2004/10/23(土)15:39
ロストイントランスレーション。
この映画の中の日本は妙に美しい。もちろん、映画というのはフィクション、虚構の世界であって、映像として映った東京や京都の町並みがどれだけ虚構的に美しく描かれていても不思議はない。ただ、この映画の場合、その虚構と真実のバランスが絶妙だった。
高層ホテルから見る東京の街頭風景、ゲームセンター、パチンコ屋、カラオケ、ネオンの明かりの中で、主人公の二人の回りを行き交う今のファッションの日本の若者たち。二人というのは、コマーシャルの撮影に訪れた有名俳優役のビルマーレーと、カメラマンの夫について日本に滞在中の若妻、スカーレットヨハンソンだ。二人とも配偶者と上手くいっていない寂しい心理状態で、しかも異国のホテルの一室に仕事で閉じ込められて、無聊をかこっている。ホテルのバーやプールで時間をつぶしながら、いつしか二人で街頭にでて夜を過ごす。過ごすといっても、性関係をもつわけではなく、カラオケや東京のナイトシーンを二人で探索するのだ。東京の夜の風景を背景に、この映画はほとんどドキュメンタリーのように、普通の人々の行き交う中で二人の行動を追っていく。その東京が、町全体が一つの大きな遊園地のような面白さに溢れていた。街頭風景が主要な役を演じている点では、「ローマの休日」にどこか似たところもある。
この映画はアメリカで上映されたときに、日本語の翻訳がされていなかったという。日本語の分からぬアメリカ人の聴衆にはまさに、ビルマーレー同様、異国に一人放り出されたような心もとない雰囲気だった違いない。日本語も英語も分かる私には、もし、この背景が日本でなく、香港か台湾であったら、異国に投げ出された奇妙な感覚が理解でき、この映画の本質がもっと見えたような気がする。