「そうかぁ」
トトロの掛け時計だけを持って出ていった妻と息子…
部屋はいつもと変わらない。
洗濯物も干したまま…
時計だけない部屋の静けさが胸に突き刺さってくる。
終わったんだ…俺達家族は。
話し合いなどなかった。
突然のことでその場に寝転び天井を見ながら何も考えないようにしていた。
全身の力が抜ける…が、立ち上がる。
我を取り戻し頭の中は仕事のときのようにフル回転を始める。
「電話だ!電話しないと」
電話した先は保育園!
急がないと!
そう思いながら保育園に電話した。
「すみません、○○ですけど、うちの息子はもう帰りましたか?」
先生が詰まりながら言う。
「帰りましたけど…あの今日で保育園はやめて実家に帰る…んですよね?」
電話を切った俺。
「やっぱりか」
頭の中が冴え渡る。
全てのシナリオが手に取るようにわかる、見える。
離婚は妻が1ヶ月前に1週間ほど里帰りしたときから計画してたこと。
今日のことも計画してたはずで俺を良く思っていないお義母さんが計画しそうなこと。
保育園にも事前に辞めることは告げていたはず。
この前俺が保育園に迎えに行ったときに先生も何かそのことについて言ってほしかった。
そして俺の息子は何も知らされてないということだ!
許せない!
息子は保育園に友達もいた!
一緒に風呂に入っているときにたくさん友達が出来たと自慢してたんだぞ!
近所にも友達がいた!
家族付き合いもしてた!
俺の実家にも孫のことが大好きなじいちゃんばあちゃんもいた!
大好きなおじちゃんもおばちゃんも…
大好きな父さんも…
息子の全てを引き裂いてまで…何がしたい?何を求める?
子供との時間は少かったが愛情を込めて育てた息子。
父さんのことが大好きだった息子。
許せない!
保育園に電話した後、妻に電話するが出ない…わかってたこと。
すぐにお義父さんに電話する。
10回コール以上しても出ない。
またかけ直す…
でたっ!
電話に出たのはお義父さんではなく俺と仲が悪いお義母さんだった。
思い出す、この時のことを…
この日から僕ではなく俺になった。
田舎の猿は威勢がいい。
地元では自分のことをワシと言う。
でもまだこの日は俺止まり。
「自分を取り戻せ」
真面目過ぎる妻の両親、接客業に店長職…
親との付き合いや仕事上の付き合いで真面目という殻をずいぶん長い間被っていた。
自分の親ともよくぶつかり実家を出た。
全てに反発してきた田舎の猿(俺)
ストレスだった…
本当は辛かった…
毎日が窮屈でしょうがなかった…
電話に出たお義母さんは俺にこう言った。
「連れて帰りますから」
多分トトロの時計を持って帰ったのもお義母さんの仕業。
妻は昔からお義母さんのいいなりだった。
俺は言った。
「息子と話をさせて下さい」
返事なし…
「息子は意味がわかってそっち(妻の実家)に連れていかれているんですか」
お義母さんは言った。
「連れて帰りますから、○○(妻)と電話かわりましょうか?」
俺は言った。
「いいです」
「息子に代わって下さい!」
電話を切られた…
お義母さんがついている以上、妻と話しても無駄なのはわかっていた。
妻の家族は姉と母親が全ての権限を握っていた。
妻の父親は肝臓を患い、母親が仕事して家を守ってきた家。
結婚当所から妻の母親とは合わなかった。
考え方も育った環境も違う。
県外の田舎から俺の住む街に就職した妻、就職してすぐに子供が出来て俺と結婚。
妻の母親はそこが気に入らなかった。
でも時が経てばわかってくる。
俺の親の思いも元妻の親の思いも。
田舎の猿(俺)はダメですね。
ちょっと世界を知っただけで全てを知った顔をする。
ドラマのような経験をしたら全てをわかったような顔をする。
自分が正しいと思い、勘違いを起こし否定する意見を拒否し自分を守る。
今思えば自分が情けない…
幸せの定義その4
なんちゃって良い子ちゃんサヨウナラ