辿り着いた先… -10- 過去
「ただいま」久しぶりに口から出た言葉。「おかえり」久しぶりに返ってくる言葉。玄関を開けるとリビングの方から懐かしい声。母だった。職場を出て何かに呼ばれるように向かった先は実家だった。実家に帰るというより地元に帰りたかったんだろう…うまく説明できない...何かが僕を呼んでいた。家に上がると母が夕食の準備をしていた。父はいつものように酒を飲みながらテレビの野球中継を観ていた。一人で実家に帰るのは久しぶり、学生時代に戻った気分だった。「ご飯食べるでしょ」母が言った。「お、おぅ」僕は大きく返事をした。そして父が背を向けたまま「今日は泊まっていけ」父が言った。「...う、うん」僕は小さく返事をした。母が父に二つグラスを渡した。父はそのグラスに酒をつぎ始めた。振り向いて俺の顔を見ない父...酒をつぐ父の背中を見た僕の目には涙が溢れていた…なぜだかわからないまま、僕の涙はボロボロと流れ出す。気付かれないように涙をふき、ついでくれた酒を父の隣に座り飲んだ。酒を飲みながら流れる涙は拭いても拭いても溢れ止まらなかった…父には見られたくない涙、見せたこともない涙。強がって反発し何度もぶつかってきた父。僕の涙に気付かないふりをしてる父の優しさに触れ、初めて父の前で声を上げて泣いた。「いつでも帰ってこい」背を向けた父が言った。「お...おぅ」僕は泣きながら返事をした。そして父と母に離婚のこと、息子のこと、これからのことを話した。二人とも俺に任せるから何も言うことはないと言ってくれた。実家にいる頃はたくさん迷惑をかけた。厳しすぎる父に反発する毎日だった。父は教育者だった。おまけに親族も教育者だらけ。その息子の僕...窮屈だった。でもなぜ僕は反発ばかりして生きてきたのだろうか…父から褒められた記憶がなかった。父に認められたかったのか…褒められたたかったのか…自分の中で父の存在が大きかった…何をやっても中途半端な小さい自分に苛立っていたのか…僕はなぜ敢えて親の思いと違う道を選択してきたのか…なぜ刃向かうように意識していたのか…なぜ幸せな家庭を築くことができなかったのか…いろんな思いの詰まった涙でした。「ちょっと裏の小学校行ってくるわ」涙が渇き始めた僕は二人に言った。実家の玄関にある父の草履を履き外へ出た。赤い目をした僕はポケットに両手を突っ込み、父の草履で小学校へ向かった。実家の裏に母校の小学校がある。その田舎の小学校は校庭が広く、そのすぐ隣に海が広がっている僕の大好きな景色、そして大人になった今も大好きな場所。親に帰れと言われても真っ暗になるまで友達と走り回っていた場所。毎日がワクワクしていた。純粋だった…いつも笑っていた…友達を大切に思っていた…人の傷みがわかる人間だった…夕陽に照らされた校庭にゴールなのかスタートなのかわからない僕がいました。 見栄を張らずかっこつけず恥ずかしがらず自分の人生の中で一番好きだった自分はいつですか?どこにいますか?まだ自分の胸の中で生き続けていますか?幸せの定義その10本当の自分に会いに行く