ホットスポットはプレートを動かすか?
地学を習っていない人でも、ホットスポットやプレートという言葉は聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか?今日は、ホットスポットとプレートがどういう関わりを持っているのか、というお話です。プレートというのは地球の表面を覆う厚さ100kmくらいの岩板で、十数枚に分かれています。マントル対流に伴って移動するので、プレート境界では地震や火山噴火が起きたり、地形の変動が起きたりします。ホットスポットは、プレート運動とは無関係に火山活動が活発な地域のことで、プレートより下の地球深部の高温のマントルの上昇によってできます。このような上昇をマントルプルームと言います。よく教科書などに載っているのがハワイ諸島です。7月7日のNatureに、6,700万年前から5,200万年前までの間にマントルプルームの活動がプレート運動に影響を及ぼしたかもしれないという論文が発表されました。そのマントルプルームはインド洋のマダガスカルに近いフランス領の島、レユニオン島を形成したことで知られるレユニオンプルームです。6,700万年前、現在のインドはアフリカの東に位置していて、まだユーラシア大陸とはつながっていませんでした。インドプレートが北上してユーラシア大陸の一部となったのは、およそ5,500万年前~5,000万年前くらいのことです。一方、アフリカ(アラビア半島を含む)と西アジアもまだつながっていなくて、アフリカプレートはゆっくりと北西に移動していました。今回の論文では、6,700万年前から5,200万年前までの間にインドプレートの北上が著しく速くなったことと、同じタイミングでアフリカプレートの運動が停滞したことが示され、両者には何か共通の原因があるのではないかと考えました。両者の間にはレユニオンプルームがあり、約6,700万年前から現在に至るまで活動しています。一般的にプルーム活動の活発さは一定ではなく、初めの方が活発であとは静かになるということが知られています。これは、プルームというのは高温のマントルが周囲のマントル物質を巻き込みながら上昇するため、きのこ雲のような形になるために起きると考えられています。つまり、最初にきのこ雲の「頭」の部分が地表に現れて大規模な火山活動を引き起こし、その後はきのこ雲の「しっぽ」の部分がしょぼしょぼと出続けるというわけです。実は現在の地球上では、この「しっぽ」の部分しか活動しておらず、「頭」の活動は誰も見たことがありません。ちなみにレユニオンプルームの「頭」が作ったのがインドのデカン高原で、こういう活動でできた大量の火山岩(玄武岩)を「洪水玄武岩」といいます。たまたま恐竜が絶滅した白亜紀末期と重なるのですが、恐竜絶滅の直接の原因は隕石の衝突というのが現在の科学では圧倒的に有力な説となっています。とは言え、デカン高原の洪水玄武岩活動が当時の生態系に影響を与えた可能性は高いと思われます。話を元に戻しましょう。このレユニオンプルームの「頭」の活動がインドプレートの動きを後押しした一方、アフリカプレートの運動を抑制したのではないか、というのがこの論文の結論です。もしこれが正しければ、プルームとプレート運動には密接な関係があるということになります。実は地球科学者は長年この問題に頭を悩ませてきました。なぜなら先に述べたとおり、現在の地球上ではプレート運動に影響を及ぼし得るようなプルームの「頭」の活動は起きておらず、直接的な手がかりが得にくいからです。では、プレート運動の変化の証拠はどこに残されていたのでしょうか?プレートは海嶺と呼ばれる海底の山脈で生まれ、海溝と呼ばれる海底の谷へ沈み込んでいきます。あるプレートの運動に変化があれば、隣のプレートとの間に何らかの証拠を残しそうです。海溝に沈み込んでしまったプレートを見ることはできませんから、海嶺の方がより多くのヒントが残っていそうですよね。この論文では、海嶺付近の地形の微妙な屈曲からプレート運動に変化があったことを示しています。この屈曲、何となく芸術的に見えませんか?Steven C. Cande & Dave R. Stegman, Indian and African plate motions driven by the push force of the R?union plume head, Nature 475, 47?52, doi:10.1038/nature10174Scripps Researchers Discover New Force Driving Earth's Tectonic Plates, Scripps Institution of Oceanography / University of California, San Diego(画像はScripps Institution of Oceanographyからの引用)