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Selfishly

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SRT Pa6「~The fun is the back~」


スローライフt Pa 6

  ~The fun is the back~

★ act1   19、12/10




講堂に集められた生徒たちは、さすがに士官学校生らしく、
キビキビと入って来ては、それぞれの所定の位置に整然と列を組んでいく。
それでも、少しだけいつもとは違って、ヒソヒソと小波のように交わされる談笑が広がるのは
今から話される内容を察して、浮き足立っているからなのだろう。

今年に入学して間もないエドワードには、ピンと来ないのだが、
後少しで、士官学校生の楽しみのクリスマス・ニューイヤーの休暇が始まる。
エドワード達最高学年の3回生にとっては、これが最後の長期の休みとなり、
その他の学年の生徒にとっては、半年後の年度末休暇に次いでの楽しみの時となる。
エドワードは普通の士官学生とは違って、既に軍に入隊しているので、
休暇期間が始まると、司令部に還っての勤務が待っているはずなのだ。
自分の帰りを、首を長くして待っている相手を思えば、
エドワードとて嬉しくないはずは無い休暇期間になる。

エドワードがぼんやりと、先日の帰宅の時に交わした内容に意識を移しそうになった時、
号令と共に、壇上に数人の教師達が登場し、思考は目の前の教師達に切り替えられた。

「皆も知っていると思うが、12月23日より新年の9日までの18日間は
 冬季に休暇に入る。 それに伴って、寮は25日から7日までの間閉鎖となる。
 特別な事情があり止む得ず延長する者がいる場合、理由を付けて申請書を提出の事。
 許可の下りなかった者は、速やかに帰省組み同様に24日までに退寮すること」

休暇期間、寮の閉鎖期間を告げた後、お決まりの休暇期間の士官学生たる慎みをもった行動への
注意事項、処罰内容、学業をおろそかにしない心得etc、etc・・・。
長々と告げられる内容に、大半の生徒は内心うんざりし、読み上げている教師の方も
恒例の責務を早々に果たす為に、早口で話していく。
漸く最後の原稿を捲る段階になると、教師も生徒たちも明らかにホッとした表情を
滲ませていた。

「・・・と以上だ。 この東方士官学校生の名に恥じない休暇の過ごし方を心がけるよう」

そう締めくくられた言葉に、生徒全員が一斉に敬礼して返す。

その後、教師代表でダン・ホール教師が、
休暇までの特別補講のスケジュールを読み上げる。

「特別補講は、休暇が始まり帰省期限までの2日間だ。
 補講になる者は自ずとわかっているだろうが、出来るだけ休暇までにクリアーしろよ。
 付き添って居残りをさせられる教師の方々の苦労を思うならな。

 それと、休みに入ったからと浮かれてばかりいれば、新年後の授業で
 泣きを見るのはお前達だ。
 軍に入れば、休暇だなんだは一切関係ない。
 己の身を守りたかったら、寸暇も惜しまず精錬しろ。
 ・・・生き残りたければな」
 
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべて、そう語り終わると、講堂内が一瞬静寂に包まれる。
エドワードは、ダン・ホール教師の言葉に、ここがただの学校でない事をしみじみと思い知る。
生徒たちは全員が軍の予備軍で、軍人なのだ。
例えヒヨッ子と言えど、ここに入った限り例外はない。
生き残る為の術を、ここで学び身に付けれなければ、明日の身の上は、
ダンが言ったとうりの末路だ。 
エドワードは気を引き締め、ダン・ホールの言葉を胸に刻む。

静まり返った講堂の壇上の上では、ダン・ホールと替わって3回生の学年主任の教師が前に進み出てくる。

「今から名前を読み上げられた者は、前に集まるように。
 それ以外の者は、速やかに退出を」

主任教師の言葉に、生徒たちも何事かと首を傾げたり、目配せを交し合ったりしている。
ゴホンと改まった空咳をして、主任教師が次々と名前を読み上げ始める。

「テオドリッヒ・アイマー」
「はい!」
自分の名前を呼ばれ、一瞬驚いた表情を浮かべるが、すぐさま敬礼し返事を返す。

「ギルベルト・バックハウス」
「はっ」

「ブルーノ・ブライテンバッハ」
「は、はい」

「ダニエル・ビンッス」
「はい」

その後数人が同様に読み上げられ、生徒たちの中に何事がと好奇心が湧き上がっていく。
今呼び上げられている者は、3回生の中でも成績や各分野で好成績を上げている優等生の生徒たちばかりで、
同級生、下級生達にも名前を知られている人物ばかりだからだ。

「そして最後に、エドワード・エルリック」

エドワードの名前を呼び上げられ、皆と同様内心では驚くが、
表面上は冷静に返事を返して敬礼を行う。

「以上だ。 その他の者は退出」

「アクション!!」

後ろに控えていた教師の号令で、全員が整然と一斉に退出していく。
数分もおかずに、静かになった講堂では、馴染みのメンバーを交えた
10名ほどの生徒が、主任教師の周りを囲む。

緊張した面持ちで自分の周りを囲んでいる生徒を一巡し、
主任教師や、その他の教師も壇上から降りて、生徒たちに歩み寄ってくる。

「君達を呼びつけたのには、特別な任務が言い渡されたからだ」

(任務?)

教師の言葉に質問や聞き返すなどの愚行をするものは、誰一人としていなかったが、
内心での予想もしない単語に、動揺は隠せない。
士官学生にとっては、『任務』と言う単語は、然程聞きなれている言葉ではない。
彼らには、実習訓練と言う単語の方しか聞いた事がないせいだ。

生徒たちの動揺にも、上機嫌なにこやかな笑みを絶やさずに、
主任教師が誇らしげに話を続けていく。

「なんと! 大総統直々に、我ら栄えある東方士官学校の生徒へと任務を頂いた。
 来る25日の日に、セントラルで公式の式典が催される事は、皆も知っている事と思う。
 国を挙げての大々的な式典は、全司令部の精鋭が警護や警備、進行に当たって行われる」

そこまで話して、咳払いをわざわざしながら間を取り、

「そこに今年度は、士官学生の中から優秀な者にも、その栄誉ある任務に加わる名誉を
 与えてくださる事となった。

 そして、その第一回目に、この東方司令官学校からとのお言葉を頂いたのだ」

我がことのように、嬉しげに語られた言葉に、集められた生徒たちは一部以外は、
さすがに驚きを示す。
教師陣は、その生徒たちの様子に、目を細めて嬉しそうに頷いている。

驚いてない一部の内一人、エドワードは『任務』の単語を聞いた段階で、
次は何の任務だと思い浮かべる程度だったのは、さすがに軍に所属してきた期間が
長かったからだろう。
そして、もう一人の驚かなかった人物は、セントラルに高官の親族がいると言っていたから、
その筋から聞いていたのかもしれないギルベルト・バックハウスだ。

「詳細は追って連絡がある。 それまでに精進決済し、
 東方士官学校生の名に恥じない精勤を示せるように。 以上だ」

締めくくりの言葉に、敬礼と掛け声を行い、生徒たちも解散を言い渡される。

講堂を出るまでは沈黙を守っていた生徒たちも、一旦外に出ると口々に
話をし始める。

「任務・・・、う~ん、なんか不思議な気分だよな」

ダニエルが、腕組をしながら首を振りながら話す。

「おう、でも大総統直々って、ちょっといい響きじゃないか?」

ブルーノの返事に、まあなと頷いている。

「僕も、家族に休暇が遅れる事を伝えておこう」

嬉しげな様子で、話に加わってきたのは、顔見知り程度の相手だが、
筆記の科目で優秀な成績を上げている生徒だ。
エドワードも、ノートを何度か借りたことがある。

「でも、俺たちが加わる部署って、どんな事するんだろうな?」

テオが実質的な疑問を口にする。
その言葉に、皆が色々と憶測や希望を楽しそうに話し始めているが、
エドワードは頭の中で答えを考えていた。

『っても、それだけ大きな式典なら、警護人数とかはばっちり揃えてるだろうから、
 士官学生位なら、機材運搬か市街の見回りの付き添い位だろうな』

間違っても、要の中枢部には立ち寄りも出来ないだろう。
皆の喜びに水を差すのも申し訳ない気がして、エキサイトしていく生徒たちの話を
聞きながら、先日の帰省時の話を思い起こし、重いため息を心の中に吐き出した。



「エドワード。 今年は君の休暇に合わせて休みが取れてね。
 今度こそ、クリスマスは一緒に過ごせそうだよ」

司令部から戻ってきていきなり、楽しそうに告げられた言葉に、
エドワードが一瞬、表情を曇らす。
エドワードのその表情に、ロイは笑い声を上げて頬に口付けを落としてくる。

「心配しなくても、別に無理やりとか中佐にごり推したわけじゃないさ」

機嫌よく返ってきた返事にも、エドワードは胡乱な視線を消せずに見上げる。

「本当だとも。 何なら、中佐に聞いてくれても構わないよ。
 今年はどうしたことか、年内に休暇の消化を終わらせるようにと、大総統直々にお達しが来てね。
 で、急いで調整したところ、その頃でないと休みに入れないとのホークアイ中佐のお言葉だ」

ロイの話に半信半疑ながら、一応休暇は無理押ししたわけではないようだと判る。

「へぇ・・っ。 軍って、そんなに休暇を奨励してたっけ?」

エドワードは過去のロイや軍のメンバーの勤務状況を思い起こして、
小さな疑問を口にする。

「そうなんだよ、まぁ休みは義務付けられていたが、休暇は余程がない限り
 取れないのが相場だったんだがね、珍しい事もあるもんだ。

 が、そのおかげで君とクリスマス休暇が過ごせると思えば、
 総統には感謝しても、し足りない気持ちになってくるね」

上機嫌に、エドワードの腰に腕を回し引き寄せ、コツンとおでこをくっつけては、
エドワードの瞳を覗き込んでくる。

「嬉しいね、君とゆっくり過ごせるなんて」

低く囁かれた言葉にも、ロイの気持ちが滲み出ているように
エドワードの心をくすぐってくる。

「・・・ん」

頬をほんのりと染め、小さく肯定を返すと、ロイは破顔して小さく唇にキスを落とすと、
楽しそうに語り出す。

「何をしようか? 君がやりたいこと、行きたいところがあれば、
 一緒に全部やって、回ってみよう」

触れ合う程の近さで囁かれる言葉を聞きながら、エドワードは慣れない甘い雰囲気に、
身じろぎをしながらも、内心はロイの上機嫌が移ったのか、
うきうきと湧き上がる気持ちを表すように、相手に回していた腕に本の少しだけ、
力を加える。
ロイにもそれが伝わったのか、笑みを一層深くすると、

「楽しみだね」

と、心から嬉しそうに呟き告げてくる。






『拙いよな・・・』

その時のロイの様子から、去年はテロで邪魔され、今年はエドワードの特別任務となると、
ロイの機嫌も急降下を辿る事は間違いない。
週末に帰って、伝えるのも気が重い。 いやもしかしたら、軍から連絡が入って、
すでに知った確立の方が、遥かに高いだろう。
どちらにせよ、戻るのに気が重くなるのは変わらない。

どちらの事も総統からとなると、褒美なのか、嫌がらせなのか。

さて、どうしようか・・・と、思い悩みながら週末の帰省までの期間、
頭を悩ませて過ごす事になったのだった。




《あとがき》

更新、遅れていて申し訳ありません!!
毎日、覗きに来て下さっている方々に、本当に申し訳ないです。m(__)m
で、一編にアップが難しい状態ですので、act毎に小まめに更新するのに変えさせて頂き、
時間の余裕がある時に上書き更新でアップして参ります。
休みの日は(無事に取れれば!)、まとめてアップもさせて頂きますので。

今回のお話は、X'mas企画です。
私にはX'mas休暇なんざ、1日も有りませんので、
せめてこの二人だけでも、思い出に残る休暇を過ごして欲しいものです。



★ act2  19,12/11


ここ最近の帰宅の中では、比較的に早く帰路につく。
本来なら明日は休みたかったのだが、来週からの休暇の調整の為、
午後から出勤しなくては、どうにも仕事が処理しきれそうもないのだ。
それでも、エドワードとのクリスマス休暇を過ごせると思えばこそ、
貴重な週末の休みを潰してでもと思っていたのに、とんだドンデン返しにあったものだ。
不機嫌な気分は、エドワードの待つ家に、帰っている車の中でも浮上する事もなく、
低空飛行で持続中だ。

ハボックは、上司のその様子に、少々同情の視線を、バックミラー越しに送る。
最初は上司の休暇がクリスマス頃になると言うので、素直に羨ましがったりもしたが、
今の状況になれば、『あんなに楽しみにされてたのにな』と、可哀相な気がしてくるのだ。
ロイの自慢の家政夫が、どうやら恋人へと昇格し、二人が絆を深くして行っているのは、
最近では、司令部の直属の面々も知っている。
別に言葉にしたりなどの野暮な事はしないが、皆の胸の内では暗黙の事柄だ。
最初は驚きもしたし、素直に喜べないとこもあったが、
二人の結びつきを知っていけば行くほど、最良の結果なのだと思えるようになった。

「元気出して下さいよ」

思わずかけた言葉にも、ロイはむっつりとしたまま返事も返してこない。
ハボックは仕方無さそうに肩を竦めると、後は無言で車を一刻も早く、
主の邸に着ける事に専念する。

漸く着いた邸では、上司が待ちかねている相手が戻っているようで、
温かな灯りが漏れている。
それを視界に納めると、ロイの頬が僅かに綻ぶ。
目ざといハボックは、それを視界に納めて、クスリと小さな笑みを浮かべる。
『う~ん、大将の威力は絶大だな』

クリスマス休暇をエドワードと過ごせる事を楽しみにしていたロイの元に、
セントラルで開かれる公式行事に士官学生が参加する事が耳に入ったのは、
数日前だった。
そのメンバーに、エドワードが入っている事を知り、ロイの機嫌は急降下を辿っていた。
別段、表面上変わったようにも見せないし、部下に八つ当たりするような
大人気ない事はしない上司だが、極端に少なくなった笑みと言葉に、
近しく、毎日顔をつき合わせる面々には、嫌と言うほどわかる落ち込みだ。
『全く、総統も何を考えてるんだか・・・』
迷惑なこった、と思いながら、車を門につけると、ロイの扉を開けに降りようとする。
が、ハボックを待つ事無く、さっさと扉を自分で開けると、慌てるハボックを尻目に、
早足で玄関へと歩き去っていく。

「まっ、待って下さいよ、少将! 駄目っすよ、周囲の確認も終わらずに出ちゃあ」

「大丈夫だ。 出るときに確認してある」

敷地まで入ってしまえば、ロイの練成陣が作動して、ちょっとやそっとでは、
ロイに危害は加えることは出来はしない。

「っても、決まりごとなんですから~」

追いついたハボックが、ブチブチと文句を言ってくるのを無視して、
玄関の扉に手をかける。

「もう帰っていいぞ」

素っ気無い相手の態度にもめげず、ハボックは入るまで見送りますと
扉の前で動かない。

ロイは肩を竦めて、鍵を回し扉を押すと、丁度車が入った事で、
気づいて迎えに出てきていたエドワードが立っていた。

「お帰り、お疲れさん」

ロイの表情から察したのか、エドワードは困ったように苦笑を浮かべ、
後ろにいるハボックに視線を送る。

ハボックは1度頷くと、エドワード同様の苦笑を返して、
そっと扉を閉めて、帰っていった。

「はぁー」

深いため息を付きながら、ロイがエドワードに腕を回して抱きしめてくる。
エドワードは、回した手で背中を軽く叩いてやると、ロイはコトリとエドワードの肩に
額を落として呟く。

「全く・・・。 いつも、邪魔が入るんだな・・・」

心底嫌だと言うように、苦々しい言葉が漏れてくる。

「ん・・・、ごめんな」

前年はロイの職務の関係上。 今年は、エドワードの学校の関係上。
恋人になってから、毎年のように障害が出てくれば、ロイとて嘆息の1つや2つは
付きたくもなるだろう。
そんなロイの思いを慮って、エドワードは小さく謝りの言葉を告げる。
ロイは身体を起こして、エドワードのせいではないと言うように頭を振り、
小さく笑みを作って向けてくる。

「ただいま、それとお帰り」

最初の単語は、エドワードのくれた挨拶に。後の言葉は、ロイからの挨拶だ。

「ん、ただいま」

エドワードも、そう返事を返して、落とされる口付けを大人しく受け取る。
ぎこちなくも、段々とこういうスキンシップを出来る位には、
エドワードも自分達の関係を意識し始めている。
照れて避けるよりは、くすぐったさを我慢して受け取るほうが、
ロイが喜ぶと判ったからだ。

ロイの仕掛けた口付けが終わり、エドワードから軽く返す口付けをしてやると、
漸くロイの顔にも笑みが浮かぶ。

それにホッとしたように、エドワードが話し出す。

「ロイ、夕食はまだだろ?
 今日は早く着いたんで、腕ふるって用意してあるからな」

そうエドワードが語ると、嬉しそうに瞳を輝かせて見せるが、
触れたりないとばかりに、回された腕は外れない。

エドワードは、仕方ないなぁ~と笑いながら、ロイの腕を外し、
腕を引いて部屋まで連れて行ってやる。

久しぶりの二人での夕食を楽しみ、気持ちにもお腹にも余裕が出来てくると、
漸く疑問に思っていた事を語りだせるようになった。

「でも、おかしくないか? 総統、こんな嫌がらせするような人じゃないだろ?」

「まぁ、それは確かに。 茶目っ気のある方だから、悪戯は仕掛ける方だが、
 嫌がらせになる程の事は、されるような方ではないな」

「だろ? なのに、今回は計ったようなタイミングだし・・・」

う~んと二人で、頭を捻る。
そして、エドワードが今更気づいたと言うように、ロイに話しかける。

「で、ロイは何で警護に呼ばれなかったんだ?
 公式の行事だから、司令官とか、指揮官とか呼ばれたりしてたんじゃないのか?」

エドワードの言葉に、そう言えばと考える。
今回はセントラルでの行事だからかと、さして気にもしてなかったが、
警護の人数は多くて困る事はないはずだ。
しかも、それだけの大人数を動かす警護となれば、司令部ごとから指揮官が呼ばれても
おかしくはない規模になるはずだ。

「そう言えばそうだな。 応援の人数は要請されたが、東方からは指揮官は
 要請されていなかった・・・」

「それって妙だよな。 応援の人数って、少なかったわけ?」

「いや・・・、大部隊とはいかないが、中部隊の人数くらいは手伝いに借り出されている」

「で、指揮官はどうするわけ? セントラルにも居るっていっても、
 各司令部の応援全員を組み込んでとなると、結構大変なんじゃないのか?」

一面識も無い者も当然居るわけだから、セントラルの各指揮官が自分の部隊に組み込むとしても
人数は限られてくるだろう。
そんな場合は、通常は指揮官を努めれるクラスの者も、一緒に呼ばれるのが普通だ。
司令官クラスはさすがに、自分の司令部を空けるわけにも行かないので、
そうそう呼ばれはしないだろうが、指揮官クラスは確かに必要だろう。

そんな当たり前の疑問に気づかずに、エドワードに指摘されて始めて気づくとは・・・。
自分の移動に、エドワードの入隊や入学、続けざまに舞い上がっていた事変に、
気を取られ過ぎていたと言うわけだ。

「・・・全く、私としたことが間抜けな事をしていたもんだ」

「色々あったもんな」

二人して苦笑を交し合う。

「取り合えず、明日、総統に電話をしてみよう」

「うん、それが一番の早道だよな」

解決の目処が付くか付かないかは、今のところ判らないが、
少なくとも、明日電話すれば、妙な出来事の苛々は解消される答えが出るだろう。
そう考えれば、折角の二人で過ごせる貴重な時間を、
不愉快な話題で喰うのは、勿体無い。

離れていた時間を埋めるように、この1週間にあった出来事を
それぞれが交互に話し出す。
毎日、同じように出勤して帰ってくるだけとはいえ、
ロイの仕事は多種にわたり、話すことには事欠かないし、
エドワードにしてみれば、初めてづくしの士官学校生活だ。
毎日が新鮮で、初めての出来事ばかりと言っても過言ではない。
互いの話に、時には憤慨し合い、面白い出来事には大笑いしあい、
少しだけ語られる苦労話や、哀しい話には、言葉少なく互いの気持ちを伝え、
深夜遅くまで語り合うと、少しだけ照れをみせあいながら、
仲良く手を繋ぎ寝室に入っていく。
そして、休みの二人の朝は、少しだけ寝坊して起きるのが恒例だ。


今日は、ロイの方が先に出なくてはいけないという事で、
遅めの朝食を、ゆっくりと時間をかけて取り、出勤の迎えの車が来るまで
他愛無い話をして過ごす。

「じゃあ、行ってくるよ。 君も、気をつけて行ってきなさい」

少しだけ寂しそうな顔を見せるが、ロイは笑みを作ってエドワードに言葉をかける。

「うん、ロイも無茶するなよ。
 次に帰る日が決まったら、また連絡する」

「ああ、楽しみにしているよ」

部下の見ている手前、エドワードを抱きしめるわけにはいかないが、
ロイは、少しだけ手を伸ばして、エドワードの前髪を指に梳くって、
別れを告げる。

そのロイの仕草に、ドキリとさせられ、少しだけ頬が熱くなる。
そんなエドワードの動揺等、お見通しなのだろう。、
ロイは優しく微笑むと、車に待たせている部下に声をかけて、
出かけてった。

暫く見送っていたが、熱くなった頬を両手で叩き、
気合を入れながら、家に入っていく。
これから暫くの不在の準備をしてから、戻らなくてはならない。
ロイが一緒の時には、そういう準備に時間を取られるのを嫌がるロイが、
エドワードの邪魔をして、なかなかさせてくれないのだが、
今日は、彼も出勤の為に出て行った。
戻ってきたときに、少しだけでもロイが慰められるように、
整えておいてやろう。
そう決めれば、少々だるさを訴える身体を宥めながら、
パタパタと忙しく立ち回り始めるのだった。




「お忙しい中を申し訳ありません。
 今度の行事の警護に関してなのですが」

ロイがそう切り出すと、受話器の向こうから、気の良い返事が返ってくる。

『いやいや構わないよ。 いくらなんでも、そろそろかかって来るだろうと
 思っておったからな』

その返答に、ロイは自分の迂闊さを確信した。

「はっ。 私の失態でした。
 で、指揮官はどう致しましょう?」

『ほっほっほ、そうじゃな。 今からその期間に空いている者は居るかね?』

笑いながら告げられた言葉に、ロイも苦笑するしかない。

「はい、私で宜しければ丁度空いております」

『そうか、そうか。 いやぁ~司令官直々に手伝いに来てくれるとは
 ありがたい事だ。 優秀な部下は持つものじゃな』

明るく返された返答に、ロイもご尤もですと相槌を返す。

『では君にお願いしようかな。 申し訳ないね、休暇中に手伝いとは。
 奉仕精神、大いに結構! 良い子にはご褒美が贈られるそうじゃから、
 君もサンタに願い事をしておきたまえ』

「心しておきます」

『うんうん、では詳細は送った資料を読んでおいてくれ給え。
 今日、明日にはつくじゃろうから』

その言葉に、小さく自嘲の笑いを返して、挨拶をし終わると、
静かに受話器を置いた。

総統の様子からして、エドワードが士官学校に入学した頃から考えていた事なのだろう。
さすがに普通の要請では、ロイが出るのには無理がある。
が、休暇中のボランティアとなれば、部下達も仕方なくも目を瞑ってくれるだろう。

「亀の甲より、歳の功とは言ったものだ。
 なかなか、毎回手が込んでいる」

それに振り回される自分は、やはりまだまだ若輩者だからなのだろう。
が、どれだけ歳を重ねようとも、エドワードの事となると、
冷静に処していけるかは、甚だ難しい問題だろうが。



結局、ロイは休暇が始まると同時に、エドワードより一足先にセントラルへ
向かう事になる。
電話をかけた直後に手渡された資料に、東方からの応援のメンバーと、
士官学校生の編成が組み込まれた部隊を任される事になっていた。

それぞれの士官生の適正に合わした部隊への編成表に、
総統からの直々のメッセージが書かれていた。

『エルリック少佐に、司令官の仕事振りを教えるにはもってこいじゃろうて。
 いずれは副官に付く者だ、しっかりと指導してやるように』と。

部隊編成表の一箇所に書かれていた配置には、

『エドワード・エルリック少佐、司令官補佐の見習いに付けるよう』と明記されていた。

ロイは、どうやらこれが、良い子へのご褒美なのだろうと、苦笑する。
浮かれてばかりでは、いられないぞとの警告のような褒美を有り難く胸にしまい。
真剣な表情で、部隊の担当ポジションを確認して行く。


《あとがき》

今回も短い章で申し訳ありません。
少しずつでも、上書き更新してX'mas企画として間に合うように頑張ります!



★ act3        12/16


広くない会議場で、整然と並んでいるのは東方からの応援部隊だ。
この部屋は、当方司令部のメンバーの司令室として用意された、
セントラルの中央軍部内の一室なのだ。

異例の事ではあるが、今回の東方司令部の担当した警護の地区は、
式典のある会場内の警護と用意が主になっている。
本来なら、重要な場所の警護の会場内はセントラルの中央司令部が請け負って
当然なのだが、地理に不慣れな者よりも慣れているものが市街を担当するほうが
効率的にも、警備網も判りやすいだろうとの総統の判断で、
異例の配置となった。
最初は、不満や異論を唱えたそうにしていた中央の高官たちも、
イシュバールの英雄で、国家の英雄と名を馳せているロイ・マスタング少将が
直々の指揮を執ると聞いて、引き下がるしかなくなったのだ。


部屋の中には、後から参加してきた司令官学校生も、各々の振り分けられた部隊の
最後尾に、緊張した面持ちで並んでいる。
彼らにしてみれば、これが始めての軍部での仕事であり、作戦になる。
普段陽気なエドワードの学友のブルーノも、やや緊張に頬を引き攣らせている。
新米は最後尾に並ぶのが、こういう場合は通例なので、初の顔合わせも兼ねている中、
司令官の参上を、皆が静粛に待ち受けている。

その中で、エドワード一人が、やや困惑気味に、手短な隊列の一番最後尾に並んでいる。
東方では、顔馴染みの古参もおり、居心地は悪くはないのだが、
自分に振り分けられた部隊がなかったので、最初にどこに整列すれば良いのかに戸惑った結果だ。

エドワードの配置は、司令官補佐の見習いと言う、士官学生にすれば破格の配置だ。
が、鋼の錬金術師で長く軍に功績を挙げていたことや、現在士官学生の中で唯一、
正規の軍人として所属しており、少佐の地位に居る事を考えれば、
別段、おかしな事ではないと、階級社会の軍人達は、概ね疑問にも思っていなかった。
やっかみがあったとしたら、まだ完全な縦社会に慣れていない、学生の中からだろう。

特に、親族に高官の祖父を持つ、ギルベルトにすれば、『自分を差し置いて』と
やっかみ混じりの言葉を、陰で呟いているらしいと、情報通のクルトがそれとなく
助言してくれていた。
クルトは、今回参加出来なかった事を残念がってはいたが、
別段それで、仲間との間柄には水を差すような事もなく、
クリスマス休暇を楽しむ為に、実家へと戻っていた。

「敬礼!」

扉の近くで控えていた軍人の一人が、良く通る声で号令をかける。
ザッと音が響くほどの一同の敬礼の中、東方司令官であり、今回の指揮官となる
ロイ・マスタング少将が補佐官を伴って入ってくる。
室内には、先ほどとは比べ物にならない緊張感が走り、誰一人咳払いの一つも
たてる者はいない。

早足で入って来たロイは、ゆっくりと一同に視線を廻らすと、
颯爽と敬礼を返して、手を下ろす。
それを合図に、整列している者達も、一糸乱れずに敬礼を下ろす。
ロイが、ゆっくりと口を開いて語りだすのを、皆が固唾を飲んで聞き入っている。
彼らにしてみれば、自分達の司令官なのだが、今回は差ほど官位の高いものはおらず、
司令官直々に指揮を執る部隊で働けるなど、初めての者も多いのだ。
それだけあって、皆の期待や興奮は、嫌が上でも上がっている。

「本日より、総統のご判断で、皆の下に士官学生が加わる事となった。
 当初の打ち合わせどうり、学生ではなく、一兵卒として扱い指導するように。
 テロや犯罪者にとって、学生か正規の軍人かは関係ない。
 そして、私の指揮する中で、学生だからという事で劣るだろうと言う事は関係ない。
 着いていけないものは、いつ何時でも部隊から外れてもらうつもりだ。
 今日今より、自分の立場をしかと認識を強くして、全力で先輩達に遅れを取らぬよう
 心かけてもらう、いいな!」

ピンと空気が張り詰めるような言葉に、学生達は背筋が伸び、「はい!」と
それぞれの立ち位置から返事を返す。

その返事に鷹揚に頷くと、鋭い一瞥を1点の、一人の人間に投げる。

「エルリック少佐!」

その呼び声に、エドワードが驚きで思わず敬礼もするのも忘れて、
ロイの方を見上げる。

「君は、どこに並んでいるんだ!」

その声が、あまりに厳しく冷たく飛び、聞いていた者達の全員が、
思わず首を竦める。

「はっ!」

ロイの誰何の声で、エドワードは自分が過ちを犯したらしい事を悟り、
表情を硬くする。

「君は、他の士官学生よりも軍に所属していた期間は長いのだろう。
 なら何故、自分の立つ位置も判断できないんだ!
 私の副官が、いつもどこに控えているかもわからないほど、
 君の目は節穴だったのか!」

出来の悪い者に苛立つように、ロイは顔を顰めエドワードに叱責の声を飛ばす。
そのロイの態度に、エドワードは自分の甘さを痛感する。
軍に入って動く上で、自分の立場を認識していないものなどいはしない。
自分の甘さが、今の自分の立ち位置になってしまっているのだ。

『ここは、学校でも、家でもないんだ』
エドワードは心を引き締めて、今から始まる任務を考える。

「申し訳ありませんでした!」
 
寸暇をおかずに敬礼と謝りを伝え、室内の端を小走りに移動し、
ロイの横に控える補佐官の横に並ぶ。

ロイは、鋭い一瞥をエドワードに投げ、今のワンシーンに度肝を抜かれている面々に、
顔を向け直す。

「いいか! 先に言っておく。
 例え仕官生と言えど、甘えるな!
 己の立場を弁えない者、判らないものなど、この部隊には必要ない。
 全員、心して任務に中れ、いいな!」

「はっ!!」

ロイの言葉に、全員が敬礼と共に返事を返す。
今の緊迫した1シーンで、集まる者たち全員が、認識を変えたのは間違いない。
マスタング少将が後見の鋼の錬金術師贔屓なのは、巷では広く知られていた事であったから、
正直、今の一幕は驚愕と驚嘆を生んだ。
そして、新鮮な感動も皆に与えたのだ。
指揮官として公平な判断や、叱責は、下にとっては尊敬に値する。
身びいきばかりでやっていける世界ではないのだと。
特に士官生達には、ロイの厳しさを垣間見る良い機会になっただろう。

エドワードも、ロイの意気込みを痛いほど感じさせられた。
軍属の立場だった頃なら、大目をみても許される事もあっただろう。
でも今は、自分が覚悟を決めて入隊したのだ。
今は、昔より、遥かに上官と自分の差を思い知らなければいけないのだ。
ロイの叱責が、エドワードの目を覚ましてくれた。

『やり遂げてみせる』
エドワードは心の中で、自分に誓う。
厳しい背中を見せてくれている、ロイの期待に背かないようにと。




その後からの時間は、瞬く間に過ぎていく。
短い時間の中で、覚えなければいけないこと、やらなければいけないこと、
考えなければ追いつけないことが山ほど溢れている。
軍の統制した動きに慣れている先輩の軍人達は、大よその指示でも即座に動けるが、
士官生にとっては、言われた指示さえ判らないで右往左往している。
そうなれば、当然ミスや思い違いも発生させ、至るところで叱責の声が飛ぶと言うものだ。

「馬鹿者! 先に言った指示を聞いてなかったのか!
 何の為に、わざわざ資料を作成して渡してると思ってるんだ。
 副官が、指揮官の意図を読めずに、どうやって補佐をするつもりだ!
 再度読み直して、頭に叩き込んで来い。 それが終わるまで、出てくるな」

そんな中で、もっとも叱責を受けているのは、重役に付いているエドワードに他ならない。
最初の頃こそ、エドワードの待遇を妬む気持ちや、羨む気持ちを持っていた者も、
今では、替わりたい等とさらさらも思うこともない。

別段、エドワードの能力が劣るからと言うのではない。
準備時間もなかった中ながら、エドワードが一番任務の内容を把握し、
精通しているのは、皆にも伝わっている。
それでも、叱責が減ることがないのは、一重に司令官の要求が高いせいだろう。
指揮官のロイは、エドワードにベテランの軍人でも難しい完成度を要求していく。
ロイの衆目が認めている優秀な副官は、今回は留守番役件代理として東方に残っている。
おかげで、今回臨時の副官が付いているのだが、ロイの指揮のキレが鈍るのは致し方ない。
それをエドワードが補うように言われているのだが、それが如何に難しいのかを痛感している。

空けられた部屋で、一人資料を読み直し、それに必要な資料も熟読しているエドワードに、
士官生たちも、同情の励ましをかけていく。

「エド・・・、大丈夫か?」

心配そうに顔を覗かせたのは、テオだった。

「? ああ、俺は全然平気だぜ? そっちは、どうだ?」

心配して様子を伺いに来たテオが拍子抜けする位、エドワードの表情は明るく、
山ほど怒鳴られていると言うのに、落ち込むどころか、喜んでいる風でもある。

「あっ、ああ。 こっちは、まぁまぁ大丈夫だ。
 先輩方が、きっちりと指導してくれてるんで、俺も何とか着いていけてるし」

その返事に、エドワードは更に嬉しそうな笑みを見せる。

「そっか。 きちんと指導できる人間がいるって事は、司令部内が統制取れているって事だよな」

「そうだな・・・、本当にそうだ。 
 俺は今回参加させてもらって、本当に勉強になるし、良かったと思っているよ。
 でも・・、お前は大丈夫か? そのぉ・・・、厳しいだろ・・司令官」

自分を慮ってくれている学友に、エドワードは笑顔を向ける。

「うん、そうだな厳しいよな。
 でも、軍はそういう所だし、そうでないと俺だけでなく、周囲の皆にも
 危険な目に合わす事になるだろ?
 だから、足りない点はビシバシ言って貰えて助かるよ」

嬉しそうに話すエドワードの様子に、テオは安堵の息を心のうちで付く。
そして、何事にも前向きなエドワードの様子に、逆に元気付けられた気になった。
優しいだけでは学ばせられない事もある。
時には理不尽な事で、腹をたてる事もあるが、それを我慢して行くのも
軍で働く上には、必要で大切な事なのだ。

「そっか・・、なら良いんだ。 大変だろうけど、頑張れよ」

テオの言葉に、エドワードは親指を上に立てて答える。

「じゃあ、俺も行ってくるな」

「ああ、ありがとう。 頑張れよ!」

心配で様子を窺いに来てみて、逆に応援される自分に苦笑しながら、
テオはその場を離れていく。

必死になって資料を読み直し、理解できなかった点は調べて、
それでも判りにくい内容は、今回の副官に説明を乞う。
そうして、漸く全貌がクリアーになると、エドワードは頭の中で
自分の任務を組み立てていく。
『自分がどう動いていけば、指揮官がもっとも能力を発揮できるのか』を。


戻ってきたエドワードに、ロイは厳しい表情を崩さずに、
今回の任務や警備、配置や隊列、トラブル用のミッションなど等、
微細に質問を繰り返していく。

エドワードが淀みなく返答を返していき終わった頃に漸く、
少しだけ表情を緩めて、再度参加の許可を与えた。
エドワードを見ているその瞳が、僅かに緩んで自分を見ている。
それだけで、エドワードにとっては十分な気力になる。

その後も、副官と一緒に方々を走り回り、漸く一段落をついた頃に、
副官が気が緩んで人心地がついた為か、漸く会話らしい会話を話し始める。

「エドワード少佐が来て下さって、本当に助かってます」

「デュラー副官?」

エドワードは、嬉しそうに自分を見ている相手に視線を上げる。

「いえ、デュラーと。 階級上、エルリック少佐の方が上ですので」

嫌味でなく、自然と返された言葉に、エドワードは首を振って返す。

「いえ、それは出来ません。
 現在は、デュラー副官の見習いとして付かせて貰ってるんですから」

エドワードのその返事に、デュラーは小さく笑むと「わかりました」と頷く。
副官の見習いとして付いたのだから、直属の上司はロイではなくデュラーになるのだ。
階級上はエドワードの方が遥かに上だが、司令官よりは新兵卒として扱うように厳命されている。
そうなれば、エドワードの言葉を有り難く受けたほうが良いだろう。

「そうですね、上官を名指しで呼べるなんて、今後一生ないでしょうから、
 有り難く呼ばせていただきます」

砕けたデュラーの返答に、エドワードも笑いながら頷く。

「でも、二人の時には出来れば名前でお願いします。
 階級が上の方に畏まられると、やはり居心地が悪い気がして・・・」

ポリポリと頭を掻きながら苦笑する人の良い青年に、エドワードも親しみが増し、

「わかりました、じゃあ、俺の事もエドワードでもエドでもいいんで、
 エルリック少佐は止めて下さい。
 士官生しては、そう呼ばれると居心地悪いんで」

と返すと、デュラーも笑いながら頷いて了承する。

「でも本当にエドワードさんが来てくれて、ホッとしましたよ」

「俺? なんで? 来て、手間はかけてるけど、役に立ってないぜ?」

暫く話していくうちに、二人の言葉も砕けて話せるようになっていく。

「とんでもない! 本当は俺位が、司令官の副官なんて、恐れ多いんだ。
 でも、今回は階級上自分より上が居なかったのもあって、
 取り合えずはって事になったんだけど、それだけでも十分プレッシャーだよ」

おどけたように、大袈裟に方を竦めて、お手上げの仕草で首を振るデュラーに
エドワードも、笑いが噴出していく。

「恐れ多いって・・・。 でも、ちゃんとこなしてると思うけど?
 副官の素質があるんじゃないか?」

「まさか、それはエドワードさんが、俺の代わりに叱られてくれてるからさ。
 俺が気づかない点を、ああやって教えてくれてるんじゃないかな、司令官は」

デュラーの意外な言葉に、エドワードは軽く目を瞠る。

エドワードの表情に、小さく微笑むと、デュラーが話を続けていく。

「俺はね、光栄にも副官を務めさせてもらってから、1度として叱り飛ばされた事はないよ」

少しだけ寂しそうな表情で、そんな事を告げてくる。

「それは、デュラーさんがきちんとやっているから・・・」

その返しに、デュラーは小さく首を横に振る。

「俺の場合はね、俺のフォローを司令官がして下さってるのさ。
 だから、大きなミスも無く、何とか副官に立たせて貰ってるわけ」

唖然として聞いているエドワードに、デュラーは自嘲の笑みを向ける。

「だって考えてみろよ? 君が叱られた事は、本来は俺が先に気づいて
 手配しておけば済んだわけだ。
 でも、滞っているからこそ叱責が飛んだんだ。
 
 君がさっき、少将からの質問にきちっりと答えていただろ?
 あれを聞いていて、正直驚かされた。
 やっぱり、直属で長く居る人達は違うなってさ。

 俺には正直、あの半分も司令官の作戦が理解できているとは言えなかったからな。
 やっぱり、鋼の錬金術師の称号は、だてじゃないんだって、皆思ってる」

エドワードは、軽い驚きでデュラーの言葉を聞いている。
自分自身、足りない点ばかりで、必死に着いていっているだけだったが、
周囲には、そんな評価を貰っているとは。

「そんな・・・。 いや本当にまだまだだぜ?
 ホークアイ中佐なら、もっと的確に読んで動いていくしさ」

そうだ。 彼女なら、自分のように手間をかける必要もなく、
常にロイが動きやすいように全てを手配しているはずだ。

「それは、勿論そうだろう。 だって、彼女は少将の副官で長く働いてるんだから。
 でも、君は来て1日やそこらで、出来るようになってるじゃないか、
 凄いことだよ」

デュラーの素直な賛辞に、エドワードは曖昧な頷きを返すのに留める。

エドワードにとっては、副官のあるべき姿とは、ホークアイ中佐の姿だ。
冷静で端的で、正確な彼女の仕事振りを見ていれば、
確かに、誰が副官でも、未熟だと思うしかないだろう。
・・・まぁ、色々言動面では副官の地位を遺脱している事もしばしばかも知れないが。

『まぁ、ハードルは高いほうがやる気も出るしな』

短い期間だ。 彼女のように完璧無比とはいかないだろうが、
ロイの足を引っ張る真似だけはしたくない。
そう心に誓いながら、デュラー副官の顔を見る。

「じゃあ、互いに力貸し合って、頑張ろうぜ!
 二人足しても、ホークアイ中佐には及ばないかもだけど、
 せめて、司令官に『まぁ、このコンビなら及第点だ』と言わせてみせよう」

エドワードの意気込みの言葉に、デュラーは目を瞠り、大きく頷いた。

「そうだな、勿論だ。 折角の機会だ。 ここで学ばないと、勿体無い」

明るい返答に、エドワードも笑顔で頷き返す。

 
「君達は、何時まで指揮官をほっておく気かね?」

呆れたような声が背後から飛び込んできて、エドワードとデュラーは
思わず飛び上がりそうになる。

「「少将!! 失礼しました」」

振り向きざまに、異口同音で告げられた返事に、ロイも苦笑して返す。

「さっさと報告に来たまえ。 ぐずぐずしていると、このまま泊り込みのはめになるぞ」

「はっ!」

敬礼を返して、先を歩く少将の後につき従っていく。
振り向きざまに、一瞬だけエドワードと視線を交える。
その視線の色に、少しだけ拗ねた色を読んで、エドワードは小さく笑う、心の中で。

式典まで、残すところは後1日。
無事に成功の元終わらす為に、全員で足並みを揃えて踏ん張るしかない。
二人の副官の歩く足音も、力強く司令部に響いていく。



[あとがき]

今日更新できたのは、明日がなんといきなり夕方出勤に変わったからなんですよ~。
うちの店長、気まぐれにサービスをしてくれるんで。
ありがたいことです。o(^o^)o





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