233844 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

青空のように

青空のように

いい旅を、と誰もが言った・片岡義男

1980年の作品だが、当時角川から大量にでていたものとはちがう、「改訂完全版」である。双葉文庫。

ある時期から、「スローなブギにしてくれ」の映画化もあって、毎月のようにこの作家の小説やエッセイがでていた。
その多くは、「しゃれた会話の多い恋愛小説」で、僕はあまり読まなくなったが、この小説は初期のもので、その独特な「直接的アメリカ・ハードボイルド翻訳調文体」(こんな言葉があるかどうかは知らない)がまだまだみずみずしかった頃。
初期の村上春樹もそういう文体だが、違うのは、小説の醍醐味のひとつでもある、「まるで・・・のような」(この・・・の部分に作家の知性やセンスがでる)という文章がひとつもないこと。カラッカラに乾いているのである。いい悪いは別として。

こういう文体です。
「赤とブルーのストライプになったデッキチェアに寝そべり、フルーツスタンドの店主は分厚いペーパーバックの小説を読んでいた。完璧に自分のペースで仕事をしている人がここにもいる。ペーパーバックを開いたままデッキ・チェアに伏せ、立ち上がった。店主は女性だった。」
アメリカが舞台とはいえ、とても日本人が書いてるとは思えん。

テーマは、(アメリカの)「だだっ広さ」。著者がそう書いています。
短編が4つ。ニューヨークからカリフォルニアまで車で行こうとする夫婦、オートバイでハイウェイを4日走り、フルムーンの夜に友達に会おうとする青年、失意のロディオ・カウボーイ、長距離トラック・ドライバー。
だが、骨までアメリカ文化に絡めとられてしまっている僕の世代にとっては、ストーリーよりも、ここにあらわれる字面そのものの懐かしさに、甘酸っぱい感傷を覚えてしまう。
「USハイウェイ97号線」、「赤く塗ったフォードのピックアップ・トラック」、「1968年のクライスラー・インペリアル4ドア」、「淡く黄色いレモネードと赤いパンチ」、「ジェリー・ビーンズ」、「ステート・フェア」、「チェスタフィールドの両切り」、「グレイハウンドの長距離バス」、「サザン・パシフィック鉄道」・・・その他いろいろ。

そういえば、この作家のタイトルにはカッコいい(よすぎるのもある)のが多い。
「マーマレードの朝」、「時には星の下で眠る」、「町からはじめて、旅へ」、「幸せは白いTシャツ」、「馬鹿が惚れちゃう」、「波が呼ぶんだよ」、「最終夜行寝台」、「文房具を買いに」、「すでに遥か彼方」、「B面の最初の曲」・・・その他いろいろ。

80年代の最初の頃、パイオニアのカーステレオで「ロンサム・カウボーイ」というのがありました。
CMには、ミュージシャンのライ・クーダーが出演し(もちろん音楽もライ。アクロス・ザ・ボーダーライン)、アリゾナ(?)の砂漠でチューインガムを膨らませていた。そのうしろにナレーションがかぶさる。
「100マイルを過ぎると、風の音だけでは寂しすぎる」。語っていたのは、片岡義男でした。




© Rakuten Group, Inc.