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フィンとリーフのトラキア博物館

フィンとリーフのトラキア博物館

フィンのトラキア戦記(3)

最新の更新:1月12日に第35話をアップしました!!(デルムッド)


<第31話・竜王襲来、そして・・・>

アルテナ様がトラキア城へ飛び去ってから2日がたった。
情報が一向に来ない状態に、私たちは苛立ちを隠せなかった。
だが事態は突然動く。新たな竜騎士軍団が私たちのいるミーズ城に向けて進軍してきたのだ。そして私が双眼鏡で覗くと、竜騎士軍団の先頭にいる男の姿に、思わず歯ぎしりをした。トラバント王自ら攻撃を仕掛けてきたのだ。

すぐに体制を整えると、たちまち竜騎士軍団と激しい戦闘となった。トラバント王が引き連れてきた竜騎士たちは、アルテナ様が引き連れてきた部隊と違い、統率が取れていた。だが、ファバル様とレスター様が率いる弓部隊には、さすがに歯がたたなかった。確実に一騎ずつ落とされていく。
そして私が最後の竜騎士に止めを差した時には、すでにリーフ様はトラバント王に挑んでいた。

「姉上はどうした?」とリーフ様が訪ねる。
「ククク・・・貴様の姉のことを知りたければ、このわしを倒してみろ!!」

体格的にも体力的にも、リーフ様よりトラバント王の方が勝っているのは明らかである。しかしリーフ様は気力を振り絞って何度も挑んでいく。跳ね返されようが、そのたびに起き上がりトラバント王に挑んでいった。

お互い決め手がないままかなりの時間がたった。さすがのトラバント王も息が上がってきた。

そしてリーフ様が再びトラバント王に突っ込んでいく。するとリーフ様の攻撃を受け止めてきた、トラバント王のもつ槍が、突然まっぷたつに割れたのだ。そして動揺したトラバント王に隙ができた瞬間を、リーフ様は見逃さなかった。

リーフ様の光の剣が、トラバント王の胸に突き刺さった。
「ぐほぉっ・・・」竜から滑り落ち地面に叩きつけられるトラバント王。誰がみても勝負が決したのは明らかだった。

だがトラバント王は、胸を抑えながらもなおも立ち上がろうとする。しかし・・・

「く・・・クックック・・・見事だ、キュアンの小せがれよ・・・・・・わしの負けだ・・・約束通りに貴様の姉のことを教えてやる・・・お前の姉は・・・・無事生きている・・・」そういい残すと、トラバント王は二度と動くことはなかった。

「トラバント王・・・」とリーフ様は呟く。キュアン様とエスリン様の仇を討った喜びよりも、なぜトラキアとレンスターが戦わねばならなかったのかという、空しさを感じているようだった。

宿敵トラバントを討ってから一刻後、カパトギア城に出ていたシャナン様の部隊の方の戦いも終結していた。
「トラキアの盾」の異名をもつハンニバル将軍が、私たち解放軍に投降してきたのだ。話を聞くと、ハンニバル将軍は初めこの戦いには反対していた。ところが、義理の息子で以前ケルベスの門とミーズ城で出会ったコープル君をトラバント王によって人質にとられ、やむなく戦っていたのだ。

しかしフィー様を団長にし、ミーシャ将軍が副団長を務める天馬騎士団が、コープル君が捕らわれているというルテキア城を奇襲。見事にコープル君を救出することに成功し、無事親子の対面を果たした。そしてコープル君の説得にハンニバル将軍は解放軍に参加する決意を固めたという。

夕方カパトギア城で休息をとっていると、突然南方から竜騎士がやってきた。敵かと一瞬緊張が走ったのだが、その姿をみて私は感激の涙を抑えることができなかった。

そう、リーフ様の姉君であるアルテナ様が解放軍に参加すると、セリス様のもとを訪れていたのだ。

そして・・・
「姉上!!」
リーフ様が思わずアルテナ様に抱きついた。無理もない、実に17年の時を経て姉弟が再会を果たしたのだから。
「ごめんねリーフ、心配させて・・・」
そう言うとアルテナ様も優しくリーフ様の頭を撫でると、私の方へ顔を向ける。

「フィン殿・・・今までリーフを、そしてレンスターを守ってくれて本当にありがとう・・・感謝しています」
アルテナ様に感謝の言葉を述べられ、私は感慨深く、思わず声をつまらせる。
「アルテナ様・・・よくぞご無事で・・・」

こうして、アルテナ様を無事に迎え入れた私たちは、さらに南へと進軍を開始した。


第31話・完
第32話に続く・・・


<第32話・帝国軍の刺客>

アルテナ様、ハンニバル将軍そして将軍の義理の息子であるコープルを仲間に加えた私たちは、ルテキア城へと向かう。

一度シレジアの天馬騎士団によって落とされているものの、今度は北方から帝国軍の部隊が近づいていることを知り、私たちは城の北側で待機することにした。

その間にリーフ様は、かつて私の妻であるラケシスしか成しえなかった「マスターナイト」の称号を得ることができた。
幸いわが軍やセリス軍にも、それぞれに長けた師匠がいたのだから。剣術は身につけていたので、槍は私が教え、斧はドズルの公子ヨハルヴァが、弓はジャムカ王子とエーディン様のご子息であるレスター様が、魔法に関しても炎と雷の魔法はオルエン将軍やアスベルが、風魔法はセティ王子が、光魔法はリノアン様が、杖に関しても私の娘ナンナにそれぞれ教えてもらい、リーフ様も飲み込みが早くすぐに体得なされた。


「聖戦士の武器」が使えなくても、自分でしか出来ないことがあるとおっしゃっていたリーフ様は、見事にそれを証明したのである。


やがて帝国軍の騎馬部隊が迫って、すぐに臨戦体制をとる。
リーフ様はセリス様とともに先陣にたち、相手の出方を伺う。

やがて帝国軍の先陣部隊と激しい戦闘に入る。騎馬部隊とだけあって機動力ではこちらの部隊とそう変わらない。が、混成部隊だけあってやりにくい感はいなめなかった。

だがその中でもリーフ様は、マスターナイトの一番の強みともいえる、相手ごとに武器を変えて自分の方へ有利に進めていく。そして敵のリーダーとリーフ様が向かい合う。

相手は魔道士からの上級職であるマージナイトであり、魔法防御の低いリーフ様にとってはやや不利な状況だった。
しかも風魔法の上級魔法である「トルネード」を装備していて、エルファイアーをもっているリーフ様にしても、武器の重量の関係もあって有利とはいえなかった。

敵のリーダーがすぐに「トルネード」をリーフ様に向けて放つ。凄まじい竜巻が勢いをあげて襲いかかってくるものの、リーフ様は人馬一体となってこれをかわし、すぐさま反撃のエルファイアーを放つ。
ダメージを与えたものの致命傷とはならず、相手は再びトルネードを放とうとした。

だがリーフ様は今度は「光の剣」を取り出すと、剣に向けて祈りはじめる。

「光の剣よ、その秘めたる力を我がに示せ、ライトニング!!」

そうリーフ様はとっさに、光の剣にこめられた魔力「ライトニング」の魔法の力を解放したのである。

さすがの敵のリーダーもこの攻撃を予測はできず、まともにライトニングの魔法をうけてしまい、怯んだところをリーフ様が光の剣でしとめた。敵の懐から彼が使っていた「トルネード」の魔法書がぽとりと落ちる。
そのトルネードの魔法書は、しとめたリーフ様が扱うことになった。
最初は風魔法の達人であるセティ王子に渡そうとしたのだが、セティ王子が「これはリーフ王子自身が扱うべきだ」とおっしゃって、リーフ様もその厚意に甘えることにした。

その後私たちはグルティア城に攻め込み、城を守っていたロプトの司祭ジュダを倒した。

残るはいよいよトラキア城のみとなり、トラキア軍との最後の戦いが迫っていた・・・


第32話・完
第33話に続く・・・

<第33話・三頭の竜>

グルティア城を制圧した私たちは、トラキア城に何度も休戦のための使者を送った。

だがアリオーン王子は、頑なにその申込を断り私たちに最後に戦いを挑んできた。
グルティア城で見回りをしていた兵士が、突然ミーズ、カパトギア、ルテキアに向けて竜騎士団が飛び去ったのを見たというのだ。
それを聞いたアルテナ様は「三頭の竜作戦」を仕掛けてきたとおっしゃった。つまりアリオーン王子は最後までトラキアの戦士としての意地を貫く、という意志の現れなのだ。

アルテナ様がおっしゃるには「三頭の竜作戦」とは、これまで私たちが制圧してきたミーズ、カパトギア、ルテキアの3つの城に向けて、それぞれに竜騎士団を送り込み城を奪回し、その間にアリオーン王子率いる本隊が、私たちの軍をたたくというものである。

だが幸い、ミーズにはグレイドとカリオンが率いるランスリッターがいたし、カパトギアには「トラキアの盾」の異名をもつハンニバル将軍率いる重騎士軍団がいた。ルテキアにもセリス様が率いていた軍の一部を残していたので、ほかに竜騎士隊は何とか持ちこたえてくれるはずである。

しかしアリオーン王子率いる本隊は、セリス様の軍の主力と私たちの軍の主力を投入しないと、苦戦は免れなかった。

そこでアルテナ様はアリオーン王子を説得するべく、別動隊で動くことになった。お一人では危険なので、私たちの軍にいる竜騎士ディーン&エダ兄妹が同行する。


そしてついにトラキア竜騎士軍団との最後の戦いが始まった。

セリス様とリーフ様、アレス様を先頭に、向かってくる竜騎士をそれぞれ倒していく。特にアレス様は魔剣ミストルティンを縦横無尽にふりまわし、次々と竜騎士たちを切り捨てていった。

しかし相手の竜騎士の数は、尋常ではなかった。無限とも思えるのではないかと思うほど、トラキア城から次々と竜騎士が出てくる。無傷な戦士は限られるほどになった。

だが、そこにグルティアから援軍がやってきた。ミーズ、カパトギア、ルテキアそれぞれから一足先に竜騎士軍団を打ち倒してきた仲間たちが助太刀にきたのである。数の上では互角となり、たちまち乱戦状態になっていく。

しかし、こちらには竜騎士の弱点であるレスター様とファバル様率いる弓騎士隊とセティ様とアーサー様が率いる魔道士部隊を要していた。

セリス様たち率いる騎兵部隊と、シャナン様率いる歩兵部隊を後方に下がらせ、レスター様やセティ様たちが前線に出ると、一斉攻撃を開始した。たちまち形成が逆転し、竜騎士部隊は弓部隊に次々と射られ墜落していく。弓の脅威を免れたほかの竜騎士たちにも、炎、雷、風、光の魔法が襲いかかる。

1時間後あれだけいた竜騎士たちは、ついに数えるほどにまで減っていた。

と、ついにアリオーン王子が姿を現した。聖武器の1つ「天槍グングニル」を携えて。
そこにアルテナ様が現れ、アリオーン王子を説得しようと試みる。だが、彼の答えは「否」のまま変わることはなかった。
そしてアルテナ様に対してアリオーン王子は攻撃をしかけてきた。アルテナ様も「地槍ゲイ・ボルグ」でうけとめるものの、バランスを崩される。
体制が崩れたことを確認し、チャンスとばかりにアリオーン王子は、再びアルテナ様にグングニルを振りかざそうとする。

しかし突然アリオーン王子の右肩に矢が刺さる。私が振り返ると、そこには銀の弓を構えアリオーン王子の騎竜に対し、攻撃をしかけようとしていたリーフ様がいた。アルテナ様の危機にとっさの判断で弱点である弓攻撃に討って出たのだ。

そして再びリーフ様から放たれた弓は、寸部の狂いもなくアリオーン王子の騎竜の翼を切りさいた。
バランスを崩した竜はゆっくりと落下し、地面に降下した。アリオーン王子は傷を負った肩をおさえながらも、気力で立ち上がろうとする。

ところが突然魔法陣があらわれたかと思うと、赤毛の少年が現れアリオーン王子をみてこういった。

「アリオーン、まだ死なせるわけにはいかぬ。私のもとへくるがいい・・・」

私はその少年を見ると、金縛りにあったかのように動けなくなってしまった。そしてなす術もなく、アリオーン王子は連れ去られていった。おそらくあの少年は以前、マンスターの戦いで見かけたのと同じ。

そう、グランベル帝国、アルヴィス皇帝の息子であるユリウス皇子だった。

アリオーン王子が連れ去られたと同時に勝敗は決した。トラキア城が制圧されたからである。

アルテナ様はアリオーン王子が連れ去られていたのを知ると、悲痛な表情をなされていたが、リーフ様が「アリオーン王子は必ず生きています。最後まで希望を捨てなければ必ず会えるのですから」と励まされた。

こうして長きに渡るトラキア軍との戦いに終止符を打った私たちは、いよいよグランベルに向けて出発する。

ついに帝国軍との本当の戦いの幕がきって落とされるのだ・・・

第33話・完
第34話に続く・・・


<第34話・久しぶりの休息>

トラキア城を制圧した私たちは、いよいよグランベル帝国に向けて進軍を開始した。

グルティア、ルテキア、そして一度はトラキア軍の手に落ちていた自由都市ターラを経由して順調に北上していく。

そして港町ペルルークに差し掛かったところで、駐留していた帝国軍と戦闘になる。
初めの方こそ、激しい戦いになったものの、数で勝っていた私たちは見事に帝国軍との最初の戦いに勝利した。

解放したペルルークの町では市民が歓呼をもってわたしたちを出迎えてくれた。

そこで、セリス様はこれまでの労を労うためにペルルークの町で、休息をとることにした。

トラキア半島ではほぼ休むことなく戦い続けてきたので、実に久しぶりの休息である。

リーフ様は早速ナンナを連れて市場に出かけられた。厳しい日々の連続だったので、ここにきて緊張が解けたのだろう。ナンナとの会話もいつもよりはずんでいたようだ。

デルムッドの方は初めの方こそ幼なじみであるスカサハ様やレスター様と武器を磨いていたのだが、フィアナ義勇軍のメンバーであるマリータが現れると、何かを話したあと、どういうわけか格闘技場の方へ向かった。

その様子をみていたレスター様とスカサハ様は、笑みを浮かべると武器を磨くことをやめ、あとから現れたユリアさんとパティさんと一緒に市場の方へ出かけられたようだ。

私は一度城へ戻り中でトラキア戦での事後処理を済ませると、あてがわれた部屋で数時間ほど昼寝を楽しんだ。疲れていたこともありあっという間に眠りについていたらしく、気がつくと夕方になっていた。

と、部屋のドアからノックする音が聞こえた。ドアを開けるとそこにはレヴィン様がいて、久しぶりに酒場でゆっくり飲もうと誘いをうける。私はもちろんとうなずき、着替えを済ませ酒場へと向かった。

酒場にはオイフェ殿やシャナン様がいて、久しぶりにシグルド軍のメンバーが揃い、思い出話を酒の肴にし話がはずむ。

ユングヴィのエーディン様がヴェルダン王子ガンドルフに連れ去られたことから、すべては始まった。

そしてヴェルダン城で暗黒教団の存在を知り、その後アグストリアへの遠征。そこでラケシスとの運命の出会いを果たした。

だがアグスティ王暴君シャガールによって、エルトシャン様が処刑され、さらにはシグルド様が祖国グランベルから「反逆者」扱され、シレジア王妃ラーナ様の好意によってシレジアに逃れる。

そこに訪れたわずかな平穏も、愚かな王弟たちによるシレジアの内乱により再び混沌とし、裏でグランベルの介入。

そして後に訪れるバーハラの悲劇とイードでの虐殺・・・

一体どれだけの命が失われたのだろうか、多くの最良の人たちが亡くなり、そして私たちもかけがえのない仲間たちを失った。
そして今も続くグランベル帝国の圧制によって、多くの人々が苦しめられている・・・

私たちは改めてグランベル帝国の打倒を誓った。そしてわたしも、この戦いが終わった後、イードで行方不明となっている私の妻ラケシスを探そうと心の中で誓った。

酒場を出て城へと戻ろうとした時、悲劇は突然訪れる。

なんとユリアさんが、謎の老人によって連れ去られたというのだ。一緒にいたスカサハ様は謎の老人によって重傷を負わされたという。

レヴィン様が言うにはおそらくユリアさんはグランベル帝国内に連れ去られたと推測しているようだった。

私たちは翌日ペルルーク城をあとにし、一路ミレトスへと向かった。


第34話・完
第35話に続く・・・


<第35話・雷神と闇の皇子>

ユリアさんを救出するため、私たちはすぐペルルーク城を発った。しかし城を出てすぐ、帝国軍との戦闘に突入した。

相手は闇魔法を得意とする、ロプトの暗殺集団「ベルクローゼン」だ。私たちリーフ軍は以前何度も戦っているので、闇魔法の恐ろしさは知っている。ここでは魔道士部隊が先陣を務め、魔法防御の低い他の部隊は後方支援にまわる。

だが、フィー様が率いる天馬騎士団とアルテナ様率いる竜騎士軍団は、一足先にクロノスとラドス近辺の村を回ることになった。
戦いに乗じて海賊団が村を襲っているとの報を駆けつけてきた村人から聞いたのである。

その後無事にベルクローゼンの部隊を全滅させると、急いでクロノス城の制圧に向かった。
ここを守っているのは、フリージのブルーム王の妻ヒルダである。このミレトスでの子供狩りを指示しているのが彼女だ。彼女の圧制のせいで、数多くの市民が虐殺されたのだ。まさに狂気の女王である。

私たちの軍にいるフリージ家に忠誠を誓ったオルエン将軍と副官フレッド殿、アマルダ将軍は、主が起こしたこの惨状を悲痛な表情で見つめていた。だが、彼女たちは新たな主に仕えたアーサー様とティニー様をまえに、ヒルダ打倒を誓ったのだった。

しかしヒルダを倒したいという想いが強かったのは、ほかでもないアーサー様とティニー様だった。
アーサー様とティニー様の母である、ティルテュ様はヒルダのひどい仕打ちによって体を壊し、若くして亡くなっていた。
ティルテュ様は私が以前シグルド軍に在籍していた時に、一緒に戦った仲間である。改めてヒルダに対する怒りがこみ上げてくる。


しかし約1時間後、クロノス城は制圧された。ヒルダはすでにクロノス城を出たあとだった。どうやら我々が来る速度がことのほか早かったので、戦意を喪失したらしい。

私たちはクロノス城を制圧したあと、すぐ次の戦いに入った。西にあるラドス城の精鋭騎馬部隊がクロノス城に迫ってきていたからである。

しかし結果はあっけなかった。数多くの戦いを経験している私たちの前では、ラドスの精鋭部隊も敵ではなかった。

勢いにのってラドス城を制圧したわたしたちは町の中に入り、思わず息を飲んだ。
町は人影もほとんどなく廃虚と化していた。そう、ここの市民はすでにベルクローゼンによって虐殺されていたのだ。

「ひどい・・・こんなことが許されるのか!!」
リーフ様も怒りを隠し切れず叫んだ。いや、ここにいる軍全員がリーフ様と同じことを思ったことだろう。

「そうだ・・・暗黒神の前では人々は生きていけない。何としても帝国軍・・・いや暗黒教団を倒さなければならない・・・」
レヴィン様は静かにこうつぶやいていた。

ラドス城を制圧した私たちは、北上にミレトス城へと向かう。

森で待ちうけていたのは、先ほどと同じベルクローゼンだった。さほどな時間もかからずその部隊を全滅させ、いよいよミレトス城が目前に迫ってきた時、あの2人が現れる。

そう、アルヴィス皇帝の息子であるユリウス皇子と、以前コノートの戦いでセリス様たちを苦しめた「雷神」ことフリージ公女イシュタルである。

圧倒的な威圧感に私は、動くこともできなかった。そう金縛りにあったのと同じ状態である。

ユリウス皇子は不適な笑みを浮かべたあと、私たちにむけて魔法を唱えた。

その魔法は、言葉では表現できないほど圧倒的な力をもっていた。彼自身の持つ凄まじいまでの魔力もさることながら、荒れ狂う嵐のごとく、黒い竜らしきものが素早くかけぬけていく。

黒い竜が駆け抜けていった地面は深くえぐられていた。さいわい死者は出なかったものの、この魔法を間近で見た私たちは恐怖感を抑えることができなかった。いや、この魔法を見て何も感じない方がどうかしている。

「クックック・・・その恐怖に満ちた表情は実に素晴らしい。今回はここで牽いてやるが、次は確実に貴様たちの息の根を止めてくれる。いくぞイシュタル」
「はい、ユリウス様」

そういい残すと、2人はワープの魔法で消えていった。

その後体制を何とか立て直した私たちは、無事ミレトス城を制圧。しかしそこに捕らわれていると思っていた子供たちはいなかった。すでにグランベル帝国内に連れ去られたあとだったのだ。

無事に城を制圧できたとはいえ、ユリウス皇子が繰り出した魔法「暗黒魔法ロプトウス」の威力の前に私たちは動揺を隠せなかった。

しかしレヴィン様は「決して逃げるな!!俺たちが戦わないと、誰が人々をこのユグドラル大陸を守れるんだ!!いいか、決してユリウス皇子、いやロプトウスに屈してはいけないんだ!!」と強い口調でおっしゃった。

「まだ負けが決まったわけじゃない。我々にもまだ希望はある。暗黒魔法ロプトウスを打ち破れる唯一の武器、光魔法「ナーガ」を使えるユリアがな・・・」
レヴィン様がおっしゃったこの言葉に、皆驚かずにはいられなかった。なんとユリアさんはあのユリウス皇子の双子の兄妹、つまりセリス様とは異父妹だというのである。

レヴィン様も確証がもてなかったのだが、ペルルークでユリア様が連れ去られた時、連れ去った老人は黒い衣装を身に纏っていたという。連れ去ったのは、暗黒教団大司祭マンフロイ。今回のすべての悲劇を引き起こした張本人である。

ユリア様が捕らわれているのはグランベル帝国内に間違いない。ナーガの血をひくユリア様は暗黒教団にとって、最大の障害であるのだ。急いで救出しなければいけないのである。

だがその前にシアルフィにいるというアルヴィス皇帝を倒さなければいけないのだ。

そして翌日、私たちはミレトス城をあとにし、ついにグランベル帝国に入った。


第35話・完
第36話に続く・・・


「フィンのトラキア戦記(3)」はここまでです。
「フィンのトラキア戦記(4)」に続きます!!


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