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2011.11.01
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カテゴリ:生物学

kawanobu日記/捏造1世紀半、教科書にも流用され続けた有名な胚発生図;ジャンル=読書、生物学 画像1

 

kawanobu日記/捏造1世紀半、教科書にも流用され続けた有名な胚発生図;ジャンル=読書、生物学 画像2

 

kawanobu日記/捏造1世紀半、教科書にも流用され続けた有名な胚発生図;ジャンル=読書、生物学 画像3

 

 まず上の写真の絵を、ご覧いただきたい。読者は生物の教科書などで必ず見たことがあるはずだが、リブパブリもそれこそウンザリするほど様々な本で見てきた。脊椎動物8種類の胚発生を比較した図だ。これが、なんと19世紀に著名な学者によって書かれた本に初めて掲載された、捏造に近い図であるとは、ある本を読むまで知らなかった。

◎後世の生物学者は確かめもせず流用を重ねた
 それを知ったのは、刊行されたばかりの故スティーヴン・ジェイ・グールド著『ぼくは上陸している(下)』(早川書房)を読んで、である。優れた進化生物学者・古生物学者にして類い希な該博な知識を有するエッセイストによる著作は、著者が02年に亡くなって、事実上この『ぼくは上陸している』が絶筆となったが、リブパブリはこの著者の科学エッセイが大好きで、これで全巻読んだことになる。もちろん邦訳本で、であるが(汗)。
 その中の第22章で、この有名な絵が、実は「個体発生は系統発生を繰り返す」という「名言」(実は迷言)で著名なドイツの生物学者エルンスト・ヘッケル(写真中)の捏造に近い絵であったことが暴露されていて仰天したのである。グールドによると、この絵の一番上の発生したばかりの胚の絵は、実際とかなり異なっているのだという。
 それなのに、とグールドと筆を進める。後世の生物学者は真偽を確かめもせず、この絵の流用に流用を重ねてきた、と生物学者たちの怠慢を批判する。

◎学者の驚くべき怠慢
 むろんグールドは、ヘッケルのでっち上げを批判した研究者に教示を受けていたのたが、その一方、それよりずっと早くに自分の研究室の書庫に埋もれていたスイス生まれのアメリカの地質学者ルイ・アガシの本を掘り起こしてそのことを知るのである。グールドに教示したロンドン、セントジョージ病院医科大学のマイケル・リチャードソンによると、「この図版を今も無批判に使用している生物学の教科書が、私の知るかぎり少なくとも五〇冊はあります」(原文のママ)という。
 リブパブリの学んだ教科書は日本語で書かれていたから、リチャードソンの数えた冊数から外れているだろうから、世界中の言語に視野を広げたら優に数百冊にも達するのではないか。
 グールドが鋭く批判するように、19世紀の教科書に初登場以来、実に1世紀半近くも無自覚な再利用で流布していることは現代生物学者の驚くべき怠慢と言うしかない。

◎ゴリゴリの反ダーウィン主義者が正しい指摘の書き込み
 ヘッケルと言えば、生物学を学んだことのある人なら、この図版とともに名前くらいは必ず聞いたことがあるはずだ。ダーウィン進化論を広めた生物学者として、先の「迷言」とともに科学史上でも燦然と輝くポジションを占めている大科学者である。それが、こんな捏造をしていたとは--。
 ところで早くからヘッケルのインチキを見抜いていたルイ・アガシは、皮肉にもダーウィン進化論の激しい反対者であり、反ダーウィン進化論研究者としてはこの時代、最も著名な人物だった。
 だからこのインチキ図を載せたヘッケルの著書に、手厳しい批判とともに呪詛に近い書き込みまで書き加えている。ルイ・アガシが非難の書き込みに留めて、この事実を発表しなかったのは、大人げないと思ったのかどうか知らないが、リチャードソンが1990年代に学術論文でこの捏造を批判するまで、公にならなかった(グールド自身は、アガシのこの書き込みについて79年に論文発表している)。

◎「アプシェリッヒ!(ひどすぎる!)」
 不倶戴天の論敵のインチキ本を根気よく読み、ページというページの余白にびっしりと批判の書き込みをしたアガシは、イヌ、ニワトリ、カメの発生初期の胚の図が、実は同じ胚の図を複製したものであることを書き込みで暴露している(写真下=上の余白にある筆記体文字がアガシの書き込み)。
 何と言うことだ。系統的に異なる動物(イヌ=哺乳類、ニワトリ=鳥類、カメ=爬虫類)の初期胚が同一のように似ている証拠として示した図版が、同じ初期胚を複製した図をただ3つ並べただけだったとは--。
 かくてアガシは、「アプシェリッヒ!(ひどすぎる!)」と吐き捨てるようなドイツ語書き込みで、ヘッケルの本を一刀のもとに切り捨てるのだ。なおアガシはスイスのドイツ語圏生まれで、ドイツで学生時代を過ごし、フリードリヒ・アレクサンダー大学(エアランゲン=ニュルンベルク)でPh. D.を取得しているので、ドイツ語を母語としている。
 アガシの書き込んだ非難は、リチャードソンやグールドの指摘するように、無批判・無検証のもとに生物教科書に捏造図版の流用を重ねてきた生物学者と教科書編集者にも当てはまるに違いない。まさに「アプシェリッヒ!(ひどすぎる!)」。

◎原著刊行9年後の翻訳刊行のナゾは
 最後に本書の原書が出たのは、原著者グールドの病没する直前の2002年であり、邦訳・刊行されるまで9年もたっている。後日の日記であらためて述べたいが、その間、いくつか不都合な事態が生じた。訳者後書きで、翻訳者は「ひとえに自分の怠慢が原因」と邦訳版の遅れを詫びているが、それは謙遜に過ぎる。古典、人文科学にまで執筆領域の及ぶグールドの本著作を訳すのは、おそらく本当にしんどかったと思う。
 たぶん何度か挫折し、何年かおいて奮起して翻訳を再開、の繰り返しだったのだろう。古生物学や生物学のことならすべて理解できるリブパブリも、日本語訳で読んでも内容を理解しきれなかった章がいくつかある。西欧古典など、ある程度の素養がなければどんなに平易に書かれ、こなれた訳文になっていても、理解できない。
 1人の著作家でこれほどの領域をカバーできた驚くべき博識家スティーヴン・ジェイ・グールドとは、けだし名エッセイストであった。
 ちなみに上のインチキ図は、右からヒト、ウサギ、ウシ、ブタ、ニワトリ、カメ、サンショウウオ、魚類の発生の3段階を表している、のだそうだ。

昨年の今日の日記:「日本の山野に野生オオカミの復活を願う;オオカミと出会う日を待ち望む」






Last updated  2011.11.01 05:53:29



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