ものぐさ映画評(part51)
月組の話題は花組公演の観劇時に纏めて書くとして、今回は最近観た映画の感想。特に関連性も無く、以前から気になっていた作品を2本。【バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)】…満足度★★★★過去の栄光(の幻影)に取り憑かれていた俳優が、葛藤の末に仮面を外して自由となり、心の平穏と家族の絆を取り戻す物語。「認められる(評価される)事」と「愛される事」とは全く別物である事を、特殊映像と社会風刺を交えながら描いた意欲作だ。何より主演のマイケル・キートンを始め、エドワード・ノートンやエマ・ストーン等の演技が素晴らしい。映画である以上は全てが芝居なのたが、そこに劇中劇や幻覚が入り込む事で「虚構」と「現実」の境い目が曖昧となり、作品に一層の奥行きを加えている。と書くと絶賛しているようだが、その一方で「単調なストーリーを小手先の演出と役者陣の演技力で誤魔化しているだけ」と言えなくもないのが、この作品のもどかしい所だ。個人的には好意的に受け止められたので、E・ストーンの可愛さに☆1つおまけしてこの点数に。【ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールド (彼らは生きていた)】…満足度★★★★☆第一次世界大戦(1914年~1918年)に参加した退役軍人達のインタビュー600時間と、100時間に及ぶフィルム映像を精査し着色化して作られた英国のドキュメンタリー映画。タイトルはローレンス・ビニョンの詩『戦没者のために』の一節「残された我々が年をとっても、彼らは年をとらない("They shall grow not old, as we that are left grow old")からの引用。序盤は白黒の映像にインタビューが重なる変哲のないシーンが続くが、それがカラー映像になった途端に、とても100年以上前とは思えない生々しさと臨場感が伝わって来るのが凄い。祖国のためにと志願した若者達が地獄のような経験をする様子を、まるで自分がカメラのファインダー越しに覗いているかの如く錯覚する。そこに映っているのは役者でもなければ、エキストラでもない、普通の人達である。印象的なのは、彼らが戦争体験を歴史的意義やイデオロギーではなく、飽くまでも個人の実感として語っている事だ。僕は、母方の祖父が太平洋戦争に従軍した時の体験を綴った手記を読ませてもらった事があるが、そこで感じられたのは戦場の過酷さよりも、寧ろその時代を一兵卒として懸命に生きた祖父の青春の記憶だった。(彼は17歳で海軍に志願し、出兵している)その手記を読んで以来、僕は「戦争それ自体」と「そこで戦った人達の人生」とを同列に扱ってはいけないと考えるようになった。父方の祖父が第一次世界大戦経験者だという製作監督のピーター・ジャクソンも、恐らく僕と同じ姿勢で退役軍人達の言葉と向き合ったのだろう。実際、彼はインタビューで「これは第一次世界大戦の物語でも歴史的な物語でもなく、完全に正確でさえないかも知れないが、戦った男達の記憶であり、彼らは兵士である事がどのようなものであったかについての印象を与えているだけだ」或いは「(兵士達は)カラーで戦争を目撃しており、確実に白黒ではなかった。私は時間の霧を越えて彼らを現代の世界に引き込み(中略)、人間性をもう一度取り戻したかった」と語っており、その想いは見事に作品として結実している。ありのままを映しているが故に、目を背けたくなる凄惨な場面も確かに多いが、現実の戦争を知る上では勇気をもって観るべき価値のある映画だ。