話題は、少し時間を巻き戻し、韓国第2日目の午前中のDMZ(非武装地帯)第3
トンネル見学に移す。その前に訪れた臨津閣は昨年に行っていて、写真と日記を書い
ているので、省略する。
◎細長い帯の非武装地帯は野生動物の楽園
非武装地帯は、北朝鮮との暫定的「国境」に当たる軍事境界線を挟んで南北約2キ
ロ幅で設定されている朝鮮半島を東西に横断する回廊地帯である。非武装地帯内には
どこにもくまなく地雷が埋設されており、基本的に民間人は立ち入れない。
そのため南北計4キロに及ぶ狭い「帯」は、人の手の入らない自然に戻り、野生動
物や貴重な野鳥の楽園となっている。我々は例によってバスで移動したが、非武装地
帯内のよく舗装された道路の両側は鬱蒼とした原生林で、時折、水田があるが、そこ
にサギなど野鳥が普通に見られる。そして森が切れると、はるか遠くにテレビなどで
おなじみの巨大な北朝鮮旗の掲揚塔が見える。
水田のあることから分かるが、非武装地帯内にも民家がある。韓国側には「統一村
」やヘマル村があり、住民がいる。例えば統一村には155世帯452人が暮らして
いるという。
◎トンネル内は撮影禁止
北の軍隊の目の前で暮らしているので、農作業は昼間に限られ、軍の警護が付く。
夜は基本的に外出できない。危険と隣り合わせに不自由な暮らしを送るので、住民は
優遇されている。厳しい徴兵制のある韓国にあって、ここの青年だけは徴兵免除であ
る。税金も、ない。そのため非武装地帯に住む農民は豊かで、韓国内でも有数の富農
だそうだ。
徴兵逃れを防ぐために、非武装地帯の村に男性は婿入りできない。新しく住民にな
れるのは、嫁として婚入する女性だけだという。
さて、いよいよ非武装地帯内の第3トンネルである。
臨津江に架かる統一大橋を越える前に韓国軍の検問があって、パスポートを提示す
る。ここでもみだりに写真は撮ってはならない。
そして第3トンネルの入口に着く(
写真上と中央)。ここは撮影自由だ。ただ、ト
ンネル内は撮影禁止。入る前に、備え付けのロッカーに荷物とカメラを収納させられ
る。
◎北朝鮮亡命者の供述で発覚
ここで、非武装地帯の意義についての短い映画鑑賞がある。
それによると、第3トンネルは1978年に発見された。北朝鮮は国連軍と休戦協
定を結んだ後も、南進の野望を隠さず、ソウルに攻め込むための秘密トンネルを10
本前後も掘っていた。韓国軍は、今でも探査をしているが、未発見のトンネルはまだ
多いと見られる(現在まで発見されているのは4本)。
第3トンネルも、最初、韓国軍は気付かなかった。第3トンネル掘削の北朝鮮関係
者が亡命し、トンネルがあることが分かり、懸命に捜索して発見したという。発見さ
れた時、掘削途中であったらしく、軍事境界線を435メートルも南側に入っていた
が、掘削用のダイナマイトが穴に差し込まれた状態であったという。
トンネルは、地下73メートルの深さの所に掘られているので、そこまでは韓国側
が掘った急勾配の斜坑を歩いて降りていく(
写真下=斜坑への入口)。ドアを開ける
と、たくさんの黄色のヘルメットが備え付けられているので、それを着用する。トン
ネルの一部では低くなっている所があり、頭を打つ懸念があるからだ。
◎硬い花崗岩の地下をくり抜く
中に一歩入ると、ヒンヤリとした冷気に包まれた。斜坑は往きはラクチンだが、帰
りはきつそうだ。実際、途中にいくつもプラスチック製の椅子が備えられていた。帰
り道、途中でへばって休んでいるファッティーな白人観光客を何人も見た。幸い、軽
登山で鍛えているので、最近、体重が増加気味のリブパブリも、簡単に戻って来れた。
さて、その斜坑をややしばらく下ると、北朝鮮軍の掘っていたトンネル南端に行き
着く。
硬い花崗岩をくり抜いて造ったトンネル内は、ヒンヤリしているが湿度は100%
に近いと思われた。壁は、くり抜いたままで、補強は何も施されていない。花崗岩帯
を掘っているので、不要なのだ。粗々しい壁面と天井からは、地下水が滴り落ちてい
る。
絶え間なく水が滴り落ちているので、排水のためにトンネルはわずかに北に傾斜し
て掘られているという。
発見時のトンネルの長さは、1635メートルあったそうだが、そこまで我々は行
くことはできない。軍事境界線の直下まですら行けない。その手前で韓国軍が、3個
所、厚いコンクリート壁で塞いだからだ。その一番南端まで300メートルほどを歩
けるだけだ。
トンネルの高さは約2メートル、幅も約2メートルだが、これでも有事には1時間
に武装した兵士3万人を南に送り込めるという。
◎壁面にタール塗って石炭採掘に偽装
ガイドに、壁の黒い部分を注意喚起される。韓国側に発見された場合に備え、石炭
を採掘していたのだと言い逃れるべく、タールを塗った跡だという。笑止千万な話で
ある。慢性的にエネルギー不足の北朝鮮が貴重な軍需物資である石炭を、安定供給が
保証されるべくもない軍事境界線付近で採掘などするわけがないのだ。
で、あっという間に、韓国側の塞いだコンクリート壁まで来た。誰もカメラを持っ
ていないので、記念撮影もできないから、ここからはただ引き返すだけ。
そしてトンネルの最先端のきつい勾配の斜坑に出た。ただこの程度は、山に比べれ
ば何ほどのことはない。
そして地上に出て、悲願のDMZ第3トンネル探訪をやっと果たせたのである。
昨年の今日の日記:「主目的2つを達せられなかった韓国、ソウル旅行だが、旅行客
に徹底した「おもてなし」精神に感動」