、こなして頂きながら、臨時の業務としての扱いになります」

その言葉を聞いた瞬間、僅かに表情が顰められるが、大きく頷き

「わかった」と宣言する。

「それと、もし業務が怠り、軍に支障が出来ると判断された場合、
 その時の講師の話は、日延べさせて頂きます」

要は、仕事を溜めたままでは、行かせないという事だ。

「わかった、呑もう」

そう返答をを返すと、先ほどとは雲泥の気合の入った仕事振りを見せる。

いきなりスピードの上がった机の上では、忙しなく決済済みに
書類が放り込まれていく。

その様子を見届けて、執務室を出て行ったリザに、
皆が、満面の笑みで頷き合っている。

「やりましたね!」

「ええ、やっぱり少将を動かすのには、
 エドワード君関連が1番ね」

悪巧みを成功させた者達のように、
満足そうに、したり顔で目配せを交し合う。

「あのぉ~、それって、大将が受ける授業なんすか?」

今の話の流れを聞いていれば、自分の上司が、そう思い込んでいるに
違いないだろう。
が、卒業前の士官学生にそんな授業が組み込まれるのだろうか?
その頃の自分と言えば、卒業試験の前の追試の補講でおおわらわだった気がする。
そんなハボックの素朴な疑問に、リザはにやりと
人の悪い笑みを浮かべ、

「さぁ? そんな事は、私の知った事ではないわね」

東方に来る前から、来てからも、何かと心労とストレスが
掛けられていたリザの晴れ晴れとした様子に、
無事に発散できたのを理解する。
そして、餌に飛びついた愚かな上司を気の毒に思うが、
同情することはない。
どうせ、自分の望むように強引に進めるだろう。
なら、捨てておいても問題は無い。
そう皆が胸中の中で結論を出すと、漸く動き出した仕事を
円滑に片付ける為に、それぞれの仕事に戻った。

仕事に急いを出しているロイには、次から次へと、
この時ぞとばかりに持ち込まれる書類や案件にも
死に物狂いで取り組むしか、チャンスを掴めそうも無いようだったが、
本人が気にしてないなら、どんな環境での職務も構わないだろう。






「ようこそ、エドワード・エルリック、鋼の錬金術師」

尊大な態度で、入ってきたエドワードをねめつける様に見、
言葉をかけてくる相手を見て、エドワードは心の中で嘆息する。
経験の中で培われた本能が、この相手が余り好感が持てる相手でない事を知らせてくる。
・・・多分、向こうも同様だろうが。


「お初に御目文字致します、エドワード・エルリックと申します。
 この度は、栄誉ある東方士官学校に入学を認めて頂きまして、
 身に余る光栄と喜んでいる所存です」

軍での目上に対する挨拶として、エドワードは、びしりと敬礼をしながら、
痒くなるような挨拶を返す。

「うむ、君の事は色々と聞き及んでいる。
 後見人の方の事もな。

 が、ここに入れば、軍の階級など関係ない。
 君は、1個人の生徒として扱わせて頂く事になる。
 如何に、大総統のお声掛りであったとしてもな」

後見人の言葉のニュアンスが、微妙に揺らいでいるのを聞き取ると、
どうやら、ロイに対して、含む所が多々有るのだろう。
ロイの倍とは言わないが、倍近くになりそうな初老の男は、
軍階級から言えば、中佐か良くて大佐クラスの評価だ。
若くして成り上がってくる、ロイや自分の事を疎ましく思っていても仕方ないだろう。

「勿論です。
 未熟な私に、色々とご指導・ご鞭撻頂けることを
 心よりお願い申し上げます」

そう言いながら深々と頭を下げると、低姿勢なエドワードの態度に気を良くしたのか、
漸く、入ってから始めて椅子を勧める。
それから、延々と軍部時代の自分の誉れや、栄えある東方士官学校の卒業の偉業生達の話を
繰り広げられ、顔に張り付かせていた笑みが、麻痺してきそうだと
思った頃に、扉をノックされる事で助けられた。

「入れ」

折角の盛り上がっていた気を削がれて、少々不機嫌そうに入室の許可をする。

「失礼致します、サー。
 お呼びとお伺いして、馳せ参じました」

これまた、軍にしても、少々古風すぎるような返答に、
エドワードは、入ってきた相手をじっと見詰める。

すらりとした長身の相手は、エドワードと同じ制服を着ている所をみると、
同じ学生らしい。

「うむ、アイマー寮長、紹介しよう、こちらは、エドワード・エルリックだ。
 諸事情で、3回生の卒業まで君らと同じ授業を受ける事になった。
 卒業前の忙しいときだが仕方が無い、君が良く面倒を見て遣りたまえ」

如何にも厄介だと思っている事を強調するように告げると、
後は、もう興味が無くなったのか、語るのに満足したのか
さっさと、自分の文机で乗っていた文書に目を落とし始めた。

「了解いたしました、サー。
 エルリックの事は責任を持ちまして、面倒みさせて頂きます」

敬礼を返して返された言葉に、気のなさそうに相槌を打つと、
退室を示す仕草をする。

失礼致しましたと揃って敬礼し、パタンと扉を閉める。

「エルリック、こちらだ」

無駄を一切見せない言動で、さっさと廊下を歩いていく。
付き従うように足を速め、学長質のある階から降りると、

「お疲れ~、あの学長、無闇に無駄話長いだろ?」と

労わるような笑みを向けて、気さくに話しかけてくる。
エドワードが面食らっているのを見て取って、
はははっと頭を掻くと、右腕を差し出してくる。

「ようこそ、東方士官へ。
 俺は、寮長をやってる テオドリッヒ・アイマーって言うんだ。
 皆、テオと呼んでるんで、君もそう呼んでくれ」

どうやら、あの学長を苦手に思っているのは、
自分だけではないようだ。

「宜しく、エドワード・エルリックだ。
 面倒かけるけど、宜しくな」

そう挨拶を返しながら、手を握り返すと、
テオと言う青年は、嬉しそうに握った手に左腕も乗せて
手を振り返してくる。

「いやぁー、嬉しいよ。 あの高名な鋼の錬金術師と
 机を並べられるなんてさ、俺、親戚中に自慢できるぜ」

そして、寮を案内される間に、色々な話を交わしていく。
あの学長は、権威主義で、しかも、愛好しているのが、
古臭い軍閥主義の凝り固まりで、仰々しい作法が大好きな嫌な奴だとか、
寮が、学年によって分かれていることやルール、規則など、
さらりと流すと、話はエドワードと軍の事に流れていく。

「なぁ、君は実際軍での事件とかにも関わってたんだろ?
 軍の人たちって、どんな感じなんだ?
 事件とかの時、俺らみたいな下士官や新米はなにやってるんだ?」

卒業前で、当然、軍に関心が傾いているのだろう。
矢継ぎ早に聞かれる事にも、知っている限りの事は話してやる。

テオは、普通の市民の出で、家族に軍に入ると言った時、
えらく驚かれたそうだ。
が、強固な反対をされなかったのは、一重に当方司令部の軍人が
市民から受けが良かったせいらしい。

「俺も、配属されるなら東方がいいんだけど、
 こればかりは、わかんないもんなぁ~」

学生達は、卒業試験の成績如何で、それぞれの配属先に送られる。
卒業生は、当然、他の司令部からもやってくるので、
配属先を希望しても、余り希望が叶うことがないらしい。

そんな当たり前な事も、知らなかったエドワードにしてみれば
驚きのことだった。
自分の境遇の良さを、感謝するより無い。

そして、そんな話をしている間に、寮の入り口が見えてくる。

「ここが俺ら3回生の寮で、『鷹巣』だ」

「鷹巣?」
妙な名前に、エドワードが聞き返す。

「そう。 1回生の寮は『卵の間』、
 2回生は『雛鳥の部屋』って愛称で呼んでる。

 1回生の間は大部屋で、8人一部屋で集団行動を身に付ける。
 2回生になると、4人部屋で、実地訓練のグループ単位で動く。
 んで、俺らは2人部屋で、個人の能力を磨くってのが、趣旨の部屋わけだ」

「へぇ~」

学校生活には常に縁がなく短い在学期間のエドワードにしてみれば、
寮生活なぞ、摩訶不思議の世界だ。

「で、君にはすまないんだが、部屋わけはとうに終わってるんで、
 相方が無しの一人部屋になるんだけど、構わないかな?
 
 もし、不慣れで困るような事があれば、適材な人物に声をかけてみるけど?」

エドワードにしてみれば、慣れてない寮生活で、同室の者にまで
気を使わなくてはいけないのは、少々、厳しいので、

「いや、いいさ。 困った事があったら、テオに聞けばいいんだろう?」

エドワードの頼るような言葉に、テオの表情が、パッと明るくなる。

「勿論だよ! 困ったことがなくても、いつでも俺の部屋に
 遊びに来てくれよな」

「ありがとう、それと、俺の事は、エドでいいぜ。
 皆、そう呼んでるから」

その言葉に、嬉しそうに頷くと、寮内を案内してくれる。
案内されながら、興味津々の視線に晒されるが、
幼少から、人に注目されるのに慣れているエドワードは、
さして気にも留めずに、案内された箇所を覚えていく。
時折、刺さるような視線の主だけは、ちらりと見返して
記憶に留めておく。

「で、ここが君の部屋なんだ。
 ちょっと、皆と外れてて申し訳ないんだけど、
 昔、舎監が使っていた部屋だから、使い勝手はいいはずなんだ」

入学制限がある士官学校では、年度決まった人数しか入ってこない。
その中で、私情でリタイアする者がいれば、空きも出るのだが、
今の年度の学生達は、士官学校でも珍しく、落ち零れる者が0だったそうだ。

案内された部屋は、覗いたテオの部屋よりも少々小さめだが、
一人で過ごすには、十分な広さだろう。

「ここは、浴室や洗面所もついているから、
 かなり便利だよ。
 で、他の部屋には鍵は無いんだけど、ここには鍵が付いてる。
 でも、規則として、扉は常時開閉できるように、鍵はかけないで
 おいてくれ」

それに頷きながら、さすが軍の寮だと思う。
プライベートより、異変に即時対応する環境が優先されること自体、
司令部と変わりない。

夕食時に皆に紹介するよと告げ、テオが部屋から出て
エドワードが一人残る。

「ふぅー」

どさりと備え付けのベットに倒れこむ。
思うが侭に生きてきた彼と言えど、慣れない環境に入れば、
些かでも緊張をする。
これから半年、ここがエドワードの住居になるのだ。
一人の部屋で、しみじみと思う。
ロイとの甘やかされた環境から、一転の変わりようだが、

「悪くないな」

と、ロイが聞いたら嘆くような独り言を呟く。
僅かに身が引き締まるような緊張感は、ここ最近味わってなかった感覚だ。
旅を続けていた頃は、常に警戒と緊張の中に身を置いていた。
それは、疲れる事なのかもしれないが、張り合いも出る。
総統と約束した事は、実はもう1つある。
それを実現させる為にも、のんびりと学校生活を満喫している場合ではない。
士官生達の6分の1しか時間が残されていないエドワードにとって、
ここで学ばなくてはいけない事は山ほどある。
久しぶりの高揚感に、うきうきした気持ちを抑える事が出来ない。

そんな風に、エドワードがこれからの学生生活に目標を掲げている頃、
彼にすっかり忘れ去られている人物は、折角得た貴重な役回りを逃すものかと、
せっせと、積み上げられ続ける書類と格闘を続けていたのだった。



[あとがき]

いよいよ、エドワード士官学校生活のスタートです。
っても、本当の士官学校は、当然、行った事ないし、
学生生活も終わって、かなりの時間が経過している私には
記憶が朧なものが・・・、なんで、ここの学校は私の脳内で
作られた事なので、曖昧・蒙昧な記述が飛び交っても
寛大なお気持ちで、お許しくださりながら、お付き合い下さい。



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