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2005年02月17日
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カテゴリ:カテゴリ未分類
どんなおおごとであっても、過ぎてしまえば案外記憶が
薄れるものらしい。

なんだか自分が瞳を身ごもったのが、結構前の
出来事のような気がしてしまう今日この頃だ。
恋人同士の頃のようなほんわりとして曖昧な架空の話など
ではなく、あれは紛れも無い輪郭のしっかりとした現実、で
あったはずなのだが。

臨月。12月末。もう、子供はいつ出てきても
おかしくなかった。

イヴは大きめであるという子供を早く出してあげたくて、
夫と電車に乗り公園に出かけ、散歩をしていた。

植えられたハーブが、寒風に吹かれていた。
2人で売店で買った温かな甘酒の味。
遠くで聴こえた救急車の音。
どこかのクルーが、公園の隅で撮影をしていた。
何の撮影だったのだろう。

吐く息が白かった。帰り道にカフェでサラダを食べた。
地下鉄に乗り帰る。そうしてその日は眠りについた。

そして25日早朝。トイレに行くと、少量の出血がある。
私は眠り込んでいる夫を起こした。

とうとうきたか、と思った。もらってきてあった
入院案内にあった通り、産婦人科に一応連絡を入れ
状況を説明すると「ああ、まだまだだね。様子見て。」と
先方のあっさりした返事。

確かに、陣痛と呼べる程の痛みはまだない。出血も
見る限りごく少量で正常の範囲だ。その日はどのみち
検診の日であったので、検診の時に詳しくみてもらえば
良いだろう、と考えて再び横になった。

ところが昼間検診を受けに産婦人科に行き、私はそのまま
入院となってしまうのである。心の準備も出来ていないまま。
ベルトコンベア-に乗った淡々とした流れ作業の部品に
なったような気持ちで、私は案内されるまま病室に向かった。

夫に電話をして荷物を持ってきてもらい、実感のまるで
ないままに、ベッドで淡々と彼の差し入れてくれたお菓子を
つまみながら、同じく夫の差し入れてくれた雑誌をめくり
過ごした。

夫はいつも通り冷静だった。しかしその冷静さは
とても温かで、私は安堵した。そう、この人のこの
冷静さこそが、いつでも私を燈す灯りであったのだ。

「入院している自分」に心馴染ませる事の出来ぬまま
機械的に運ばれてくる食事をとり、物思いに耽る。
心はざわざわと風に吹かれる木々のようだった。

病室の窓からは、公園が見える。
季節外れのプールの水は緑色に濁り、人もない。
身ごもりながらひとりプールで泳いだあの日を想った。
秋の入り口の事だった。その日の事は日記に記したので
良く覚えている。

薄曇りの午後。監視員の青年のあげる小さな
水しぶき。持て余された退屈そうで、綺麗な体。
私は何故だかほのかに心淋しく、もしもその時ひとりきりで
あったのなら、出所の分からぬこみ上げる淋しさに
泣いたのだろうなと想ったのだった。

その後実に42時間も陣痛に苦しむ事になるとは、知る由もなく。
私はあの日、こんな風にある種呑気に心に寄せる
静かな静かな波に身を委ねていた。
クリスマスディナーの予約は、キャンセルとなった。

おおごとの始まりは案外と静かで淡々としているものだ。
こんな風に。





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最終更新日  2005年02月17日 18時01分36秒
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