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第9章 肥満の治療

-内臓脂肪型肥満は生活習慣病そのもの
現在の日本人の生活習慣は(1)運動不足(2)脂肪のとりすぎ(3)生活のリズムの乱れが特徴といえるでしょう。日本人は3人に1人はすでに説明しましたように倹約遺伝子を持っていますので、このような生活習慣に順応してしまうと内臓脂肪型肥満になりやすいのです。内臓脂肪型肥満は生活習慣病そのものといえます。

その結果、動脈硬化危険因子が集積した状態、いわゆる「X症候群」(インスリン抵抗性+糖尿病+高インスリン血症+高中性脂肪血症+低HDL-コレステロール血症+高血圧症)(G.M.Reaven,1988年)をきたし、狭心症、心筋梗塞、など虚血性心臓病の原因になります。内臓脂肪型肥満の治療では、(1)(2)(3)に対する対策がどれ一つ欠けてもいけないのです。

食事療法では、カロリーはもちろん大切ですが、食事の内容に注意します。国民栄養の現状によると、日本人の総摂取エネルギー量は脂質摂取量の増加に反比例して年ごとに減少してきているからです。

現在の日本は飽食の時代とよくいわれますが、日本人がエネルギーを過剰に摂取するようになったというよりも、バターなど飽和脂肪を多く含む食品をより多く摂取するようになった、という方がより正確に日本人の現在の食生活を表現していると思います。

だから、飽和脂肪を多く含む獣肉性脂肪、乳製品、ココナツ油、ココア、バターなどは控え目にします。砂糖を過剰に摂取すると脂肪肝や高脂血症の原因となりやすいので、砂糖を過剰に含む食品はもちろんのこと、添加する砂糖も減らし、ノン-シュガーで代用します。糖質はなるべく複合糖質(デンプンなど)をとるようにします。またアルコールは高カロリー飲料ですので、その制限は必要です。アルコール摂取によって気が緩むと、食事のカロリーに対する警戒心が薄れる点も注意が必要です。

朝食を抜き、夜、たくさん食べる、というような“まとめ食い”や、一日の食事量の半分以上を夜間に食べる“夜食症候群”など、食生活のリズムの乱れは問題です。夜間は消化管の吸収機能が、昼間に比べて高まりやすく、脂肪はとくに貯蔵に回りやすいためです。

一般的な心構えとして(1)間食をしない(2)よくかんで、ゆっくり食べる(3)和食を主体に、焼く、蒸すの調理方法で、揚げ物や炒め物はなるべく避ける(4)飲酒量を抑え、脂っこいつまみを避ける(5)大皿盛りにせず、前もって決めた量だけ皿にとる(6)目の届くところに食べ物を置かない(7)空腹で買い物をしない、なども大切です。
本来、各個人の遺伝情報を得たうえで、それをもとに治療方法を選択する「テーラーメイド医療」が望ましいのですが、倹約遺伝子を持っていると、従来の食事制限に加えて、さらに1日あたり200キロカロリーの食事制限を追加する必要があります。

そのような厳しい食事制限の後、たとえ減量に成功しても、油断するとリバウンド(はねかえり)が待ちかまえています。食事療法だけで減量を継続することには精神的な苦痛を伴います。さらに目的とする内臓脂肪は減らずに、大切な筋肉や骨が減ってしまうこともあります。

内臓脂肪組織は皮下脂肪組織に比べて代謝が活発で、ノルアドレナリンなどのホルモンに対する反応性も高いので、運動によって内臓脂肪を燃焼しやすくします。

体内で最も活発に脂肪を消費しているのは筋肉なので、筋肉を動かし鍛えることによって基礎代謝を高め、脂肪が燃焼する速度を速めます。ダンベル体操は筋肉を鍛え、脂肪を燃焼しやすくする運動(好気的レジスタンス運動)で、同時にインナーマッスル(関節を保護し安定化させる比較的小さな筋肉で、外見からはとらえにくい)も鍛えられます。

また、運動開始後20分までは、筋肉に貯蔵されたグリコーゲンが主にエネルギーとして利用されますが、20分を超えるような運動では、筋肉が脂肪を活発に燃焼するようになります。したがって、「有酸素運動」(ウォーキング、自転車エルゴ、ジョギング、エアロビクス、水中ウォーキングなど)を20分以上行う必要があります。

有酸素運動は心肺系の機能改善にも役立ちます。運動は会話できる程度の強さで、さらに脈拍数をみながら心臓にそれほど負担をかけない強さにしましょう。1分間の脈拍数は「138-(年齢÷2)」ぐらいが目安です。できれば毎日行いたいものです。

脂肪を燃焼させることが内臓脂肪型肥満の治療上不可欠なので、有酸素運動の意義を強調しましたが、実際に大切なのは1日にどれ位の時間、体を動かしたか、なのです。20分の有酸素運動を1日1回だけ行うよりも、日常生活の中で身体活動を工夫し、より活動的になることの方がより重要です。

つまり、(1)1駅区間分あるいはバス停2~3区間分歩いてみる(2)エレベーターやエスカレーターを使わずに、なるべく階段を昇降する、などの身体活動時間を合計して1日の運動時間としていいのです(できればトータルで30分以上)。つまるところ、内臓脂肪を減らすための有酸素運動は、最も身近な毎日歩くことから始まるのです。



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