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リキッドの奮闘記

リキッドの奮闘記

下書き・14

第二防壁は第一防壁よりも強固に守られており、対空火器は第一線の1.5倍近くで、バリケードも更に増える。鉄条網に加えて鉄骨で組まれた×型のバリケード、コンクリートで作られた台形の牙の様な形をしたブロックが大量に並び、戦車の行く手を阻んでいた。もっとも、効果は分からない。
クリスらは鉄条網と鉄骨のバリケードの後ろへ後退し、身を隠しながら持っている武器で反撃した。敵が木を次々になぎ倒してこっちへ向かってくるのが良く見える。銃撃の音と爆音で耳が壊れそうだ。
やがて、わざわざ通路を探して超えた鉄条網も戦車と装甲車に無残に踏み潰された。
「第二防壁は突破させられない!撃て撃て!」
グラッツ中尉の怒号が何とか聞こえた。味方の砲撃で何台かの敵車両が停止し、炎を上げる。
ヴァンランドはまたしても弾が切れたらしく、銃弾と砲撃の中死体と一緒に散らばった銃を漁った。すぐにM60の弾帯を五本も拾って来た。そしてバリケードの後ろに隠れてすぐに射撃を再開。
鉄骨の後ろに身を屈めているリーマンが叫ぶ。
「我々の戦車部隊は何処です!これじゃ防ぎきれませんよ!」
「俺にも分からん!とりあえず撃て!」
クリスは残り少ないM16のマガジンを取り替えると、数発撃ち、すぐに身を隠した。薬莢が薄汚い地面に乾いた音を立てて落下する。
もう一度体を出そうとすると、近くで砲弾が炸裂し、爆風でクリスは地面に押し付けられた。少量の土がパラパラと降って来る。それと一緒に捻じ曲がったライフルの破片が目の前に落ちた。
起き上がろうと手に力を入れて重い装備を付けた体を起こそうとすると、キャタピラの音が聞こえた。前からだけではなく、後ろからもだ。
敵に囲まれてしまったのか・・・・・・?
案の定、そうでは無かった。
前からは恒例のT-90が現れ、後ろからは友軍のチャレンジャー2がぬっと現れた。砲弾がチャレンジャーのすぐ横で炸裂したが、気にする様子もなく正確な射撃でバルメシア軍のT-90を葬り去った。
「やっと来たか!遅いぞ!」
だが、喜んだのもつかの間。
「敵軍のA-10だ!身を隠すんだ!」
バルメシア軍の黒いドラゴンのエンブレムを身に着けたサンダーボルトがE中隊目掛けてガトリング砲を放って来た。30mmの機銃が陸軍兵士を襲う。何とかクリスは難を逃れたが、運の悪い兵士は体の大半を血まみれにされていた。見慣れた光景だが・・・・・・出来れば見ない方がいい。
空をちらっと見ると、また数機のA-10が見えた。クリスは銃撃の最中、急いで砲弾の作った穴を探し、飛び込む。穴の周りの土を弾丸が抉り取る。
敵のA-10が自分の上を通り過ぎた。その後に物凄い速さで棒の様な物がサンダーボルトを追いかけて行った。
ミサイルだ。
それもさっき見た水色のF-15だった。一機のF-15がバルメシア軍の攻撃機を蹴散らし、煙を吹かせるのをクリスは戦闘を忘れて見入っていた。
そんな彼を続いて落ちた数発の砲弾が起こす。
穴から這い出ると、リーマンの顔面が現れた。地面を這っている。
「少尉、また後退です」
「またか?」
「ええ、友軍の戦車が下がっていますので」
渋々クリスは三人になった小隊員を集めると、撃破されたチャレンジャー戦車の陰に飛び込み、その後、後方の陣地へ向かった。


HUDの真ん中にファルクラムが見事に収まった。
「これでも食らえ!」
マクロードが機銃のトリガーを引こうとすると、Mig-21が弧を描いて彼の獲物を先に奪ってしまった。翼を損傷したファルクラムはキャノピーが飛び、パイロットを勢い良く吐き出す。
「また横取り・・・・・・何すんだ!」
<<相手は中佐だぞ、マック。敬意を払うんだな>>
アンダーソンが叱り付ける様に言った。
「お偉いさんなら可愛い下級兵士の獲物を取ったりはしないだろ?」
<<何処が可愛いんだか・・・・・・>>
クルト・ハーマンが呟く。
マクロードは「ジョニー」で何か思い出しそうだった。そういう名前の奴に会った気がする。そいつもパイロットだったような・・・・・・。
ま、顔を見れるまで生きてりゃいいんだ。
ニコルソン中佐の愛機はMig-21シリーズでは最も新型のMig-21-93を更に特別に改良した物で、「Mig-21ジョニー」と言う名前が付けられていた。Mig-21自体は古い世代の戦闘機だが、大幅な改良のせいで最近の世代にも劣らない性能を誇っている。
無駄の無い動きで敵機を捕らえ、強烈な一撃を加える姿はまさに撃墜王の鏡だ。
ヴォレンにとってはそれに着いて行くのがなかなか大変だった。今では自分は二番機となった。部下を守ると言う義務感から何となく解放されたが、今度は一番機を守る事に対する責務が彼の頭に入り込む。
30mm砲の残弾数を見ると、もう二桁になっていた。ミサイルも残り一発。敵が多すぎる。
バルメシア軍のここまで強大な軍事力は一体何処から生み出されているのだろうか。建国当初からずっと戦争の準備をしていたのかもしれない。
「中佐殿、私はそろそろ補給に戻らないといけません」
<<なら今すぐ戻った方がいい。高度を上げて雲の中を通りながら補給基地へ戻るんだ>>
「了解」
<<それから、中佐なんて呼ばなくてもいい。ジョニー隊長で十分さ>>
クールな声でジョニーは返す。
「分かりました」
フランカーが高度をぐんぐん上げて、一旦戦闘から離れた。
バルメシア軍は被害を負いつつも確実に前進し、第二防壁も危うい状況だった。壁の上の対空火器はかなりの数だったが、バルメシア空軍の損害を無視した熾烈な攻撃で鉄屑が大量に生み出されていた。
「こちらローエングリン1っっ!弾無くなったぁぁぁぁあ!」
<<こちらAWACS、直ちに補給へ戻れ。その辺は独自の判断に任せる>>
「りょーかい。んじゃハーマン、その間よろしく」
だが返事が無い。
「お、おい!ハーマン!?返事しろ!」
まさか撃墜されたのか?
<<こちら・・・・・・被弾して・・・・・・体は全くだ・・丈夫ですが、無線・・・・・・上手く繋がりません>>
「そうか。早く戻れ。埋め合わせはするぜよ」
<<りょ・・・・・・い>>
「ローエングリン3、ハーマンを基地まで援護してくれ」
そう言うと、マクロードは残ってる弾数を確認した。バルカン砲の弾の残量は「75」だ。ミサイルは――――――ゼロ。
とりあえず彼はバルカン砲だけ使い切ってしまおうと、敵の編隊をバラバラにすると、一機を追う。しかし、バラバラにする過程で使い切ってしまった。
「あらー」
その上、二機のMig-29が後ろに張り付いた。必死に振り切ろうと激しいGを我慢しながら戦線を出ようとしたが、相手もミサイルを使い切ったのかでたらめに機銃を乱射してくる。
「ばーか、そんなもん当たるか!」
と言ったが、危うく被弾しそうになった。後ろを振り向くと、ちらっと二機のファルクラムの後ろに自分の四番機が見えた。F-14が反応が遅れた敵の一機をAAMで破壊し、もう一機に可能な限りバルカン砲を叩き込む。どちらも黒い煙と赤い炎を上げて重力で地上へ落ちていく。
「ガーベッジ、助かったぜ。ところで弾は大丈夫か?」
<<今ので機銃の弾が3になりました>>
「AWACS、ローエングリン隊は弾が切れました。すまないけど戻ります、っと」
<<いいけど、早く帰って来い>>
弾が減ってきたのは何処も同じだった。アンダーソンのイーグルの弾薬も底をつきそうなのだ。増援がいないと厳しい。
「スノー・アイ、こちらもそろそろ補給に戻らないとまずい。増援部隊はいないのか?」
<<第三航空師団を呼んである。オーシアも援軍を送ってくれるが、時間がかかる上に敵の攻撃で壊滅するかもしれん>>
「了解」
この状況をどうするか・・・・・・・ウォッチマン隊からの連絡は途絶え、対地用の爆弾は全て使ってしまった。
<<アンダーソン大尉、早く補給に戻れ。埋め合わせは私がする>>
撃墜王からの通信だった。
あまり気が進まない―――無論、中佐を心配しているわけではない―――が今はお言葉に甘えた方がよい。
「ではお願いします。ジークフリート隊、一旦補給に戻る。方位360だ」
華麗な機動でMig-21は敵機を追い散らしていた。
これが「撃墜王」と呼ばれる男の戦い方か・・・・・・。
自分もいつかはこうなりたいものだ。
それまで死んでいなければの話だが。


その頃、一番前に投入された第二十四歩兵師団はそれなりの大被害を負っていた。H中隊はほぼ全滅し、C中隊は軍曹以上の者は全員死亡。A中隊は何処に行ったのかも分からない。D中隊はかなり後ろまで逃げてしまい、B、F中隊はE中隊と共に奮闘している。他の隊の状況は分からない。他の歩兵師団の状況も不明だった。少なくとも第498機甲師団は機能していた。チャレンジャー戦車に破壊されたT-90の吹き飛んだ砲塔の後ろでクリスらは応戦していた。よく戦闘機が落ちる音がしたが、空の事は空軍に任せた方がいい。
もはやただの鉄クズでしかなくなった砲塔から少し体を出し、クリスはライフルの引き金を引いた。5.56mm弾が木の間―――ほとんどが折れてるが―――に姿を見せたグレー迷彩の軍服を着たバルメシア軍の歩兵目掛けて飛んでいく。目には見えないが。
当たったのか、外れたのか、あちこちに立ち込めている噴煙のせいでよく分からない。火薬と煙の不快な臭いが鼻を占領している。時々焼け焦げた肉の臭いもした。
G36を標準装備しているバルメシア兵は煙を利用して身を屈めながら前進していた。
彼はM60の弾帯を掴んでいるヴァンランド以外の二人に向かって轟音に負けないぐらい叫んだ。
「俺とヴァンランドである程度抑える!お前達は早くもっと後方へ行け!」
こんな状況で口論は無謀だ。
「イエッサーーー!」
四人のうち二人が後方へと走り出し、砲塔の後ろにいるのは二人だけとなった。
やがて砲塔の残骸のすぐ前に砲弾が直撃し、後ろに隠れている人間を振動が襲う。噴煙が更に濃くなり、敵の姿がろくに見えなくなってしまった。クリスは仕方が無くM16にくっ付いているM203を前方にスライドさせ、数少ない40mm擲弾を装填し、適当な場所へ撃った。ただ、その爆発も見えない。すると、目の前の煙の中から急に敵兵が現れた。とっさにクリスはライフルを構えて引き金を引く。グレー色の軍服を赤い花びらが覆い、肉が飛び散る。命の絶えた人間が地面に何のためらいもなく倒れた。G36も一緒に地面に落ちる。自分のライフルの弾が少ない事を考慮した彼はそのG36をそっと腕を伸ばして取ろうとした。突然彼の右手のすぐ横の土を銃弾が抉り取った。慌ててクリス少尉は手を引っ込めた。銃撃と砲弾が絶え間なく炸裂する中、何故か自分達の周りだけ敵兵が見えない。再び手を伸ばし、ライフルを掴んだ。G36を砲塔の後ろに置いてから、血が流れ出ている兵士のベルトからマガジンを頂戴し、すぐに体を引っ込めようとした。また敵兵が目の前に姿を現した。彼は腕力を最大限に使い、腕を曲げながら片手で何とかM16を構え、引き金を引いた。一人は倒れたが、もう一人はこちらに銃口を向けている。
やばい。
「武器を降ろせ」
細い顎のバルメシア軍兵士がクリスに黒い銃口を向けたまま、冷たい声でまま言った。やむを得ず、クリスはライフルと分捕ったマガジンを置き、手を上げた。敵兵は一人だけで、他には誰もいない。
「よし、そのまま――――――」
不運なバルメシア軍兵士はクリスで動作不良を起こしたM60を叩いているヴァンランド伍長の存在に気付いておらず、こっそりG36を手に取った彼に数発で射殺されてしまった。その兵士の死体はさっきのクリスの“仕事”の一つの上に折り重なった。こんな近距離で敵を殺すなんて――――――あまり無い事だ。
彼は伍長の方を向いた。
「ありがとう、ヴァンランド。助かったよ」
ヴァンランドは口の端っこを釣りあがらせると、今自分が葬った敵兵のライフルをクリスと同じ様に奪い、マガジンを全て奪い去った。クリスもさっき置いたG36と弾薬を取ると状況を判断し、同胞に目で合図をし、砲塔から離れた。
しばらく経った後、バルメシア軍兵士が何十人も砲塔を通り過ぎ、衛生兵が三人の仲間の死体の首筋に手を当て、死んでいる事を確かめた。その後上に折り重なっている方の死体をずらし、少し離れた場所に倒れていた人間と合わせて三つの死体を綺麗に並べてその場を後にした。その時、捨ててあるM60が目に入ったが、衛生兵である彼はそのままヘルメットを正すと煙の中へ消えた。
そしてその衛生兵は「LoneWoolf 8」(ローンウフル8)と白い字で書かれた戦闘機の破片を踏んだ。


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