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線香花火

線香花火

通り鬼

ここに、長さ約150m、幅約3mほどの一方通行の薄暗い通りがある。

その両側にはコンクリート製の高さ約2、5mの壁がある。

近所の人達も滅多に通らないといわれる近道。

その理由として、ここでは様々な犯罪が起こる。

喧嘩、殺人、痴漢、強盗・・・。

つまり、通り魔が多い。

僕が通う高等学校でも、常に先生が「絶対に通るな!」という。

でも僕は通る。

ここを通らないと学校までの距離が3kmほど遠くなる。

周りからは「気弱」や「貧弱」などと言われてはいる僕だが、

自分としてはその真逆だ。

怖いということを全く感じず、負ける喧嘩などないという自信がある。

どうしてなのかは自分でも分からない。

ただ、なんとなく悟っている。

確か、あの夏の日もそうだった・・・


ある日の朝、僕はいつものように薄暗い通りを進んでいた。

ふと前を見ると、黒っぽい大きめのトラックが一台、エンジン音を鳴らしながら
僕から見て後ろ向きに止まっている。

両壁との間は、人がやっと1人通れるくらいの隙間しかない。

明らかに不審である。

念のため、僕は右の隙間を走って通り去る。

何も起こらなかった。

いや、起こっていた。

トラックがいつの間にか走り去った僕の真後ろにいる。

そう、トラックは進んでいるのである。

この狭い通りで後ろから大きめのトラックが止まらずに走って来るということは

つまり、僕にぶつかろうとしているのである。

僕は走った。

いくら恐怖感がないとはいえ、このトラックに轢かれたら痛いだろうと悟った。

するとトラックは加速し、僕を追いかけてきた。

息をきらせながら、僕は右の壁をすれすれに走った。

するとトラックは、右の壁を擦りながら、火花を散らし走ってきた。

もう少しで通りが終わるというところで、僕は走りながらトラックを見た。

あと2秒でトラックにぶつかる。

出口まで間に合わないと悟り、1秒後に僕は右の壁を右足でおもいっきり蹴った。

僕は左の壁に両手を合わせて虫ののように張り付いた。

トラックは、擦っていた右の壁を離れ、僕が居る左の壁へと急に向きを変えた。

そして、僕の目の前で左の壁にトラックの左前方をぶつけ、トラックの左側を

擦りながら走って停まった。

しばらくして、1人の男が包丁のような物を右手に持ちながら

運転席を降り、僕の方角を鋭い目つきで見た。

そして、獣のような大声を出しながら

包丁を右手に僕のへそ辺りに先端を向けながら走って来た。

男「オラァァァーーーーーーー!!!!!!!」

僕はその男を哀れに思った。

というより、情けを超えて怒りへと変わっていた。

僕「馬鹿じゃないの?」

そう言うと、男は少し立ち止まった。

男「あ!?お前消えろ~!!!!」

が、また刃物の先端を僕に向け突進して来た。

僕「嫌だ。あなたが消えてください」

男はそのまま何も言わず走って来る。

男との距離は10m程だろうか、

僕はその時何を思ったか虎のように大声を上げた。

僕「ァアアアアーーーーーーッッッ!!!!!!」

男はその声に戸惑い、また立ち止まった。

僕はその隙を見て上着のワイシャツを脱ぎ、右手に持った。

そして、男の方向へと歩いて行った。

男「クソガキがぁぁ!!」

男は止まっていた足に気づき、また走ってくる。

男との距離が2mくらいになっただろうか、

僕は右手に持っていたワイシャツを男の顔面に向けて左から右へと振り回し、

ワイシャツを右へ振り回すのと同時に僕も右へと素早く動いた。

男の視界はまだ前方を向いたままだったが、

僕は既に男から見て左側の視界へと移っていた。

その隙を見て、僕は男の左腰、左顔と2段ジャンプ蹴りを当てた。

男は顔を蹴られた重みでよろめき、右手を壁にぶつけ刃物を落とした。

男はすぐに刃物を拾おうとしたが僕は許さなかった。

左足で思いっきり男の顔面を蹴った。

すると男は大空を見ながら、結構な距離を飛んでいった。

男「ぅあ・・・」

男は鼻と口から出血し、口を開けながらぼんやりと空を眺めていた。

僕「あなたがやったことは銃刀法違反、殺人未遂等にあたります」

僕「つまり、僕のやったことは正当防衛ということになります」

僕「あなたに何があったかは知りませんが、僕は消えるわけにはいきません」

男「・・・」

その後、僕は持っていた携帯で110番通報し、なぜか表彰された。

聞くところによると、あの男は指名手配されていたらしい。

僕は1部の新聞やテレビからも取材を受け、僕の住んでいる地域では

僕の話題でいっぱいだった。

そして、この頃から「通り鬼」として呼ばれ始めていた。


(続く・・・








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