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Selfishly

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~The fun is the back 4~完結


スローライフt Pa 6

  ~The fun is the back 4~



午後から始まった式典は、順調に進行している。
今は司令部内の講堂で、永年勤続や功労賞の授与式が行われているはずだ。
正装に身を包んだマスタング少将も、指令を副官に預けて参列をしている。
さすがに、広場での一般参加のスピーチの時には、指揮に戻ってくる予定だが、
それまでの間、エドワードとデュラーで会場内の警備を守り通して行かねばならない。
ピリピリと緊張感が張り詰めているのは、何も二人だけでは無い。
お膝元ではない東方が、セントラルの中央司令部と会場内の警備を任されているのだ。
本の少しのミスも、些細な失態も、司令官の顔に泥を塗る事になるのだから、
皆、必死だ。

「エドワード、講堂内の参列者が動くそうだぞ」

「はい、すでに入り口の警備は人数を移動して増強してあります。
 念のため、総統には別ルートからの移動を確保して、警備に当たらせています」

「よしっ! じゃあ、後は無事に最後のスピーチ会場まで行って頂き、
 少将と指揮権を交代して、スピーチ終了を待つばかりだな」

「そうですね。 司令官のお迎えも、数人の警護を動かして出迎えに行かせてます」

先々に、あらゆる事態を想定しての布石の見事さは、デュラーも驚かされるばかりだ。
エドワードの凄さは、1つの事柄から、瞬時に複数の予測を考え出し、
それぞれに対応策を組み立てていける速さが、並じゃない事だろう。
国家錬金術師の頭脳の優秀さを、実感させられる。

デュラーは漸く自分達の大仕事のラストが見えてきたような気がして、
内心ホッと息を吐き出す。 そうなると、襟首まできっちりと止めている上着を
緩めたくなって仕方が無い。 正装は下士官にはないが、普段開けていても許される襟元は
閉めなくてはいけない。 これが、結構息苦しいものなのだ。
何度も襟元を緩めるように引っ張っていると、背後から現れた少将に咎められる。

「デュラー、気を引き締めろ。 これで終わりではなくて、これからが最大の山場だ。
 気を抜けば、足を引っ張られる事になるぞ」

その声に、デュラーは飛び上がるように振り向く。
エドワードは既に気づいていたのか、慌てるでもなく向きなおして敬礼をしている。

「ご苦労だった。 何もなく進んでいるか?」

問いかけに、エドワードがいくつかの連絡事項を告げている。
それを黙って聞きながら、頷いている上司の二人を見ていると、
まるで長く寄り添っていた部下と上司のようにも見える。
多分、彼らの根底にある信頼度は、俄かで副官を務めさせてもらっている自分とは、
深さも広さも違うのだろう。
デュラーの中には、悔しいとか腹正しいとかの気持ちではなく、
こうして信頼できる関係を持てる二人が、心底羨ましいと思った。
そしていずれは自分も、そんな上司や部下達と頑張って行きたいとも。

一通りの報告が済むと、デュラーは指揮権を返上すべく敬礼をする。
「では、私めは副官任務に戻ります」
ロイも同様に敬礼を返して、了承を告げる。

時間に合わせて、会場内には市民が詰め掛けている。
ざわざわとした喧騒が、小波のように広がり、大総統の登場を待ちわびているようだ。

そこに、周りを警護のものと、後ろには軍の高官を引き連れて、
にこやかに総統が司令部から歩き出してやってくる。
市民から上がる歓呼に、時たま手を振って答えてやりながら、
微笑んでいる表情は、気のいい好々爺だが、眼光も視線も他を圧する存在感を
発揮している。
ロイの背後で敬礼して、通り過ぎるのを見守っているエドワードの前にくると、
「ご苦労さん」と小さな労いをするお茶目も忘れてない。
それに少しだけ頭を下げて礼を示すと、後は周囲の様子に注意を張り巡らせて行く。
緊張が高まっているのは、ロイも同様のようで、示す背中に気迫が漂っている。

会場内に組み立てられた建物に、総統から順番に登っていく。
短期間でも、華麗に壮大に仕上げられた櫓は、市民の目を奪い
壇上に立つ人々への好奇心を、嫌が上でも高めてくれるようだ。
なのに、エドワードの感情は粟立っていく。
「?」
勇壮に建てられた堅固な建物・・・なのに何故、こんな妙な違和感が
生まれてくるのだろう・・・?
原因を追究しようとする思考の動きが、上手く働かない。
『何だっけ・・・一番最初に見たときに、感じたのと同じ感覚だよな?』
深く思考に落ち込む時の癖で、エドワードの注意が薄れていく。

「エルリック少佐?」
さすがに、エドワードの様子の変化に最初に気づいたのは、ロイだった。
任務中に、気を逸らすなぞ、エドワードに限って有り得ない。
となると、今彼が思考していることは、とても大切な、
とてつもなく重大な事である可能性が高い。

エドワードの頭の中では、最初とその後見た映像が、早送りで流されている。
「そうだ・・最初に見たときには、妙な構造だと思ったんだ・・・。
 何か組み立て上、おかしな気がして・・・。
 で、その組み立て方法は、どうだったっけ?
 主軸の柱・・・組んで支える枠組み・・・、支柱の数は合って・・・」

完成された建物を見たときの映像が浮かんで、瞬間答えがわかった。
俯いていた顔を咄嗟に上げると、自分を窺っているロイの顔が目に飛び込んでくる。

「ロ、少将! 支えが持ちません。
 あれは、長くは人を乗せていれるだけの、強度がない!」

そう口早に告げると、次の瞬間には走り出していく。

「エ、エド?」 呆気に取られたデュラーが、持ち場を離れるエドワードを
咎めるように名を呼び、引きとめに動こうとすると、サッーと腕で遮られる。

「少将?」

呆気に取られているデュラーの横では、ロイが良く通る声で、指令を飛ばしていた。

「道を空けろ! エルリック少佐を、建造物まで最短距離で進ませろ。
 そして、警備のものも、周囲に居るものは一人残らず、退去しろ。直ぐにだ!」

司令官の指示には絶大な効力がある。
例え、どんな矛盾した、理不尽な指令だとしても、絶対順守は鉄則だ。
あっと言う間に、会場までの花道が開かれ、エドワードはひたすら走り続ける。
そして、次第に撤去して交代していく兵士達の動きに、
ロイがエドワードの言葉を察してくれた事がわかった。

スピーチは続いている。
これを止める事は出来ないのだ。 

「なら、間に合わせるしかないー!」

ゆらりと建物が傾ぐのと、エドワードが手を打ち鳴らすのと、
しゃがみこむのが、ほぼ同じに行われた。

建造物を囲む半径数メートルが、綺麗にくりぬかれた様に消え去る。
市民の側からは、見えない位置だ。
壇上のものも、微小な揺れを感じはしたが、強風のせいかと思い直すと、
代わらずスピーチを続行しているようだ。

「ま、間に合った・・・」

距離のある練成だが、さして体力を失う事も無い、今のエドワードには。
が、焦燥感は気力を喰うので、無事に練成が間に合った事に、
エドワードが思わず脱力で、座り込む。
地面に付いた手の平を見ると、少し手袋が泥で汚れている。
今のエドワードには、別に練成時に手を打ち鳴らす必要はない。
が、用心の為に、打ち鳴らして練成をする癖を付け直したのだ。

パンパンと手を打ち鳴らしながら、立ち上がる。

「一体・・・何が?」

聞こえた呟きに、ゆっくりと振り向くと、デュラーを引き連れたロイが
立っていた。
一連の出来事の意味を、掴み損ねているデュラーの呟きに答えたのは、
横に立つ上司だった。

「建物を支える強度に無理があったのだろう。
 だから、急いで練成で補強した。
 そうだな、エルリック少佐?」

冷めた冷静な声に、エドワードだけでなく、デュラーも心臓を鷲掴みに
された心地になる。

「そうです。 申し訳ありません。 下見に訪れていたのに、見過ごしていたのは
 私のミスです」

深々と頭を下げ、謝罪を示すエドワードに、静かな厳しい声が降りてくる。

「顔を上げろ。 歯を食いしばれ」

ロイの宣言に、怯む事無く見返し、エドワードは姿勢を正す。

パァーンと乾いた音が、大きく鳴り響く。

「少将!」

驚いたのは、成り行きに出遅れたデュラーだけだった。

「着いて来い。 続けて警備を行う」

吐き捨てるように告げられた言葉に、叩かれた頬を気にする風もなく、
エドワードが返事を返す。

「Yes、sir!!」

その後は、スピーチも無事に終了し、式典の閉会まで何事も起こらず終わった。
今は、式典終了後の総統、高官達の祝賀会の警備担当者が配置に付き、
後のものは、片付けに追われている。
ロイも主賓として参列しているので、式典の事後報告書は、
デュラーとエドワードが作成している。
この警備データーを元に、次の式典の参考資料に加えられていくのだ。

そして、当然ながら、一番最初に行った事は、建物の設計図の確認だ。
直ぐに建築業者の現場監督から1枚と、司令部に提出された物とを照らしあわしてみる。
複雑そうに組まれた中に、所々主軸となる柱が減らされている。
それも見た目にはわかりにくい場所を、ポイントを選んでだ。
司令部に提出されているものは、何の問題も無い完全な完成品。
そして、建築業者に配られたものは、不完全品。

「偶然や、ミスとかじゃないよなぁー」

「ああ、ミスならこんなに巧妙な場所ばかり、細工できないだろうし。
 確認しようとも、設計図を作成した会社が消えてれば仕方ないよな」

しかも、誰がその会社に依頼したのかも、たらい回しになった結果で
どこが発端かもわからない状態だ。
陰謀の匂いがしていても、調査は長引くだろう。

「まぁ、俺らに出来るのは、式典までの警備だからな。
 こっから先には、お膝元に調査部が居るんだ、エドが気に病む事じゃない」

机に腕を組んで、その上に顎を乗せているエドワードの様子からも、
少々、落ち込んでもいるようだ。
励ましのつもりで、慰めの言葉を告げる。

「でも、エドだから気が付いたんだぜ。 おかげで、難は逃れられたしさ。
 そのエドを叩くなんて、少将も厳しすぎるよな」

そう腹正しそうに言いながら、伏せているエドワードの頭を撫でてくる。
デュラーのその言葉に、エドワードは慌てたように目線を上げ、
話し出す。

「えっ? それって、誤解だぜ?
 あそこで処罰を与えとかないと、事が終わって厳罰対象に上がるのは、
 俺とかの副官なんだぜ? 先に叱責して事実を作っていれば、
 さすがに直属の上司を越してまでは、処罰できないだろ?
 だから、ロ・・少将はあそこで派手なことやって見せたんだ。
 あの叩かれたのだって、音ばかりで別に痛くも何ともなかったしな」

デュラーは、撫でていた手を止めて、説明してくるエドワードを
驚くように凝視する。

「本当だぜ? おかげで、お咎めなしで済んで、総統からは
 未然に防いだ事に対して、お褒めまで頂けただろ?」

必死に告げてくるエドワードの様子に、デュラーは完敗した気にさせられた。
別に打ち合わせたわけでもなく、互いが互いで読みあい察し合っての行動だ。
しかも、少将とエドワードが庇ってくれたのは、自分なのだろう。
会場整備は、副官に一任されていた職務だ。
その会場内で、建物に対する不備があったとすれば、
副官の自分の責任だ。 エドワードも同席に付いているとはいえ、
あくまでも見習いの補佐なのだから、お咎めを受けるほどでもない。

「君らは全く・・・」

デュラーは込上げてくる感動で、エドワードの頭に置いていた手をガシガシと
掻き混ぜる。

「痛い・・・痛いってば、止めろよ」

エドワードの制止の言葉にも、躍起になって掻き混ぜてやる。
その内、エドワードも笑い声を上げて、やり返そうとしてくる。

ガチャン

「お邪魔だったかな?」

今まさに二人で掴みかからんばかりの状態の時に、音を立てて空けられた扉から、
祝宴に参加しているはずの、少将が入って来た。
揉みあっていた二人は、急いで身なりを改めて、敬礼をして迎え入れる。

「少将、祝宴は?」

デュラーの怪訝そうな質問に、ロイがアッサリと「抜けた」と答える。
そして、二人が仕事をしていた机の上を見ているかと思うと、
徐に言葉を告げてくる。

「資料の作成か? ご苦労だな。
 が、今日はもう遅い。明日の君らの慰労会まで結構待ち時間があっただろう?
 その時に終わらせるようにすればいいから、今日はもう上がりなさい」

ロイの言葉に、言われた二人は戸惑いを浮かべるが、先に気を取り戻し、
ロイの気持ちを察したデュラーが、エドワードの返答を先行する。

「わかりました。 お言葉に甘えまして、私は失礼させて頂きます。
 明日中には、必ず資料はお手元にお届けさせて頂きますので」

そう告げて、敬礼した後に退出しようとしたデュラーにロイが声をかける。

「デュラー副官。 短い任務の中ではあったが、良く遣り通してくれた。
 君が副官として頑張ってくれた事、嬉しく思う」

ロイの言葉に、デュラーは深々と礼を返して、静かに扉を閉めて出て行った。

そして、残された部屋には、奇妙な沈黙があたりを占めている。
「そのぉ・・・」「えっ・・・と」

どちらも歯切れの悪い言葉を呟きながら、視線を周囲に泳がせている。
そして、相手の様子を窺うように視線を向けると、
バッチリと目線が合ってしまった。
瞬間、息を詰めた後。

「済まなかった!」
「ごめん!」

二人して、叫びながら頭を下げる。

「えっ?」「なに?」

同時に重なった言動に、おやっと言うように相手を見る。

「いや・・・、さっきは君を叩いてしまっただろ?
 君のせいではなかったんだが、あそこで示しておかないと、後々・・・」

正装の為、被っている制帽を欝陶しそうに脱ぎ捨てる。

「そんなの当たり前だろ? 叩いたって・・・音ばかりで、耳のほうが痛かった位だぜ?
 ロイが気にする事じゃないよ」

「エドワード・・・」

嬉しそうな笑みを浮かべて、自分を呼ぶ相手に怪訝そうに見上げる。

「名前で呼んでくれたのを聞くのは、久しぶりだな・・・」

そんな些細な事を、心底喜んでいるロイに、エドワードは少々、驚きもする。
自分たちは任務の最中なのだ。 今は、二人きりだから少しだけ規律を緩めて
話してはいるが、本来、遥か上の上司と部下では、弁える言動は当然の事だ。
ロイも、少しだけ疲れているのかも知れない、恋人に甘えたい位には。

「俺の方こそごめんな。 もっと早く気づいていれば、失点なんか付けられなくて
 済んだのに・・・」

ロイが陣頭の指揮を執っているのだ、失点などではなく、加点して評価を上げる位でないと、
いけない時だったのに。

しょ気ているエドワードの様子に、今度はロイの方が、驚き慌てる。

「失点なんかになって無いさ。 それどころか、総統からお褒めを頂いてね。
 我々にご褒美まで下さったんだ」

「・・・本当に?」

疑わしそうな様子に、ロイはポケットに仕舞い込んでいた封筒を出して見せる。

「ほら、これだよ」

嬉しげに示された封筒からは、ロイとエドワード宛の連名の宛名しか読めない。

「それって、何が書かれてるわけ?」

エドワードの疑問に答える為に、ロイは封筒を開けて中身を取り出す。
何やらチケットのようなものが数枚・・・これが、ご褒美なのだろうか。

怪訝そうにしているエドワードに、ロイはチケットに記載されている文字を読み上げる。

「セントラルテーマパーク優待券に、その会場内に建てられているホテルの宿泊券だ」

「テーマパーク!?」

読み上げている相手と、告げられた言葉が不似合い過ぎて、
思わず聞き返す声も、大きくなる。

「そうだ。 今回無事に事故を未然に防いだ御礼にと、
 総統閣下直々に手渡してくださった。
 私の休暇は年内まであるし、君は功労として、明後日からから3日間有給扱いだそうだ」

「有給・・・テーマパーク? 
 もしかして、俺とあんたで行くわけ?」

男二人で、遊園地・・・。 何やら、寒い気がしてくる。
確か、セントラル郊外に作られているテーマパークは、国の最大の規模を誇っていて、
充実したアトラクションに、徹底されたサービスを誇り、民衆に多くのリピーターを
持ち、「夢の楽園」のキャッチフレーズで売り出しているのは
エドワードとて、情報としては聞き及んでいたが・・・、まさか、この歳で
男二人で行く事は、考えた事もなかった

複雑な表情でチケットを見つめているエドワードに、ロイも苦笑を浮かべる。

「私も、最初はどうしたもんかと思ったんだけどね。
 総統がお孫さんを連れて行かれたとき、大変喜ばれたそうなんだ。
 で、それ以来、家族サービスと言えば、このテーマパークが
 浮かんでくるらしい。 
 私にも、たまには家族サービスをしてやりたまえとおっしゃってね。

 君が嫌なら、遊園地で遊びまわらなくとも、ホテルでゆっくりと過ごすだけでも
 どうかと思って・・・」

気恥ずかしいのは、ロイの方が更にだろう。
その歳になって、遊園地で家族サービスと言われても、
相手は子供ではないのだ。 誘うにも、抵抗も大きいだろうし。
口篭り、途切れ途切れに誘いをかけてくるロイの様子が、ちょっぴり可笑しくて、
エドワードは抑えきれずに、笑い声を噴出してしまう。

「プッー、遊園地・・・あんたが?
 観覧車とか、メリーゴーランドとかに乗るんだ?」

ゲラゲラと声を上げて笑い出すエドワードに、ロイはムッとしたような表情を作り
対抗してくる。

「だから言ってるだろ。 別に遊園地で遊びまわらなくても良いじゃないか!
 ホテルでゆっくり過ごすだけでも、私は十分嬉しいんだよ、君となら!」

それだけ言い切ると、拗ねたようにプイッと顔を背けてしまう。
さすがに、笑いすぎたかと反省しながらも、エドワードはからかいたい気持ちが
抑えられない。

「ふ~ん、遊ばないんだ。 じゃあ、俺が遊びまわっている間、
 あんたは独りでホテルで、ゆっくり過ごすんだよな?」

「・・・別に遊ばないとは言って無い。
 君が回ると言うなら、私だって一緒に付いていくさ」

「じゃあ・・・連れてって。
 俺も、ロイと一緒に行くなら、別にどこでもいいよ?」

そんな嬉しい言葉を、不意に投げかけてくるエドワードは、
本当に・・・、愛しくて仕方が無い。

「エドワード・・・」

漸く機嫌を直したロイが、嬉しそうにエドワードに手を伸ばしてくる。
温かい腕に囲われながら、『まだ、任務中なんだよなぁ』と懸念が浮かび上がってくるが、
今の時だけは、少しだけ軍規にも目を瞑っていてもらおう。
優しく啄むように降り注がれる口付けを受けながら、
自分とロイとのご褒美を許してやる。

少しの時間、それぞれの恋人不足を補うと、漸く帰る事を思いつく。

「エドワード・・・、今日は私の方の宿舎に・・・そのぉ・・・」

「だ~め! さっきは、ちょっとだけ目を瞑ったけど、まだ任務中だぜ?」

ロイが言い出そうとしている言葉など、内容を察することなんて簡単だ。
言葉を遮って、釘を刺しておくのも忘れない。
飴と鞭は、上手に使い分けないと。

途端に、ガックリとする相手に、エドワードは仕方ないなぁと思いつつも、
少しだけ譲歩してみせる。

「少将、お帰りの道の護衛に付かせて頂きます」

敬礼して、そう告げてくるエドワードに、ロイは嘆息し、諦めたように微笑む。

「そうだな・・・、じゃあ、君に頼むとするか」

休暇まで後1日だ。 ここまで我慢して来れたのだから、もう一頑張りだ。
短い距離を惜しむように歩き、明日1日を頑張った後の休暇を胸に、
ロイもエドワードも、浮き立つ気持ちを抱えながら、暫しの休息につく。



翌日。
報告書を仕上げた副官二人は、その後の慰労会に出席する為に、
ロイに挨拶を告げる。

「では、お言葉に甘えまして、参加させに行かせて頂きます」

デュラーの挨拶に、ロイも快く送り出す言葉を告げてくれる。

「ああ、君ら二人には、本当に良く頑張って貰った、私の方からも礼を言う。
 しっかりと楽しんできたまえ。 

 特にエルリック少佐は、酒は控えさせて、その分しっかりと食べさせてやってくれ。
 彼は、少し痩せ過ぎているのではないかと、常々心配でね」

「少将! 余計な事を言わないで下さい。 別に俺は、痩せてもチビでもありません!」

「いやでも、君、この数年体重が増えたとは聞かないぞ?
 身長は曲りなりにも、少しは伸びているようなのに、おかじいじゃないか?」

「もう、毎回毎回・・・、身長に回ってる分だけ、なかなか増えないんだよ、栄養が!
 物事には順番があるの。 その内、あんたより太って見せるから、
 もう、その話はナシ!」

任務中の厳しさを微塵も感じさせない二人のやり取りに、デュラーは呆気に取られたように
見入っていた。 そして、ふと思い出す、先日の酒場でのエドワードとのやり取りで
交わした会話を。
そして・・・、恐ろしい考えが頭を過ぎり、慌てて首を振って、その考えを消し去ろうとする。

「どうしたのかね、デュラー副官?」

面白そうに自分を見つめている上官の目が、検分するように眇められている。

『まさか・・・、本当に?』

ロイは、デュラーの戸惑いを感じ、小さく哂うと、

「君には本当にお世話になったね、私の方からも礼を言うよ。
 これからも、宜しく付き合ってやってくれ、同僚として」

そう告げる言葉は、保護者然として優しげだが、最後の言葉だけは、
妙に力が籠もっていた。 しかも、目が笑っていない。
『決して、節度を越えないように』と念を押すように・・・。

「デュラーさん? どうしたんだよ? 行かないの?」

硬直しているデュラーに、無邪気に声をかけてくるエドワードのおかげで、
呪縛から開放されたような気がする。
そして。

「お二人は尊敬する上司です! これからも、部下として付き従っていく所存です」

そう告げ敬礼するデュラーの表情は、晴れ晴れとしている。
ロイは、鷹揚に頷き、わけのわからないエドワードは、妙な表情で
デュラーとロイを交互に見比べている。

ロイがデュラーに牽制をしかけていたなど、恋愛の機微に疎いエドワードには
全く気づく事もないだろう。
ロイの牽制を正確に読み取ったデュラーには、中々副官としての才がありそうだ。
ロイは、将来の組織図にデュラーの名前も明記しておく事にする。
いずれ来るべきの、エドワードの未来の為に・・・。


そして・・・、テーマパークでは意外な発見もあった。
何事もそつなくこなす男にも、やはり弱点はあったようで、
ロイは乗り物酔いに悩まされて、遊びに出かけた直後に、急遽、予定を
断念する事になる。
楽しみにしていたエドワードには、申し訳なかったが、
もともとホテルでゆっくり過ごしている方が良いと思っていたロイには、
看病に優しくしてくれる恋人がいて、役得な思いも出来た。
日中、好きなだけ恋人に甘え、夜は乗り物酔いに関係ないパレードを見て歩き、
それなりにそれぞれ二人が、遊園地&休暇を満喫できたのだから。

少し遅れてやってきた休暇は、それぞれの心に楽しい思い出を刻む事ができた。
『お楽しみは後からやってくる』先人の教えは、正しいのだと実感できた出来事だった。



[あとがき]
遅れてから楽しみが来たでしょうか?(笑)
X'mas企画が、新年企画になりましたが、
何とかアップ出来たようです。
イベントのフリー小冊子の話も仕上がったし、私としては
まずまずの休みです。
サービス業生活が長いと、世間様のイベントごとには無縁になります。
そんな時は、繁忙日になるか、従業員が休んで減るかのどちらかですからね~。
なんで、年末年始と言えども、ただの連休と代わりません。
連休取れる事が、そうそうないので嬉しいお休みってとこでしょうか?
フリー小冊子の紹介は、日記の方でさせて頂く予定です。
これを読んで頂いた後、お時間があるようなら覗いてやってみて下さい。


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