静岡県知事の川勝平太がついに退任へ、リニア新幹線工事を延期させた罪状は大きい
静岡県知事の川勝平太が、県庁の入庁式での差別発言の責任をとり、6月定例県議会で辞職する意向を明らかにした(写真)。その差別発言は、「県庁はシンクタンク。野菜を売ったり牛の世話をしたり、モノを作ったりとかと違い、皆さまは頭脳、知性の高い人たち」と、農業者や工場労働者を差別・貶め、新入庁者をおだてあげたものだ。◎たった10キロ、静岡県北端をかすめるだけ 僕は静岡県民ではないけれど、川勝退任の報に清々した気分だ。 ともかくこれまで川勝は数々の「不適切発言」で批判されてきたが、僕が最も腹に据えかねていたのは、JR東海のリニア新幹線に横紙破りのいちゃもんをつけ、着工を認めなかったことだ。おかげでJR東海は3月29日、着工の目途が立たないとして、とうとう2027年のリニア開業を断念した。 リニア新幹線で静岡県にかかるのは、南アルプス地下のたった約10.7キロのトンネル区間だ。この静岡工区の中の約8.9キロの区間で大井川の水が涸れると称して、着工許可を出さなかった(図=リニア新幹線のルート)。地下トンネルでは夥しい出水があるので、排水工事が欠かせない。これで大井川の水が涸れるという言いがかりである。◎静岡県だけリニア新幹線の駅計画が無い JR東海は、国などとも協議し、湧き水の全量を大井川に戻すとして、何とか川勝をなだめたが、リニア新幹線阻止をほぼ唯一の看板で選挙に出ているので、旗を降ろさせることはできていない。 確かに川勝の言うように、大井川の流量に多少は影響はあるだろう。現状、大井川は途中の取水などで下流ではほとんど「枯れ川」に近い状態になっている。 またリニア新幹線を通過する東京、神奈川、山梨、静岡、長野、岐阜、愛知で、静岡には唯一、上掲図のように駅計画がない。南アルプスの山中を地下深くをトンネルで通過するだけだから、駅などそもそも望みようがない。◎真の狙いは東海道新幹線に新駅を造らせること だから川勝は、「リニア工事は静岡県に全くメリットがない」として、JR東海に「工事を受け入れるための“代償”が必要だ」とまで要求した。その「代償」とは、「静岡には駅を造らないのだから、各県の駅建設費の平均くらいの費用(を静岡県に出せ)」ということのようだ。駅建設費の平均くらいとは、約800億円という。 さすがにこの露骨な恐喝は、各方面から大きな批判を浴びた。 学者上がりの川勝もバカではないから(そもそもの辞任のきっかけになったように、たぶん「シンクタンク」の県庁のトップの自分が一番賢いと自負しているのは確かだ)の本当の狙いは、関係者間に広く共有されているように、JR東海の東海道新幹線に「富士山静岡空港」駅を新設させることだろう。◎起死回生となる閑散空港に新駅 富士山静岡空港(写真)は静岡県が約1600億円を投じ、川勝が民主党、国民新党、社民党の推薦で自公推薦候補を倒して県知事に初当選した2009年に開港した。しかし、開港時には年間138万人の利用者を見込んでいたものの、空港へのアクセスの悪さから(最寄り駅のJR東海道線島田駅からバスで25分もかかる)利用者は想定の半分程度に留まっている。むろん空港も大赤字で、ついに空港運営を民間委託した。 川勝が目を付けたのは、空港の直下に東海道新幹線が通っていることだ。ここに新駅を造れば、空港へのアクセスが大きく改善される。ところが川勝ら県の要請に、JR東海側は「新駅を造っても、『こだま』や『ひかり』が停車する掛川駅と近いため、十分な加速ができず新幹線の性能を生かせない」と一蹴する。 そこで、川勝のリニア新幹線着工不許可の横紙破りの一手が出てくる。◎開業は大幅後ろ倒しの2034年以降 仮にJR東海が川勝のごり押しに屈して(他県のリニア新幹線新駅建設費に準じた新駅建設費を支出し)、「富士山静岡空港」駅を開業すれば、川勝の4選での引退に花を添える大きな得点になる。 いくらか知らないが、億を超える退職金を手にさせるのは業腹だが、ともあれ川勝の退任は、後任の知事にもよるが、リニア新幹線が動き出すきっかけになりそうだ。 しかしこれまでJR東海は静岡工区でリニア新幹線着工ができなかったため、すぐに着工できたとしても開業は2034年以降にずれ込むことになる。これまでリニア新幹線開業に向けて投資してきたJR東海を初め、沿線の自治体・企業に、大きな損失を出す(写真=品川駅に掲げられているリニア新幹線の大看板)。民間企業のJR東海は、川勝と静岡県に損害賠償請求を検討すべきだ。 JR東海だけではない。開業延期で日本経済全体と運輸・科学技術の発展に大きな損害となった。◎立憲民主党は次期知事選に候補を出すな また予想される南海トラフ大地震では、東海道新幹線は長ければ数カ月もの運休が予想されるが、リニア新幹線はその代替運輸手段として期待されていた。長期延期の間に、南海トラフ地震が来た場合、東京-名古屋間の旅客輸送手段が無くなる(北陸新幹線は、敦賀以西の区間はまだ計画すら定まっていない)。 最後に、立憲民主党に言っておきたい。前身の民主党がポピュリスト川勝を担いで、今日のリニア新幹線の混迷を招いたのだから、次期知事選に推薦候補を出すな、と。昨年の今日の日記:「ヒマラヤ山脈の未踏峰マチャプチャレをBSプレミアムの放送で堪能」https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202304040000/