第3話

S子が戻って来て、人数が増えたということもあり、
サザエ家の2階で、別生活をすることになる。

T子は、母親からお金をもらい、
自炊することになった。

とは言っても、2階の部屋に台所はない。
ベランダに七輪を置き、そこで料理していた。

朝起きると、そこでお湯をわかし、
その間にパン屋に走る。

おいしい、おいしくないは関係ない。
大きなパンを選んでくる。

それを兄弟たちで分け合い、
お茶で流し込んで学校に通う毎日だった。

サザエから言いつけられたことに、
表階段、裏階段を拭き掃除してからでないと、
学校に行ってはいけないということ。

真冬でも冷たい水で、雑巾がけをする。
それがT子の仕事だった。


母親は、帰ってこない日もあれば、
いたとしても起きては来なかった。

母親がしばらく帰ってこないと、
お金もなくなる。お米も尽きる。

すると、T子は、
サザエにバレないように、
1階の米びつから、お米を盗んだ。


こういう生活が1年続いたある日、
サザエが、家を出て行くように命令する。

他の人に貸すと言うのだ。

仕方なく、T子たちは、
ある家の2階を間借りする。


1階は、屋台のすし屋をやっていた。
夜になると、風呂屋の前に店を出す。

家賃は、母親が払っているはずだった。
しかし、ここの店主は、
T子に手伝うように命令した。

仕方なく、屋台の後ろを押し、
店で、お茶を出したりしていた。

男の客が多いので、聞きたくない話もある。
思春期に入りつつあるT子は、
イヤでイヤで仕方なかった。

家に帰れば、知らない男が家に上がりこんでいる。
母親に、会いにきているのだろう。

T子は、男が帰るまで外にいた。
そして、男が帰ると、塩をまいた。

すし屋の奥さんは、親切で、よくしてくれた。
T子をお風呂屋に連れて行き、頭を洗ってくれたり、
荒っぽい性格の店主から、かばってくれたりした。

それでもやはり、T子はすし屋の手伝いはイヤだった。
母親は守ってくれない。見て見ぬふりだった。

ある日を境に、T子は、手伝いに行かなくなった。
怒った店主は、T子たちに出て行くように言った。


ある日、学校から帰ると、
家族がいない。家財道具もない。

すし屋の奥さんに聞くと、
「引越ししたわよ」と言われた。

住所を聞き、慌てて行ってみると、
4畳半一間のアパートだった。

母親は、T子の帰りを待たず、
また引越しのことを告げず、
勝手に引越ししていたのだ。

そして、そこにはまた違う男がいた。

男は、夜になっても帰らない。

母親は、その男と飲んでいて、
酔っ払い、わけがわからなくなっていた。

T子は、男を追い出した。
そして、また塩をまいた。

その男が来ることは、二度となかった。


台所もトイレも共同の
小さなアパートだったが、

T子は、ここで過ごした1年間が
一番幸せだった。

恐ろしいサザエもいない、
誰かの家の間借りでもない、
自分たちだけの城。

この生活がずっと続けばいい。
しかし、T子の願いは、
かなうことはなかった。


☆つづく☆


© Rakuten Group, Inc.