2018/10/07(日)07:00
徒然草を読もう・第二百三十四段
第二百三十四段
人のものを問ひたるに、知らずしもあらじ、ありのままに言はんはをこがましとにや、心惑はすやうに返事(かえりごと)したる、よからぬ事なり。知りたる事も、なほさだかにと思ひてや問ふらん。又、まことに知らぬ人もなどかなからん。うららかに言ひ聞かせたらんは、おとなしく聞えなまし。
人はいまだ聞き及ばぬ事を、わが知りたるままに、「さてもその人の事のあさましさ」などばかり言ひやりたれば、「如何(いか)なることのあるにか」と、おし返し問ひにやるこそ、心づきなけれ。世に古りぬる事をも、おのづから聞きもらすあたりもあれば、覚束なからぬやうに告げやりたらん、あしかるべきことかは。
かやうの事は、もの馴れぬ人のある事なり。
現代風訳
人が質問してきた時に、「まさか知らないわけが無いし、真に受けて本当のことを言うのも馬鹿馬鹿しい」と思うのだろうか、相手を迷わすように返事をするのは、良くない事である。知っていることも、もっとはっきり知りたいと思って質問するのかもしれない。また、本当に知らない人がいないとは断言できない。正確に答えれば、信頼されるだろう。
他人はまだ聞き及ばない噂話などを、自分が知っているのに任せて、「それにしても、あの人の、あの事は、大変ですね」などとだけ言って手紙を送れば、「なにかあったのですか?」と折り返し質問の手紙を送らなければならないのが、不愉快だ。
世間で常識となったような周知のことでも、たまたま聞き漏らした人もあるので、不審な点の無いように正確に物事を伝えて、どうして悪いことがあろうか。
このような事は、世間馴れしていない人がする事である。
質問に対してまっすぐに解答する。
わからないときはわからないと答える。
好感の持てる態度です。