LunaLowe-ルーナレーヴェ-

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THIRD-PHASE 戦禍の敵機

[プラズマフェーズ 艦橋]
ギルバート艦長は静かに腕時計が指す時刻を確認し、静かに身構える。


「作戦開始5分前、そろそろですね・・・コンディションレッド!総員第一戦闘配備!」
「コンディションレッド発令、総員第一戦闘配備!パイロットは搭乗機にて待機!繰り返す、コンディションレッド発令、総員・・」
「CIWS起動、主砲1番2番発射準備!二人の出撃準備も急がせてください」


艦長の発令に艦内は慌ただしく動きだし、同時に艦の装備が展開され始める。

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[プラズマフェーズ MSデッキ]

既に整備員が待避した静寂の中、ハンガーに固定された三機のMS。
一機は純白の装甲をいくらか留めながらも損壊、放置されたカナトのジン。
その隣に固定されたシルバ専用ジン『クリムゾン』は先の戦闘での損傷を優先的に修復され、
彼の象徴である左肩の悪魔の片羽と紅い髑髏のエンブレム、そしてその真紅の装甲を再び煌めかせている。

更に腰部には大型のガトリング砲-本来は戦艦用のCIWS-を二挺マウントさせていた。

これはD装備とは別に対艦装備としてシンが独自に開発した物である。
だがその重量が故に殆どのMSの機動力を削いでしまい並のパイロットには扱い切れず、
シルバの類い稀なる操縦センスと数々の実戦経験から漸く扱える代物なのである。

その機体の中で唯一赤とは別の色・・緑服のパイロットスーツを纏ったシルバは各計器のチェックを済ませ、指を操縦桿にフィットさせる様に何度も握り締める。


「全シークエンス完了・・っと、またナチュラルの連中をぶっ潰しにいくとするか!」
『・・・シルバ、一つ忠告しておくが、独り言を叫ぶなら通信はオフにしておけよ?』


コクピットに無数にある計器の一点、前方上部の通信機にカナトの姿が表示される。
軽口を言い放ちながらも赤服のパイロットスーツを纏うその姿と風貌は既に戦闘体勢となっていた。
また、その通信の発信先の表示には[Clude]と既に登録されている。


中破したカナトのジンを挟んで隣側に固定されたもう一機の純白の機体、『ZGMF‐722 クルード』
カナトに渡された新たな相棒となった謎の機体。
その左肩には片羽の翼と傷を負った十字架を模したカナトのパーソナルエンブレムが既に描かれていた。

だがこの機体の知られざる謎は少なくはない。
今カナトが乗っているコクピットもジンやシグー、今日までに存在するザフト製のMSとは異なる構造をしているのだ。

マニュアルはなくとも極々短期間のシュミレートこそは行っている。
だが歴戦のコーディネイターとはいえ、今までとは違う慣れのないコクピット周りでの操縦は何らかの影響が出る可能性は否めない。

だがそれでも尚、カナトはこの機体に乗り戦う決意を固めていた。
まるでクルードに何かを求める様に、託す様に。


『てめーは良いよなぁ?赤服でしかも“正体不明の″新型機まで受領してよ』
「・・・あのな、素直に褒めるか遠回しに皮肉るか、どっちかにしろよ?」
「悪かったなぁ、どっちかハッキリしなくてよ・・・」


二人が通信越しに何時もの口喧嘩を始めようとする直後、それを割り込む様に通信要請のコールが鳴り出す。
突然のコールに我に返り、思わず気不味くなりながらもカナトとシルバは通信を繋いだ。

『・・・お二人の口喧嘩はいつもの事ですけど、軍用回線を使ってまでやらないでくださいっ』
「キ、キアラ・・・」
「・・ばっちり聞かれてたみてーだな・・・」


二人の通信機の画面には頬を膨らませ、いかにも怒っているといった表情のキアラが映し出されていた。

キアラはその心配性から口煩くなる事が多い。
最悪の場合には機嫌を損ねてしまい、作戦に支障をきたす事も少なからずあるのだ。


「もぉ二人は・・・隊長機、シルバ機はカタパルトにて待機、作戦開始時刻と同時に発進してください」
「あ、あぁ・・・了解」
「・・・今回もサポートよろしく頼むよ、キアラ」
『あっ・・・はいっ!』


カナトとキアラのやり取りにシルバは二人の未来の光景を想像してしまい、思わず苦笑する。


「・・・何だよ、くすくす笑って」
『・・いーや、気にすんな。それよりさっさと動け、隊長のせいで遅刻なんざごめんだからな』
「あ、あぁ・・・?」


シルバの口元に残る笑みが引っ掛かりながらもカナトはバッテリーケーブルが繋がれたまま、ハンガーから解かれたクルードをカタパルトに移動を開始させる。

『進路クリア、ハッチ開放、カタパルト展開!』


プラズマフェーズのカタパルトハッチ、それと連動してリニアカタパルトが展開していく。
カナトはメインモニターを通し、前方には虚空の宇宙と疎らに輝く星々。
その中から点ほどにも見える連合の基地を確認する。

リニアカタパルトに明かりが点り、稼動を開始するとクルードは宙に“固定″される。
全ての準備を完了させ、カナト達は開始時刻を待つ。

後は何時もの様に敵を殲滅し作戦を遂行する。
何時からか習慣付いた行動、疑問にも思わなくなった自分。
カナトがそんな物思いに耽る数分の合間に、既に数秒と迫っていた。


『・・・時間だ、総員作戦開始!』
「隊長機、発進・・どうぞ!」
「カナト・ガーウィン、クルード、発進する!!」


[LAUNCH CLEAR]の表示と共にクルードは電磁力に加速され、ケーブルが伸び切れる寸前に外れされると同時に虚空の宇宙へ射出される。


『続いてシルバ機、発進位置へ・・・どうぞ!』
「腕がなる・・・!シルバ・シャム、クリムゾン出撃るぜ!!」

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「さぁ、こちらも出撃るわよ!」


カナト達の出撃に続き、ミサギ隊も行動を開始する。
隊長機を先頭に戦艦下部のMSデッキから次々とジンが出撃される。

ガーウィン隊のナスカ級プラズマフェーズに比べ、ミサギ隊のローラシア級アブラフルは機動力こそ劣るが、火力とMSの積載数では遥かに勝っている。
陽動として先駆けとなる少人数精鋭型のガーウィン隊と、後方支援や数による戦力で押すミサギ隊は利に適った構成なのだ。


「もう伝わっていると思うけど私達はガーウィン隊の陽動を待って、向こうの合図があれば一気に殲滅、良いわね!」
『『了解!!』』
「りょ、了解!」


ミサギ隊の数機のジンの中、一機だけ大型のシールドを装備したジンが出撃していた。
通常、連合のMAと比べ、圧倒的に機動力で勝るザフトのMSにはデッドウェイトとなるシールドは装備されていない。
だがこのジンは機動力よりも被弾率の低下を優先しているのだ。

そのジンのパイロットは今、震えていた。
恐怖や緊張、戦場のプレッシャーに飲み込まれる寸前になっている。


「これが貴方の初陣になるけど・・・大丈夫、今回私達は後方支援が主なのだから堕とされる事はないわ」
『・・は、はい!』


ミサギの言葉に勇気付けられ、パイロットは消沈していた気力を取り戻す。

だが戦場では何が起こるかは分からない、絶対という保証はない。
何か安堵出来るモノを持ち合わせていなければ、恐怖に押し潰されてしまう。
或いは今までの勝利で本当にその意識が薄れてしまったのか。

いずれにしても、今の状態ではこれが最善の策であると、少なくともミサギは思っていたのだ。

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[連合軍中継基地 指令部]

基地内は警報ランプの明かりで赤暗く染まり、警報が全区域にけたたましく鳴り響く。
基地内は慌ただしくなり、指令部も事態の収拾を急がせていた。


『ナスカ級、ローラシア級が接近!』
「馬鹿者!何故気付かなかった!?」
『ローラシア級からジン7、ナスカ級からジン1の出撃を確認!』
『それとナスカ級からデータ不明の機体が一機!』
「総員戦闘配置!急げ、敵は目の前だぞ!!」

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艦内に渡る通路にまで伝えられるその警報の中、一人悠然と廊下を渡り歩く男がいた。

その姿は軍服ではなく、至る所に見受けられるベルト状の装飾が自らを拘束している様にも思わせる。
何よりその表情は凛と佇み、一遍の陰りも感情の一遍も見せていない。


「此処での補給に来れば奴等と遭遇出来ると思ってはいたが・・・こうも早いとはな・・」


男は懐から携帯端末を取り出すと片手ながら素早い手つきでキーを叩き出す。
一通り打ち終わると待機音が鳴り、数秒と待たずに端末の小さな画面に士官服の一人の女性の顔が映し出された。


「この端末からは初めてだったな・・・艦長、俺の端末と基地の指令部を繋いでくれ。この警報はあの艦である可能性が高いからな」
『・・わざわざハッキングしなくても、そのつもりよ』

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[バールゼフォン 艦橋]

中継基地の港に一隻のみ停泊している異形の艦。
それはカナト達が遭遇した“消える戦艦″バールゼフォンであった。
その艦橋で艦長席に座る一人の女性艦長、ミズホはオペレーターの一人にアイコンタクトで指示を送る。
オペレーターは即座に対応し、手早く男の端末と基地の指令部の回線を接続させる準備を進めた。

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「内部・・バールゼフォンからの入電です」
「何だ、この緊急事態という時に!」


基地司令が通信を開くと司令席のモニターに見知らぬ男の顔が映し出される。
しかもその背後に映し出されているのは通信先のバールゼフォンの内部ではなくこの基地内の通路である。
連合の軍服も纏わない男の姿にザフトの工作員が挑発の通信でも繋げた様にも思える。
だが司令は直ぐさま別の宛てがある事を思い浮かべた。


「貴様は・・・そうか、あの艦の傭兵か?コーディネイター風情が何の様だ!?」
『なら話が早い、基地のメビウス隊の指揮を任せてもらおうか』
「何、だと・・・」
『MS戦に関しては俺の方が経験がある、それに俺としても基地を堕とされるのは困るからな』


モニターに映る男は切迫した状況にも関わらず悠然と余裕の表情を見せている。
挑発にも思える姿に司令は苛立ちを感じるが、深く息を吸い込み自らを落ち着かせた。


「・・・良いだろう、許可する」
『良い心掛けだ、少なくとも俺が出撃るまでは持たせてやる』


男は用件だけ伝えると一方的に通信を切る。
司令の隣で通信を聞いていたオペレーターの一人は苛立ちを抑え切れないでいた。


「・・宜しいのですか、あのような者に任せて」
「構わん・・悔しいが此処のヒヨッコ共より奴の方が戦闘慣れしているのは事実だからな、それに・・・」
「それに?」
「奴は傭兵だ、それもコーディネイターの・・・切り捨てる手段は幾らでもある」


そう論する司令の顔にはしたたかな笑みを浮かべていた。


「・・了解!メビウス分隊CからFは第15特殊部隊所属、エン・レイガの命令に・・」

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『・・ッ!敵基地からMAが発進、数は17・・21・・25!』
「戦力は五分・・・いや、足りねぇぐらいだな」
「油断するなよシルバ、奴等が・・クルーエルの艦がいる可能性があるんだからな」
『わぁーってるよ!ほら、来るぞ!』
「・・・ッ!」

二機の前方にメビウスの三機編成部隊が迫り来る。
シルバは加速したままガトリング砲を構えさせるが、クルードの手がそれを制止する。


「俺達はあくまで陽動だ、先ずは敵機を一ヶ所に集中させるぞ!」
『ちっ・・・了解!』


他のメビウスの位置を把握し、二機は最高速度を保ちながら方向転換し、後方のメビウスとの距離を離す。

MSに比べMAメビウスは機動性は遥かに劣り、急速な姿勢制御、方向転換等が出来ない。
その差が戦闘の際におけるMS最大の武器となる。


「アイリ、クリスは左右に挟み込んで、残りは私と一緒に!」
『『はいっ!』』


カナト達の動きに合わせてミサギ達も展開を始める。

カナト達を追撃するメビウス隊は更に正面から三機、レールガンを連射しながら迫り来る。
だが二機共それを意に介さず、クルードは重斬刀とシュベルトラングを同時に、
クリムゾンは重突撃機銃を構え、擦れ違い様に三機を瞬く間に撃墜する。


「おいカナト!動きが悪いぞ!」
『お前に合わせているからだ!速度を抑える身にもなれ!』


シルバのクリムゾンはその大型ガトリング砲の重量で機動力は通常のジンよりも劣っており、
カナトのクルードもクリムゾンに合わせるため余りある加速を強引に抑えており、動きに多少だが鈍りが生じている。
だがそのハンデすらをも上回る二機の操縦テクニックでメビウス部隊を翻弄し、二人の口論は寧ろ余裕にすら思われた。

二人の陽動に掛かり、先程まで拡散して動いていたメビウスの数が集中する。


「プラズマフェーズとアブラフルはついて来ているな・・一気に挟み込むぞ!」
『応よッ!』


二機は二手に分かれた所で急旋回し、メビウス部隊を迎え撃つ。
更に背後には後方から展開していたミサギ隊のジンが包囲する。
集団に固まっていたメビウス部隊の機動性では既に回避不能の状態にまで追い詰めていた。


「そぉら墜ちろぉぉぉッ!!」


クリムゾンの大型ガトリング砲が火を吹き、その一撃一撃が数機のメビウスの装甲を紙の様にひしゃげ、貫いていく。
クルードやミサギ隊のジンも攻撃を始め、メビウス部隊は次々と墜とされていった。

些細な抵抗も見せる間もなく、やがて全てのメビウスが撃墜された。


「はっ、ナチュラル如きが俺達を墜とせるかよ!」


他の敵機をセンサーを確認するがそれらしい反応はない。
一変して不気味にも思える程、戦場が静寂に包まれる。

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「・・・ん?」


その中、外部カメラの映像をモニタリングしていたプラズマフェーズのオペレーターの一人が小さな異変に気付く。
アブラフルの真下の空間が微かに歪んでいる様に見えたのだ。
歪みが徐々に大きく拡がるその刹那、巨大なシルエットが浮かび“ソレ″は顕れた。


「えっ・・・な、何ですか!?」
「ね、熱紋照合!これは・・・!!」



「目標、正面ローラシア級!主砲・・ってぇーッ!!」

突如アブラフルの艦体と垂直に顕れた戦艦は二連装大型ビーム砲を一斉に放つ。

死角からの奇襲に隊員達は対応出来ず、ビームは容赦なく外装を貫き、瞬く間に中核部まで貫通する。
貫かれた内部から紫電を走らせ、アブラフルは隊員達の脱出を待たずして爆発した。


「別動隊・・・それも基地から姿勢制御も行わずに、冷却ガス推進だけで此処まで近付いて来るとは・・・」

「そ、そんな・・皆が・・・!?」
「あの艦は・・・間違いない、奴がいる・・・・ッ!!」

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[バールゼフォン リニアカタパルト]
バールゼフォン艦底に半ば強引にマウントされた最も異形に見せるリニアカタパルト。
そこにクルーエルが出撃準備を終えて固定されていた。


「能力は策士こそが生かせる・・・常にこうも進められれば楽なんだがな」
『何を語っているの、貴方は残りの邪魔者を墜として、出来る事ならターゲットを回収するのよ』
「了解した・・・エン・レイガ、クルーエル発進する」

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「・・間違いありません、あの時の艦です!それと今、クルーエルの発進を確認しました!」


戦艦下部の巨大な砲口にも思えるリニアカタパルトから一機のMS・・クルーエルが放たれ、カナト達へ一直線に迫り来る。


「何なのよコイツ・・・よくも、皆をーッ!」
「このぉッ!」
「アイリ、クリス!不用意な接近は危険よ!?」


ミサギの制止も聞かず、アイリとクリスのジンが突撃する。


「クリス!私が前に出る、後方支援お願い!」
「・・同胞の死に我を忘れているのか?それでは軍人失格だな」


アイリのジンは重斬刀を構え、接近するクルーエルに目掛け振り下ろす。
だがクルーエルは速度を殺さずに左肩のシールドで重斬刀の一撃を受け流す。
その動作の流れのまま右手をジンの腹部に添え、同時に右腕に内蔵されたビームサーベルを起動させて貫いた。


「アイリ!?」


クルーエルは貫いたジンを横薙ぎに振り払いながら押し退け、反動で回転しながら尚も速度を維持してクリスのジンへ接近する。
クリスは眼前でアイリを墜とされた恐怖に重突撃機銃を乱射させる。
数発はボディに命中するが、シールドや強固な装甲に阻まれ決定打になってはいない。

クルーエルは密着する寸前で突然停止し、左手に構えた重突撃機銃の銃口をジンの腹部に突き付けた。


「ひっ・・・!?」
「悪いがここまでだ、貴様も同胞の元へ逝くがいい」


重突撃機銃の引鉄を引き、三発の銃弾を撃ち込む。
ジンのコクピットを覆う装甲だけがひしゃげ、潰される。

瞬く間に撃墜された二機のジンは、時間差を置いてクルーエルの全身を照らす二つの光球と化した。


「二人のジンを、一瞬で・・・!?」
「あれが隊長機の様だな、墜とさせもらうぞ」
「危ない!下がるんだミサギさん!」


次なる標的を定め、クルーエルはミサギのジンへ急接近する。
エンの速過ぎる行動にミサギの反応は遅れ、クルーエルが右腕のビームサーベルの刃を振り上げた。
ミサギは咄嗟に回避行動を取るが、ジンの左太腿から左肩が焼き斬られる。


「きゃあぁぁぁ!!?」


攻撃の衝撃で幾つかの計器が爆発し、飛散する破片がノーマルスーツ越しにミサギの上半身に突き刺さる。
ヘルメットには皹が入り、ミサギは爆発の衝撃でシートに体を強く打ち気絶してしまった。


「ミサギ隊長!?」
「致命傷は避けたか・・だが次は避けられるか?」
「止めろぉぉぉぉぉ!!」


刃を再び構えるクルーエルにカナトはクルードを突進させる。
クルードのボディはクルーエルの脇に激突し、バランスを崩させた。


「くっ・・メビウス隊は全機発進、もう一隻を墜とせば奴等にもう手はない」


エンの命令にバールゼフォンの外装に取り付いていたメビウス隊が一斉に起動する。
巣から飛び立つ虫の群れの如く、プラズマフェーズへと迫った。


「ちっ・・・おいそこの!今の内にミサギ隊長のジンを回収しろ!」
『・・りょ、了解!』
「カナト!俺は残ったジンを連れてプラズマフェーズの護衛に回る、てめぇはクルーエルを!」
「あぁ、コイツも俺に用がありそうだしな・・・ッ!」


クルードは一度間合いを取り、バーニアを噴かせながらビームライフルを連射する。
だがクルーエルはAMBACとスラスターを巧みに使い、悉く回避していく。


「狙いは正確だな、避けるのが容易で助かるぞ」
「嘗めやがって・・・くそぉーッ!!」


シュベルトラングに持ち替え、クルードは袈裟斬りに振り下ろす。
だが直後にがら空きになった腹部にクルーエルは右蹴りを直撃させた。


「グァッ・・!?」


コクピット内は強い衝撃で揺さ振られる。
それでもカナトは込み上げる怒りが収まり切れない程になっていた。


「・・何で・・・」
『・・・ん?』
「何で・・・お前は連合に味方をして・・・同じコーディネイターである俺達と戦うんだ・・!?」


エンは一度何かを口にしようとするが、躊躇う様に口を閉ざしてしまう。
そして何かを隠す様に言葉を一つ一つ選んで口を開く。


「・・・・戦争を終わらせる為だ。それに、傭兵稼業は金になるからな」
『血のバレンタイン・・・あの時連合が何をしたのか、お前だって知っているだろ!?』


クルードは更に斬り掛かるが、クルーエルに左肩のシールドで受け流される。
反対に右腕のビームサーベルで斬り掛かろうとするが、クルードは空いた左腕で右腕を押さえ込む。


「だからザフトに入って連合に復讐か?いかにも子供の発想だな」
『何、だとぉ・・・!!俺の両親は、あの時ユニウスセブンで・・・!!』
『それは残念だったな、だがその考えが更なる戦禍を生む!』


シールド裏のヨムルンガンドの砲口が向けられ、至近距離から放たれる。
だがクルードはそれよりも速く全身を捻りながら避け、同時に回し蹴りで頭部を蹴り上げた。


「ぐぅ・・・!?」


間もなくクルードは左腕に構えた重斬刀を投擲する。
クルーエルは意も介さず難無くシールドで弾く。


「無駄な事を・・・・いや、これは囮・・真上か!」

「でやぁぁぁぁぁぁッ!!!」


ブースターを最大出力でクルーエルの頭上からシュベルトラングを前方に構えて突撃する。
反応が遅れるクルーエルは左肩のシールドを構えた。
だが加速を付けたシュベルトラングはシールドを貫通し、更に左腕ごと斬り落とした。


「ちっ、またか・・・」
「総員撤退!この領域から離脱する、信号弾!」
『は、はい!』


カナトの命令に従い、プラズマフェーズから撤退の信号弾が放たれる。
防御に回っていたジンも全機撤退していく。


「二度も同じ手で不意を突かれるとはな・・・こちらも撤退する」
『何?今から追撃すれば十分追い付けるわよ』
『いや、追撃する必要はない・・・それより、俺達もこの領域から離脱するぞ。あの部隊が失敗したとなると後が厄介になる』
「・・・それもそうね、全機撤収、基地領域から離脱!」


バールゼフォンからも信号弾が放たれ、生き残ったメビウス隊が撤収し始める。
撤退していくプラズマフェーズを見つめ、エンもバールゼフォンへと退き返していった。

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[C.E.71 2/18 L4コロニー圏内]

数時間後、ミサギ隊の処遇が決定した。
所有艦の撃沈、隊員の殆どが死亡、隊長の重傷に伴いミサギ隊は実質的に解隊。
あの時出撃して生き残ったパイロット達はそれぞれ別の隊に異動される事となった。

その瞬間に最も近かったガーウィン隊にも“補充要員″と言う名目で一名異動して来る事が同時に通達された。

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[プラズマフェーズ 隊長室]
カナト、キアラ、シルバの三人は休憩時間の合間をぬって隊長室に集合していた。
だが配属される隊員の事を考えると、どうしても沈痛な面持ちになるのが拭い切れずにいた。

理由はどうであれ、自分達によって守り切れなかった後悔と責任を感じていたのだ。


「くぁ・・・やっぱり、あまり歓迎って気分にはなれないな・・・」
「・・そう、ですね・・・」
「・・・ったく!こーゆー時だから俺達までへこんでたらダメなんだろーがよっ」
「ふぐぉ・・・!?」


シルバはカナトの首にがっちりとチョークスリーパーを掛ける。
カナトは絞める腕を何度も叩くがシルバは放さず、その顔はみるみる内に青ざめていった。


「カ、カナト!?ちょっ・・シ、シルバさん!?」
「ジ、ジルバ・・はな゛・・・じ、じぬ・・・・」
「はんっ、柄じゃなくうだうだとしてんじゃねぇ、俺達はあいつ等の分も生き抜かなきゃなんねぇんだからよ」


カナトが気付いた時にはもうシルバの腕には力が入っていなかった。


「・・あぁ、そうだな。済まない、シルバ」
「・・・へっ、どっかのダメ隊長が柄にもなくナイーブになってただけだろ」


ほんの少しだけ雰囲気が軽くなり三人の口元にも笑みが浮かぶ。

その最中、誰かが部屋のドアをノックする。
叩く音はどこか仰々しく、少なくとも見知っている隊員達の叩き方ではなかった。


「おっ、噂をすれば・・・かな?」
「し、失礼します!」


ドアの向こう側から緊張からか多少上擦ったハスキーボイスが聞こえる。
中性的な声質で声だけでは性別は判断しにくい。

しかし殆ど女性隊員で構成されていたミサギ隊からの配属。
それに生き残ったパイロット達の顔だけなら全員確認しており、必然的に女性という推測が容易に立っていた。


「鍵は掛かってない、入って良いぞ」
「は、はいっ!」


ドアが開き、そこに立っていたのは、後ろで束ねながらも腰まで届いているライトブラウンの長髪、
それに見合う端麗な顔立ちと華奢にも思える体型を持つ少女・・に見える。
その顔はあのシールドを装備していたジンのパイロットであった。

だがそれとは不釣り合いに着ている制服は男性物であり、カナト達は己の目を疑いながら困惑してしまう。


「え、えっと・・・君は?」
「へ?・・ぼ、僕の履歴書なら送られている筈、ですけど・・・」
「えっ・・・あ」


何かを思い出したカナトは机のモニターを操作し、一人の履歴書データに素早く目を通す。
そこには[Lyle beld Sex:Man]と、はっきり記されていた。
カナトは驚愕のあまり履歴書と彼の顔とを何度も見比べてしまう。


「・・・マジかよ?」
「あ、あぁ・・・大マジだ・・・」
「でもすっごく綺麗で・・・羨ましいなぁ」
「「・・おいおい」」

「ほ、本日付けで配属されましたライル・ベルドです、皆さんよろしくお願いしますっ!」


ライルと名乗る青年は深々と頭を下げる。
キアラは何故か目を輝かせ、カナトとシルバはただ呆然と三者三様に彼を見つめ続けていた。



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