小姐だからできたこと
そう簡単に治るものではない、と頭では理解しつつ、ただ家で寝かせているだけというのも、なんとなく塞いだ気分になるものだ。相変わらず坊はメソメソしているし。動かないから腹も減らないのか、2人とも食欲がない。しかし、何も食べないわけにもいかないだろうと、食べたいものを尋ねると「バローのパン」と坊。インフルエンザの患者を残して家を開けるのだから一刻も早く帰宅したい、買い物はなるべく近所の店で済ませたいのにどうしてもバローまで行けというのか。食欲はないけど、あそこのパンなら食べたいと言うなら、やむなし。のんびり物色していたわけではない。必要なものをさっさとかごに入れ、さっさと帰ってきた。昼間の3時だから、道が混む時間帯でもない。それでも往復40分かかった。近所の店なら、半分以下の時間で済んだろうに。帰宅すると、坊がなんとも申し訳なさそうな顔で、何か言いたそうである。何、鼻血が出たって?坊が鼻血を出すことなんて日常茶飯事だけど、ちょっと出ただけで大騒ぎする男が、自分でティッシュを丸めて処置できたのか?まさか、できるわけないね。坊はトイレに行って、出てこようとした時、くしゃみをした。その時、勢い余って鼻血が出たらしいのだが、マスクをしていたので、顔にベシャーッとついてしまった。ビックリして、ギャーッと叫んだ。その声を聞いた小姐が、只事ではないと察知してかけつけた。案の定、坊は何もできずに立ち尽くしていた。小姐は坊の顔を拭いてやり、血が飛んで汚れていた床もきれいにしてくれたそうだ。よりによって、私がいない間に!一日のうち、不在にした40分のその間に限ってそんなことになるなんて!いや、健康体なら何の問題もない。しかし今は、インフルエンザなのだ。小姐はB型、坊はA型と、別の種類のインフルエンザだから、お互いうつらないよう違う部屋に隔離していたのに、こんな形で触れ合ってしまった。熱はだんだん下がってきている。あとは、小姐はA型に、坊はB型に感染していなければいいのだが・・・。隔離していたって、同じ家にいれば完璧に隔離できるものでもないよな。自分も病の身でありながら、弟の異変に気づいて様子を見に行き、適切な処理をしてくれた小姐には感謝している。私より背が高い憎たらしい弟とか言いながら、やっぱり優しいわ、小姐。