北のタラソテラピー
北海道にもタラソテラピーを体験出来る施設が出来たというので、早速行ってみることにした。支笏湖を通って千歳に抜け、早来から厚真、そして穂別、鵡川、平取と、何キロ走っても先行車も対向車もない道路をひた走り、目的地の門別町富浜へ。位置的には苫小牧から襟裳岬方面へ少し南下した海沿いの町で、JR富川駅の近くになる。 人口は一万三千人程度、サラブレッドの牧場などが多い小さな町だ。この町の北海パークホテル内に新しくタラソテラピー施設「タラサ ノール」がOPENしたのである。まだ先月末にOPENしたばかりで、9月いっぱいは2500円の施設利用料が1000円となる。 タラソテラピーというとエステの海泥パックや海草パックを思い浮かべる方がほとんどだろうが、あれはタラソテラピーのほんの一部分に過ぎない。タラソテラピーとは日本では海洋療法と訳されているが、もともとフランスの南部、地中海沿岸で産まれ発達したもので、海のあらゆる要素を使って、病気の治療、リハビリ、予防医学に役立てようとするものである。フランスではたくさんの施設があり、健康保険が使える。 海水は元より、海岸の風景、潮風、波の音、浜辺、海産物、それら全てが癒しの要素として活用されるのである。もともと“海水浴”というのは治療の目的も含まれていた。海は太古の昔から生命の源であり、人間の血液や羊水などの体液の成分にも似ている。特に食からミネラルを摂れなくなっている現代人にとって、海のミネラル成分はとりわけ重要な意味を持つ。 そういえば昔、苫小牧に住んでいた頃、もう十数年前になるが、市長を迎えて住民の声を聞く催しがあり、私も参加して街作りのアイデアとして“温泉開発、タラソテラピー、小規模の観光参加型バイオスフェア”を提言したことがあるがまるで相手にされなかった。温泉も今でこそオートキャンプ場のアルテンに「ゆのみの湯」という立派な日帰り温泉施設があるが、当時の市長の返答は「この辺は塩分の強いお湯しかでないので、そのまま排水することが出来ず処理施設にお金が掛かりすぎる」から温泉開発はしないとのことだった。何とも役所的お答えである。北海道でも伊達市などはタラソテラピーを導入するなら素晴らしい環境だと思うのだが、なかなか北海道も先進的なようでいて以外と地方は新しいものを受け入れようとはしない。 まあ、それはいい。小さな町でもこういう考え方が根付くきっかけになるならとても嬉しい。まずはどんな施設で、どんな方向性でやっているのか確かめたかった。 これが北海パ-クホテルのエントランスである。地方の割には洒落た外観で、入口の向こうにある窓の外は海である。この辺の海は鉛色であまり美しい海岸ではないが、リゾートっぽい雰囲気はある。 早速中に入ってタラソの施設の入口を聞き、左側奥の方の受付へ行く。まずはどういうシステムかわからないので、簡単に説明を聞き、病歴や健康状態などを専用の用紙に記載する。結構項目は詳しく書かれていた。ロッカーの鍵とタオル・ガウンを受け取り着替えのロッカールームへ。狭い。男性用だからスペースが小さいのだとは思うが、たった6個のロッカーしかない。 水着に着替えてガウンを羽織り、血圧を測ってみる。150/103、まずい、完全に高血圧だ。最近塩分摂りすぎだしなあ・・・ とりあえずそのままプールの方へ行ってみる。中はこんな感じだ。 楕円形のプールにジャグジーが組み合わされている。そんなに大きな施設ではない。奥に見えるのは寝湯のジャグジーで、その奥の窓の向こうに緑の草原が広がり、その向こうが海だ。寝湯の左側にはミストサウナがある。 プール手前の階段を下りるとこじんまりしたアスレチックジムがあり、軽くやってみようかなと思ったが、スタッフに「トレーニングウェアはお持ちですか?」と聞かれ、そういえばそうだよな裸ではやらないよなと気がついた。なにせ「じゃらん」を見て内容もよくわからずとりあえずどんなことをしているのか行ってみようと来ただけで、プールのことしか頭になかった。とりあえず見学だけさせてもらう。広くはないが一通りのマシンジムはできそうだ。 そのあと、シャワーを浴びて海水プールへ。温泉のように温かい。肌に滑らかで浸かっているだけでとても気持ちいい。少し泳いだりしていると女性スタッフが入ってきていろいろ説明してくれた。ここは沖合の海水を汲んできて使っているとのことで、海水成分の濃縮還元ではなく本物の海水を使っている施設はここと三重県の「タラサ志摩ホテル&リゾート」だけとのことだ。 ここも本格的に稼働するのは10月からで、今はスタッフが揃わなくて困っているとのこと、そりゃ、失礼ながらこの田舎町でタラソテラピーのスタッフを捜すのは困難だろう。札幌で求人を出してスポーツジムやエステの経験者が見つかったとしても、こちらに引っ越すとなれば二の足を踏むだろう。 今のところ、マッサージや海草パック、それにプール内でのエアロビクス的なタラソビクスをメニューとして考えているとのことで、そのタラソビクスのコースに含まれるアクアリラクゼーションを試しにやっていただけることになった。 首に浮き輪を付け、両腕に円形のフロートをはめ、膝の下に棒状のフロートを入れて、海水の上にリラックスした状態で漂って準備完了。その状態のままで足裏からマッサージをやって貰える。細かくいうなら指圧の技術に関しては少々経穴から外れている部分もあったが、その他の手技に関してはとても気持ちよかった。また、浮いたままの状態で行う全身のストレッチもとても気持ちよく、なにせ水の上に浮いたままのマッサージやストレッチなんて全くの未体験ゾーンだったのでやって貰うこと全てがとても幸せな時間だった。 海水の上に浮かびながらなので究極のリラックス状態が生み出され、体を揺らして貰う手技もあったが、これだけでかなりの人は体の歪みが取れると思う。私自身の治療でも揺らすテクニックはよく使うのだが、完全なリラックスが得られているなら、これだけで骨のズレも元に戻るのである。ましてや海水のミネラルを肌から吸収しつつ、ジャグジーのマッサージ効果も加わり、発汗も促されるので、これは非常に優れたセラピーコースだ。 その後はしばらく浮いて漂ってその浮遊感を楽しむ。首の浮き輪の形状からか、首の後ろが突っ張るのだけが残念だった。熱い霧を頭からかぶるミストサウナも、草原と海を眺めながらの寝湯も快適である。特にこの寝湯は頭の部分にジェル入りのエアパットが使われているので、長い時間入っていても後頭部は痛くならない。 しばらく暖まった後備え付けてある天然水を飲み、窓を開けて外のウッドデッキに出てみた。結構広いウッドデッキで、直接寝そべって波の音を聞きながら空を見上げる。今日の外気温は20℃くらいなので、風が何とも心地いい。周りは人一人いない草原で、秋の高層雲を静かな潮風の中で眺めるのは何とも言えない贅沢で爽やかな時間だ。 少しからだが冷えるくらいまで寝そべってから、また屋内に戻ってプールに浸かり、少し体を温めてから着替える。う~ん、札幌から2時間ちょいも掛かる距離でなければ度々来たいところだ。 着替えて再度血圧を測ると128/86。医者はよく血圧が高いと安静にしていなさいと言うが、極端な危険域なほどの高血圧でない限り、その指示は適切ではない。運動後は体のホメオスターシスが働いて血圧は正常範囲に調整されるものなのだ。それを薬で無理矢理下げたりするものだから余計おかしくなる。高血圧で薬を出されている人達のうち、ほんとに薬が必要不可欠な人は数%しかいないだろう。 たった1000円でいい体験をさせて頂いた。支払いの後、ホテル内の中華レストランへ。ちょうどタラサノールOPEN記念の1000円ランチをやっていたので、その中の「ツブ貝とアスパラの炒め」を注文した。レストラン自体はガラガラだし、内装も正直田舎のセンス悪い暗~いレストランで、あまり味にも期待していなかったのだが、食べて驚いた。もの凄く美味しい。素材も本当に新鮮なものが使われていることがはっきりわかるし、調理自体も超一級。暖中なんかのランチとは比べものにならない。札幌市内のホテルの本格中華レストランでもこれほど美味しいものはあまり記憶にない。食後に出されたジャスミン茶も直径12センチくらいもあるティーポットにたっぷり入って出てきたが、このお茶も香り高く、素晴らしく美味しかった。4~5人分は楽にあるそのお茶をほとんど飲み干してしまったほどだ。 ホテル自体あんまり流行っていないようだが、もったいない。折角いいセールスポイントが多々あるのだから、もっと繁盛してタラソテラピーも単なるエステではなく、海洋療法としてもっと広がって欲しいものだ。