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カテゴリ:生物学
アメリカで推定2500万頭もいるとされる野生のオジロジカ(写真)に、武漢肺炎ウイルスが広範囲に見つかり、研究者に衝撃を与えている。北東部諸州では、毎年秋には盛大なシカ狩りが行われるのに、である。 ◎野生ジカの36%が感染 例えば多数が生息するオハイオ州では、同州立大などの研究チームが昨年1月~3月に複数回の調査を実施したところ、野生オジロジカ360頭の鼻から得た検体の36%の129頭が武漢肺炎に陽性と判定された。 遺伝子解析をすると、シカから得たウイルスゲノムは、すべてヒトと共通していた。つまりヒトからオジロジカに感染したのであり、逆ではなかった(逆なら、新たな感染源として大騒ぎになったろう)。 都市部近くに生息したシカほど陽性率が高かったから、ヒトの捨てた生活ゴミや下水などから感染したようだ。 ◎種の壁を容易に越える武漢肺炎ウイルス これは、オハイオ州だけの結果ではない。 アメリカ農務省のアメリカの科学誌に寄せた報告では、ミシガン州やニューヨーク州などの4つの州でも、感染を推測させる抗体がシカから確認された。テキサス大学などの調査ではテキサス州で調べたシカの37%が抗体陽性だったし、ペンシルベニア州立大などの調べではアイオワ州でも3分の1が抗体陽性だった。つまり冒頭のオハイオ州だけでなく、感染は全米のオジロジカに広がっていることになる。 武漢肺炎ウイルスは、インフルエンザウイルスなどより楽々と種の壁を乗り越えるようで、これまでヒトから武漢肺炎ウイルスが感染した動物は、ネコやイヌ、トラ、ゴリラ、ミンクなどだ(ゴリラ感染例については、21年1月24日付日記:「アメリカの動物園で飼育下のゴリラが武漢肺炎に感染、大型類人猿では初の事例」https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202101240000/を参照)。イヌやネコはペットとして人間のそばで生活するから、濃厚接触で感染するのだろうし、ゴリラは遺伝的にヒトに近いから、さほど不思議でもない。しかしトラやミンクとなると、首を傾けたくなる。 ◎感染ウイルスの表面蛋白質に変異 研究者が心配するのは、全米で2500万頭もいるシカが武漢肺炎ウイルスの「貯水池」となり、ここから新たな変異株が出てこないかという怖れだ。 実際、心配な点はある。シカから見つかったウイルスの蛋白質に、これまで知られていなかった変異が複数あったことだ。感染の足がかりとなるウイルス表面の蛋白質「スパイク」の一部が変異していた。この変異があると、ウイルスはヒトの抗体から逃れやすくなるという試験管での実験結果がある。 ◎ニホンジカではまだ感染の証拠無しだが 心配なのは、ニホンジカ(北海道ではエゾシカ=写真は奈良公園のニホンジカ)に感染していないかという可能性だが、まだその証拠はない。ニホンジカとアメリカのオジロジカとはシカ科としてまとめられるが別属で、遺伝的にはさほど近くない。 だが武漢肺炎ウイルスの種特異性の弱さから、ニホンジカへの感染も警戒はした方がいいかもしれない。奈良公園のように、ニホンジカは日本人に身近な野生動物だ。 そうなると近頃はやりのジビエ料理というのも、ちょっと敬遠したくなる。
昨年の今日の日記:「武漢肺炎パンデミックでも自己管理できない若者たちと時短一時金などのモラルハザード」https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202101230000/ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2022.01.23 05:22:16
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