528086 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

前門の虎、後門の狼 <年子を抱えて>

前門の虎、後門の狼 <年子を抱えて>

スポーツ文化を土足で踏む芸能人に怒号!

「スポーツ文化を土足で踏む芸能人に怒号!」 (2005.5.15)


 佐々木が放ったジャンピングサーブが、韓国のコートに突き刺さった。ノータッチエースだ。この瞬間、バレーボール全日本女子チームのアテネオリンピック出場が決定した。4年越しの呪縛から解放された瞬間でもあった。

 4年前、シドニーオリンピック予選のクロアチア戦で、2セット先取していながら、まさかの逆転負けを喫した日本。シドニーへの夢は絶たれた。かつては「東洋の魔女」の異名で世界に君臨した全日本女子が、初めてオリンピック出場を逃したのである。

 竹下が泣いた。高橋が泣いた。成田も、控えの杉山も、ユニホームで何度も涙を拭った。泣き顔が印象的だった4人は、いずれも4年前の屈辱を味わった選手である。戦犯扱いされた竹下と成田は、一度はバレーを辞めた。それだけに万感の思いであったことだろう。おめでとう。よかった、本当によかった…。テレビにむかって、私は拍手を続けた。

 深夜の「バレーすぽると」を見て、再び勝利の余韻に浸った。が、その直後、私は憤慨した。なんと、柳本監督が出演していたのである。そんな何時間も出演するわけではないし、試合終了後から「すぽると」出演までは多少時間もあいていたとはいえ、明日も試合があるというのに、こんな深夜に呼びつけるのはいかがなものか。今大会最大の目的を達成した、しかも宿敵・韓国にストレート勝ちしてのオリンピック出場権獲得とくれば、フジテレビが中継局としてその当日のホットな感想を聞きたいという気持ちはわかる。しかし、この手の生出演系は、えてしてテレビ局側の空回り的はしゃぎっぷりが目に余ることが非常に多い。おまけに監督への質問が「お酒は一日にどれくらい飲むんですか?」とは一体どういうつもりだろうか。監督は酒豪として知られているのだろうか?それにしても、監督だってこんな質問に答えられるはずがない。疲れているところを呼びつけて、バレーに関係ない話をさせようとは、まったく呆れて開いた口が塞がらない。

 フジテレビのバレー放送(オリンピック最終予選はTBSとの共同放送)は、毎回毎回、苦情の電話でもかけてやろうかと思わされるくらいイカレている。試合は手に汗握る展開で面白いのに、純粋に「バレーボール」を楽しむことができないのだ。選手は「オリンピックに出たい」という一心で試合に臨んでいるのに、それを取り巻くものが、選手の真剣さを二の次に考えた、なんとも軽薄な見せ方をしている。選手を、そしてバレーそのものをバカにしている!

 10年ほど前まで、バレーの国際試合といえば、選手へのミーハー心が多少はあったものの(!)、叩いた手が真っ赤になるくらい応援していたものである。素晴らしい試合ならば、タレント起用をはじめとする妙な演出などなくても皆興奮して応援にも熱が入ったし、対戦国のプレーにも拍手を送った。時代の背景やスポンサー等、いろいろ都合はあるだろうが、それ以前にあの演出は悲しくなる。感動も半減するというものだ。

 アイドルをサポーターとして起用すること自体は構わない。ただ、全面に出すのではなく必要最低限に留めるべきではないだろうか。それに、神聖なコートで、試合前にローラースケートで歌って踊ることはやめてほしい。選手でさえ自分の汗をタオルで拭いて整備しているコートである。常識で考えて、コートにローラースケートは異常である。「傷がつく」のではなく「場違いな連中がコートで暴れるのはおかしい」ということ。掃除すればいい、直せばいい、という問題ではない。これはまともなスポーツ中継ではない。スポーツ文化が芸能人によって汚染されているとしか言いようがない!

 テレビ局やスポンサーにとっては視聴率が大切だろう。人気絶頂の80年代に比べてバレー人気が低下していることは否めないが、それなら過剰な演出は国内Vリーグを盛り上げるためにやればよい。国際試合で歌謡ショーなど必要ない。他競技の大会でもタレントを起用することはあるが、さすがにフジテレビのやり方は度を越した演出だと思う。バレー=ジャニーズという図式が完全に確立されていて、それを全面に押し出すことは今回に限らず以前からの話だが、タレント頼みのバレーと揶揄されていることについてバレー協会はどう思っているのだろうか。

 バレーをスポーツとして愛するなら、テレビ局の言いなりになってはだめだ。しかしスポーツを、汗や根性などの代名詞で飾る時代はとっくの昔に終わってしまった。昨今はすべてショーアップの時代、総理大臣でさえ芸能人化している時代である。スポーツとて例外のままいられないといったところか。アイドルを呼べば彼らのファンが会場に足を運ぶ、どんな人でもいいからとにかく1人でも多くの人に見てもらって、スポンサーからお金をふんだくって盛りたてていかなければならない、というように、テレビ局だけでなく協会自身も、集客や視聴率を重視するショー・エンターテインメント指向なのだろか。

 いや、そもそもバレーは、アイドルをサポーターとして使うずっと前から、選手をアスリートとしてではなくタレント的に見る節が多かった。特に男子選手についてはそれが顕著である。その昔は、川合、井上など人気選手のプロモーションビデオのようなものまで販売されていた(私の友人は川合の大ファンで写真集をもっていた)。バレー雑誌もまるでファッション誌のようで、バレーの技術や戦術についての記事は二の次という印象があり、つまり、ジャニーズ系アイドルを受け入れる土壌が既にあったといえよう。そしておそらくジャニーズ側がマーケティングを通じてそれを見つけ、バレー協会も不況でお金がなく背に腹は代えられず、テレビ局側は視聴率が取れればそれでよしということでスタートし、もう流れは止められないというのが現状だろう。

 それにしても、世界戦を、ご当地のアイドルと組み合わせて盛り上げるなんて、他の国でもやっているのだろうか。あまりにも短絡的で、国際的に恥をかくだけではないだろうか。あの長いバルーンでの応援も、いくら開催国とはいえ、やり過ぎではなかろうか(ある意味北朝鮮と同じ感覚に思える…。デコレーションが効き過ぎだ!)。

 日本チームへの応援に会場のマイクを用いていることにも仰天だ。点が入るたびにDJが絶叫している。いくら開催国とはいえ、マナーに反するのではないだろうか。相手チームも必死にアテネを目指しているというのに…。また、あまりに露骨な「ニッポン、チャチャチャ」は360°敵に囲まれて試合をしなければならない相手国チームが気の毒だから程々にしてほしい。試合が素晴らしいだけに、余計に鬱陶しく感じる。

 さらに残念に思うのは、バレーの「競技としての奥深さ」を伝える解説がほとんどないことである。各プレーのどこが凄いか、何が悪かったかを、大半がバレー素人の我々視聴者に伝えることこそ解説者の役目であるはずなのに、「よし!いいぞ!」と視聴者目線の解説(?)ばかりである。アナウンサーも、実況以外のコメントがどうにも白々しく、耳障りである。何が、手作りのお守りペンダントのおかげだ。何が、勝利の女神(伊東美咲)の応援のおかげだ。まったくハラワタが煮えくり返る。選手たちの頑張り以外に何があるというのだ!

 全日本女子の皆さんお疲れ様。心身ともに休息をとって、アテネにむかってまた精進してください。



© Rakuten Group, Inc.