シャングリラ

2006/10/05(木)18:39

「堕ろす金がないばっかりに・・・」 その2

家族エッセイ(30)

 一月一日に次男が生まれて、七日に旦那さんが死んだんよ。子どもは生まれるし、旦那さんは亡くなるし、どうしたらええんかと思っとるところに、ずっと出血が続いてね。赤ちゃんのおしめ洗いに、冬でも川に洗濯に行きよってね。一ヶ月経っても、出血が止まらんけぇ、病院に行ったら、 「こりゃあ、おおごとじゃ。どうして、もっと早く来なかったんですか」 て言われたんと。卵巣がすごい腫れとったんよ。先生は、気を利かして、卵巣を一つ残し、子宮も取らんかったんよ。母親は、てっきり全部取ったと思うて 「これで、子どもはできませんね」 と先生に確認したんと。そしたら、先生は、子どもができんようになって悲しんどるんじゃろうと勘違いして 「大丈夫ですよ、奥さん。卵巣が一つ残っとるけぇ、できますよ」 言うて励ましてくれたんと。それを聞いた母親は 「まだ、子どもができるんかと思うたら、ショックでショックで・・・」 とそのときのことを話してくれたんよ。昔は流産せん限りは、産まんとしょうがなかったけぇね。  旦那さんが死んで嘆き悲しんどる母親に、姑さんは、 「あんた、ここに居りたいんなら、弟と一緒になりんさい。一緒にならんのなら、ここには置けん」 と言うてね。 「もし、一緒になる気がないんなら、二人の子どもを連れて出て行ってくれ」 とまで言われたんと。  母親にしたら、子ども二人を連れて九州に帰ったら、九州に居るもう一人の娘も面倒見にゃあいけんし、子ども二人を抱えて働けるところなんて、当時はないし、行くところがないんよ。それでしかたなく弟と結婚するしたんよ。まあ、旦那さんの弟じゃけ、そんなに変わりないじゃろうと思うとったら、お兄さんとは大違いで、結婚したんは大間違いじゃったと、ずっと嘆くはめになったんよ。 「そしたら、お前ができてから・・・わしゃあ、もう産みとうのうてから・・・でも、堕ろす金が ないばっかりに・・・」  その話を聞いて、母親が 「あんたなんか産みとうなかった」 と言うた理由が初めてわかったんよ。

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