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Selfishly

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10、太陽


17WORD  『 10:太陽  』



H18,11/5 21:00

「えっ、大佐 風邪引いて休んでんの?」

前回から 然程 間を空けずにやってきた司令部で
エドワードは聞いた答えの返事に思わず驚きを示す。

「そうなんだぜ、
 まぁ、鬼の霍乱とでも言うのかねー。

 俺らもビックリしたぜ。」

その時の状況を語るハボックは
笑いを堪える事もせずに話し出す。

遅刻ギリギリに出勤してきた その日の上司は
いつにましても、集中力に欠けており
綺麗で怖い副官に、朝からお小言を言われ続けていた。

「大佐、もしかして ご体調が悪いのでは・・・?」

書類の処理を嫌がる態度は いつもと同じだが
今日は ボンミスが多すぎる。
サインをさせれば、自分の名前のスペルを間違えるわ、
サインをする担当者欄も間違える。
ペンのインクを 零しては書類を駄目にする事数回。

その度に、ホークアイの態度が険悪なものにグレードアップするのに
周囲の者の方が、冷や冷やとさせられていた。

「私が?
 別に変らないと思うが・・・。」

ぼんやりと返された返事も、目の焦点が虚ろだ。

「少し失礼します。」

ホークアイは、サッと手の平をロイの額に当てる。

「・・・大佐、
 本日はお帰り頂いて結構です。
 
 すぐ車の用意を致しますので、お帰りの準備をして下さい。」

ロイは 咄嗟の彼女の行動に驚き硬直をし その後、
彼女に言われた言葉で我に帰る。

「中尉・・・君ね・・・。
 別に何ともない。

 わざわざ、帰る程の重病でもあるまいし。」

保育園の子供でもあるまいし、
少し微熱がある位で、いちいち帰ってなどいたら
仕事が進まない所か、物笑いの種にされる。
ロイは、姿勢を正して 中尉に断りの態度を示す。

そんなロイのささやかな矜持など
ホークアイにかかっては、ひとたまりも無い。

「いいえ、お帰り下さい。

 今の 貴方に居て頂いても、邪魔なだけです。」

きっぱりと告げられた内容に、ロイは顔色を失い
周囲に居たものは、俯いた・・・笑いを堪える為に。

「なっ! 上司を邪魔扱いとは
 いくら君でも酷いじゃないか。」

熱のためか、怒りのためか、
頬を紅潮させて文句を言うロイに
ホークアイは、冷めた眼差しを投げつけ
眼差しより、さらに冷めた声音で最後通告を告げる。

「今朝から、大佐のミスのおかげで
 書類は減るどころか、増えている有様です。

 文句を言われる前に、きちんと 自分の健康管理をして
 書類を減らせる状態にして頂きたいものです。

 はっきり言って、今の 貴方は無能です。」

はっきり、きっぱりと告げるホークアイの言葉に
ガックリと肩を落とす上司。
そして、 笑いを声に出せない拷問に
机の上で、七転八倒するメンバー数人。

退出を余儀なくされた上司は、すごすごと帰る準備をし
ホークアイの指示の元、軍医に診断をしてもらって帰路に着いた。




「んな事があってよ、昨日から大佐は休みってわけ。」

「なんか・・・、中尉 かっこいいかも。」

感心したように話を聞いていたエドワードが、
聞いていたら、ロイが 嘆くようなセリフを吐く。

「おう! 中尉ほど かっこいい人間は
 ここには居ないぜ。」

ハボックも、エドワードに同意を示す。

「んでも、大佐も 結構無理する人だからなー。
 結局、風邪だったんだけど 熱も38.5度もあってな、
 良く起きてここまで来れたもんだと、
 皆 変なとこで感心したぜ。」

「38.5度ぉ~!?

 それって、起き上がれんのかよ?」

「さすが、送って行った後は 直行、ベットでダウンしてたけどよ。
 入院させた方がいいんじゃないかって
 皆で相談してたわけ。」

確かに熱は高いが、ただの風邪に入院は大げさではないかと言う
エドワードの疑問に、ハボックは あっさりと

「大佐、独り者だからさ。」

要するに看病する者が居ないと言うわけだ。

それだけ熱が高ければ、食事も当然、クスリを飲むのも
一人では難しいだろう。
熱の高い風邪は、脱水症状も引き起こす事もあるので
余り侮れない。
見舞いに行きたくても、ベットから起き上がって
扉を開けて貰うのも一苦労では、
おいそれと寄ることも出来ない。

で、入院をさせようかと皆で相談をしていた所だと言うわけだ。

「まぁ、でも 大将が帰って来てくれたんなら
 都合がいいぜ。」

「俺?」

不思議そうに首を傾げるエドワードに、
ハボックは頷く。

「ねっ、中尉。」

「ええ、本当に。」

何やら わかりあったように笑いあう二人に
エドワードは 不穏な気配を感じる。

「・・・あっ、俺 そろそろお暇するわ。
 報告書は また、次回でいいから。

 じゃっ!」

踵を返して歩き出そうとしたエドワードの両肩を
双方ががっちりと抑える。

「と、言うわけなんだ 大将、宜しく頼む。」

「エドワード君、お願いね。」

 
振り返った先に、ニッコリと微笑む美しい中尉を見ると
エドワードは、ガックリと肩を落とした。



「なんで、俺が アイツの看病をしに行かなくちゃいけないんだよ。」

ロイの家に向かう道時に、エドワードはぶつくさと文句を並べながら
歩いていく。

「いいじゃない、兄さん。
 いつも、お世話になってるんだから
 たまには恩返しも必要だよ。

 それに、確かに 兄さんなら
 大佐をベットから動かさなくても
 家にも入れるしね。」

「お前・・・それ、犯罪。」

確かにエドワードなら、ロイが仕掛けている防犯の
練成術を潜り抜けて中に入る事も可能だ。
が、さりげに勧められている事は、当然のように不法侵入罪だ。

「いいじゃない、人助けの為の緊急手段だよ。」

笑いながら返された言葉に、
『もしかして、コイツって 俺より大物?』と
複雑な考えが浮かぶ。

ロイの家の前まで来ると、エドワードは手に持っていた荷物を
アルフォンスに渡す。
素早く両手を合わせて練成で抜け道を作ると
さっさと中に入っていく。

「兄さん、そんなに簡単に進んで大丈夫なの?
 どこかに、錬成陣が・・・。」

心配そうに聞いてくるアルフォンスに、
エドワードは 大丈夫と頷いてやる。

「前回、ここに居たときに練成陣の解き方聞いてるから
 大丈夫だ。」

門に入る時に、一緒に練成も解いてあるので
エドワードは、そのまま玄関に向かうと
もう1つ扉を練成して中に入っていく。

エドワードの慣れた行動に、アルフォンスは驚きを示すが
何も言わずに着いていき、玄関まで来ると 中のエドワードに
今度は 自分の荷物を渡す。

「アル?」

渡された荷物を受け取りながら、
エドワードが不思議そうに名前を呼びかける。

「じゃあ、兄さん、しっかり看病して上げてね。」

そう言うと、クルリと向きを変えて戻っていくアルフォンスの
行動に、慌てて声をかける。

「えっ??
 おっ、おい、アルフォンス!」

「僕だと、静かにってわけにはいかないから
 僕は 宿に戻ってるね~。
 
 病人には 優しくするんだよー。」

そう言い捨てながら、塀の穴を潜り抜け
練成で穴を閉じて去っていくアルフォンスを呼ぶ
エドワードの声だけが虚しく響いていく。

『卑怯者~!』

堀の向こうから、そんな言葉が聞こえてきたが
アルフォンスは、気にせず 来た道を戻っていく。

(ぶつくさ言ってるけど、本当は心配してるんだよね。
 兄さん、素直じゃないから。)

看病に向かう途中、あれもこれもと買出しするエドワードの姿を見ていて
エドワードなりに、ロイを心配して気遣っている事もわかっている。
下手に自分がいるよりは、病人のロイと二人のほうが
エドワードも素直に優しくするに違いない。
兄の性格に、精通しているアルフォンスであった。



取り合えず 荷物をキッチンに置くと、
エドワードは そのままロイの寝室に向かう。

扉の前で、少しだけ戸惑うが 静かに扉を開けて中を窺う。

「お邪魔しま・・・す。」

家に入ってきてから言う事でもないかとは思うが
何と 声をかければいいのかわからずに
一応、そんな言葉を言ってみる。

「やぁ、済まない、迎えにも出ずに。」

暗い室内から、そんな返事が返って来て
エドワードは内心、驚きで思わず飛び上がりそうになる。

「あっ、な、なんだ、起きてたのかよ。」

返す言葉も、病気のロイを気遣ってか
いつも程の勢いはない。

「ああ、さすが あれだけ賑やかだとね。

 君たちだとわかってたんで、
 すまないが、勝手に入ってもらった。」

「無用心だな。」

あきれたように返すエドワードに
ロイも 力ない笑みを返す。

「君は特別だ。」

さらりと返された言葉に、サッと頬が熱くなる。
この分では、顔も紅くなってるだろうが
この暗闇では見えないだろう。

・・・まぁ、この男にはお見通しかも知れないが。

「んで、熱はだいぶん引いたのかよ?」

照れ隠しのように、ぶっきらぼうに聞いてみる。

「さぁ?
 熱を測る方法も無かったんでね。
 まぁ、余り変らないと思うが。」

エドワードは、ホークアイがしたように手の平をロイの額に当て
瞬間、顔を顰めてしまう。

ロイに断って、横のスタンドランプを付けてみると
より一層、表情を険しくする。

熱が高いままが長く続いたせいか、ロイの唇はかさつき ささくれが目立つ。
無精ひげが伸びて、髪は汗のためか べったりと張り付いている。
エドワードは、ベットの周辺を見回すが
空になっているペットボトルが数本置かれている以外に
何もない事を見て取ると、さっさと次の行動を起こす。

勝手知ったるで、部屋の戸棚を開け
お目当てのものを探し出すと、ロイの元に戻る。

「大佐、動くのもしんどいと思うけど
 そのままじゃ良くない。
 とにかく、着替えよう。」

エドワードは おっくうがるロイを宥めて
衣服を脱がせて、新しく持ってきたパジャマを着せようとするが
少しづつ身体をずらさせて、服を着せるのは
結構な労力がいる。

「おいっ! ちょっとは協力しろよ。」

全く動こうとしないロイに、
エドワードが声をかける。

「いやだ、折角 君が脱がせてくれるチャンスなんだ。
 全部、君にしてもらう。」

「もう! こんな時に何言ってんだよ。

 甘えるんじゃないぜ。」

文句を言いながらも、エドワードは不承不承ロイのパジャマを脱がしていく。
四苦八苦しながら上を着せ替え、さすがにズボンに下着となると
躊躇いが生まれたが、意を決してどちらも引き抜く。

なるべく中心は見ないようにしながら、
足元から新しい下着を穿かせる。
こんな時だけ 協力する姿勢を見せるロイが 腰を上に突き出してくるので、
エドワードは、病人らしくクタリと伸びているロイの一物を目に
真っ赤になりながらも、手早く下着とズボンを穿かせた。

「なんだ、汗は拭いてくれないのか?」

こんな状況でも やたらと楽しそうな男は
からかうように声をかけてくる。

「アンタなー・・・。
 身体拭くのは、もっと熱が下がってからだ。
 今は 熱を下げるのが先だ。」

汗の臭いが染み込んだパジャマを床に放り出し、
汗で湿っているシーツとブランケットも変える。

ロイは 新しくなった寝床に、ホッとしたように沈み込む。
その様子に、軽口程には ロイの容態がすぐれてない事を感じる。

「ちょっと待ってろよ。」

汚れ物を手に部屋を出て行くと、
急いで買物を置いたキッチンに向かう。
予想どうり、何も無いロイの家のために買ってきた中から
必要な物を取り出して準備する。

氷枕は前回に自分が使った時の物があるので
それを取り出してくる。
氷水を洗面器にはり、タオルと一緒に持っていく。

部屋に戻ってみると、ロイが うとうととし始めている。

「ほら、大佐、少しだけ頭を上げて。」

抱えるようにして頭を上げさせると
下に氷枕を引いてやる。
額にも、氷水で冷やしたタオルとおいてやると
ロイが 気持ち良さそうに薄く笑みを口に浮かべる。

「まだ、寝るなよ。
 ほら、口を開けて。」

手を添えて口を開けさせると、
そこに体温計を咥えさせる。

測った体温の高さに、エドワードは不安を表情に浮かべるが
首を振って消し去ると、また部屋を出て行く。

簡単に温めるだけで食べれるようにした食材を買ってきたのは正解だったようだ。
あの熱では、意識が戻っている時間は僅かだろう。
急いで温めると、その後に飲ませる薬と大振りな水をピッチャーに入れて
持っていく。

「ほら、大佐。
 少しだけ起きて。

 ちょっとでも食べないと、薬が飲めないから。」

すぐにでも意識が眠り込みそうになるロイに呼びかけ
エドワードが 冷ましたスープを口に運んでやる。
数回飲み込むと、首を振るロイにエドワードはため息を
吐きながら 薬を取り出す。

薬を見ながら、しばらく考えるが
持ってきた水を口に含むと、
ロイの口に薬を放り込んで、すぐさま含んだ水を流し込む。

ロイは 驚いたように目を見開くが
大人しく薬と水を飲み込む。

「エドワード・・・、もう少し・・。」

ロイが 何を強請っているのかがわかったエドワードは
素直に水を口移しで飲ませてやる。

数度、飲ませてやると ロイは満足したように
安堵の息を吐く。

「じゃあ、後は寝な。」

乱暴な口調とは裏腹に、手は優しくロイの額にかかった髪を
撫で付ける。

「・・・エドワード。
 済まないが、寝てるときは部屋を出ておいてくれないか。」

「えっ・・・。」

「頼む。」

ロイに言われた言葉に、瞬間 ムッとして言い返しそうになったが、
ロイの瞳に映る影は、エドワードに言葉を作る事を躊躇わせる。

「・・・わかった。
 じゃあ、何かあったら 隣の部屋にいるから呼べよ。」

「すまない・・・。」

それだけ言うと、起きている気力も限界だったのだろう。
ロイが意識を手離して行くのが感じられ、
エドワードは、静かに部屋を出て行く。


扉を閉めて、自分用にと決めた部屋に入ると
エドワードは、先ほど ロイが言った言葉を考える。

ロイは、『出て行ってくれ』ではなく
『出ておいて』欲しいと言った。

それは、エドワードが 邪魔だから、そこに居て欲しくないと
思ったのではなく、居てもらっては都合の悪いことがあるからと
考えたほうがいいだろう。

そして、それに関しては 薄々、ロイが思っている事がわかる。
エドワードも 体調の悪いときには夢見が悪い。
夜中に 何度、アルフォンスに揺り起こされたか。

容赦なく浮かんでくる夢たちは、
自分の罪悪感が増幅されたように
ありえなかった情景や、謂れの無い言葉や罵倒が生み出される。
エドワードも 何度も、アルフォンスに気づかれぬうちに
飛び起きて、汗を拭う事にもなった。

多分、ロイが心配している事も同様の事だろう。
自分が来るまでも、散々 悩まされていたのだろう。
ロイの考えている事がわかるだけ、
何故か 扉の外に出された事を 少しだけ寂しくも感じる。

エドワードは眠れない身体を、備え付けのベットに横たえ
まんじりと、長い夜を思う。


『鳴声・・・?』

うとうととしていたのだろう。
エドワードは、聞こえた声に朧に耳を傾ける。

『誰かが啼いている。』
そう浮かんだ瞬間、はっとなり起き上がる。

静まり返った家では、鳴声どころか 吐息も聞こえない。
気のせいかと、首を振って自分の考えを消し去ろうとした瞬間
声が聞こえる。

それは啼き声でもなく、が 言葉でさえなかった。
小さく、弱弱しくさえある音は 声というよりは
獣のうめき声に近いと思わせられる。
手負いの獣の弱弱しい咆哮・・・。

言葉に出来ない程の痛みや哀しみ。
抑え切れない、怒りや 憤り。
自分に対しての絶望や恐怖。

そんなものが混じり合って、人にも理解できないような
音が口を借りて吐き出されている。

それが、隣の部屋から聞こえてくるとわかったとき
エドワードは、溜まらず 部屋から飛び出した。
そして、音も気配もさせずに隣の部屋に入ると
独り戦っている男の傍に佇む。

ロイは、歯を食いしばるようにして耐えている。
声1つ上げず、涙1つ零さない。
時折、吐き出される荒い呼吸が
彼の苦しみを現す たった一つの手段のように。

時折、無意識に首を横に振る仕草をする。
額には、汗が跡を残すほど流れている。
小刻みに震える身体見たとき、
エドワードは 思わず、ロイを抱きしめてやりたい衝動に襲われた。

熱くなったタオルを冷やして交換してやる。
伝う汗を、こまめに拭いてやる。
そうしてやりながら、エドワードは じっとロイを見守る。
彼は彼が選んだ修羅の道を行く。
それは、エドワードには 何もしてやれない。
エドワードに出来る事は、きちんと見といてやる事だけだ。
この男の表の部分も、暗部に隠された部分も。
闘い、勝っち取る事を信じてやって・・・。


外が 白々と明るくなってくる頃、
ようやく、ロイの寝息も落ち着いてくる。
エドワードは、ホッとため息を吐き体中の力を抜く。
凝り固まった体が、どれだけ 自分が気を張っていたのかをわからせた。

エドワードは、ふと ロイのはみ出ている手に気づき
ブランケットに戻してやろうと触れる。

触れた瞬間、握り返された手に驚いて ロイの顔を見る。
そこには焦燥感を滲ませた暗い瞳で、
エドワードを見ているロイの姿があった。

「・・・約束を守らなかったな。」

苦笑を浮かべて、力ない声で語りだす。

「ゴメン・・・。」

エドワードも苦笑を浮かべて謝る。

「見られたくなかったのに・・・君には。」

「なんで?」

囁くように語られる言葉に、
エドワードも 囁き返す。

「・・・みっともないだろ。」

本当に そう思っているのだろう、
悄然とした表情が、おかしかった。

「みっともなくないさ。」

口の端に笑みを浮かべて、そう答えるエドワードに
ロイは、かすかに首を振り答え返す。

「いや、みっともない・・・さ。

 自分の犯した罪を受け止めきれずに
 足掻いているなんて・・・みっともない人間だよ。」

「大佐・・・。」

エドワードは、ロイの言葉に呆然とする。
そして、少しだけ身体を乗り出して
ロイの顔を正面から見えるようにする。

「大佐は みっともなくなんかないぜ。

 足掻いてるのは、闘っているからだ。
 アンタは、真剣に闘っている。
 かっこいいぜ。」

「エドワード・・・。」

驚くように目を瞠るロイに、
エドワードは安心させるように
 力強い笑顔を浮かべてやる。

「俺もアンタも 人間だ。

 人ってのは、欲深い生き物なんだぜ。

 俺なんか、大罪を犯して尚
 生きていた事を感謝する前に、
 元に戻りたいなんて、強欲な事を考えて生きている。

 なんで、素直に 命があった事だけ感謝して
 生きていけないんだろうな?

 そんな俺は、アンタからみたら
 やっぱり、みっともないし醜い人間だろうな。」

そう言いながら、寂しく微笑むエドワードに
ロイは 反射的に首を振る。

「そんな事は無い。
 エドワード、君は 綺麗だよ。
 
 誰よりも。
 
 私が知っている人間の中で
 君ほど綺麗な人間も、強い人間も見たことがない。」

今度は、エドワードが目を瞠る事になった。

「あんたなぁ・・・。

 何で、そんな恥ずかしいセリフが つらつらと出るのかねー。」

恥ずかしさか、照れか、エドワードの顔が紅く色づく。

「本当の事だ。」

しごく真面目な顔で返されて、エドワードは声を上げずに笑う。

登ってきた朝日が、室内に光を差し込ませてくる。

光は、エドワードの髪に反射して
キラキラと輝きの乱舞を強くする。

ロイは、そんなエドワードの様子を
眩しそうに見つめる。

「アンタも俺も生きている。
 生きている限りは、闘うしかないんだ。

 それが俺らが選んだ道なんだから。

 悔やむなよ?

 悔やんで、嘆いても 何にも戻ってもこないし
 手に入れれるもののないんだから。

 アンタの未来も、俺が 望む未来も
 先に進む事でしか得れないんだ。
 
 なら、とことん闘うまでさ。」

そう言って、微笑むエドワードは
日の光を一身に浴びて輝いている。

朝の まだ弱い光ではなく、
昼日中、燦然と輝く太陽のように。

「もう寝ろよ。

 そんで、今度は悔やむなよ。
 アンタの事は、俺がきちんと見といてやるよ。」

ゆっくりと髪を梳かれる心地に
ロイは、安心して心を開放する。
ゆっくりと、心地よい眠りが約束されている予感を
感じながら、寝言とも思えるような
小さなつぶやきを落とす。

「エドワード、ここに居てくれ・・・。」

小さな呟きを耳にした瞬間、
エドワードは 笑顔を浮かべて頷く。

「大丈夫だ、俺は ずっと見といてやるからな。」


それに微笑み返そうとして、ロイは沈む意識の中
上手く出来たのかはわからなかった。
ただ、今度 沈む世界は 暗黒の世界ではなく、
安息と安らぎを与えてくれる世界にいけるだろう。

生きとして生ける者、全ては 陽の恩恵で生かされている。
ロイは、今確かに 自分も その恩恵を得た事を知った。
小さくても強い、燦然と輝く 自分だけの太陽の。




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