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Selfishly

Selfishly

★スローライフEX



* こちらはコミカライズの設定に使って頂きましたお話の原作です。
      読んでご興味をお持ちいただけたら、ぜひ漫画版の「from a snow country」も
      お手にしてやって下さいね♪  
      素晴らしく美麗な画に、見せ場盛り沢山の本に仕上がり、感動の1冊です!
      Comic:Maholaさま  原作設定:Selfishly ロイエド(♂)COMIC 60P ¥600-
              (自家通販にて受付中~♪)


~ 【from a snow country】~ 18R ★スローライフEX




「―――――― こ…、ここが……」

 吹き荒び始めた雪嵐は一面をあっと言う間に白銀へと塗り直し始めている。
慣れない雪道を登ってきた二人の体力も、そろそろ限界にと近づいていた。後一歩目的の場所が遠かったら、
 白い風景と同化する事となっていただろう。

 ロイは目の前に出現した目的地に、安堵と些か腑に落ちないものを感じながら、
 既に雪だるま状態になり始めたエドワードを引き摺って入ったのだった。



 事の起こりは1枚の要請書。
 要請書と明記されていても、縦社会絶対の軍でのこと。
 自分より役職が上の者からのそれは、「命令書」に他ならない。

「准将、オリヴィエ閣下から要請書が届いております」
 午前のバタバタと慌ただしい業務が一段落し、エドワードとホッと一息ついた時に、それは舞い込んできた。
「―――丁寧にお断りしてくれ」
 むっつりと拒否の姿勢を伝えるロイに、冷徹な副官は冷めた声で指摘返してくる。
「まだ開いてもおりませんが?」
「開かなくても大体は判る! あの御大から、滅多に来ない封書など厄介ごとに決まっている!」
 ロイがごねようが素直に受け取ろうが、開かないわけにはいかない代物だ。
「…では開きますね」
「あっ…」
 本当に優秀な副官だ。上司の為になると思えば、意向に逆らっても強行するのに躊躇いが無い。
 憮然としているロイの表情など一切気にせず、ホークアイは器用な手つきで封書を開封していく。
「なんて書いてるんだ?」
 二人のやり取りを傍観していたエドワードは、彼女の手元の封筒に興味深々だ。
 封書には1枚の書類が入っていた。簡潔に明瞭に書かれた内容は…。

「……『合同訓練への指名参加者…』」
 思わずといった風に呟かれた彼女の言葉に、ロイは盛大に表情を顰め、エドワードはワクワクした様子で
 続きを窺っている。
 ざっと書類に目を通したホークアイが、ロイの方へと視線を戻した。
「今度、北での定例訓練が行なわれるそうで、東方からも参加者を募るそうです」
「へぇ~、北方の」
「そこで参加者の指名が上げられております。
 『参加者は2名。ロイ・マスタング准将とエドワード・エルリック少佐―――以上、2名が参加する事』」
「え!? 俺っ?」
「何故、私が!?」
 同時に返した反応は表情に違いがあれど、異口同音。
「期日はおって連絡と有りますね。連絡後、一両日内に到着厳守と書かれております。―――大変…」
 最後の呟きは参加者を思ってのことでは、間違いなく無いだろう。
 ロイが飛び出した後に残る業務を慮ってである。
「合同訓練か……、何か楽しそうだな」
 北方には長く顔を出していない。皆、元気にしているだろうか。
「鋼の!? 何を暢気な……。あの鬼将軍の考えることだぞ! 碌な訓練じゃないに決まっているっっ。
 ――― ホークアイ少佐、その要請を…」
「断る事は不可能かと」
 手元に有った用紙をロイの方へと向けて差し出した。
『拒否は認めん! とっとと来い!』
 最後の署名の欄に書かれたメッセージ…。
 それを見た両者の反応は様々だ。ロイはがっくりと肩を落とし、エドワードは嬉々として愉快そうにしている。
「では早速、いつ連絡が来ても良いように、業務を前倒して頂きます」
 彼女の中では概に予定に書き込まれたらしく、さっさと準備に掛かり始めたのだった。





 :::

「しかし、解せないな…」
 寝起きを北方軍の回線電話で叩き起こされ、その足で汽車に乗り込まされた二人は、一路北方へと向かっている。
「…? どうしたんだよ?」
 手回しが万全なのか、ロイの副官が優秀過ぎるのか。飛び乗った汽車には二人専用のコンパートメントが用意されていた。北方へは丸1日の行程だ、個室は有り難い。
「おかしいと思わないか? 参加者まで指名してくる割りに、日程は土壇場連絡。一体、どんな訓練をする気なんだ?」
「う~~~ん…。あの人の考える事だからなぁ」
 エドワードも大概、無茶をして来た方だが彼女は何と云うか…、もう想定範囲を超えている存在だ。
 こちらが予想したことなど、簡単に覆して行く人物。そんな相手の意図を探るのは――
 もう、時間と思考の無駄だろう。
「――それもそうだな。あの御仁の考えることを、私ら凡人に解るはずもない…か」
 解らない事を判らないままにするのは、錬金術師の性としては反するが、突詰めれば全てのことが判ると思うほど、
 自惚れてもいない。成り行きに任せる事も、時には必要だ。
 ロイは内心の葛藤に決着を付けると、目の前で寛ぎながら車窓からの風景を楽しんでいるエドワードを見て微笑する。

 ――― 久しぶりだな…。

 一緒の家で暮らしていると云うのに、二人がそろって過ごせることなど手で数える程しかない多忙さだ。
 職場復帰してからというもの、休みも返上して働いてきた。逢瀬と言うには短すぎる時間を繋いで、
 ここまでやって来た二人だ。
 それを思えば、滅多に無い好機だろう。
 エドワードに気づかれないようにそっと腰を上げると、ロイは向かいのエドワードの横にとちゃっかりと座り込む。
「な、何だよ…?」
 ロイの突然の行動に戸惑いを見せるが、嫌がっていないことはほんのり目尻を染めていることで分かる。
「―― こうして二人でゆっくり出来るのは………久しぶりだな」
 しみじみ実感の籠もる囁きと共に、ロイはエドワードの腰に手を回して引寄せた。
「ん…――」
 そっと視線を俯かせて答えるエドワードも、きっとロイと同じことを思っていたのだろう。目元に刷いた朱が、
 今は項まで染めている。
 空いた方の手でエドワードの顎をすくい上げて見つめると、自然と瞼が下ろされるのを、ロイは嬉しい気持ちで見つめ、
 惹かれるまま唇を重ねたのだった。
 触れればじんわりと胸に広がる温かな感情。
 そして身体の奥に確実に灯る火。

「―――どこ触ってんだよ…」
 どうやらロイの意志より早くに、本能が手を動かしていたらしい。
「――折角の計らいだ。個室で君と二人なら、……当然だろ?」
 悪びれなくそう返してやれば、躊躇して見せるエドワードの鼻の頭にキスをしてやる。
「良いじゃないか。あちらに着けば地獄の訓練が待っているんだ。
 せめて行きの合間ぐらい、天国の時間を満喫させてくれ。
 ―― それに、君もその気になってるようだし…」
 くっくっくっと喉で笑われ、エドワードは顔を真っ赤に染める。
「っ…、こ、これは………。
 ―――仕方ないだろ。あんたに触れてるんだから…」
 ぽつりと零された心の内。
 ロイは軽く目を瞠り、そして嬉しい気持ちもそのままに微笑む。
「じゃあ、二人とも共犯者という事で…」
 耳元にそう誘いをかける文句を囁きかければ、顔を紅く染めてコクリと頷いてくれる。
 そのエドワードの仕草が可愛くて、愛しくて…。

 いつもなら照れてつれない言葉を返したり、素っ気無い態度でつれない彼が、今日は珍しくも素直の応えてくれる。

 きっと彼も足りなかったのだ。
 お互いが触れ合って満たせる時間が………。

 汽車は夜通し走って行く。
 その間だけは、二人の世界はこの狭い部屋だけになる。




 ***

「よく来たな」
 呼びつけた癖にと内心思っていても、言葉には勿論出来ない。
「この度はわざわざご指名頂いての演習参加、心から感謝致します」
 丁寧な礼の言葉には、勿論無数の棘が込められている。
 が、相手はロイの更に上を行く厚顔無恥ぶりで。
「ああ、当然感謝してくれ」
 と言い捨てるように返すと、さっさと背を向けて歩き出していく。
 エドワードは見れば、オリヴィエの側近と楽しそうに話しながら、後を着いて行ってる。ロイは面白くない気持ちで、
 仕方なくその後を着いて歩いて行ったのだった。

「おう、エド! 久しぶりじゃねぇか~」
 屈強な兵士たちが、親しげにエドワードに話しかけ、その頭や肩を撫でていく。
 ただの挨拶のスキンシップだと解っていても、自分の恋人に触れられるのを見ているのは気分が悪いっ。
 そんなロイの内心に気づかず、エドワードは嬉しそうに言葉を交わしている。割り込んで離したくとも、
 先にオリヴィエが歩いている手前、弱みを曝すようなことは出来るわけが無い。
 結局、地下に在る練兵場に着くまで、ロイは下降する気分のまま黙々と歩いて行ったのだった。



「久しぶりに揉んでやろう」
 練兵場の真ん中まで来ると、オリヴィエはそう前置きをして上着を脱いで部下に投げ渡す。
「・・・はっ!?」
 対峙させられているのはエドワード独り。
 状況に着いていけず驚いてオリヴィエを見つめる。
「向こうでノラリクラリと過ごしているんだろう。偶には渇を入れてやろうと言うんだ」
 嬉しそうに組んだ指の関節を鳴らす女傑に、思わすロイもエドワードも頬が引き攣る。
 が、元々エドワードも開き直るのが早い。
「……うっしゃ! じゃあ、1手勝ち取ってみようか」
「ほざいたな」
 エドワードとオリヴィエの手合わせは別にこれが初めてではない。
 ホムンクルスにも打ち勝って来たエドワードだから、生身の女性・
…かどうかは怪しいが…には遅れを取らないはずではある。
 が―――今だ、オリヴィエから一勝出来た事は無い。
 彼女は何と言うか、腕が立つ―――という強さだけではなく、他者を圧倒するだけのものが具わっているのだ。
 腕っ節では負けないつもりでも、対峙して判る彼女の真の凄さ。
 身体中から発せられる『勝つ為の気迫』。それに飲まれていく間に、勝負はついてしまうのだ。
 一手一足、動きにも迷いや躊躇いは無い鋭さ。抜き身の剣とは、彼女の武闘を指す為にある言葉だと思う。

 遠慮なく打ち込まれた拳の威力を、後ろに飛ぶことで何とか半減させる。
「―――っ、げほっ……」
 咳いてる息を整える暇も与えられずに、次には蹴りが飛んでくる。
「おわっ!?」
 思わず避けようとしてバランスを崩す。
 そこを狙って打ち込まれた瞬間、ガードの空いた彼女の腹に蹴りを入れたのだが。
「ちっ!!」
 さっと身体を引いたオリヴィエには決まらなかった。
「どうした? やはり平和ボケか。反応が鈍いぞっ!」
 オリヴィエからの叱咤に、エドワードも表情を歪める。確かに、昨夜の所為で、少々身体の動きは悪い。
 悪いが―――それは理由ではない。もっと最悪な状態でも戦い抜いてきたことが有るのだ。
 要するに、オリヴィエが言うように、少々、自分も気が抜けて暮らしていたと云うことだ。
 エドワードは手の甲で口元を拭うと、スッーと息を吸い込んで体の感覚を研ぎ覚ます。
 
 
 少し離れたところで二人の戦いを見ていたロイは、表情はポーカーフェイスで体面を守っていたが、
 内心は気が気ではなかった。
 エドワードの調子の悪さは、見ていて直ぐに気がついた。そして、その原因にも重々心当たりがある。
 ――― まさか、いきなりこの展開になるとは・・・。
 オリヴィエがロイではなくエドワードを選んだのも、彼の若さを考えてなのだろう。
 若いと云う事は柔軟性が高い反面、脆くもなりやすい。脆くて生き残れる社会ではないのだ、軍は・・・。
 が、今ロイにしてやれる事は無い。戦いを始めれば、自分で挑み続けなくてはならないのだ。
 ・・・勝つか負けるまで。
 案じているロイの視線の先で、先ほどの苦戦振りが嘘のようなエドワードの巻き返しが始まっている。
 空を切り風を起こす二人の打ち合いに、その場に居る者達は皆、固唾を飲んで観つめている。
 今、この空間で行なわれているのは、彼らにとっても最高の模範演技なのだ。真剣な視線が注がれる中、
 二人の猛者は疲れも知らずに闘い続けるのだった。


 結局勝敗は、辛くもオリヴィエが勝ちを収めた。
 満場の拍手と歓声の中、エドワードは大の字になって荒い息を吐いていた。
「フ…ン、最初からそう闘えばいいんだ」
 額の汗を拭きながら、オリヴィエが苦言する。
「――――― ありがとうございました…」
 小さな呟きはちゃんと彼女の耳には届いたようだ。
「判ればいい。
 さぁ、今夜は明日の演習の前夜祭だ! さっさと仕事を終らせろよ!」
 そう観衆に声を掛けると、皆の喜びの合唱の中颯爽と部下を引き連れ広場を出て行ったのだった。

「エドワード、大丈夫か!?」
 すぐさま駆け寄ったロイが、エドワードを覗き込んでくる。
「ん…、全然、気持ち良い! 凄いパワー、貰った気がする」
「そうか…。が本調子じゃないんだ、無理はするな」
 そう返すとロイは先に立ち上がり、エドワードが起きるのを待つ。
 決して手は差し出さない。
 身を案じることはする。が、本人がやれることに、手を貸すことはしない。
 それが二人のスタンスだ。
 寂しいと思う気持ちは本音。が、それを崩し出せば、二人で今の世界で生き残れなくなる。
 下手をすれば足を引っ張りかねない。

 ――― ここは二人だけの世界では無いんだ・・・。
 昨夜の夢の時間は過ぎ去った。現実を自分の足で立って進まねば。

「よいしょ!」
 落ち着いたのかエドワードが勢いよく起き上がる。
「ごめん、待たせた」
 さぁ行こうと掛けられた声に、ロイも頷いて歩き出したのだった。


「かんぱ~い!!」「明日の訓練の成果を祝ってぇ~!」
 耳に騒音のような声が次々に上げられる前夜祭。
 余りの凄い光景に二人は唖然と座り尽くす。その目の前では、平然と大きなジョッキを空けていくオリヴィエが居る。
 
 何と言うか………。北の兵士の強さがひしひしと感じられる一夜となった。




 ***

「よぉ~し、皆、紙を取ったか? そこに書かれている内容が、振り分けられた訓練だ。
 完遂して皆が無事に戻ることを祈る!」
 
 昨夜の酔いなど微塵も見せず、兵士たちは朝から張り切って集まっている。
「訓練内容? これが?」
 訳がわからず茫然としている二人をよそに、兵士たちは口々に訓練のないようを照らしながら、
 さっさと場所を移動していく。
 何度見直しても、ロイとエドワードの与えられた紙には。

 ――『所定の場所に夕刻までに着くこと。
    次の指示はその小屋の中に有る』――

 としか書かれてない。
 当惑して立っている二人に、部下を引き連れ見守っていたオリヴィエが近づいてくる。
「どうした? さっさと行かないと、夕刻の時間に間に合わなくなるぞ」
 お二人の装備はこちらです。と部下が手渡してくれた装備は、随分軽量だ。
「ちょ! オリヴィエ将軍、これのどこが訓練…」
 言い掛けたエドワードの言葉を塞ぐように。
「雪山を舐めるなよ。――それと夕刻くらいまでは保つだろうが、山の天候は変わりやすい。
 さっさと出かけた方が身の為だ」
 それだけ云うと、犬を追い払うように手の平を振るオリヴィエに、二人は顔を見合わせて溜息を吐き、
 置かれたリュックを背負ってスタートをしたのだった。


 地図を手に歩き出した二人を見送っているオリヴィエと部下達。
「ボス、風が速いようです。夕刻まで保つかどうか…」
 空を仰げば天高い蒼穹だ。そこを飛ぶようにして、白い雲が通り過ぎて行く。
「――…国家錬金術師の二人だ、何とかするだろう」
「はっ…」
 肩を竦めてそう言うオリヴィエに、部下も頭を下げるだけにする。
 崔は投げられた、後は二人の強運を祈るだけだ。






 ***

「……… こんなの聞いてないし…――」
 新雪の雪は足が取られて歩行がし難い。雪の中と云うのに、二人は汗だくで多分そちらの方向の勘を信じて
 延々と歩いている。
 地図で見れば数キロ。しかし雪山はやはり侮れない。既に随分の時間を取ってしまっている。
「―― 雲行きが怪しくなって来たな」
 空を見上げれば、先ほどまでの青空がいつの間にか、どんよりと鈍い曇天になっている。
「あ、後…どれ位?」
「…地図だと、後1キロほどだと思うんだが」
 しかし現在地を確定出来るものが無い雪山だ。軍での訓練から得た感覚で答えるが、絶対に合っているとも言い切れない。

 そうこう言い合って進んでいる間にも、空模様はどんどん暗くなり、チラホラ白いものが降り始めた。
「―――何か不穏な気が…」
「ああ、急ぐのに越したことは無いだろう」

 ぜいぜい、はぁはぁと亀の行軍をしてる間にも、雪はどんどん酷く降り積もっていく。
 視界が殆ど利かなくなっていく中、半分雪に埋もれてしまっているエドワードが根を上げた。
「ロイ…――、俺、もう駄目…」
「しっかりしろ! こんなとこで休んだら、凍死するぞ!!
 くっそぉ、そろそろ見えてきても良いはずなんだが…」
 そのロイの祈りが通じたわけでは無いだろうが、一瞬止んだ風のお蔭で目の前にそびえる建物が見えた。
「ここか!? エドワード、しっかりしろ!!」
 半場、雪に埋もれている状態のエドワードを引き摺って、その小屋と言うには立派な建物の中に飛び込んだ。



「う~~~~~生き返ったぁ」
 ロイが着けた暖炉の前で、エドワードは蓑虫宜しく毛布に包まって火にあたっている。
 ロイも小屋にあったバスタオルで濡れた髪を拭き、ホォと安堵の息を吐いている。
「しかし…、ここが訓練場?」
 もっと粗末な小屋を想像していたと云うのに、ここは偉く小洒落た建物だ。
 しかも、至れり尽くせりの準備までされていて、二人が着替えた服もここのクロゼットに入っていたものだ。
「着替えはサイズもピッタリ。しかも、備蓄の食糧だけでなく、酒類も品揃えが整っているし、暖炉の薪まで…――」
 首を捻るロイにエドワードも人心地付いたのか、毛布を被ったままあちらこちらを見回っている。
「ロイっ! お~い、こっちに来てみろよ!」
 エドワードが呼ぶ場所に、何事かと覗きに行けば。
「―――これはまた…」
 こんな辺鄙な山小屋に不似合いな立派なベッドが…。
「どれに感心してんだよ! こっち! 俺が言ってるのは、こっちのメモだっ」
 エドワードが差し出した封筒には、オリヴィエの署名が入っている。
 受け取ったロイが、まずは中を確認する。
「――― どういう風の吹き回しだ…」
 中の用紙を読みながら呟かれた言葉に、エドワードも引っ手繰るようにして書かれている内容に目を通して
 ―――絶句する。

 ―――『この吹雪は3日間ほど続く。
     休暇扱いにしといてやるから、治まったら戻って来い』―
 そう彼女の直筆で書かれている。しかも、中の備蓄その他は好きなように使って良いと…。

「――これって…」
 思わずといった風にロイを見上げてくるエドワードに、ロイも苦笑しながら頷いた。
「どうやら、お節介な女神がいてくれたようだ」
 オリヴィエ一人の考えではない。どころか、多分発案者が他に居る。
 こんな気の回し方を策で切るのは、余程の切れ者しか無理だろう。
「……ホークアイ少佐…――」
「ああ、多分な」
 軍に復帰してからと云うもの、ロイもエドワードも休日返上で働いてきた。遅れた分を取り戻す為に、
 当然と言えば当然だと思っていたから、それを苦にした事はない。時間は無かったが、
 二人の信念も互いを想い合う心も揺らぐ事も変わる事もない。
 が………時たま、傍に相手が居ないことが寂しいとは思いはしたが。

「―― どうやら、彼女達からのご褒美らしいな」
 自分自身を省みない二人の変わりに、二人を見守り案じてくれている者達が居てくれる………。
 つくづく人に恵まれたようで、感謝は幾らしてもし足りない。
 メモを見ていた視線を合わせ、二人はそっと微笑み合ったのだった。



 ***

「ああ、首尾よく放り込んでおいたぞ」
 執務室で電話をしているオリヴィエが、愉しそうにそう返している。
『ありがとうございます。閣下にお願いして良かったです』
「しかし…甘過ぎやしないか? それとも東方の副官は、無能な上司のプライベートまで管理する決まりが有るのか」
 皮肉めいた物言いに、電話の向こうの相手は気を悪くした様子も無く笑っている。
『…閣下、ペットの躾は飴と鞭ですわ。餌を与えて躾ける方が、数倍良く言うことを聞くようになります』
 しれっと返された言葉に、オリヴィエは一瞬絶句し…。
「ハ! は、はははは…―――!! 確かに違いない!!」
 豪快に笑って同意を伝えたのだった。


 チ――ン…。
 微笑みながら受話器を置くと、ホークアイは主不在のデスクを見る。
 
 ――― 確かに目的の為なら、脇目も振らずに頑張る事も必要だ。
 が………、人はそれだけでは駄目だ。
 自分を大切に出来ないものが、他人を思いやれはしない。
 心が通じているから、想いは変わらないからと後回しにしていれば、いつか痛みを伴う結果を招いてしまう。

 あの二人は、もう十分犠牲を支払ってきた。
 これ以上、心を壊さない為にも―――自分を、自分たちを大切にして欲しい…。
 それは周囲に居る皆の願いでも有る。
 空の席に微笑みを向け、ホークアイは普段以上に忙しくなる数日をこなす為に部屋を出て行った。


 
 ***

「お~いぃ、飯出来たぞぉ」
 大きなトレーに簡単な料理を載せ、エドワードがリビングに入ってくる。
「ここで食べるのか?」
 既に食前酒と称して飲み始めていたロイがローテーブルを片付けようとするのに、
 エドワードは「火の傍で食べようぜ」と言いながら、暖炉の前にトレーごと床に置く。
 行儀は悪いだろうが、今はそんな事は気にならない。ここには二人しか居ないのだから。
 お替わりに立たなくても良いようにと、鍋ごと載せられたシチューを自分でよそって食べ始める。
「…しかし、凄い雪だな」
 暖かい室内からは想像できない外の風景。窓から見える自然の猛威を目の当たりにして、
 ロイもエドワードも素直に感心する。
「ん…、ここは冬はいつもこんなだからなぁ」
 以前も厳冬の時だった。氷柱落しの当番を言われ、背が届かないエドワードには辛い仕事だった。
 そんなことを思い出して苦笑していると、気づけばロイがじっと見つめている。
「?」何かおかしかっただろうかと首を傾げると、エドワードの戸惑いを払うように
 ロイは首を横に軽く振って微笑んでくる。
「いや…、以前の島の時を思い出してね」
「ああ、あの遭難した時のっ!」
 エドワードも思い出して愉しそうに笑う。
 ロイの視察を兼ねた招待に、ヨットで海に出た二人はハリケーンに巻き込まれて遭難したのだ。
 運良く小さな島の近くに打ち上げられ、救援が来るまで過ごした日々は、
 二人がゆっくりと過ごした最初の休暇になった。
「………あん時、不思議と不安じゃなかったんだよなぁ」
 位置も分からない孤島に放り出されたと云うのに、エドワードの中には少しも不安はなかった。
 ――― それと言うのも…相手がロイだったからなんだろうな。
 ちらりとグラスを傾けている彼を盗み見る。
 互いが国家錬金術師で術が使えるからと云うのも勿論有っただろうが、それだけではないものが既にあの時には、
 もう心に宿っていたのかも知れない。
「ん? 君も飲むか?」
 気づけばじっと見つめてしまっていたようだ。グラスを下ろしたロイが、エドワードの視線に気づいて勧めてくる。
「え…? あ、あぁ。――じゃあ、少しだけ」
 別に酒が飲みたかったわけではないが、折角勧めてくれているのだ、一杯くらい晩酌の相手に付き合ってやろう。
 トクトクと酒を注ぎながら、ロイが穏やかに話す。
「――不思議と不安にならないものだ、…あの時と同じで」
 グラスを引きながらロイのその呟きに、彼も同じような思いを懐いていたことを知る。
「あんたが…」「君が…」
 思わず重なった呟きに、二人は驚いたように顔を見合わせ、そして笑い合う。
 「「傍に居てくれたのが、『君』『あんた』、だったから」」
 揃って告白した思いに照れながら、二人はグラスを交し合う。
 
 どこに放り出されようが、置き去りにされようが、この世界に在る限り安心だ。決して独りにはならない。
 
 そう想える相手がいる幸福………。
 二人は得難いパートナーを持てた幸運に、心から感謝をしたのだった。



「大丈夫か?」
 顔を赤くしてもたれ掛かってくるエドワードに、ロイは気遣うように声を掛けてくる。
「ん―――、全然、平気…。何か凄く気分が好い…」
 自分たちの思いに酔っていると、ついつい酒も進んでしまったようで、少し酔いが回り始めたとロイが思った頃には、
 エドワードはすっかり出来上がっていた。元々、エドワードは酒にはそう強くない。
「ベッドで休むか?」
 枝垂れ掛かってくるエドワードを抱き止めながら、ロイはそう聞いてやる。
「…動きたくない。ここで…寝る」
 ぐずぐずと崩れ落ちそうなエドワードの様子に苦笑しながら、ロイは背と足の裏に手を回すと、
 お姫さまだっこ宜しくエドワードを抱き上げた。
「こんな処で寝たら風邪を引く。ベッドに行こう」
「………うん」
 酔いの為か珍しく素直に頷くと、ロイに甘えるように擦り寄ってくる。
 そんな甘い仕草も、誘いの媚態に思えて仕方が無い。
 弛みそうになる頬を引き締め、エドワードを休ませてやる為に寝室へ向かう。

 ――― 誘惑に耐えていることには、気づいてないんだろうな…。
 昨夜の列車で『触れられると感じる』とエドワードが言ってたように、ロイもエドワードと云う存在を傍で感じると、
 抗い難い誘惑を覚えてしまう。俯いた視線を落とす目元。読み物をしている時の彼の癖の文字を象る唇。
 上げられた白い項に、滑らかに曲線を画く喉元。
 それこそ相手がエドワードだと思えば、指の1本、髪の一房にも誘われてしょうがなくなる。
 普段、どれだけロイが耐えて過ごしているのか、この無防備な彼は思いもしないのだろう。

「ほら、ここで寝なさい」
 そっとベッドに寝かせてやれば、うとうとし始めていたのか、エドワードが薄っすらと目を開けてロイを見つめてくる。
 ――― ドキッ…
 思わずその艶な瞳の色に鼓動が跳ねる。
 急速にせり上がって来る感情を抑えなくてはと、視線を外そうと思っても魅入られたように逸らせない。
 固まっているまま覗き込んでいるロイを不思議に思ったのか、エドワードが小さく笑ってロイの名を呼んでくる。
「ロイ…?」
 酔いの成せる業だと分かっているのに…、呼ばれてしまえば振り切ることなど出来なくなる。
 ギシリとベッドを軋ませながらロイは、エドワードの傍へと上がって行く。
「―――知らないぞ、明日が辛くなっても…」
 日を空けずの閨。前回も手加減出来なかったが、今夜は更に出来そうにない予感がする。
「ん…、いい。あんたなら俺は―」
 エドワードの返事は噛み付くような口付けに中断させられる。
「んっ! ………ンンッ」
 触れるだけの優しいスタートではなく、最初からロイはエドワードの口内へと舌を差し入れてくる。
 言葉も吐息も溢れる蜜も、全て自分のものだと云うように、角度を変えては深く激しく中を蹂躙していく。
「エド…、エドワード…っ」
 飢えを満たそうとする獣のように、ロイの口付けは容赦ない。合間に囁かれる自分の名には、
 抑え切れない欲情の色が濃く宿っている。
「い…いいんだ…、あんたなら、どんなでも――嬉しい…」
 苦しい呼吸の合間に零れる本音。それが言霊のようにロイをどんどん煽っていく。激しい口交に忙しない手の動き。
 エドワードの衣服を剥ぎ取るように脱がし終えると、ロイは自分の着ているものも全て床に放り出す。
 それを見つめているエドワードの瞳に、艶光る情欲の灯りが燈っている。そして自分はそれ以上に、
 強い欲を浮かべているはずだ。
 この内に溜る飢餓は、エドワードしか満たせない。
 そしてエドワードの中にも、ロイと同様の飢えたイキモノを宿しているはずだ。
 白い喉元に、跡が残るほどの口付けを幾つも刻印する。その度に隆起する喉に、ロイは優しく歯を立て舌を這わす。
「ふっ…ぅ う…ぁ…」
 溜らず零れるエドワードの吐息の甘さに、ジーンと背筋が痺れを感じる。
「―――君はどこも…甘いな」
 胸元に頬を摺り寄せ、その滑らかな感触に陶然となる。
 女性のような柔らかな脂肪は無いが、ロイを受け止める柔軟な肢体、
快感が直に伝わる筋肉の躍動。さながら微細な音を奏でる楽器のようだ。
 乳首が立つまで胸を弄り、紅くなった実を歯で扱いては嬌声を上げさせ、色淡い茂みから湧き出る蜜を汲み上げて
 喉と彼の味を堪能し隅々まで彼を暴いていく。

 そうやってどれだけ彼を味わっても、知れば知るほど得れば得る以上に、
 ロイはエドワードが欲しくて欲しくて仕方がなくなるのだ。
「あっ! ああぁぁ…っ も…、もうだいじょうぶ…、だから」
 自ら足を開いてロイを誘う媚態に、我慢できずに細腰を掴む。
「先に言っておく。……済まないが手加減は出来そうにな…いっ」
 堪えきれず細い道へと自分の怒張したソレの先端を進める。
「いいからっ! 大丈夫だ…っ あんたで一杯にっっっ、嗚呼っ!!」
 勢いをつけて捻じ込まれた衝撃に、エドワードの背が思わず反り返る。立ち上がったエドワードのモノを握り締め、
 反らされた胸で淫猥に色づく赤い実を摘むと、大きな嬌声と同時にロイへの締め付けも激しくなった。
「くっ……っ!?」
 思わず苦妙がロイの喉から零れるが、表情は喜悦で染まっている。
 絞られる感覚に耐えながら腰を引けば、凄い力で引き止められる。
 全てを持っていかれそうな強烈な誘惑に耐え、最奥まで突き上げると、感極まったエドワードの鳴声が上がる。
 それにつられてロイの動きもどんどん速く激しく…――。
 乾いた音と、濡れた水音。その交互の音も次第に間断なく上がる所為か、混ざって室内に鳴り響いて行く。
「んっ あ、あ、あっ… い、好い す、凄く―――感じっっ!」
 声が空気に溶け込んでいく。音も言葉も要らない。伝えるのは互いの身体と感覚の共鳴だけで十分だ。

「そ…ろそろっ!」
「いっしょにぃっ」
「ああ……っ」

 足を限界まで持ち上げ、ロイは互いの肉が痛いほど打ち合わすと、獣のような哭を上げながら、
 エドワードの中に全てを注ぎ込んだのだった。



「ゆき…、まだ降ってるよな…―――」
 ぴったりと寄り添って暫しのけだるい開放感に浸っていた二人は、どちらも眠ろうなど思ってもいない。
「――― ああ、まだ随分降ってる…」
 そう言葉を交わすと、視線を交わしながら微笑み合う。
 そして引寄せられるように口付けを交わすと、深々と降り積もる雪に守られながら、互いの時間を共有して行くのだった。









 ***

 吹雪はオリヴィエの言っていた通り3日目には治まり、嘘のような蒼い澄んだ空を見せ二人の時間の
 終わりを告げてくれた。
 
「さぁ、行こうか」
「おう!」

 閉ざされた時間を惜しむ気持ちは二人には無い。
 彼らにはまだまだやるべき事が山積みで、道はまだ遠く続いている。
 執着地点を夢見るのは、もっとずっと未来で良い。
 今はまだ、二人で走れるとこまで走って行こう…―――。




 久しぶりに戻った司令部では、相変わらずの喧騒ぶりが伝わってくる。

「戻ったぞぉ~!」
 エドワードの一声に、司令部の面々がわらわらと寄って来た。
「よぉ、お帰り! どうだった合同訓練は?」
「それがもうめちゃぶりの内容で、相変わらずだったぜオリヴィエ将軍」
「らしぃ~!!」
 がやがやとエドワードの報告で騒いでいる面々を後にして、ロイは自分の執務室に入って行く。
「お疲れ様でした」
 丁度、書類の仕分けをしていたらしいホークアイが、労いの言葉で迎えてくれる。
「いや…、―― ありがとう」
 ロイは素直にそう心からの礼を伝える。
「少しはゆっくり出来ましたか?」
 穏やかに尋ねてくるホークアイに、ロイは幸福を絵に描いたような微笑みを向ける。
「ああ、ゆっくりできたよ」
「それは宜しかったです」
 淡々と答え返す彼女の聡明さ。自分は本当に優秀な副官を持った。
 感謝の思いを胸に抱え、久しぶりのデスクに座ろうとして…。

「…これは?」
 行ってきたばかりの北方から。しかもオリヴィエ将軍のサインがでかでかと入った封筒がデスクの中央に置かれている。
「はい、至急との事でしたから、先にご覧頂こうかと…」
 ホークアイも中の内容には思い辺りが無いらしく、訝しそうな表情を浮かべて封筒を見ている。
 嫌~な予感を抱えつつも、封筒を開けて中身を取り出すと。
「………」
 無言で書面に目を通していたロイが、いきなり電話を取り出して掛け始める。
 数回のコールで繋がった相手は…。

「これは一体、どういう事ですか!!」
 ロイが上げた強い言及にも、掛かってくることが判っていたのだろう、向こうは落ち着いたものだった。
『見れば判るだろうが。あんな山の真ん中に、あれだけの準備をするのが、まさかタダとは思ってないだろうな?』
 請求書と印字された書面には、支払方法が指定されている。

 ――― 北方司令部担当だった各司令部清掃業務を、
           以降は東方が請け負うものとする ―――

 ご丁寧にオリヴィエのサインは書き込まれ、後はロイの署名をするだけの念書も入っている。
「あら…」
 ロイがデスクに放り出した書面を覗き込み、ホークアイも意外な要求に苦笑している。
「冗談じゃ有りません! それは先代から北方の担当でしょう!」
『―――なんだ、不服なのか?』
「当たり前です!」
 どうして自分が各司令部の掃除当番を、引き受けなくてはいけないのだ。そんな面倒な事は御免被る。
 司令部担当で最も人気が無い……はっきり言って不人気な職務は、この『お掃除係』だ。
 24時間稼動している司令部だから、清掃・メンテナンスが行き届かない。各支部単位で行なえばよいのだが、
 どこも日々の忙しさに後回しされる事が日常で、とうとう査察の時に余りの汚さ、不備多さに切れた総統が
 責任担当を決めさせて施行させたのが始まりらしい。

『じゃあ、金銭で支払うか?』
 オリヴィエの言葉に、当然と返したロイに伝えられた代価に一瞬、硬直する。
『当たり前だろうが。あそこまであれらを運ぶのに、どれだけの労力を割いたと思ってるんだ。
 あんな場所であれだけの環境を整えようと思ったら、当然だ』
 確かにロイは高給取りだ。ちなみにエドワードもなかなか。
 しかし、彼らの年収を合わせても、オリヴィエの金額には届かない。
「―――はめましたね…」
『不当か正当化は、受け取った者が決めれば良い。
 ――― その代価で不満な時間だったのか?』
 絶対にそんな事はないと確信している話し振りだ。
 黙り込んでいるロイの反応に、さっさと話を進めていく。
『不満は無さそうだな。―― では、代価として業務担当の交代を引き受けてもらおう。ああ、心配するな。
 必要な資料は揃えて送っておいた。それを見れば馬鹿でも出来る。では、宜しく頼む』
 言うだけ言うと電話は一方的に切られた。
 わなわなと震えながら受話器を睨むが、今回はロイの負けだろう。

 翌日、各支部毎の清掃業務内容、メンテナンス一覧の入ったファイルがダンボール単位で東方司令部に届けられた。
 そしてどうなったかと云うと………。

「大佐ぁ~、ここ雨漏りしてるようなんですけど…」
 お掃除服に着替えた東方の部下達が、あちらこちらと人気の無い司令部を徘徊している。
「後から直す! お前はさっさと持ち場を終らせろ!」
 自分も必死に床を磨きながら怒鳴り返すと、また別のとこから声が掛かった。
「大佐……腹減りました…」
「煩い! ここを今夜中に終らせないと、ホークアイ少佐に怒られるのは私なんだぞ!」
 ギャーギャーと煩く叫びあっている彼らとは別に。
「エドワード君、配管の調子が悪そうな箇所が有るんだけど?」
「ん? じゃあ、そこから先に直すか」
 開き直ったエドワードが、黙々と業務をこなして行く。

 そんな風に夜は更けて行く。




「おや? 入れたと思っていたんだが…」
 北方のオリヴィエは、混じり込んでいた1枚の用紙を見つけていた。
 ――― 清掃業者委託リスト ――― と書かれた用紙。
 彼女は肩を竦めると、東方司令部宛の封筒に入れて決済済みの山に積んだ。


  東方が担当した初年度は、掛かる経費が激減したと財務部が大喜びをしたそうだ。
 が、以降の年はやはりそれなりの費用が発生したとか…。

 悲喜こもごもな出来事も、それらは全て雪の国からの贈り物。

                                  fin

(コメント)
余りに久々に書いたスローライフシリーズ・・・。(^_^;)
懐かしいです~。お蔭でこの時の感覚を思い出すのに苦戦しました。(笑)
このシリーズには思い入れが深すぎて、今でもおいそれとは続きが書けない・・・。
またオンが主流になる活動をする頃になったら、ゆっくりと続きを書いていければな~と
思ってます。長い目で見守ってやって下さいね。m(__)m  ラジ


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