泣くな、久実!
そんなこんなで、GWはいい雰囲気の温泉宿でまったりと過ごした。そして土曜日、両親と久美はチェックアウトして帰路についた。。あたしは一人残り、寺社仏閣を巡ることにした。あたしの母と手をつなぎ、にこやかに手を振って帰っていった久実。。まるであいつが娘であたしが単なる付き添いのようだw昨夜は、一人で泊まるには少し広い部屋で久美のことを思い出していた。。。あれは何日前だったろう、、夕飯を終え、温泉にもつかり、お互い乳を揉み合い(笑)両親の部屋をあとにして、この部屋で二人、どうでもいい話題で延々と喋っていた。。。きれいな和風の庭が見える窓際に置かれた、籐製のチェアを久実に取られたあたしは、テレビの前に敷かれた布団に体育座りをしながら、頻繁にチャンネルを変えてはまた変えるを繰り返していた、、面白い番組がなにもなかったので、結局うるさくないという理由で映画に落ち着いた。。じゃあテレビ消せよって話しなんだけどwその映画は既に始まってしばらく経っていたし、テレビよりお喋りがメインだったので、最初はホームコメディなのかと思っていたが、どうやら役所広司が演じる主人公が癌に冒され、死んでいくまでのストーリーだということがわかってきた。元々映画はあまり観ない方だし、邦画は更に観ない。ましてお涙頂戴のストーリーなど大嫌いなあたしは、この作品の存在をそのとき初めて知った。辛気くさいし、チャンネル変えようかとも思ったけど、ひとつどうしても気になる点があり、いつかそれの説明が作中にあるんじゃないかと、観るともなしに観ていた。。。「象の背中」気になるのはCMに入るたびに出てくるこの映画のタイトルだ。なぜに象の背中?? この展開で後半象が出てくるとも思えないし、、いや、出てくりゃ面白いけどさwお涙頂戴がキライなのは、あたしがすごく泣き虫だからだwこれは映画だから、漫画だから、小説だから、、そんなことはわかってても、ちょっと悲しいシーンがあるとすぐに泣いてしまうのがイヤなのだwでもこの映画はなんとなく大丈夫っぽかった。。おそらく役所広司はかなりの高収入、今井美樹が演じる美人でよくできた奥さん、これまた美人でよくできた愛人の井川遥、反抗期や、親父ウゼェ、、なんてなこととは無縁なものわかりのよすぎる息子と娘、ここ、ホントに日本? と目を疑いたくなるような、裏庭が海岸になってる豪奢なホスピス。今井美樹は井川遥が愛人だと察してわざと席を外し、帰りにすれ違ったときには主人が本当にお世話になりましたと、深々と頭を下げる人間のできすぎようwあまりにも理想的で現実離れしたそのシチュエーションはもはやコントの領域だ(笑)でもコレ、、やっぱ最後は役所広司死んじゃうんだろうしな~、、ま~、そうなる前にチャンネル変えればいいか。。そう思ってたら不意打ちを食らった。。長年縁を切っていた兄を演じる岸部一徳がスイカを持ってホスピスを訪ねてきたのだ。海岸の見えるベンチに座って、いい歳こいた兄弟が二人、スイカを食べながら淡々と大人の対応で死後どうするかを決めてゆく。。兄の顔で、役所広司より更に一段大人だった岸部一徳が急に泣き出す。なぜ俺が親父だけじゃなく、お前のことも背負わなければならないんだ。。すると今まで死を受け入れて冷静に振る舞っていた役所広司も泣き出す。兄ちゃん、俺、まだ死にたくないよ。。なんて卑怯な映画なんだ、、こんなに芝居が上手くて、しかも中年男の悲哀がこれほど似合いそうな役者もそうはいないだろうって名俳優二人にこんな芝居させやがって!理想的すぎて共感の得れない薄っぺらな設定を役者の演技力でカバーしようってのか、、コレじゃ日々の仕事に忙殺されて最後に泣いたのなんて何年前かも忘れちゃった、いい歳こいたサラリーマンのオジサンだって泣いちゃうよ。。あたしはもうかなりウルウルきてたけど、あとでおちょくられるのがイヤなので、後ろにいる久実に気づかれないよう、鼻をすすったり泣き声だしたりをなんとか我慢していた。久実はあたしと違い、精神的にとても強い、、というかとても安定しているので、滅多なことでは泣いたりしない。あたしは彼女の前でもう100回以上は泣いてるだろうけど、彼女があたしに涙を見せたのは過去に数回しかない。「梨緒~~~。。」久実がいきなり背中から抱きついてきた。。あ~あ、、バレバレだったか、、泣いてんのんか~~? ってつっこまれるなこりゃ。。と思っていたが、、なんだこりゃ? 息が詰まりそうだ。。ヤケに強く抱きついてくる、、んん?顔をあたしの背中に押しつけ、小刻みに震える身体、、やがて暖かく湿るあたしの浴衣、、、涙?久実は泣いていた。泣き声も出せないほど激しい嗚咽、、ますます強く締め付けるあたしに巻き付いた腕、、「ちょっと、、久実! どしたん? 息できないってば」なんとか腕をふりほどき、正面に向き直ると、彼女は再びあたしに抱きついてきた。勢い余って押し倒され、それでも腕をとこうとしない久実。。。「おいおい、、泣きながらレイプかよw」ヘタな冗談で泣きやむとも思えなかったが、あまりに突然でどう対処していいのかわからない。「・・・やや」久実がなにか言おうとしている。。「ん? なんて? どしたの?」「いやや、、あたし」「いや? なにが?」「あたしイヤや、、梨緒、、イヤや、、」壊れたように繰り返す久実、、、なんて罪な男達なんだ、、広司、一徳。。キレイなあたしの親友の顔をグシャグシャにしやがって、、久実は最近、死というものに対して敏感なんだ。。そういや昨日、忌野清志郎が死んだってテレビでやってたとき、あんまりあたしら親子の話しに加わらなかったな、、あのときからナーバスになってたんだろうか。。それでこんなシーン見ちゃったら、、泣くのもムリはないか。。。「ゴメンね、、」そう言って彼女の髪をなぜた。「あたしのせいだね、、でもね、あんたも約束守ってくんなくちゃダメだよ」「・・・」不意に久実の嗚咽が止まった。そして身体を起こし、まだ寝転がったままのあたしを見つめる。。。その顔は、つい今までの激しい嗚咽に使われてたエネルギーが全て悲しみに変換されたかのようだった。これほど悲しそうな久実の顔をみたのは初めてだ。泣き声も上げず、鼻もすすらず、口も歪めず、、ただ悲しげな目から涙がとめどなく流れている。。。「ゴメン」震えていないいつもの声でそう言い、彼女は立ち上がって部屋を出て行った。。。あたしは寝転がったまま、しばらく彼女が出て行ったふすまを見続けた。いったい、、あたしの方はどんな顔してたんだろう、、、笑えばよかったのか、、それとも悲しめばよかったのか。いずれにせよ、、さっきの無表情な言い方よりマシだったかな。。。「約束か、、、」そういえば、何度か一緒に旅行に行ったけど、二人が二十歳になったら今度は海外旅行に行こうって約束もしてたな。。。あたしはあと一ヶ月足らずで二十歳、、久実は、、、11月か。。。そしてまた体育座りに戻り、映画を最後まで一人で観た。タイトルの疑問はラストでやっと判明した。象は自分の死期が迫っていると気付くと、群れを離れて死に場所を探す旅に出るというが、自分にそれはできそうにないので、愛する者に囲まれて死んでいきたい。。なるほど、そういうことだったのか、、実にくだらん。。人間以外の生物に死の概念なんてありゃせんわっ!死にかけの象が群れを離れるのは、単に体力的な衰えや病気になったりで群れについていけなくなるだけだ。動物にヒューマニズムを適応してんじゃねえ! おまえは仔猫物語かwついでに、一体どんな層をターゲットにしてこんな至れり尽くせりのあり得ない設定になってんのかって疑問も、原作が秋元康だと知って納得したwコレって結局、都心の豪華マンションに住んで高級外車乗り回して、海外にプール付きの別荘があって、、そんな絵に描いたような「ステレオタイプの理想的生活@死ぬときバージョン」なんだねwやっぱあの人は脳内にまだバブル時代の幻想が残ってる男日本一だわw動揺しているかと言われれば動揺している。焦っているかと言われれば焦っている。怖いかと言われればすごく怖い。悲しいかといわれればどうしようもなく悲しい。嫌なのかと言われれば嫌に決まっている。。。でも決して絶望はしていない。人生は人それぞれ、それに人の死亡率は確実に100%だ。そしてなんといっても今、すっごく幸せだから。だからこの件についてはもう泣かない。それが高校時代に交わした久実との約束だった。次の日の朝、目覚めると久実は隣で寝息を立てていた。目を閉じていても泣腫らしたのがわかる、、おそらくロビーのソファにでも行って一人で泣いてたんだろう。。これから何回、こいつは約束を破るのだろう。。。そのときがきたら、イヤでも泣きじゃくるクセに、、バカなヤツw11月、、、あたしは約束守れるかな。。そんなこんなで、今は月曜日の昼過ぎ、、、あたしと久実が泊まっていた部屋はあいかわらずいい雰囲気のまま、ゆったりとした時間が流れている。ホントなら何時間か前にここを出てなきゃいけないんだけど、、寝坊したwしかし、あたしには今、宿代の支払い用に父から預かったクレジットカードという、かなり最強の武器がある(笑)親父も油断したもんだwコレってようするに札束だし、たとえ娘といえども、こんなもんをホイホイと預けるもんじゃない。てことで、今日はここにもう一泊しようw明日からはしばらく気ままな旅にでも出るか☆親の金を湯水のように使うなんて高校以来だ~~~!!!