028739 ランダム
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little braver

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『私の道』




「もう・・・手遅れです・・・。」


それが病院で医師から聞いた最初の言葉だった。
「あなたの命はもって三日で・・・」
そう・・・聞いた。
「・・・病名は?」
私はいたって普通に聞いた。怖く無かった。恐れもしなかった。ただ,不思議だった。
医師は黙って首を横に振った。
「残念ながら今のところ,直し方はおろか,病名さえも無い,謎の病気でして・・・。」
「はぁ・・・,そうですか。」
「お役に立てなくてすみません・・・。」
「あ,いえ,別に・・・」

そう言って,私は病院を後にした。




「・・・」
病院から家に帰った私。
ずっと黙ったまま部屋で一人座って考えていた。
「私は不治の病なんだ。あと三週間でこの世から消え去ってしまうんだ。」
思えば,短い人生であった。
感情のいらない事ばかりの人生だった。


泣きもせず

怒りもせず

笑いもせず

喜びもせず


ただ,人生を受け流すかのようにして生きてきた。
その人生に今私は悔やんでいるような気がする。
悔やむようなら最初から生きなければいい。



生まれてこなければ良かった。



そんな事まで思う。
けど思って,すぐに首を左右に振り,思いを消した。
自分は決して生きていてはいけない人間ではない。
そう・・・思えたからだ。


そういう事を繰り返しては,また首をフルフルッと振る。
そうやって,残り少ない時を無駄にしていった。



“私にはもう生きる時が決まっている”



頭では分かっている。
けど・・・だけど
私は何をすればいいの?何をすれば大丈夫なの?



全く分からない。


分かっていたら既に事を起こしているはずだ。


“三日で私に何ができるの?”


そういう疑問も出てくる。延々と。
今の私にはどうする事もできない。
例えできることがあるとしても,次なる疑問にぶつかり,止められる。
だから今は,ただ,考えることしかできない私になっている。



いつから私はこんなに弱くなってしまったんだろう。


『あと三日』と病院で言われてから,別に普通に帰ってきたけど,部屋に入った瞬間へたり込んでしまった。
普通の人なら,病院で宣告された時から恐怖や,怖さを知るだろう。
その点私は,鈍いのだろうか。


後から来る痛みは,何物にも及ばない。


そう,私は今,何物にも及ばないであろう痛みと,何物にも及ばないであろう恐怖に包まれていた。




怖い
考えてる間にこの恐怖はどんどんふくれあがっていく。
これがふくれあがり,破裂すると,私はどうなってしまうのだろう。
そう考えて,また恐怖が増していく。


そして



私の時は過ぎていく。
私の命はあと二日・・・。






朝・・・


私にとってきっと最後の朝なのだろう。
いつ死ぬんだろうか。
どうやって死ぬんだろうか。
原因はなんだったんだろうか。

・・・

考えていても仕方無い,
私は台所へ行った。

台所には朝ごはんと,かきおきだけが置いてあった。

“温めて食べるように!”


・・・


いつもの事だ。
父も母も早くから仕事に行き,夜遅くまで帰って来ない。

すっかり冷え切っているご飯を電子レンジに入れ,温める。
父や母は私が死んだらどう思うだろうか。
やはり悲しく思うのだろうか。
この家に一体どれくらいの悲壮感が漂うのだろうか。

ああ,ダメだ。
じっとしていたい。
けど
そう思って,じっとすると考えてしまう。いろいろな事を、


考えない方法はあるのだろうか。
考えないで済む方法は・・・。
いや,止めておこう。
どうせ,また,考えてしまうのだから・・・。


さて・・・
何をしようか。
あと死ぬまで24時間も無いだろうというのに,する事が一つも見当たらない。
かと言って,したい事なんか考えては仕方が無い。


・・・あぁ,

思い出した。
手紙を書こう。
私の知る限りの人へ。

そして,私の手紙を読んでもらって
今の私の気持ちを,できる限り知ってもらいたい。

私は手紙を書き始めた。


白い便箋で。

慣れない手つきで。


生まれて初めて書く手紙。
白紙の手紙を見るのも初めてで,
手紙に字を書くのも初めてだった。


自分の『字』で,手紙に『色』をつける。
私しか出せない色,私にしかかけない字。
それを“手紙”と言う名のキャンバスに叩きつける。
それが私に出来る,思いついた最後の事。


そう・・・最後の事・・・。






その後,私はあるだけの便箋に手紙を詰めて,しばしの休息に入った。
そのままごろりを転がって,天井を見上げて目をつぶった。

それが,私の目で見た最後の風景だった。
私はそのまま目覚める事は無かった。





私の手紙は無事に送り先に届き,私自身は火葬された。
私の死で,多くの人が悲しんだ。
無論,父も母も。
そして,最初で最後の友達も。





でも,私は現世に後悔はしていない。
それなりに楽しかった。
後悔なんてする必要が無かった。

なにより

後悔なんてしなくなかったから,


「病気で死ぬ」


それが私の道だっただけ。
人には人の道がある。
私にはそれが人より少し早く途切れていただけ。

私はその道を歩いてる間に“後悔”は落とさなかった。

私自身の築き上げた『道』が
最後まで奇麗であってほしかったから・・・



そう,いつまでも奇麗であってほしかったから・・・



P,S 有り難う。今まであった全ての人。



そして・・・お元気で。





END






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