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前門の虎、後門の狼 <年子を抱えて>

前門の虎、後門の狼 <年子を抱えて>

たった1枚のTシャツが与える希望

「たった1枚のTシャツが与える希望」 (2003.10.20)


 赤ちゃんが生まれると、たちまち物が増える。収納方法を工夫しなければならない。狭いアパートでは収納スペースも限られているため、妊娠中から押入れの中を何度も点検していた。

 出てくる出てくる。なんとガラクタの多いことか。いつか使う時があるかもしれないと思ってとっておいた物もたくさんある。しかし、「いつか」とはいつなのか、見当がつかない。どこにしまったか覚えていない物なんて、さほど重要ではないはずだ。なくても困らないに違いない。不用品が押入れの場所を占領するなんてもったいない。

 必要な物と不要な物を区別し、捨てる物はゴミ袋へ、リサイクルショップで買い取ってもらえそうな物はダンボールにまとめた。そして、衣類はアジア・アフリカの難民に送ることにした。収納スペースにはかなりの空きができ、気持ちもすっきりした。

 後日、衣類の送付をお願いした救援衣料センターから、海外輸送費の振込用紙が届き、事務局が発行する「センターだより」という報告書も同封されていた。全国各地での衣類回収活動の様子、現地で難民に衣類を配布する様子などが記され、写真も数多く載っていた。たった1枚のTシャツが与える希望は、物資あふれる日本に生きる私の想像をはるかに超えるものであった。

 アフリカ大陸中部に位置する、ブルンジ共和国。長年続く、民族の対立による内戦で、多くの命が失われ、人々は安全に生活する場所を追われ、国内避難・帰還を繰り返している。土地の荒廃で農業もままならず、1人あたりのGNPでは、世界最貧国の一つである。人々が身にまとっているのは、衣服というより布切れ。着の身着のままで避難したため、ボロボロになっても着替える服がないのだ。標高が高く、朝夕は冬のように冷え込み、寒さに耐えての生活。服がないということは、寒さを強いるだけでなく、人々の希望を妨げる。

 一時期注目が集まったアフガニスタンは、現在は世界の焦点が北朝鮮やイラクに移ったことによって援助が激減している。この国は砂漠で高山地帯が多いため、冬は極寒である。凍死した人は数知れず…。北朝鮮では、飢餓のために多数の人が死に瀕している。中国国境へ逃げてきた難民の子どもたちは、屋台の残飯をあさって飢えをしのいでいる。それでも餓死したり、栄養失調で死んだり、寒さで凍え死んでいる。北海道よりもっともっと寒い気候は、飢餓と死を直結する。

 我が家のたんすの奥で眠っている衣服が、彼らに生きる勇気を与える一助となれば幸いだ。いいことをした思う反面、今までの自分は贅沢だったのではないだろうかと恥ずかしくなった。毎年のように流行が変わり、それに煽られて次から次へと新しい物を買っていたのではないだろうか。服に限った話ではない。日用品にしろ、食べ物にしろ、もったいない使い方をしてはいないだろうか。

 押入れの中がすっきりしたことを喜んでいたが、処分して満足するなんて、いかに物を持て余しているかの証明である。捨てるという行為に、もっと罪悪感はないのか?

 衣食住全般にわたり、自分の生活を見直すよいきっかけとなった。こんな平和な国に生まれたことを、当たり前だと思ってはいけない。娘にも、やたらに買い与えず、物を大切にする心を育てることが親としての義務だと思う。

 配布された衣服に着替えた子どもは、笑顔いっぱい。あの写真の子どものはじけるような笑顔を、私は忘れない。




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