寄り道して大正解。寄り道しなくて大失敗。
今歩いている CAMINO FRANCES(フランスの道)のハイライトのひとつである『鉄の十字架』。 Cruz de Ferro と雪女 そこを通り過ぎると、ひとりぼっちで歩くこの峠の奥に犬の遠吠えがこだまする。 怖い。 放し飼いの犬が急に飛び出してきたとしたら、犬咬傷のトラウマを抱えるこの雪女は 大失神する、きっと。 そして近づいている。 たびたび巡礼者の口にものぼるぐらいの、ちょっと変わった村が。 その村、MANJARIN(マンハリン)と言うなり。 たいていの人たちが、あそこは泊まらない方がいいよ、と言う。 理由は様々なのだろうが、 「トイレが離れにあり不便。 今は真冬。 イラゴ峠の頂上(1,400m)で、すこぶる寒い。 なのに暖房がない。 犬がたくさんいる。 そこに住んでいる人たちが変わっている。 LOCO(風変わり)。」 でも、それならいっそ見てみたい。 前回は、この看板たちがすごくって、「ふーん」とまじまじ眺めただけで通り過ぎてしまった。 ここから、どこどこまで何キロあるか、と示した手作りの看板だ。 サンチャゴまで222km。 メキシコまで9,376km。 日本まで何キロという矢印がなくて残念だったが(10,000km近く)、 今回まだなかったら作ってくれるよう頼みたい。 これを、あばら家と見るか? これを、アーティスティックな家と見るか? 私は完璧、後者と見るね。 決して近代的に整っているわけではないが、手がこんでいて、 木でできた戸など味がありすぎて、昔のじいちゃんの家を思い出す。 何匹もの猫が、のっそりのっそり歩いている。 のぞきこんでいたら、誰かが手招きをしてくれた。 誘われるまま中に入っていくと、トーマスとアントニオという二人のおじさんがいた。 アントニオは半袖姿。 暖炉には赤い火。 温かいカフェ。 やはり人の言う事に惑わされずに、実際に自分で来てみるべし。自分で感じてみるべし。 気にいった。 ポルトガルからやってきた女の子が、そこで働いていて、 彼女も含め二人のおじさんと、しばしおしゃべり。 正午になると、家の外に作られた小さな祭壇でオラシオン(祈り)の儀式。 私がこの村に向かっている時に聞いた遠吠えは、ここの家の犬たちであった。 泊まりたかったな。 ここ、みんな平和に暮らしている。 と、雪の峠でだいぶノンビリしてしまった。 今日はここを下りて、目指す町までたどり着かなくてはならないのに、 朝、フェリペのところでYOGAやったりしてて出発も相当遅れていた。 雪の道を転がりながら下山し、見覚えのある中腹の村、EL ACEBO(エル・アセボ)が見えてくる。 もう雪ないよ 前回休憩した感じのよかったBARは、今回は無視。 通り過ぎる。 はやく行かないと日が暮れちまう。 次の村Molinaseca(モリナセカ)には、日本語の記念碑がたつ。 昨年、この村に四国のお遍路さんの資料室が開館した。 両国の巡礼の交流を記念してとは、なんと素晴らしいんでしょう。 しばしニッポンへ思いを馳せる。 そしたらお腹がすいてしまったので、中途半端な夕方の時間に BARで卵焼きを作ってもらって頬張る。 そこのBARの女主人に、前回ここで会ったアルフレッドというアルベルゲを営む おじさまの居場所を尋ねる。アルフレッドは、私のメキシコ訛りのスペイン語を がっはっはっはーと、それはそれは豪快に笑ってくれたのだった。 彼にもう一度会いたかったが、留守にしていたようで会えなかった。 本日は寄り道ばっかりしていたので、目指していたPONFERRADA(ポンフェラダ)の町には 細々した雨がおちる宵の入り口の到着となってしまった。 今日の歩行距離は28kmと大したことなかったが、峠だったのでかなり疲れていた。 アルベルゲに着くと、最近毎日たてつづけに顔を見るアイルランド人農夫・パトリックが、 パンプキンスープを温めて待っていてくれた。 カルロスも到着している。 こうやって、約束もしないのに、当然のように また同じ場所で寝泊まりできる仲間がいるのは本当に嬉しい。 旅の前半の仲間であったマリアッホ、シュー君、カレス、トニ、韓国人親子たちを思い出す。 彼らは今どこにいるんだろう。元気に歩いているだろうか? 本当に疲れていて、この食い意地のはっている私が食欲もない。 これ食べろ、これ飲め、と、親戚のおじさんのようにいろいろ世話をやいてくれる パトリックとカルロスに今晩は甘えることにする。 普段から飲み意地もはっている私が、「今晩は飲む気分じゃない。もう寝る。」なんて 弱弱しくぼやいていたら、カルロスがオレンジをくれた。 現在、スペインのオレンジは収穫時期ではないが、冬が一番の食べごろなんだそうだ。 このオレンジに私は元気づけられてしまったのである。 単純な私は、みるみるビタミンを吸収して元気復活し、 ここの宿番をしているオスピタレロのミゲルも一緒に、 四人でワインを空けた後、オルホまで手を出す勢い。あっぱれ。 飲んでいる時、今日の午後に私が素通りしたエル・アセボでのBARの話になった。 (そこは巡礼者や村のひとたちであふれかえるくらいの村一番のBARと言っていい。) パトリックが休憩しにこのBARに入っていくと、 どこからともなくカフェが一杯、目の前に置かれた。 『少し前に休んでいかれたセニョールのおごりですよ。』 パトリックには、それが先を歩いていたカルロスの粋な厚意であることがすぐにわかった。 なので今度はパトリックが、だらだらと後を歩く私のために、 『水色の上着を着たアジアの女が来たら、このカフェと美味しいケーキを出してくれるよう』 あらかじめ代金をBARに払っておいてくれていたのだった。 なのに! 私ときたら、さっさ無視して通り過ぎちゃったのだ! 普通、あの峠下りてきたら、ここで休むのが巡礼者の行動でしょう。 BARこそ、寄り道するべき場所だったのだ。あ~ しかし、なんと言う素敵なエピソードであることか。 パトリックに首絞められた。 You missed!!